文献情報
文献番号
199900715A
報告書区分
総括
研究課題名
薬効成分を有する天然物-生薬、漢方製剤-の安全性に関する研究(総括研究報告)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
関田 節子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
- 渋谷淳(国立医薬品食品衛生研究所)
- 渡辺賢治(北里研究所)
- 岡希太郎(東京薬科大学)
- 荻原幸夫(名古屋市立大学)
- 栗原正明(国立医薬品食品衛生研究所)
- 最上和子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
小柴胡湯の間質性肺炎については、平成8年に因果関係不明なものを含めて200例以上が報告されたことから厚生省医薬安全局により「警告」が新設され、緊急安全性情報が配布され、その後も数回、注意喚起を促されていた。しかし、平成10年以降も小柴胡湯と関連性が否定出来ない間質性肺炎が50例報告され、その内8例が死亡している。そこで、平成12年1月に医薬安全局は、インターフェロン製剤を投与中の患者、に加えて、肝硬変、肝癌のある患者、及び肝硬変が疑われる「血小板数10満/mm3以下の患者」を禁忌とした。小柴胡湯による間質性肺炎の報告と前後して、小柴胡湯に配合されている黄今Scutellaria baiclensisと同属植物であるScutellaria laterifloraの副作用がヨーロッパで問題となったことから、黄今が原因ではないかと指摘されたが、その後の副作用報告には麦芽湯等の黄今が配合されていない漢方薬による間質性肺炎の例も見出されている。
そこで、本研究では間質性肺炎発症の起因物質の特定を目的とし、昨年度からTh1 dominant strainのC57BL/6マウス(interferon-α高発現系)と、Th1, Th2どちらも反応することが知られているICRマウスを用いて、小柴胡湯によるモノクロタリン誘発肺傷害に対する修飾作用ないし interferon-αの相乗作用に関する実験を行っている。この毒性は肝機能障害を来した患者で強く発現すると報告されている。このことは、小柴胡湯吸収成分が肝代謝によって排泄さる経路が肝障害下で遮断され、その結果、吸収成分の体内濃度が上昇することと関連しているかも知れない。そこで、臨床において、肝機能患者における黄今の役割を検討した。
また、主要配合生薬である甘草の成分グリチルレチン酸のアポトーシス誘導について明らかにした。
アリストロキア酸含有する生薬製剤による間質性腎炎発症についても、製剤の回収措置がとられたにも拘わらず、今年度さらに副作用患者が報告された。アリストロキア酸についての動物実験を計画しているが、多量のサンプルが必要で、なおかつ、アリストロキア酸には多くの類縁体が存在するため、作用メカニズムの解明には純度の確実な化合物を用いることが重要で、これらの化合物の合成と純度試験法の確立を行った。
ブシに関する昨年度の報告で、特にモノエステルアルカロイドを基準にした品質の評価の必要性があることを提唱した。ブシは非常に毒性の強い生薬であるが、日本薬局方には収載されておらず、モノエステルアルカロイド含量に関しては全く規定がない状態である。そこで、いくつかの代表的なブシ含有漢方製剤についてアコニチンアルカロイドの定量を行った。
また、八味地黄丸は最も多くの製剤メーカーによって製造販売されているが、その製造方法は様々である。ブシ含有漢方製剤中のアコニチンアルカロイド含量は修治ブシの種類によるだけでなくその調整法の違いによるところも大きいと考えられ、アコニチンアルカロイド含量と八味地黄丸の調整法との相関についても合わせて検討した。
近年、食生活の欧米化から抗動脈硬化薬の需要が増大している。この分野での漢方薬や天然薬物の使用は現在のところ一般的ではないが、今後の増加が予想される。実際に、シイタケLentinus edodes が強力な血清コレステロール低下作用を示すことが古くから知られており、活性物質eritadenineが単離されている。
昨年度の研究でフィブラート類のPPAR非依存の作用機構である肝でのホスファチジルエタノールアミン(PE)のメチル化経路を介するVLDL産生低下作用を選択的に検出するための試験系を確立した。本年度は、この系の有用性の確認のために、PEメチル化阻害作用が期待されるeritadenineを用い、この物質がフィブラート類と同様にPPAR非依存のメカニズムで血清脂質を低下させるのか否かについて検討を行うとともに、血清脂質低下作用を示す天然薬物の安全性・有効性を評価する方法の確立をめざした。
