薬物乱用・依存等の疫学的研究及び中毒性精神病患者等に対する適切な医療のあり方についての研究

文献情報

文献番号
199900731A
報告書区分
総括
研究課題名
薬物乱用・依存等の疫学的研究及び中毒性精神病患者等に対する適切な医療のあり方についての研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
和田 清(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 和田 清(国立精神・神経センター精神保健研究所)
  • 尾崎 茂(国立精神・神経センター精神保健研究所)
  • 庄司正実(国立きぬ川学院)
  • 宮内雅人(日本医科大学高度救命救急センター)
  • 小沼杏坪(国立下総療養所)
  • 平井愼二(国立下総療養所)
  • 山野尚美(皇學館大学)
  • 中谷陽二(筑波大学社会医学系)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の薬物乱用・依存状況を把握し、薬物乱用・依存対策の基礎資料を提供することを第1の目的とし、中毒性精神病患者等に対する適切な医療のあり方について提言することを第2の目的にした。
研究方法
<研究1 薬物乱用・依存等の疫学的研究>①:全国の15歳以上の住民5,000人に対して、層化二段無作為抽出法(調査値点数:350)、戸別訪問留置法を用いて、自記式の「薬物使用に関する全国住民調査」を実施した。また、関連する研究成果をマレーシアで開催されたAsian Multi-CityEpidemiology Work Groupの会議にて報告し、同時に他国での状況を入手した。②研究1-2:初年度実施した「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」の結果を最終年度の調査に向けて、詳細に再分析した。また、関連する研究成果をメキシコで開催されたCollage of Problem on Drug Dependenceにて報告し、同時に北米を中心とする他国での情報を入手した。③自立支援施設入所児童を対象に4施設で覚せい剤乱用の実態・意識に関する面接調査を行った。④2カ所の第3次救急施設に最近5年間で入院した薬物中毒症例を対象に、カルテの記載を検討する調査を行った。<研究2 中毒性精神病患者等に対する適切な医療のあり方についての研究>①国公立精神病院に常勤する精神科医師の薬物関連精神障害に関する意識調査、及び、各都道府県・指定都市精神保健福祉担当課に対する精神作用物質による依存症を有する者の入院形態に関する調査を調査票を用いて実施した。②全国11カ所の精神保健福祉センターに赴き、各種領域の専門家を集めてのディベートを行い、その後、調査票による意識調査を実施した。③米国における家族支援システムに関して、文献的検討をし、同時に米国の4施設を訪問し、資料収集及び情報収集を行った。④韓国とドイツにおける医療と司法の重なりについて、文献的検討をすると同時に、韓国の関連する3施設を訪問し、実地調査するとともに、資料収集・情報交換をした。
結果と考察
<研究1 薬物乱用・依存等の疫学的研究>①違法薬物の生涯経験率は、有機溶剤(1.5%)、大麻(0.8%)、覚せい剤(0.4%)、コカイン(0.2%)、LSD(0.1%)、ヘロイン(0.1%)であった。何らかの違法性薬物の生涯経験率という見方をすると、全体で2.2%であった。しかし、有機溶剤の生涯経験率は20歳代(4.4%)、30歳代(4.0%)で高く、大麻の生涯経験率は30歳代(3.0%)、20歳代(1.6%)と高かった。何らかの違法性薬物の生涯経験率を年代別に見ると、15~19歳で1.9%、20歳代で6%、30歳で5.6%となり、30歳代の男性では10.7%にものぼった。②施設あたりの症例報告数は国立病院・療養所、都道府県立病院で多くなされる傾向がみられた。覚せい剤症例では,国立病院・療養所、都道府県立病院において「精神病性障害」が半数を占め,約30%が「残遺性障害および遅発性の精神病性障害」であった。有機溶剤症例では全般的に「依存症候群」の割合が高く,国立病院・療養所および自治体立病院では約40%,精神病性障害が25%前後を占めていた。主たる使用薬物としての大麻症例は、1987年以来高々1%前後であったが,併用薬物としては1996年に10.7%と倍増し,1998年度も11.4%と増加傾向にあり、一般社会における大麻乱用の拡大は予想以上に深刻である可能性が示唆された。③児童自立支援施設入所児童では、薬物としては,女性で有
機溶剤71人(47.0%),ガス51人(33.8%),大麻31人(20.5%),睡眠薬27人(18.2%),覚せい剤(吸引)19人(12.6%),覚せい剤(注射)16人(10.8%)であり、男性では有機溶剤およびガス経験が13人(19.7%)と最も多く,その他の薬物使用経験者は少なかった。④第3次救急施設2カ所における最近5年間の薬物中毒症例の検討では、精神・神経薬によるものが最も多く、それらを含めた医薬品によるものが全体の約6割~8割を占めていた。また、外国人や外国の薬物による中毒症例やインターネットを利用しての中毒症(GHB)れも認められた。<研究2 中毒性精神病患者等に対する適切な医療のあり方についての研究>①国公立精神病院の常勤精神科医師の意識としては、精神病性障害の方が依存症候群よりも忌避される傾向が低かったが、薬物関連精神疾患の診療経験が多い程、また、臨床研修に参加経験のある医師ほど、それに対する忌避感情は緩和されていた。②精神保健福祉センターの機能・役割として、「講義形式の集団療法」、「関係機関職員への教育研修」、「継続的な個別訪問」、「自助形式の集団療法」への取り組みは前向きであるが、都道府県レベルでの総合的ネットワークをセンターが押し進めることには否定的であり、センターは薬物乱用者の回復を支えるための地域相談指導ネットワークを押し進めることを目指す意向が強かった。③薬物依存者の家族への介入におけるターゲットとしては、 機能不全家族(依存者の配偶者および子ども)、薬物依存の問題をもつ母親とその子ども、薬物関連問題をもつ未成年者の親、の3つに大別でき、当事者の状況に応じた段階毎のプログラムが必要であることが示唆された。④韓国では社会保護法によって「治療監護」が定められており、ドイツでは、違法行為を行った精神障害者に対しては精神病院収容(刑法63条)、アルコール・薬物依存者に対しては禁絶施設収容(刑法64条)が別個に定められているが、実際の依存治療システムによる功罪を見極める必要がある。
結論
①違法薬物の生涯経験率は、決して高いとはいえないが、何らかの違法性薬物の生涯経験率を年代別に見ると、15~19歳で1.9%、20歳代で6%、30歳で5.6%となり、30歳代の男性では10.7%にものぼり、年代的格差が明らかになった。②一般社会における大麻乱用の拡大は予想以上に深刻である可能性がある。③児童自立支援施設入所児童では、有機溶剤、覚せい剤乱用に加えて、ガスの乱用者が予想以上に増加している。④第3次救急施設での薬物中毒症例には、精神・神経薬によるものが多いが、外国の薬物による中毒症例やインターネットを利用しての中毒症例(GHB)も認められた。⑤国公立精神病院の常勤精神科医師に対する薬物依存臨床医師研修の必要性・有用性が確認された。⑥精神保健福祉センターの機能・役割としては、薬物乱用者の回復を支えるための地域相談指導ネットワークを押し進めることを目指す意向が強かった。⑦薬物依存者の家族への介入には、ターゲットの明確化と、当事者の状況に応じた段階毎のプログラムが必要であることが示唆された。⑧他国での医療と司法の重なりに関するシステムの評価には、条文のみならず、実際の依存治療システムによる功罪を見極める必要がある。

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