血液製剤の使用状況の分析及び需給に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900723A
報告書区分
総括
研究課題名
血液製剤の使用状況の分析及び需給に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
清水 勝(東京女子医大)
研究分担者(所属機関)
  • 西川健一(鳥取大医)
  • 面川進(秋田大医)
  • 品田章二(済生会三条病院)
  • 高本滋(愛知医大)
  • 飯野四郎(聖マリアンナ医大)
  • 上田恭典(倉敷中央病院)
  • 小松文夫(東医歯大医)
  • 半田誠(慶応大医)
  • 池田久實(北海道血液センター)
  • 神谷忠(愛知県血液センター)
  • 横山繁樹(京都府血液センター)
  • 柴田弘俊(大阪府血液センター)
  • 前田義章(福岡県血液センター)
  • 市川誠一(神奈川県立衛生短大)
  • 吉原なみ子(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
総ての血液製剤は自発的意志による無償の行為としての献血に基づいて、国内で自給自足することが国際的な世論となっている。血液の自給自足の達成には献血された血液の効率的な有効利用を前提として、その需要動向から適正な確保量を把握することが必要とされる。しかしながら、血液製剤の需要量は地域格差が大きく、さらに医療機関ごとに可成りの差異があることから、投与例について使用適正化基準にもとづく適正な使用であるか否かを評価することによって、そのような差異を考慮することなく適正な使用量より真の需要量を把握することが出来る。そこで、今年度は血液製剤の需給状況に及ぼす要因を把握するために、班員である北海道、愛知、京都、大阪、並びに福岡の日本赤十字社血液センター(BC)管内で調査可能な主要な医療機関における代表的な術式別の血液使用動向を調査する。さらに、医療機関所属の班員については各自の施設での各血液製剤、特に新鮮凍結血漿(FFP)の使用評価を行うと共に、免疫グロブリン(IVIG)の使用実態調査に努める。
一方、上述の適正な需要量は今後の人口動態に対応する献血者の確保対策によって裏打ちされなければならない。すなわち、献血者の善意を最大限に尊重するとともに、安全な血液の供給ということを前提として、献血における意識と検査結果の通知の問題と、感染症関連試薬の精度の問題についても検討する。
研究方法
北海道、愛知県、京都府、大阪府および福岡県の各BCが供給している主な医療機関における肝切除術、人工股関節術、心臓バイパス術、広汎子宮全摘術、食道癌摘出術、並びに生体肝移植術における血液製剤の使用状況を1999年1月から6月までの6ヶ月間検討した。北海道BC管内は7施設、愛知BC管内は7施設、京都BC管内は2大学附属病院、大阪BC管内は10施設、福岡BC管内は4大学附属病院を含む7施設の総数33施設を対象とした。
班員の施設においては引き続き各血液製剤の経年的な使用量の推移、特に1999年6月に厚生省よりだされた「血液製剤の使用指針」(新基準)並びに「輸血療法の実施に関する指針」の影響を調査した。
FFPの適応は新基準により評価した。すなわち、FFPの投与はプロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、フィブリノゲンの測定を原則とし、PT活性は30%以下、APTTは正常対照の1.5倍以上の延長、ないし100mg/dl以下の低フィブリノゲン血症を認めた症例を適正な使用とした。但し、血栓性血小板減少性紫斑病や溶血性尿毒症症候群の血漿交換療法にFFPを置換液として使用する場合は適正とした。
IVIGは使用基準設定の為の資料を収集する目的で、今年度は個々の症例について使用目的、疾患名、全身状態、発熱、有熱期間、白血球数(顆粒球数を含む)、並びにCRPを調査した。
献血における意識と検査結果の告知に関しては、層化2段抽出による対象者698人の一般集団における献血状況と、STD患者1,119人における献血状況、HIV抗体検査の受検状況、受検機関、性行動などを調査した。
HIV検査キットの感度および精度管理に関しては、現在市販されている全ての抗体検査試薬について同一のパネル血清を用いて再点検した。また、抗原と抗体を同時に検査できる第4世代のキットと核酸増幅検査(Nucleic Acid Amplification Test: NAT)の感度を比較し、その有用性を検討した。
結果と考察