生薬、漢方製剤の副作用の原因を明らかにし、正確な知識の普及を図ることは、副作用を回避する適正な投与規準が確立されると共に安全な薬剤としての品質基準を明確にする重要な成果をもたらす。このような観点から生薬及び漢方製剤の安全性を解明することを目的とする。
そこで、本研究では間質性肺炎発症の起因物質の特定を目的とし、昨年度からTh1 dominant strainのC57BL/6マウス(interferon-α高発現系)と、Th1, Th2どちらも反応することが知られているICRマウスを用いて、小柴胡湯によるモノクロタリン誘発肺傷害に対する修飾作用ないし interferon-αの相乗作用に関する実験を行っている。この毒性は肝機能障害を来した患者で強く発現すると報告されている。このことは、小柴胡湯吸収成分が肝代謝によって排泄さる経路が肝障害下で遮断され、その結果、吸収成分の体内濃度が上昇することと関連しているかも知れない。そこで、臨床において、肝機能患者における黄今の役割を検討した。
また、主要配合生薬である甘草の成分グリチルレチン酸のアポトーシス誘導について明らかにした。
アリストロキア酸含有する生薬製剤による間質性腎炎発症についても、製剤の回収措置がとられたにも拘わらず、今年度さらに副作用患者が報告された。アリストロキア酸についての動物実験を計画しているが、多量のサンプルが必要で、なおかつ、アリストロキア酸には多くの類縁体が存在するため、作用メカニズムの解明には純度の確実な化合物を用いることが重要で、これらの化合物の合成と純度試験法の確立を行った。
ブシに関する昨年度の報告で、特にモノエステルアルカロイドを基準にした品質の評価の必要性があることを提唱した。ブシは非常に毒性の強い生薬であるが、日本薬局方には収載されておらず、モノエステルアルカロイド含量に関しては全く規定がない状態である。そこで、いくつかの代表的なブシ含有漢方製剤についてアコニチンアルカロイドの定量を行った。
また、八味地黄丸は最も多くの製剤メーカーによって製造販売されているが、その製造方法は様々である。ブシ含有漢方製剤中のアコニチンアルカロイド含量は修治ブシの種類によるだけでなくその調整法の違いによるところも大きいと考えられ、アコニチンアルカロイド含量と八味地黄丸の調整法との相関についても合わせて検討した。
近年、食生活の欧米化から抗動脈硬化薬の需要が増大している。この分野での漢方薬や天然薬物の使用は現在のところ一般的ではないが、今後の増加が予想される。実際に、シイタケLentinus edodes が強力な血清コレステロール低下作用を示すことが古くから知られており、活性物質eritadenineが単離されている。
昨年度の研究でフィブラート類のPPAR非依存の作用機構である肝でのホスファチジルエタノールアミン(PE)のメチル化経路を介するVLDL産生低下作用を選択的に検出するための試験系を確立した。本年度は、この系の有用性の確認のために、PEメチル化阻害作用が期待されるeritadenineを用い、この物質がフィブラート類と同様にPPAR非依存のメカニズムで血清脂質を低下させるのか否かについて検討を行うとともに、血清脂質低下作用を示す天然薬物の安全性・有効性を評価する方法の確立をめざした。
生薬、漢方製剤の副作用の原因を明らかにし、正確な知識の普及を図ることは、副作用を回避する適正な投与規準が確立されると共に安全な薬剤としての品質基準を明確にする重要な成果をもたらす。このような観点から生薬及び漢方製剤の安全性を解明することを目的とする。
研究方法
1)小柴胡湯に関する研究
(1)動物実験による小柴胡湯起因間質性肺炎解明
被験物質及び動物: 被験物質として小柴胡湯(当研究所生薬部関田らにより調製)、モノクロタリン (S. B. Penick Co., New York) 、ヒトinterferon-α(持田製薬)を用いた。動物は4週齢の雄性C57BL/6:Crjマウス(SPF)ないしCD-1/ICR: Crjマウス(SPF)を日本チャ-ルス・リバ-社(神奈川)より購入し、基礎飼料と水道水で1週間馴化飼育した後、各群5匹になるよう無作為に振り分け試験に供した。
2)実験方法:実験1として、各群10匹の5週齢のC57BL/6マウスに対して小柴胡湯を0(対照群)、0.5, 1.0, 2.0 % の割合で8週間、粉末基礎食(CRF-1: オリエンタル酵母)に混合して、自由摂取させた。実験2として、モノクロタリンを150mg/kgの割合で週1回、計4回、5週齢のC57BL/6マウスに皮下投与した後、小柴胡湯を 0.1% ないし2.0 % の割合で、各群20匹に8週間混餌投与した。小柴胡湯の投与量は、臨床使用量と同等の換算値(0.1%)と、実験1の結果を参考に最高用量(2%)の2用量を設定した。