医療機関等における安全対策に関する研究

文献情報

文献番号
199900719A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機関等における安全対策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
山口 惠三(東邦大学医学部微生物学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 仲川義人(山形大学医学部附属病院薬剤部)
  • 太田美智男(名古屋大学医学部細菌学講座)
  • 武澤純(名古屋大学救急医学講座)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
院内感染症対策の基本項目として、(1) 感染症の発生および患者背景の適確な把握、(2) 臨床分離菌の頻度と耐性菌の把握、(3) 院内環境における病原体分布、(4) 院内消費薬剤(主に抗菌薬)の把握、などであるが、これらの中で、(1)は看護部、(2)、(3)は検査部、そして(4)は薬剤部が深く関与している。しかし一般的にこれまで医師や看護婦の院内感染対策における役割についてはその重要性が認知されているものの,臨床検査技師や薬剤師に対してはその役割や仕事内容に関して広く認知されるというには程遠いのが現状である.本研究は、臨床の場で直接患者に接したり医療行為を行うICNやICPに加え、感染症の診断や耐性菌の検出になくてはならない検査技師、そして抗菌薬の適切な選択・使用および副作用の防止などに重要な役割を有する薬剤師が、どのような役割を果たせばより効率的な院内感染対策が可能となるのかを検討し、特に検査技師や薬剤師を対象とした院内感染対策に対する教育内容の充実を図ることを目的としている。
欧米では、正式な教育機関でトレーニングを受け、その資格を認定されたICNやICPが中心となって院内感染防御対策に取り組んでいるが、わが国ではいまだそのような教育機関は存在せず、特に検査技師や薬剤師に対する教育はさらに立ちおくれていると言わざるを得ない。 従って、看護部、検査部、薬剤部におけるそれぞれの特性を明確にするとともに、それぞれの立場に合った院内感染対策の教育を行うことは,今後のわが国における院内感染対策の向上に欠かすことができないものと考える.そこで実現可能な一つの手段として,現在,日本感染症学会の主催による医師,看護婦を対象とした院内感染対策講習会の対象を臨床検査技師,薬剤師にまで範囲を広げることを念頭におき、検査技師や薬剤師それぞれの立場に合わせた院内感染対策の講習内容などについて、学会などの場を通じて広く意見を求め、院内感染対策講習会カリキュラムを具体化するとともに,より理想的なものを追求する。また看護婦を対象とした院内感染対策に対する教育については、現在行われている講習会の内容について関係者より意見を求め,ICNを対象とした講習(研修)カリキュラムについても改善を加えていく予定である。
本研究のもう一方の内容として、パソコンを用いた院内のネットワークを構築して、看護部、検査部、そして薬剤部の相互の連携を深めることにより、実際の臨床の場における院内感染対策について検査技師や薬剤師の知識を深め、有用なマンパワーの育成を目的としている。
研究方法
1.検査技師を対象とした院内感染対策講習会について
太田班員の指導のもと,平成10年度に開催された第10回臨床微生物学会において「院内感染対策における臨床検査技師の役割」についてのワークショップを行って得た成果を踏まえて講習会の内容について計画・立案を行った.それをもとに本年度は第1回の検査技師を対象とした院内感染対策講習会を開催するとともに,参加者などを対象としてアンケート調査を行った.
2.薬剤師を対象とした院内感染対策講習会について
仲川班員の指導のもと,平成10年度に開催された第14回日本環境感染学会総会において「院内感染と薬剤師」というテーマでワークショップを開催し,薬剤師の院内感染に関する研究・業務の実践・問題点の究明などの点が協議した.そこで得た成果を踏まえて仲川班員により薬剤師を対象とした院内感染対策講習会のカリキュラム案が作成され,それをもとに本年度は第1回の薬剤師を対象とした院内感染対策講習会を開催した.講習会の内容その他に関して,参加者などを対象としてアンケート調査を行った.
3.看護婦(ICN)を対象とした院内感染対策教育(講習会)について
武澤班員の指導のもと,「国立大学附属病院における感染対策婦長の活動状況に関する会議」を,平成11年6月17日に,文部省,厚生省,全国6施設(弘前大学,信州大学,徳島大学,金沢大学,京都大学,および名古屋大学)の感染対策婦長,および本研究班班員などの参加により開催した.
さらに平成11年に厚生省が主催する院内感染対策講習会に参加した関東地区看護婦のアンケート205部を検討・分析し、加えて、英国におけるICN教育のプログラムと教科書についても比較検討を行った。
4.院内感染対策支援システムの構築
看護部、検査部、薬剤部の3極を結んだ院内感染監視システムのためのパソコンネットワークを構築し、検査技師および薬剤師にそれぞれの役割を分担してもらうことで、詳細な感染情報の共有が可能となるよう,平成10年度に開発に着手した関連ソフトに関して,さらに班員その他関係者の多くの意見を受け容れ,さらに実用可能なシステムに向けてプログラムの改善を行った.さらにモデルケースとして導入予定の東邦大学医学部附属大森病院において,本システムを実際に応用できるよう,大学環境の整備を図るとともに,プログラムの一部変更を行った.
結果と考察
1.検査技師を対象とした院内感染対策講習会カリキュラムの検討