肝切除術は総数592例で、内201例(34.0%)が無輸血例であった。輸血例の平均使用量は赤血球製剤(RBC)が10.8単位、FFPが15.5単位、血小板製剤(PC)が15.1単位、アルブミン(HSA)が55.9g、自己血が3.3単位であった。RBCは福岡BC管内の5.4単位から愛知BC管内の16.6単位、FFPは京都BC管内の10.5単位から愛知BC管内の19.1単位、PCは福岡BC管内の5.7単位から愛知BC管内の30.1単位、HSAは福岡BC管内の56.4gから北海道BC管内の94.0gまでの違いがみられた。人工股関節術は総数547例で、内93例(17.0%)が無輸血例であった。輸血例の平均使用量はRBCが3.1単位、FFPが3.0単位、PCが4.5単位、HSAが7.7g、自己血が3.5単位であった。RBCは北海道BC管内の1.6単位から愛知BC管内の6.2単位、FFPは福岡BC管内の0.1単位から愛知BC管内の5.8単位、PCは福岡BC管内の0単位から愛知BC管内の10.2単位、HSAは北海道BC管内の2.2gから愛知BC管内の4.3gまでの違いがみられた。心臓バイパス術は総数796例で、内169例(21.2%)が無輸血例であった。輸血例の平均使用量はRBCが11.1単位、FFPが10.3単位、PCが12.7単位、HSAが56.8g、自己血が2.5単位であった。RBCは福岡BC管内の7.8単位から愛知BC管内の17.1単位、FFPは福岡BC管内の5.1単位から大阪BC管内の14.8単位、PCは福岡BC管内の5.0単位から京都BC管内の24.4単位、HSAは京都BC管内の0から大阪BC管内の76.5gまでの違いがみられた。広汎子宮全摘術は総数452例で、内297例(65.7%)が無輸血例であった。輸血例の平均使用量はRBCが6.7単位、FFPが7.3単位、PCが5.7単位、HSAが29.2g、自己血が3.0単位であった。RBCは京都BC管内の2.0単位から福岡BC管内の13.4単位、FFPは京都BC管内の0から愛知BC管内の22.5単位、PCは京都BC管内の0から愛知BC管内の20.0単位、HSAは京都BC管内の0から北海道BC管内の63.8gまでの違いがみられた。食道癌摘出術は総数275例で、内126例(45.8%)が無輸血例であった。輸血例の平均使用量はRBCが5.2単位、FFPが3.4単位、PCが1.1単位、HSAが70.4g、自己血が0.9単位であった。RBCは京都BC管内の3.8単位から愛知BC管内の8.9単位、FFPは愛知・大阪・福岡BC管内の0から北海道BC管内の10.9単位、PCは北海道・京都・愛知BC管内の0から福岡BC管内の2.8単位、HSAは京都BC管内の0から大阪BC管内の115.2gまでの違いがみられた。生体肝移植術は総数61例であるが、京都BC管内の大学で47例(77.0%)が実施され、無輸血例は無かった。平均使用量はRBCが115.8単位であったが、内98.6単位(85.1%)は全血が使用された。FFPは41.0単位、PCが94.8単位、HSAが639.8g、自己血が14.4単位であった。その他のBC管内における生体肝移植症例は北海道BC管内が6例、愛知BC管内が2例、福岡BC管内が6例であった。
班員の施設における血液製剤の使用状況に関しては、RBCは自己血の増加に伴い同種血使用の低下がみられた施設もあるものの、全体的にはやや増加した施設もあり、全体としては横這いであった。PCは増加傾向にある施設が半数以上を占めた。FFPの使用は新基準により9施設中3施設で低下が認められが、増加した施設もあり、全体的には大きな変化は認められなかった。著しい使用量の減少は一施設で認められたが、これは手術時に2,000ml以下の出血に対してはFFP非投与の原則が大きな要因であった。IVIGの使用量は増加のみられた施設もあるものの、殆どの施設が横這いであった。
FFPの使用評価は班員の4施設および秋田県内4病院において行った。一施設のみ30例中16例(53.3%)が適正な使用であったが、秋田県内4病院では123例中僅か7例(5.7%)が適正な使用であり、他の3施設においても110例中適正な使用は15例(13.6%)であった。すなわち、FFPの使用は263例中適正な使用は38例と新基準を満たす症例は僅か14.4%であることが判明した。
IVIGの使用実態は男性170例、女性110例の総数280症例について検討した。平均年齢は男性が52歳、女性が48歳であった。使用目的は低並びに無ガンマグロブリン血症が14例(5.0%)、特発性血小板減少性紫斑病が10例(3.6%)、川崎病が3例(1.1%)、感染症が211例(75.4%)、術後の感染予防が16例(5.7%)、慢性脱髄性多発根神経炎が6例(2.1%)、その他が20例(7.1%)と、全体の4分の3は感染症に使用されていた。211例の感染症の内、139例(65.9%)はIVIG使用時に重症感染症が存在し、44例(20.9%)は感染症が重症化する可能性があるために使用されていた。