更に実験2の中で、20匹のマウスにモノクロタリン投与に続く2.0%の小柴胡湯の混餌投与の最後の2週間に、interferon-αを2.5x104units/マウス、週3回、計6回、腹腔内投与する群を設定した。モノクロタリン、小柴胡湯、及び interferon-αの陰性対照もそれぞれ設けた。次に実験3として、ICRマウスを用いて、モノクロタリンの投与回数を1回増やして、150mg/kgの割合で計5回皮下投与し、モノクロタリン投与開始時ないし最終投与の1週間後から、小柴胡湯を 0.1% ないし2.0 % の割合で、各群15-16匹に11週ないし6週間混餌投与した。最後に実験4として、ICRマウスに対してモノクロタリンを5回投与後、6週間にわたる2%の小柴胡湯の混餌投与期間中に interferon-αの隔日投与を行った。また、小柴胡湯の陰性対照も設けた。
(2)肝機能障害治療における配合生薬加減
平成7年9月から前額部を中心に面皰が出現し、平成9年8月9日、当院漢方外来を受診した。当帰芍薬散料加桃仁、牡丹皮、意苡仁で面皰は改善した。便秘を伴う痔があったため、平成11年8月5日より乙字湯加意苡仁に変方した。12月初旬より右季肋部に膨満感自覚した。肝機能検査でGOT40、GPT64と高値であった。乙字湯の中から黄今を抜き投与した。
(3)マウス胸腺および脾臓細胞のアポトーシスに及ぼすグリチルレチン酸投与の影響
C57BL/6マウスにGA2.5mgを投与し、24時間後の胸腺および脾臓を摘出した。摘出した臓器から細胞懸濁液を調製し、各細胞のアポトーシスを Annexin-5 およびMitoTrackerを用いてフローサイトメーターで測定した。また、CD4、CD8の発見を、モノクローナル抗体を用いて解析した。
2)アリストロキア酸に関する研究
(1)天然成分であるAristolochic acids I, IIの混合物を出発原料とし、エステル化反応、還元反応の2ステップでAristolactam, Cepharanone -Aをそれぞれ合成し、分離精製した。
(2)これらの純度を確定するために、純度試験法を、さらに、副作用起因製剤中の定量を行うための試験法を検討した。
3)ブシに関する研究
(実験材料)
修治附子は4製品を用いた。修治附子を含有する漢方製剤として八味地黄丸、桂枝加述附湯、麻黄附子細辛湯、牛車腎気丸、真武湯について検討した。
(抽出法)
1.酢酸エチルによる抽出 粉末化した検体約200mgをPYREX試験管(遠心機用キャップ付)に精秤し、酢酸エチル2.0mlおよび28%アンモニア水100_lを加え、ボルテックスミキサーで1分間撹拌後、室温で60分間超音波抽出した。10分間遠心(3000rpm)し(×2:超音波による抽出の2回目は30分)、分取した上清に1M HCl 1.5mlを加え分配した(×2).HCl 層を28%アンモニア水100_lでアルカリ性にし、酢酸エチル1.5mlで抽出(×2)した後、濃縮乾固し、分析用のサンプルとした。
2.塩酸による抽出 粉末化した検体約200mgをPYREX試験管(遠心機用キャップ付)に精秤し、1M HCl 2.0mlを加え、ボルテックスミキサーで1分間撹拌後、室温で60分間超音波抽出した。10分間遠心(3000rpm)し(×2:超音波による抽出の2回目は30分)、分取した上清に28%アンモニア水100_lを適量加えてアルカリ性にし、酢酸エチル1.5mlで抽出(×2)した後、濃縮乾固し、分析用のサンプルとした。
(定量法)
上記に従って調製したサンプルのアコニチン類(ベンゾイルメサコニン:BM、ベンゾイルアコニン:BA、ベンゾイルヒパコニン:BH、アニソイルアコニン:AA、アコニチン:A、メサコニチン:M、ヒパコニチン:H)の定量について、HPLCを用いた絶対検量線法にて行った。HPLCの標準クロマトグラムから各物質の保持時間により各クロマトグラム中の物質を特定した。
HPLC 条件「カラム:5C18-AR-300 (4.6×150mm)、移動相:0.1%トリフルオロ酢酸・テトラヒドロフラン(10:1)、流速:1.0mL/min、カラム温度:40℃、検出器:紫外吸光光度計(測定波長:235nm、260nm)」
4)PPAR非依存の血清脂質低下作用を評価法に関する研究
ラット肝細胞を単離後直ちにエタノールアミン(100 mM)を添加あるいは非添加の培地に移して培養した。8時間後にエタノールアミン非添加細胞はメチオニン(400 mM)を欠く培地、エタノールアミン添加細胞は通常培地に替えてさらに12時間培養した。VLDL分泌の指標として、培地へのトリグリセリド(TG)分泌量を測定した。PEメチル化活性は培地に添加した[3H]エタノールアミンの細胞内PCへの取り込みから測定した。
(1)動物実験による小柴胡湯起因間質性肺炎解明
