新規抗悪性腫瘍薬を含む新規の多剤併用療法の第I/II相試験の適正化に関する研究(総括研究報告)

文献情報

文献番号
199900717A
報告書区分
総括
研究課題名
新規抗悪性腫瘍薬を含む新規の多剤併用療法の第I/II相試験の適正化に関する研究(総括研究報告)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
西條 長宏(国立がんセンター中央病院)
研究分担者(所属機関)
  • 江口研二(国立病院四国がんセンター)
  • 大橋靖雄(東京大学医学系研究所)
  • 下山正徳(国立名古屋病院)
  • 鶴尾 隆(東京大学分子細胞生物学研究所)
  • 福岡正博(近畿大学)
  • 吉田茂昭(国立がんセンター東病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がんに対する標準的化学療法を第III相比較試験により確立するためには、新薬等を組み入れた新しい併用療法での投与量、投与法方、投与スケジュール等を事前に適正に設定する必要がある。第I/II相試験においては既にえられている当該薬剤の第I相試験の情報、当該あるいは他の薬剤の第IIあるいは第III相試験においてえられている対象疾患に関する莫大な背景対象データを用い、リスクを最小限にとどめ、効率的、倫理的安全性データをうる必要がある。このために必要な統計学的側面の検討は不可欠と思われるが、国際的にも不十分な状態である。現在、この第I/II相試験において欧米諸国でも明確なガイドラインはなく各グループが独自の判断・規準で行っている状況である。本研究班では上記の問題点に対し確実に解答を出すため複数の第I/II相試験を行う。またそれに基づき実行可能なガイドラインを作成する。本研究を通し我が国の第I/II相試験がより倫理的かつ効果的に実施される基盤が構築されると期待される。現在急速に臨床導入されつつある分子標的治療薬の評価については確立されたものがなく手探りで行われている状況であり、他の薬物と併用する第I/II相試験においてはエンドポイントの設定があいまいな状況である。分子標的治療薬は他の薬剤あるいは治療法と併用される事が多いと思われる。したがって分子標的治療薬の評価法を含む第I/II相ガイドラインを作成する。
研究方法
新薬を含んだ新併用療法では、新薬の投与量を適正に設定する必要がある。この新併用療法は非臨床試験を事前に行い、その有効性と安全性の基礎データに基づいて設定しなければならない。このため、1) 第I/II相試験に入るために必要な非臨床試験データの範囲の研究調査。2) 第I/II相試験の研究デザインの調査研究。特に国際的な研究の調査を行い、最終的には3) 新併用療法の第I/II相試験の基礎研究の関するガイドラインの作成を行う。
第I相試験のデザインで用いられるベイズ流のアダプティブなデザインContinual Reassessment Method (CRM)に関する文献のレビューを行い、推奨用量の設定を主目的にして行う第I/II相試験プロトコールに適用できるか否か、統計的観点から考察する。CRMでは、試験を進めていくに従い毒性に関する用量反応関係を逐次更新していくことで推奨用量に到達する。かつ、試験終了前には特に推奨用量レベル付近で連続して投与される。この特性を、増量・減量の判断に有効性を加味するオプションを通じ第I/II相試験に生かすことも可能であるが、第一段階として、用量制限毒性(DLT)の発現についての観察結果のみに基づいて増量ルールを決めることを検討する。また、CRMの過程に事前情報をより効果的に反映させるため、どのように毒性に関する用量反応モデルを設定するべきか検討を行う。これらを実際に行われたスタディーに適用することにより、第I/II相試験への適用上の問題点を考える。
1)固形癌に関して分子標的薬剤を含む化学療法における第I相および第II相の論文をMEDLINEなどのデータベースより検索し、増量計画のでデザイン・患者背景と毒性、さらにphase IIの部分での臨床効果などを単剤のdose intensityと比較しながら解析する。 2)実際の抗悪性腫瘍薬を組み込んだ第I/II相試験を実施しつつ、ホルモン依存性悪性腫瘍などにおける第I/II相試験のデザイン上の課題などについて考察する。 3)倫理面での検討として、がんの臨床試験に対する一般人の認識と説明事項に盛り込むべき内容などについての一般人の認識を調査し、必要事項をより具体的に抽出する。
発癌、悪性化、転移等の機構を特異的に抑制又は阻害する医薬品を分子標的治療薬と定義し、従来のランダムスクリーニング薬と区別する。この分子標的治療薬の臨床開発治験を行う上で、従来の臨床試験の方法論に、新しく考慮すべき事は何かを、すでに発表された論文をレビューして検討する。