太田班員を責任者として,平成11年10月9,10,11日の3日間,名古屋大学医学部を会場として,講義に加え2日間の実習も含めた密度の濃いスケジュールの中で講習会が行われ,総勢265名の受講者を対象に盛会の内に終了され,受講者の評判は好評であった.検査技師は実際に病原体を分離・同定する技術や知識は持ち合わせているが,実際の感染症の臨床的知識にはやや疎い側面があると思われる.太田班員が検査技師を対象として作成した講習会のカリキュラムは,それらを補うために感染症の臨床的な面に関する講義にも重点を置いて作成されている.さらに実習も十分に行われ,3日間,ハードなスケジュールの中で開催され,受講者も益するところ大であったろうと思われる.ただし今回の院内感染対策講習会のカリキュラムをそのまま来年度以降の講習会に踏襲していくとなると,必要となる予算、会場、マンパワーなどを総合的に勘案すると,他の施設において開催するのは困難な点も指摘できる.そこで来年度以降は簡略化できるところは簡略化し,もう少しスリムな内容のカリキュラムに組み直す必要があるかもしれない.
2.薬剤師を対象とした院内感染対策講習会プログラムの検討
仲川班員を責任者として,平成11年9月9,10日に、全国から340名の薬剤師の参加者を得て講習会が開催された.全体的にはかなり役に立ったという意見が多く寄せられ、活発な意見交換があった.仲川班員から提案された講習会のカリキュラム案では、院内感染制御に関わる薬剤師の役割や抗菌薬の副作用,TDM,耐性菌の問題などが取り上げられており、これらの課題に答えるものとして評価できる.さらにディスカッションの時間を多くとり,薬剤師が院内感染対策に関して現在どのような問題に直面しているかなどの意見を広く集めることができたのも評価すべきものと考える.またその内容についても実習を含まない講演主体のものであるため,現行の院内感染対策講習会の一環として,今後他の責任者に変わったとしても大幅な変更なく実施可能なものと考えられる。なお第2回目となる平成12年度の薬剤師対象の院内感染対策講習会は,前回と同様,仲川班員が責任者となって開催される予定であり,カリキュラム案についても一部変更が加えられている.
3.ICN教育のシステムの検討
武澤班員を中心として開催された「国立大学附属病院における感染対策婦長の活動状況に関する会議」において,全国6施設の感染対策婦長により,それぞれの施設におけるICNの実際の活動状況が報告され,直面している問題や今後の課題などについて議論された.
院内感染対策講習会に参加した看護婦のアンケートを検討した結果、ほとんどの看護婦が最新の知識に触れられ、所属する施設での感染対策を客観化することができ、有意義であったと講習会を評価していた.武澤班員が今回検討・分析の対象とした、院内感染対策講習会に参加した関東地区看護婦のアンケート結果からは,参加した看護婦が所属する病院で策定された院内感染対策マニュアルの内容にかなり差がある可能性が指摘されている.病院毎に感染対策の方法や、感染専門看護婦(ICN)の活動範囲や権限にバラツキもみられることから,ある程度標準となる指標を今後示すべきなのかもしれない.その1つの方法として武澤班員も分担報告書の中で提案しているように,標準化された院内感染対策のマニュアルをNational basedで作成することも,今後の検討課題と考えられる.
4.院内感染対策支援システムの構築
平成10年度は関連ソフトの開発に着手し、検査部関連のデータを中心とした集計および解析システムが完成した。さらに平成11年度は、看護部と検査部の連携を深めたデータの共有システムを完成させた.なお,モデルケースとして東邦大学医学部附属病院においてこのネットワークシステムを設置し活用することを目的として,当施設における通信その他の環境の整備や,検査部および看護部(病棟)の関係者に関する説明その他を行った.院内感染対策支援システムに関しては,検査部と看護部を結ぶシステムのプログラムはほぼ完成することができた.作成にあたってはなるべく入力の作業などが医療スタッフの負担にならないよう,入力システムの簡略化に務めた.さらに本システムのモデルケースとして東邦大学医学部付属大森病院における導入を現在模索しているが,まだ本施設では病院内のLANが敷設されておらず,今後どのような形態でコンピューターネットワークを構築していくかについて,本施設の各部門の担当者等と相談しながら準備を進めている段階である.またこのシステムを導入するにあたっては,検査部や看護部など各部署の協力が欠かせないことから,これまでに何度か説明を行い,今後のスムーズな導入に向けて進行中である.
結論
院内感染対策事業の一環として、厚生省の委託のもとに日本感染症学会が行ってきた院内感染対策講習会を、これまでの医師、看護婦を対象としたものから,さらに臨床検査技師および薬剤師まで対象を拡げ、それぞれの立場からより積極的な院内感染対策への参加を促すことを目的として本研究班が発足した。初年度(平成10年度)は臨床検査技師および薬剤師それぞれを対象とした院内感染対策講習会のカリキュラム案を、臨床微生物学会および環境感染学会におけるワークショップで得られた意見を参考に作成した。平成11年度は、その成果をもとに実際に臨床検査技師および薬剤師を対象とした院内感染対策講習会を開催することができた。またICNの教育システムについても検討を加えた。さらに看護部、検査部、薬剤部の3極を結んだ院内感染監視システムのためのパソコンネットワークの構築については,初年度に着手した関連ソフトの開発を、平成11年度はさらに各方面からの意見を取り入れてプログラムの改良を行い、検査部と看護部のネットワークシステムのプログラムがほぼ完成した。

公開日・更新日

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