被験物質及び動物: 被験物質として小柴胡湯(当研究所生薬部関田らにより調製)、モノクロタリン (S. B. Penick Co., New York) 、ヒトinterferon-α(持田製薬)を用いた。動物は4週齢の雄性C57BL/6:Crjマウス(SPF)ないしCD-1/ICR: Crjマウス(SPF)を日本チャ-ルス・リバ-社(神奈川)より購入し、基礎飼料と水道水で1週間馴化飼育した後、各群5匹になるよう無作為に振り分け試験に供した。
2)実験方法:実験1として、各群10匹の5週齢のC57BL/6マウスに対して小柴胡湯を0(対照群)、0.5, 1.0, 2.0 % の割合で8週間、粉末基礎食(CRF-1: オリエンタル酵母)に混合して、自由摂取させた。実験2として、モノクロタリンを150mg/kgの割合で週1回、計4回、5週齢のC57BL/6マウスに皮下投与した後、小柴胡湯を 0.1% ないし2.0 % の割合で、各群20匹に8週間混餌投与した。小柴胡湯の投与量は、臨床使用量と同等の換算値(0.1%)と、実験1の結果を参考に最高用量(2%)の2用量を設定した。更に実験2の中で、20匹のマウスにモノクロタリン投与に続く2.0%の小柴胡湯の混餌投与の最後の2週間に、interferon-αを2.5x104units/マウス、週3回、計6回、腹腔内投与する群を設定した。モノクロタリン、小柴胡湯、及び interferon-αの陰性対照もそれぞれ設けた。次に実験3として、ICRマウスを用いて、モノクロタリンの投与回数を1回増やして、150mg/kgの割合で計5回皮下投与し、モノクロタリン投与開始時ないし最終投与の1週間後から、小柴胡湯を 0.1% ないし2.0 % の割合で、各群15-16匹に11週ないし6週間混餌投与した。最後に実験4として、ICRマウスに対してモノクロタリンを5回投与後、6週間にわたる2%の小柴胡湯の混餌投与期間中に interferon-αの隔日投与を行った。また、小柴胡湯の陰性対照も設けた。
(2)肝機能障害治療における配合生薬加減
平成7年9月から前額部を中心に面皰が出現し、平成9年8月9日、当院漢方外来を受診した。当帰芍薬散料加桃仁、牡丹皮、意苡仁で面皰は改善した。便秘を伴う痔があったため、平成11年8月5日より乙字湯加意苡仁に変方した。12月初旬より右季肋部に膨満感自覚した。肝機能検査でGOT40、GPT64と高値であった。乙字湯の中から黄今を抜き投与した。
(3)マウス胸腺および脾臓細胞のアポトーシスに及ぼすグリチルレチン酸投与の影響
C57BL/6マウスにGA2.5mgを投与し、24時間後の胸腺および脾臓を摘出した。摘出した臓器から細胞懸濁液を調製し、各細胞のアポトーシスを Annexin-5 およびMitoTrackerを用いてフローサイトメーターで測定した。また、CD4、CD8の発見を、モノクローナル抗体を用いて解析した。
2)アリストロキア酸に関する研究
(1)天然成分であるAristolochic acids I, IIの混合物を出発原料とし、エステル化反応、還元反応の2ステップでAristolactam, Cepharanone -Aをそれぞれ合成し、分離精製した。
(2)これらの純度を確定するために、純度試験法を、さらに、副作用起因製剤中の定量を行うための試験法を検討した。
3)ブシに関する研究
(実験材料)
修治附子は4製品を用いた。修治附子を含有する漢方製剤として八味地黄丸、桂枝加述附湯、麻黄附子細辛湯、牛車腎気丸、真武湯について検討した。
(抽出法)
1.酢酸エチルによる抽出 粉末化した検体約200mgをPYREX試験管(遠心機用キャップ付)に精秤し、酢酸エチル2.0mlおよび28%アンモニア水100_lを加え、ボルテックスミキサーで1分間撹拌後、室温で60分間超音波抽出した。10分間遠心(3000rpm)し(×2:超音波による抽出の2回目は30分)、分取した上清に1M HCl 1.5mlを加え分配した(×2).HCl 層を28%アンモニア水100_lでアルカリ性にし、酢酸エチル1.5mlで抽出(×2)した後、濃縮乾固し、分析用のサンプルとした。
2.塩酸による抽出 粉末化した検体約200mgをPYREX試験管(遠心機用キャップ付)に精秤し、1M HCl 2.0mlを加え、ボルテックスミキサーで1分間撹拌後、室温で60分間超音波抽出した。10分間遠心(3000rpm)し(×2:超音波による抽出の2回目は30分)、分取した上清に28%アンモニア水100_lを適量加えてアルカリ性にし、酢酸エチル1.5mlで抽出(×2)した後、濃縮乾固し、分析用のサンプルとした。
(定量法)
上記に従って調製したサンプルのアコニチン類(ベンゾイルメサコニン:BM、ベンゾイルアコニン:BA、ベンゾイルヒパコニン:BH、アニソイルアコニン:AA、アコニチン:A、メサコニチン:M、ヒパコニチン:H)の定量について、HPLCを用いた絶対検量線法にて行った。HPLCの標準クロマトグラムから各物質の保持時間により各クロマトグラム中の物質を特定した。