シスプラチン(CDDP)の誘導体であるネダプラチン(254-S)は扁平上皮がんへの有効性が特徴的であり、食道がんにも既に適応承認を得ている。本剤に5-FUを加えた併用療法について第 I/II相試験を行う。対象は確診の得られた転移性食道がん例で、文書による同意が得られた化学療法未施行例、PS: 0-1、主要臓器機能を保持するものとする。投与量は5-FUは800 mg/m2に固定、254-Sを80 mg/m2 (レベル1)、90 mg/m2 (レベル 2)、100 mg/m2 (レベル 3)の3段階増量とし、レベル 4は承認用量以上となるため設定しなかった。用量規制毒性(DLT)は、Grade 4の?液毒性またはGrade 3以上の非?液毒性(悪心・嘔吐、脱毛を除く)とし、3例にDLTを認めない場合は次のレベルに進行することとする。
Carboplatin + Paclitaxelの2剤併用療法におけるCarboplatinの投与量をAUC6とした場合の、Paclitaxelの最大耐用量(MTD)および推奨投与量を決定することを目的とし未治療・進行あるいは術後再発非非小細胞肺癌症例で、年齢75歳未満、P.S. 0~1、適当な臓器を有し、患者本人からの同意が得られた症例を対象とする。カルボプラチンの投与量をAUC6としパクリタキセル175 mg/m2を投与開始量とする。パクリタキセル投与量を200 mg/m2、225 mg/m2と増量する。同一用量において6症例に投与し、3例以上にDLTの出現をみた場合はこれをMTDとし、これ以上の症例追加や増量は行わない。毒性の判定にはNCI-CTC(version2.0)を使用する。5日以上持続するgrade4の好中球減少、38度以上の発熱を伴うgrade4の好中球減少、20,000/μl以下の?小板減少、grade3以上の非?液毒性(悪心・嘔吐、一過性のビリルビン上昇を除く)をDLTとする。
切除不能肺癌患者治療開始日(day1)にはCPT-11のみを投与。Day8にCPT-11, TXLを投与する。この治療法を原則3週間隔で少なくとも2コース繰り返すこととする。最大耐用量を検討するため、初回投与レベルをCPT-11 40 mg/m2/day, TXL 135 mg/m2/dayより開始し、毒性を検討しながらあらかじめ決定された投与レベルに従って投与量をMTDまで増量する。ただし、同一患者における増量は行わない。MTDは、1コース目の毒性の質・発現頻度により決定するが、推奨投与量は、2コース目までの毒性、薬剤投与状況、効果などを総合的に判断して決定する。また、day1, 8のCPT-11, SN-38, SN-38グルクロナイド(SN-38G)を測定し、その薬物動態パラメーターを比較することで、CPT-11とTXLの薬物相互作用についても検討する。
結果と考察
科学的・倫理的に有効な併用療法の理論を確立するためには、分子レベル・細胞レベル・個体レベルで新規併用療法の臨床効果を予測しうるような一貫した非臨床試験が極めて重要と思われる。すなわち治験段階での併用rationaleとなるデータ選択のための基準が切望されている。しかし、抗悪性腫瘍薬併用の非臨床試験のデータは少なく、あっても細胞レベルの試験がほとんどで、動物を用いたin vivo 試験は極めてわずかという現状である。基礎データに基づき臨床試験が行われるべきと思えるが、現実的には臨床試験の裏付けを基礎実験でえている場合が多い。細胞レベルでの相乗効果の判定には、median effect 法、アイソポログラムなどがよく使われている。最近では、3次元法を用いた検討も行われている。臨床での投与ケジュールの重要性を、細胞レベルでの2薬剤への連続あるいは同時暴露実験から示唆する例もみられる。有望な結果の出た場合動物実験による確認も行われる。しかし現在併用効果予測しうる方法はなく、将来その方法論を確立する必要がある。実際の判断に際しては、併用することによって単剤の効果を上回ること、および投与制限毒性を増強しないことを示す必要がある。また単剤のpharmacokinetics (PK), pharmacodynamics (PD)データに基づき併用時の安全性の確保並びに発現しうる毒性について十分な考慮を行うことも重要である。
細胞毒性をもつ抗悪性腫瘍薬と細胞毒性をもたない分子標的治療薬との併用の機会も今後は増加するものと思われる。非臨床の段階では対象とする腫瘍に分子標的が存在すること、分子標的を治療により修飾しうることを証明する必要がある。また分子標的の修飾が抗腫瘍効果に結びつくことの証明が必須である。これらの研究の方法をいかに確立していくかが今後の課題である。
