血液製剤の需要動向の地域間及び医療機関間格差に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900722A
報告書区分
総括
研究課題名
血液製剤の需要動向の地域間及び医療機関間格差に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
尾崎 明(財団法人血液製剤調査機構専務理事)
研究分担者(所属機関)
  • 船本剛朗(財団法人血液製剤調査機構)
  • 鈴木亨(同)
  • 七川博一(同)
  • 久保純子(同)
  • 鴨愼一(同)
  • 野口博(日本赤十字社)
  • 木村和弘(同)
  • 郡司篤晃(聖学院大学)
  • 三浦宜彦(埼玉県立大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血液製剤の国内自給を達成し、その安全性を確保するためには、血液製剤の適正使用を推進するとともに、適切な需要予測を行い、献血によって効率的に血液を確保するための対策が必要である。
従来の研究から、わが国における血液製剤の需要には大きな地域間格差が存在することが明らかにされている。しかし、その原因については解明されておらず、血液製剤の需要予測や適正使用を推進する上で大きな障害となっている。この地域間格差を生む直接的要因は各地域にある医療機関の血液製剤使用量の差異であると考えられる。しかし従来、全国的な規模において医療機関レベルの使用量を明確にして比較検討した研究はない。
そこで本研究では、日本赤十字社の協力を得て、全国の各医療機関毎の輸血用血液製剤の供給状況を精査し、その病床数や診療科目等を考慮した上で血液製剤使用量の医療機関間格差の実態を明らかにすることを目的とした。また、国民健康保険(国保)における全国都道府県の診療報酬明細書(レセプト)データを情報源したデータベース、並びに、健康保険法による被用者保険(健保)の代表的8健康保険組合のレセプト・データを情報源としたデータベースを用い、血液製剤の使用と原疾患との関連を検討することによって、こうした地域間格差・医療機関間格差の背景としての医療側要因を解明することを試みた。
研究方法
1.データベースの構築
今年度は、前年度に構築した平成8年と9年の医療機関別輸血用血液製剤(全血製剤、赤血球製剤、血漿製剤、血小板製剤)の供給量データベースに新たに平成10年の供給量を収集し、追加した。
2.都道府県別血液製剤供給量地図の作成
(1)1.のデータベースを使用して、年次別輸血用血液製剤(全血製剤、赤血球製剤、血漿製剤、血小板製剤)供給量を都道府県別に集計し、厚生省の医療施設調査(平成8、9、10年)の都道府県別一般病床数を用いて病床1,000当たり供給量を算出し、地域差を検討するため地図を作成した。
(2)階級区分と色分け
地図を作製するための階級区分は、供給量および比をいずれも5階級に区分した。区分の方法は地図上に各色相がほぼ同数表現されるように、多いものから順に、各階級が20%の地域になるように区分した。すなわち、 47都道府県を使用量の多い方から9または10ずつに分けて区分した。色相は多いものから、赤、橙、黄、緑、青で表した。
また、全国の国民健康保険の各県ごとの入院約5,000件、合計230,000件の診療報酬明細書のデータベースを用いて、血液製剤がどのような疾患に多用されているかを明らかにする。また、血液製剤が多用されている疾患に注目して、その使用量の地域差を求め、製剤ごとの地域差の大きさを比較する。また、地域差の大きな製剤と小さな製剤で、その地域差が何によって説明されるかを比較検討する。本年度は、特定の疾患、一件あたり医療費の地域差を、血液製剤の使用がどれだけ説明するかを検討した。
結果と考察
研究結果=前回作成した平成8年、9年の医療機関別輸血用製剤供給量データベースに平成10年分を追加して、年次・都道府県別にみた輸血用製剤の供給量を検討した結果、平成10年には照射血への移行が認められた.これは、平成10年6月に照射人全血液CPD「日赤」、照射赤血球M・A・P「日赤」、照射濃厚血小板「日赤」および照射濃厚血小板HLA「日赤」が、同年12月に照射洗浄赤血球「日赤」、照射白血球除去赤血球「日赤」、照射解凍赤血球濃厚液「日赤」および照射合成血「日赤」が、それぞれ販売開始されたことによるのであるが、安全性の点で好ましい傾向と考える。
全血製剤、赤血球製剤、血漿製剤、血小板製剤の供給量を都道府県別にみると、地域格差が認められ、赤血球製剤、血漿製剤および血小板製剤間には人口1,000当たりないし一般病床1,000当たり供給量とも約0.5の相関が認められたことから、輸血用血液製剤を多く使用するところではいずれの製剤も多いことが推察される。
地域格差の要因を病床数、人口に限って検討した結果、全血製剤、赤血球製剤、血漿製剤および血小板製剤の一般病床1,000当たり供給量と人口1,000当たり病床数との間に、負の相関が認められたことから、医療施設の整備されている都道府県ではこれら血液製剤の使用が抑えられていることが推察される。
国民健康保険の診療報酬明細書のデータベースより入院約5,000件を全国各県ごとに分析した結果、血小板は白血病、新鮮凍結血漿は肝硬変、アルブミンは同様に肝硬変や腎不全等に多用されていることが分かった。診断名として胃がん、大腸癌、肺がんの病名と手術有りの症例を抽出して県ごとの各製剤使用量の差は、赤血球製剤は最も県間の差が少なく、血小板、新鮮凍結血漿、加熱人血漿、アルブミンでは大きかった。また、胃がん一件あたり医療費の県間の差を目的変数、血液製剤を説明変数として重回帰分析を行なったところ、胃がんでR2=0.67、大腸癌でR2=0.23、肺がんでR2=0.32であった。すなわち、これらの疾患の医療費の地域差は、血液製剤の使用の差でその多くが説明されることが分かった。
結論
今年度は,日本赤十字の強力を得て前年度に構築したデータベースに平成10年のデータを追加した。このデータベースから輸血用血液製剤ごとに,人口1,000対供給量を都道府県別に算出し,その分布を検討して地域差とその要因の一端を確認した。また、国民健康保険のデータベースより疾患別に解析することにより、医療費の地域差は血液製剤の使用の差でその多くが説明されることが分かった。
最終年度では、さらに平成11年、12年のデータを追加し、データベースの充実を図るとともに、地域別に輸血用血液製剤供給量の推移を検討する。また、このデータベースに医療機関情報をマージして、各医療機関の輸血用血液製剤供給量を病床規模や診療科目ごとに検討し、医療機関格差の実態および格差要因を明らかにする予定である。

公開日・更新日

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