HPLC 条件「カラム:5C18-AR-300 (4.6×150mm)、移動相:0.1%トリフルオロ酢酸・テトラヒドロフラン(10:1)、流速:1.0mL/min、カラム温度:40℃、検出器:紫外吸光光度計(測定波長:235nm、260nm)」
4)PPAR非依存の血清脂質低下作用を評価法に関する研究
ラット肝細胞を単離後直ちにエタノールアミン(100 mM)を添加あるいは非添加の培地に移して培養した。8時間後にエタノールアミン非添加細胞はメチオニン(400 mM)を欠く培地、エタノールアミン添加細胞は通常培地に替えてさらに12時間培養した。VLDL分泌の指標として、培地へのトリグリセリド(TG)分泌量を測定した。PEメチル化活性は培地に添加した[3H]エタノールアミンの細胞内PCへの取り込みから測定した。
結果と考察
C.研究結果
1)小柴胡湯に関する研究
(1)動物実験による小柴胡湯起因間質性肺炎解明
実験1においては、投与期間中、体重及び摂餌量の推移に群間による明らかな差は認められなかった。また、病理組織学的検索の結果、C57BL/6マウスでは小柴胡湯による明らかな肺傷害の誘発を認めなかった。
実験2においても、C57BL/6マウスでは、この実験条件下で肺傷害を殆ど誘発せず、小柴胡湯によるモノクロタリン誘発肺傷害に対する修飾作用ないし interferon-αの相乗作用は明らかにできなかった。
実験3において、ICRマウスでは、モノクロタリン投与により、2型肺胞上皮の減少、残存上皮細胞のMegakaryosis、肺胞壁の線維素性肥厚、肺胞腔内への線維素の析出(硝子膜形成)、肺胞腔内へのマクロファージの浸潤・集積、_管周囲炎ないし_管炎の変化を認めた。各個体におけるこれらの病理所見のグレーディングを行い群間での程度の比較をしたところ、多くの所見において、11週間にわたり小柴胡湯を投与した群で肺傷害の程度が増強しており、0.1%群より2% 群でより明らかであった。また、肺胞壁の線維素性肥厚、肺胞腔内への線維素の析出(硝子膜形成)、肺胞腔内へのマクロファージの浸潤・集積の所見を間質性肺炎の所見とし、総合的にグレーディングを行った結果も同様であった。
実験4においては、モノクロタリン投与の後interferon-αを投与した動物では肺傷害部位に一致して強いリンパ球浸潤を認めたものの、肺傷害に対する明らかな増強効果を認めず、小柴胡湯との相乗作用は認められなかった。また、小柴胡湯6週間投与による影響も実験3とほぼ同様に明らかではなかった。
(2)肝機能障害治療における配合生薬加減
平成7年9月から前額部を中心に面皰が出現し、平成9年8月9日、当院漢方外来を受診した。当帰芍薬散料加桃仁、牡丹皮、意苡仁で面皰は改善した。便秘を伴う痔があったため、平成11年8月5日より乙字湯加意苡仁に変方した。12月初旬より右季肋部に膨満感自覚した。肝機能検査でGOT40、GPT64と高値であった。乙字湯の中から黄今を抜き投与したところ、1月4日にはGOT32、GPT43、2月3日にはGOT22、GPT25と低下した。
(3)マウス胸腺および脾臓細胞のアポトーシスに及ぼすグリチルレチン酸投与の影響
GA投与後、胸腺重量は非投与群に比べ有意に減少し、胸腺細胞アポトーシスの亢進がフローサイトメトリーにより確認された(p< 0.01)。一方、脾臓重量には有意な変化が認められず、アポトーシス誘導も認められなかった。T細胞サブセットの解析では、GA投与により、CD4+CD8+ダブルポジティブ細胞(DP細胞)の比率の減少が顕著であった。
2)アリストロキア酸に関する研究
(1)Aristolochic acids I, IIの混合物(Sigma-Aldrich)に、メタノール中、トリメチルシリルジアゾメタンを作用させ、メチルエステルとし、続いてパラジウム炭素を触媒量加えて、水素ガス存在下、還元し、Aristolactam, Cepharanone-Aとした。HPLCにより分離精製し、Aristolactam, Cepharanone-Aを得た。構造はNMRで確認した。
(2)純度試験及び定量試験のために、HPLC法を設定した。試料溶液:試料2.0gを精密に量り、75% MeOH 50ml を加えて超音波抽出(20分間)し、遠心分離(2000rpm,10分間)し、上澄み液を分取し、試料溶液とした。(1g/25mL)
標準溶液:アリストロキア酸I, II, IV, アリストロキアラクタムをそれぞれ10μg/25mLに調製した。
カラム:LiChrospher 100 RP-18
(e) 5μm
移動相:0.1%TFA/CH3CN: MeOH
(350 : 650:1)
検出波長:310nm
流速 1ml/min.