近年分子標的薬剤の開発動向が国際的にも明らかになりつつある。分子標的として耐性、DNA系、増殖シグナル系、転移系等々に含まれる多くの蛋白群が考えられている。細胞毒性をもつ抗悪性腫瘍薬と、これら新たに開発されつつある細胞毒性をもたない分子標的治療薬との併用の機会も今後は増加するものと思われる。細胞毒性をもたない分子標的治療薬は臨床での第I相試験後、何らかの抗腫瘍効果を示唆する成績がえられた場合、第II相試験が行われる場合もある。また臨床で併用試験の有効性を論理的に推論させるに十分な非臨床での抗腫瘍効果の増強、延命効果が証明されている場合、第I相試験後単独使用による第II相試験なしで標準的治療に当該薬剤を加えた併用第I/II相試験を行いその結果をもとに第III相試験に入る事もありうる。非臨床の段階では対象とする腫瘍に分子標的が存在すること、分子標的を治療により修飾しうることを証明する必要がある。また分子標的の修飾が抗腫瘍効果に結びつく事の証明が望まれる。分子標的治療の臨床試験において薬剤の分子標的に対する作用が抗腫瘍効果に結びつく推論あるいは証拠をうることが望まれる。治験として行う場合はプロトコールの内容につき規制当局と十分相談する事が重要である。
進行非小細胞肺癌に対する塩酸イリノテカン、エトポシド、シスプラチン併用化学療法の検討を行った第I/II相試験(JCOG9512)においては、計画時から前向きにCRMを導入することが検討され、実際にCRMによる意思決定支援が実行された。すなわち、デザイン自体は従来の3例コホートを基本としたものの、解釈と意思決定(とくに症例の同一レベルでの追加)にはCRMの計算結果が用いられた。その結果、事前に設定された5段階の用量レベルのうち、レベル1で3例、レベル2で4例、レベル3で3例、レベル4で10例に投与が行われた。DLTが発現したのはレベル2の1例、レベル4の2例の計3例であった。計20例の結果からDLT出現確率の期待値が0.3381、50%を越える確率が0.0468となったレベル4が推奨用量と判断された。DLT発現確率の確率密度関数が3レベルあるいは5レベルのそれぞれからクリアに分かれたこと、これ以上症例数を増やしても増量、あるいは減量の可能性が低いことから、最終的に試験の終了が判断された。奏効は4レベルで10例中5例観察され、閾値奏効率の20%をほぼ確実に上回ることが確認された。
事前情報を活用するCRMを用いることで従来のデザインに比べて増量が加速されることが確認され、さらに推奨用量レベルで集中して投与が行われた。デザインで積極的に考慮しなかった有効性については、単調な用量反応関係を想定し最尤法による解析、あるいは推奨用量における奏効率を事後に頻度論的立場から解析することは可能である。デザインに有効性も考慮する方法が文献上提案されているが、毒性と有効性の応答が同じタイミングで観察されるとは限らず、2つ以上のパラメータに同時分布を規定することなど実施上の問題点は多い。一方、用量レベルが上がるにしたがい奏効率も上がるという仮定が正しければ、従来の第I相試験と同様の、毒性に関し許容できる推奨用量設定を目標としたデザインを第I/II相試験に取り入れても、大きな破綻はなく有意義と考えられる。
MEDLINE などのデータベースによる検索では、乳癌などのホルモン依存性腫瘍の抗がん剤とホルモン製剤とを併用した第I/II試験は非常に少ない。 (例 進行乳癌に対するall-trans retinoic acid + tamoxifen の第I/II試験など)投与量の設定や投与量増量の基準には、cytotoxic agents のような標準的な方式がなく、健常人で行った第I相試験の結果を参考として投与量の設定をおこない、増量に関してもcytotoxic agents に比較して毒性検討のための増量基準のステップ数は少なめに設定されている傾向にある。局所進展型非小細胞癌症例に対するcisplatin + docetaxelと同時胸部放射線照射の第I/II試験、進行・再発乳癌に対するKW2307+ ADM + CPA の第I/II試験、cytostatic agents の併用レジメンとして進行・再発乳癌に対するpilot study である、Fadrosol + tamoxifen の併用試験を行った。
新規抗悪性腫瘍薬を含む多剤併用療法のphase I/II試験は、薬物相互作用および相加・相乗効果などの多角的観点から論じなければならない。しかし、薬物相互作用を前臨床の段階で検討することは困難で、ヒトを対象としたphase studyで検討せざるをえない。特にホルモン依存性腫瘍での多剤併用療法における第I/II相試験のデザインの作成が課題となっている。さらに、分子標的治療薬剤を含む併用レジメンの場合には、第I/II相試験で、適切なsurrogate markersを用い薬物活性が明らかになれば、適切なアームを設定して第III相試験に移行することも考えられる。そのような併用レジメンに関して海外とのbridgging studyを行う場合には、本邦での第I/II相試験が必須であると考える。