IVIGが使用された主な疾患は血液疾患が47例(16.8%)、消化管疾患が42例(15.0%)、呼吸器疾患が34例(12.1%)、脳神経系疾患が23例(8.2%)、肝・胆・膵疾患が23例(8.2%)であり、IVIGの6割はこれらの疾患に使用されていた。最も使用症例の多い感染症では、全身状態は166例中140例(84.3%)が日中の50%以上は臥床しているgrade 3以上の重症患者であった。168例中146例(86.9%)に38℃以上の発熱を認めたが、有熱期間が4日以上の患者は151例中10例と僅か6.6%であった。白血球数は179例中28例(15.6%)が3,000/mm3未満、102例(57.0%)が9,000/mm3以上であったが、49例(27.4%)は正常であった。顆粒球数は144例中106例(73.6%)は1,000/mm3以上であり、1,000/mm3未満は144例中38例(26.4%)、500/mm3未満は16例と僅か11.1%であった。CRPは166例中105例(63.3%)が10mg/dl以上であったが、61例(36.7%)は10mg/dl未満での使用であった。
STD患者の過去1年献血率は9.3%で、一般集団の8.5%とほぼ同じであった。しかし、献血率が顕著に高かった大阪を除くと、一般集団の5.4%に比べてSTD患者は9.4%と有意に高い献血率であった。STD患者で過去1年間に不特定相手を有さない者の献血率は8.1%であったが、不特定相手を有する者では10.4%と高めであった。
HIV抗体検査キットの感度試験では、最も早く検出できるキットと遅いキットでは約1週間の違いが見られた。抗原と抗体を同時に検出する第4世代のキットは抗体検査キットの最も高感度のものよりも約1週間早く検出できることが判明した。HIVを検出するTMAは第4世代キットよりも更に約1週間早く検出でき、定量法のアンプリコアHIV-1モニターより高感度であった。
結論
北海道、愛知県、京都府、大阪府、福岡県の各BC管内の主な医療機関における肝切除術、人工股関節術、心臓バイパス術、広汎子宮全摘術、食道癌摘出術、並びに生体肝移植術時の血液製剤平均使用量が明らかになった。生体肝移植術の大部分は京都BC管内で実施されており、今回の調査からは地域格差は明らかに出来なかった。しかし、肝切除術はPCで5.3倍、人工股関節術はPCを全く使用しないから10.2単位使用、心臓バイパス術はPCで4.9倍、HSAを全く使用しないから76.5g使用、広汎子宮全摘術はRBCで6.7倍、FFP、PC、並びにHSAを全く使用しないからかなりの量を使用、食道癌摘出術も同様にFFP、PC、並びにHSAを全く使用しないからかなりの量を使用する地域があり、特にFFP、PCとHSAの使用にかなりの地域格差がある事が判明した。血液製剤の使用状況は1999年6月に厚生省よりだされた「血液製剤の使用指針」は特定の施設を除いては顕著な影響な認められなかった。FFPの適正な使用は班員の施設においても僅か14.4%であった。IVIGの75.4%はその効果が定かではない感染症に使用されており、使用適正化基準の設定が望まれる。STD患者の過去1年献血率は9.3%で、一般集団の8.5%とほぼ同じであった。HIV抗体検査キットの感度試験ではキット間で約1週間の違いが見られ、第4世代のキットは抗体検査キットよりも約1週間、TMAは更に約1週間早く検出できることが判明した。【まとめの枠の中の文章】北海道、愛知県、京都府、大阪府、福岡県の各日本赤十字社血液センター管内の主な33医療機関における肝切除術、人工股関節術、心臓バイパス術、広汎子宮全摘術、食道癌摘出術、並びに生体肝移植術時の血液製剤の平均使用量が明らかになった。生体肝移植術の大部分は京都府赤十字血液センター管内で実施されており、今回の調査からは地域格差は明らかに出来なかったが、肝切除術は血小板製剤が5.3倍、人工股関節術は新鮮凍結血漿と血小板製剤、心臓バイパス術はアルブミン、広汎子宮全摘術と食道癌摘出術は新鮮凍結血漿、血小板製剤とアルブミンの使用量にかなりの地域格差がある事が判明した。班員の医療機関における血液製剤の使用状況は「血液製剤の使用指針」が施行後6ヶ月である事からか、特定の施設を除いては顕著な影響は認められなかった。新鮮凍結血漿の「血液製剤の使用指針」に基ずく適正な使用は班員の施設においても僅か14.4%であった。免疫グロブリンの75.4%はその効果が定かではない感染症に使用されており、使用適正化基準の設定が望まれる。STD患者の過去1年献血率は9.3%で、一般集団の8.5%とほぼ同じであった。HIV抗体検査キットの感度試験ではキット間で約1週間の違いが見られ、第4世代のキットは抗体検査キットよりも約1週間、TMAは更に約1週間早く検出できることが判明した。

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