3)ブシに関する研究
各製品の修治附子中のBM含量を最大と最小で比較したところ、塩酸抽出では0.025%~0.170%で約7倍の含量差、同様にBAでは0.006%~0.057%で約10倍、BHでは、0.014%~0.070%で5倍の差があった。一方、酢酸エチルエステル抽出ではBM含量は0.028%~0.164%で約6倍、BAでは0.008%~0.057%で7倍、BHでは、0.015%~0.064%で4倍の差があった。
モノエステルアルカロイド含有量をBM、BA、BHの和と考えると、A社炮附子、C社炮附子では0.05%程度、B社修治附子、D社加工附子では0.26%程度であり5倍の差があった。
また、残存ジエステルアルカロイド量をA、M、Hの和と考えるといづれも0.01%程度であり差は見られなかった。
このことから修治附子の種類によってモノエステルアルカロイドの含有量がかなり違うことが明らかとなった。また酢酸エチルエステル抽出でも塩酸抽出でもほぼ同様の結果が得られることが分かった。
《ブシ含有漢方製剤:Table 2》
いづれもこの方法では残存ジエステルアルカロイドは検出されなかった。しかしモノエステルアルカロイドの含有量に関しては修治附子と同様に製品によってかなりの差が認められた。
○八味地黄丸
モノエステルアルカロイド含有量をBM、BA、BHの和と考えると、A社0.001%、B社0.005%、C社0.002%、D社0.02%、E社0.003%、F社0.004%、G社0.01%、I社0.004%、J社0.005%程度であり、約20倍もの差が認められた。
○麻黄附子細辛湯
D社では約0.15%であったがB社では0.02%程度で7倍の差があった。
○桂枝加述附湯
D社では約0.07%、E社では約0.005%で14倍の差。
○牛車腎気丸
K社、L社ともに0.005%程度であった。
○真武湯
D社のものだけであるが約0.06%であった。
しかし各社製剤によって一日あたりの投与量が異なっており、また賦形剤などを加えている場合もあるので、代表的な八味地黄丸について1日量中のモノエステルアルカロイド量について検討した。その結果、A社が約0.06mgであるのに対してD社は約0.9mgと約15倍の差が認められた。
4)PPAR非依存の血清脂質低下作用を評価法に関する研究
フィブラート類は、肝特異的なホスファチジルコリン合成経路であるホスファチジルエタノールアミン(PE)のメチル化経路を阻害し、肝での血清脂質VLDL産生を低下させる。昨年度の研究で、このPPAR非依存の作用のみを選択的に検出するためにPEメチル化活性の異なる細胞モデルを確立した。すなわち、エタノールアミンを添加して培養しPEメチル化活性を維持した細胞モデル(+E+M)とエタノールアミンとメチオニンを欠く培地で培養し基質のPEとメチル供与体レベルの枯渇によってPEメチル化活性が低下した細胞モデル(-E-M)である。
この二つのモデル細胞を用いてeritadenineの培地へのTG分泌に対する影響を検討した。PEメチル化活性が維持された細胞モデル(+E+M)ではeritadenineは濃度に依存してTG分泌を低下させ、20 mMで84%の低下が観察されたのに対し、PEメチル化活性が低下した細胞モデル(-E-M)では最大で22%の低下にとどまった。このことから、eritadenineは肝細胞からのTG分泌を阻害すること、またその阻害作用は細胞のPEメチル化活性に強く依存することが明らかになった。
EritadenineはS-adenosyl
homocysteine (SAH) hydrolaseの強力な阻害剤であり、細胞内でのメチル供与体S-adenosylmethionine (SAM)/SAH比を低下させることが報告されている。この結果、細胞内のメチル化反応が阻害されると推定されている。ホスファチジルエタノールアミン(PE)のメチル化によるホスファチジルコリン(PC)合成への影響を調べたところ、3時間のあいだにPCに取り込まれる[3H]エタノールアミン由来の放射能は20 mMで90%低下した。このことから、eritadenineがPEのメチル化を強力に阻害することが確認された。従って、eritadenineはPEメチル化によるPC合成の阻害を介してVLDL分泌を低下させることが判明した。
D.考察
動物実験による小柴胡湯起因間質性肺炎解明において、Tリンパ球は免疫応答の主役であり、特にヘルパーT(Th)細胞が重要である。遅延型過敏症反応に代表される「細胞性免疫」と、抗体産生に代表される「体液性免疫」とは、生体において相反する関係にあることが以前より指摘されてきているが、その後、サイトカイン産生から見た2種類のTh細胞サブセット(Th1/Th2)により説明されるようになってきた。
小柴胡湯は慢性肝炎による肝機能障害等に使われる医療用の漢方薬であるが、この処方患者での間質性肺炎の誘発が問題となり、昨年、肝硬変、肝癌患者における使用が禁止された。これらの患者においては、小柴胡湯が何らかの形で各種サイトカインの発現状況を変えて間質性肺炎に至らしめる可能性が指摘されているb)。