抗腫瘍性抗体として低悪性度Bリンパ腫に対するrituximab(CD20抗原を標的)は1997年米国FDAで承認された。次いで乳癌に対するtrastuzumab(HER-2抗原を標的)が1998年に米国FDAで承認された。両者とも著明な抗腫瘍効果を示している。再発Bリンパ腫に対するrituximabの奏効率は50%、50%奏効期間は13ヶ月、CHOP療法との併用で、毒性は増強せずに有効率がより一層高まる。一方転移性乳がんに対するtrastuzumabの奏効率は14%、化学療法と併用することにより、毒性の増強はなく、より有効率が上昇する。従って、通例の細胞毒性抗腫瘍剤の臨床評価法と同様に評価可能である。
APLに対するall-trans retinoic acid(ATRA)は極めて有効で、単独使用でCR率は70-80%、化学療法との併用で90%以上に増強する。arsenic trioxideもATRA耐性のAPLに対し、CR率は70%以上にみられる。ともにAPLに特有なキメラ遺伝子産物であるPML/RARαに作用し、APL細胞を好中球に分化させ、apotosisを誘導し、著明な抗腫瘍効果が発揮されるので、これも細胞毒性抗腫瘍剤の臨床評価法で評価可能である。
IM862(VEGF産生抑制)はAIDS-カポシ肉腫に対し奏効率36%を示しているように、直接の細胞毒性を示さなくても、in vivoで抗腫瘍効果があるものは通常の臨床評価法で評価可能である。しかし、数多くの抗腫瘍効果を示さない?管新生抑制薬が第I~II相試験中である。第I相試験で抗腫瘍効果を示さないものが、単独使用の第III相試験で臨床的に有用な延命効果を示したものはまだない。抗悪性腫瘍薬との併用で抗腫瘍効果が増強する場合は、5FU+ leucovorinなどのように抗悪性腫瘍薬ではなくて、単なる効果増強剤として評価すればよい。
これらのうち有効なものはCMLのbcr/ablキメラ遺伝子産物であるbcr/abl tyrosine kinaseの特異的な抑制物質であるSTI571がある。これはCML患者に対する第I相試験の段階で著効し、bcr/ablキメラ遺伝子が消失し、ほぼ全例に臨床的CRが得られている。このように、分子標的治療薬の有効なものは通常の臨床評価法で評価できる。
転移抑制薬、遺伝子治療などでは明らかな抗腫瘍効果を示さずに、臨床的に明らかな延命効果を示す薬剤はまだ報告されていない。
臨床的に有効な分子標的治療薬の多くは、第I~II相試験の段階で明らかな抗腫瘍効果を示し、しかもその作用は特異性が高く著効する。従ってこれらはものは従来の抗悪性腫瘍薬の臨床評価法で評価できる。但し、特異性が高いものについては、第I相試験からdisease-orientedに対象疾患を指定して臨床試験を行うことが必要になる。一方、抗腫瘍効果がない分子標的治療薬で現在第III相試験中のものは、その結果をみてから、必要に応じ臨床評価法を考えればよい。有効性が示されないうちに、早まって新たな臨床評価ガイドラインを作ることは現段階では必要なく、むしろ研究的に行う段階と思われる。
ネダプチンと5FU併用の推奨用量の決定のための増量試験においてはレベル1、レベル 2ともにDLTを全く認めず、それぞれ3例のみでクリアした。レベル 3では1例にDLTを認めたため、更に3例を追加したところ再度1例にDLTを認めた。この時点でDLTは6例中2例であり、最大耐用量(MTD)には達していなかったが、level 3は承認用量であり、当初からレベル4を設定していなかったため増量せず、本レベルを推奨用量として更に4例を追加し、計16例を有効性と安全性の評価に供した。対象16例中、CR:1例、PR:7例を得た。奏効度は50%(95%信頼区間:25-75%)と良好な成績であった。部位別に奏効度をみると原発巣が最も不良で43%(3/7)であったが、各転移巣では50-67 %の範囲内にあり、肺転移巣を有する6例中2例、リンパ節転移を有する15例中2例にCRを認めた。最終的にDLT症例は16例中2例のみであったが、うち1例はgrade 4の好中球減少を契機として感染を併発、敗?症のため死亡した。この治療関連死亡例の評価をどの様にするかが問題であった。この場合、効果安全性委員会からは、「理論上はレベル 3を推奨用量とし得るが、レベル 2の3例中2例が奏効していること、将来の多施設共同試験(第2相試験)において治療関連死亡例の出現が問題となる可能性を有していることなどから、最終的にはレベル 2を推奨用量とするのが妥当である」とする最終判断を得た。
第I/II相試験で治療関連死亡例を得た場合、推奨用量はDLTの頻度といった理論的側面だけではなく、総合的に決定されるべきである。当該試験では254-S の奏効率に用量反応性を認めなかったため比較的容易に決断しえたが、これを認める場合はきわめて難しい選択となる。初回コ-スのみならず全コースにおける安全性情報を詳しく調査し、高用量を推奨する場合は減量基準を明確に示すなどの対応が必要である。なお、現在、5-FU+CDDPの少量持続投与+X線照射の第I/ II相試験が進行中であるが、レベル1の3例ともCRでクリアしている。この様な場合の取り扱い(有効中止基準)も今後の課題と思われる。
1999年10月4日よりレベル1、1例目の治療を開始し、現時点でレベル1の症例集積が終了している。登録番号6の症例は、原病の進行による喀?死でDay12に死亡。治療関連死は否定できないものの、原病を背景に突発的・偶発的に起こった事態と考えられるため、この症例でのDLTの評価は不能とし、さらに1例を追加しプロトコールを継続することとなった。レベル1でのDLT症例は1例であり、レベル2へのdose escalationが可能である。2000年1月よりレベル2の登録、治療を開始したが、このレベルも全例問題なく投与できレベル3へのdose escalationが可能である。
CPT-11とパクリタキセルの第I/II相試験では現在までに9例(既治療IV期非小細胞肺癌:1例、未治療IV期非小細胞肺癌:7例、未治療ED-小細胞肺癌:1例)の患者が登録され本治療が行われた。レベル1ではDLTの発現は認めず3例でレベル2に増量。レベル2では2例でDLT(neutropenic fever 1例、grade3のGOT/GPT上昇1例)が認めたが2/6例のため、現在レベル3で症例登録中である。効果は、ED-小細胞肺癌はPR:1/1、非小細胞肺癌PR:3/8である。?中薬物動態は現在のところ6例のデータが判明している。これまでのところ、CPT-11, SN-38, SN-38Gともday1よりday8のAUCの値のほうが高い傾向にある。
CPT-11+TXLの併用療法では現在のところMTDに達していないため、さらに抗がん剤の増量が可能である。現時点でも抗腫瘍効果を非小細胞肺癌で27.5%(3/8例)に認めていることを考えると、本治療方法は非小細胞肺癌に対する有望な治療方法である可能性が高いと思われる。また、day1よりday8のほうが、CPT-11, SN-38などのAUCが高いということは、CPT-11とTXLの間に?中薬物動態を変化させる薬物相互作用が存在することを示唆している。この薬物相互作用が、TXLの何らかの薬物動態パラメーターと関係するかどうかを検討中である。
結論
新薬を含む多剤併用療法の科学的、合理的基礎研究はその必要性にも拘わらず国内・国外でほとんど行われていない。国内において第I/II相試験の統計学的側面に関する検討は皆無である。国際的にみても第I相試験についてようやく研究が開始された段階であり研究者グループも限定されている。がんの治療研究の中で最も重要と思える第I/II相試験で多様な事前情報をどう定式化するかは重要な研究課題である。非小細胞がんに対するパクリタキセルとシスプラチンの併用第I/II相試験を実施しその推奨投与量を決定した。またパクリタキセル単剤の第I相試験データと比較し、シスプラチンとの併用による毒性の変化、2剤の薬物動態への影響を検討した。塩酸イリノテカンとエトポシドの同時併用、異時併用の第I/II相試験を行い推奨用量を決定し併用による2剤の薬物動態の変化を検討した。2剤併用による薬物相互反応は認められなかったがAE/ADRが相加的に増加した。ドセタキセル + カルボプラチン、ドセタキセル + イフォスファミド + シスプラチン、パクリタキセル + CPT-11、パクリタキセル + カルボプラチン、シスプラチン + ナベルビン、シスプラチン + ゲムシタビンの第I/II相試験を行い至適投与量の決定を行った。プラチナを含まない併用化学療法についても第I/II相試験を行い至適投与量の決定を行った。爆発的に導入されつつある分子標的治療薬のうちUCN-01、HERCEPTIN、チロジンキナーゼ阻害剤、マトリックスメタロプロテアーゼの第I相試験を展開しその至適投与量を決定しつつある。これらの研究をベースとして第I/II相試験ガイドライン(案)のドラフトを作成した。

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