マウスに対するモノクロタリンの頻回投与により、ヒトの間質性肺炎、さらには肺線維症に類する病変を誘発することが知られているc)。また、モノクロタリンにより誘発される肺傷害に対して免疫反応の関与が示唆される。例えば1)モノクロタリン投与によるラット肺でのMCP-1活性の上昇(ラットでは_管内皮傷害が主である)、2)Th1 dominant であるC57BL/6マウスはモノクロタリン誘発肺傷害に対して比較的耐性であることd)、3)今回の検索により、マウスにおいても_管を標的とした変化が得られたこと(新知見)、等が示される。
このような状況を鑑みて、これから行わなければならない研究として、まず、モノクロタリン誘発肺傷害がTh1ないしTh2のどちらのサブセットが主役をなして生じるのかを明らかにしなければならない。その後に、小柴胡湯投与によりどのようなケモカインが病変の増悪に関与するのかを明らかにするべきである。そのためにはまず、Th1 dominant strainのC57BL/6とTh2 dominant なBALB/cマウスを用いた比較実験が必要であろう。今回、病理組織学的検索により得られた小柴胡湯の肺傷害に対する増強効果は、比較的軽度であったので、より長期間の小柴胡湯曝露を行ったときでの肺傷害修飾作用を検討する必要があると考えられる。当然、そのような状況でのinterferon-αと小柴胡湯との相乗作用を検索し直す必要があると考える。
来年度は、ICRマウスを用いた実験3において、好中球、マクロファージ等の炎症のエフェクター細胞の出現数を免疫組織化学的に比較し、炎症の数値化した指標となりうるかどうかについて検討を行う。また、モノクロタリン誘発肺傷害に対する免疫反応の関与についても肺における各種ケモカインのmRNAレベルの検討を進め、Th1, Th2のどちらが優位に働いているのかを明らかにし、それに対する小柴胡湯の修飾作用について検索を行う。
肝機能障害治療患者に対して、配合生薬の加減を行った結果、本症例の肝機能障害の改善作用には黄今は関与していないものと考えられた。今後、間質性肺炎との関連性について検討を進める予定である。
マウス胸腺および脾臓細胞のアポトーシスに及ぼすグリチルレチン酸投与の影響を検討したところ、マウスに投与すると、胸腺重量が減少し、胸腺細胞がアポトーシスを起こして死滅することが判明した。死滅する細胞種はダブルポジテイブ細胞であった。胸腺細胞に対するグリチルレチン酸の薬理作用は内因性コルチゾール代謝の阻害作用を介して進行した。この作用は胸腺細胞に留まらず脾臓細胞にまで及んでいた。即ち、グリチルレチン酸は未成熟T細胞だけでなく、胸腺で発達し末梢循環に放出されたT細胞をもアポトーシスに誘導することが明らかになった。
間質性腎障害のメカニズムの解明と起因物質の構造活性との関連を解明するために行ったAristolochic acidsからAristolactamへの変換反応はすでに報告(Monatsheft f殲 Chemie, 1956, 249-268)されているが、詳しい反応条件、NMRによる構造の確認は記載されていない。今回は上記とは別の、簡便で、効率的な方法で合成を行った。また、製剤中の定量法についても検討した。
修治附子の種類によるモノエステルアルカロイド量の差について、使っているブシが異なるので正確な比較はできないが、あえてその修治による違いにより考察した。大晃生薬炮附子および小太郎炮附子は、従来の方法、つまりかん水に浸漬後、蒸して乾燥させたいわゆる「炮附子」であり、ツムラ修治附子および三和加工附子は化学的な処理により減毒されたいわゆる「加工ブシ」である。この2種類の炮附子を比較すると、「炮附子」のモノエステルアルカロイド量が約0.05%であるのに対して、「加工ブシ」では約0.26%と約5倍の違いが見られた。トリカブトの種類、産地、採取時期の違い以外にこの修治によってもモノエステルアルカロイド量は大きく左右されると考えられる。
また、今回検討した4社の修治附子が配合されている八味地黄丸について、修治附子から定量されたアコニチン系アルカロイドが製剤からどの程度の割合検出されるかを検討した。製品Aは、古来の製法に従って調製するいわゆる八味地黄丸で混合生薬1日量6000mgに130mgの炮附子末を含む。抽出効率は塩酸抽出96%、酢酸エチル抽出81%であった。製品Bは、混合生薬 22g(修治ブシ末0.5g)の乾燥エキス4.0gを含む顆粒剤7.5gを1日量としている。抽出効率は塩酸抽出157%、酢酸エチル抽出115%と塩酸抽出において高めの値を示した。製品Cは、混合生薬11g(炮附子0.5g)の水製エキス2.6gを1日量4.5gに調整して錠剤化している。抽出効率は塩酸抽出181%、酢酸エチル抽出141%とやや高い値を示した。製品Dは、附子を除いた混合生薬7.65gから抽出されたエキス1.5gに加工ブシ末1.5gを加え、全量4.5gに調整したものを1日量として錠剤化している。抽出効率は塩酸抽出26%、酢酸エチル抽出20%とかなり低い値を示した。製品B及びCのように、一般に抽出エキスを用いて製造される八味地黄丸製剤は抽出した後、残渣などを取り除いているため本来の丸剤より抽出効率が上昇すると考えられる。製品Dは、抽出効率が他社に比べて極端に低い値を示している結果から、この製剤が記載通りに調整されてないか、あるいは加工ブシ末単独で処方されるものと漢方薬に配合される加工ブシ末とは異なるものが使用されている可能性が考えられる。また製品CおよびDはブシの配合割合を変えて調整しており、製品Dにいたっては加工ブシ末以外の生薬の抽出エキスに加工ブシ末をそのまま配合している。この製造方法を八味地黄丸に属する漢方薬として認めるかについてまず検討を要する。
Eritadenineはアデノシンアナログであり、S-adenosylhomocysteine (SAH) hydrolaseの強力な阻害剤である。その結果として細胞のメチル化反応一般が阻害されることが予想される。Eritadenineを投与したラット肝ミクロゾームではPC/PE比が劇的に低下しており、PEメチル化阻害の結果と推定されてきた。しかしながら、このPEメチル化阻害作用とVLDL分泌の関係は全く省みられず、eritadenineは分泌されたリポタンパクの肝での再取り込みを促進して血清脂質低下作用を示すとする説が受け入れられてきた。これは、PC/PE比の低下によって膜の流動性が変化し、膜酵素であるD6不飽和化酵素活性が低下してリノール酸の低下とアラキドン酸の増加がもたらされる。血漿リポタンパクの脂肪酸組成が同様の変化を受ける結果、肝臓へのリポタンパクの取り込みが促進されるという、実に長大な作用機構である。これに対し、本研究では、eritadenineは肝細胞からのVLDL分泌を直接阻害することを示し、同時にこの作用はPEメチル化経路によるPC合成の阻害を介することを証明した。本研究によって、天然物由来の血清脂質低下物質eritadenineの作用メカニズムが明らかになったと同時に、昨年度の本研究で確立した細胞モデルが薬物のPPAR非依存の血清脂質低下作用を評価する上で有用であることを確認することができた。
1)小柴胡湯に関する研究
(1)動物実験による小柴胡湯起因間質性肺炎解明
実験1においては、投与期間中、体重及び摂餌量の推移に群間による明らかな差は認められなかった。また、病理組織学的検索の結果、C57BL/6マウスでは小柴胡湯による明らかな肺傷害の誘発を認めなかった。
実験2においても、C57BL/6マウスでは、この実験条件下で肺傷害を殆ど誘発せず、小柴胡湯によるモノクロタリン誘発肺傷害に対する修飾作用ないし interferon-αの相乗作用は明らかにできなかった。
実験3において、ICRマウスでは、モノクロタリン投与により、2型肺胞上皮の減少、残存上皮細胞のMegakaryosis、肺胞壁の線維素性肥厚、肺胞腔内への線維素の析出(硝子膜形成)、肺胞腔内へのマクロファージの浸潤・集積、_管周囲炎ないし_管炎の変化を認めた。各個体におけるこれらの病理所見のグレーディングを行い群間での程度の比較をしたところ、多くの所見において、11週間にわたり小柴胡湯を投与した群で肺傷害の程度が増強しており、0.1%群より2% 群でより明らかであった。また、肺胞壁の線維素性肥厚、肺胞腔内への線維素の析出(硝子膜形成)、肺胞腔内へのマクロファージの浸潤・集積の所見を間質性肺炎の所見とし、総合的にグレーディングを行った結果も同様であった。
実験4においては、モノクロタリン投与の後interferon-αを投与した動物では肺傷害部位に一致して強いリンパ球浸潤を認めたものの、肺傷害に対する明らかな増強効果を認めず、小柴胡湯との相乗作用は認められなかった。また、小柴胡湯6週間投与による影響も実験3とほぼ同様に明らかではなかった。
(2)肝機能障害治療における配合生薬加減
平成7年9月から前額部を中心に面皰が出現し、平成9年8月9日、当院漢方外来を受診した。当帰芍薬散料加桃仁、牡丹皮、意苡仁で面皰は改善した。便秘を伴う痔があったため、平成11年8月5日より乙字湯加意苡仁に変方した。12月初旬より右季肋部に膨満感自覚した。肝機能検査でGOT40、GPT64と高値であった。乙字湯の中から黄今を抜き投与したところ、1月4日にはGOT32、GPT43、2月3日にはGOT22、GPT25と低下した。
(3)マウス胸腺および脾臓細胞のアポトーシスに及ぼすグリチルレチン酸投与の影響
GA投与後、胸腺重量は非投与群に比べ有意に減少し、胸腺細胞アポトーシスの亢進がフローサイトメトリーにより確認された(p< 0.01)。一方、脾臓重量には有意な変化が認められず、アポトーシス誘導も認められなかった。T細胞サブセットの解析では、GA投与により、CD4+CD8+ダブルポジティブ細胞(DP細胞)の比率の減少が顕著であった。
2)アリストロキア酸に関する研究
(1)Aristolochic acids I, IIの混合物(Sigma-Aldrich)に、メタノール中、トリメチルシリルジアゾメタンを作用させ、メチルエステルとし、続いてパラジウム炭素を触媒量加えて、水素ガス存在下、還元し、Aristolactam, Cepharanone-Aとした。HPLCにより分離精製し、Aristolactam, Cepharanone-Aを得た。構造はNMRで確認した。
(2)純度試験及び定量試験のために、HPLC法を設定した。試料溶液:試料2.0gを精密に量り、75% MeOH 50ml を加えて超音波抽出(20分間)し、遠心分離(2000rpm,10分間)し、上澄み液を分取し、試料溶液とした。(1g/25mL)
標準溶液:アリストロキア酸I, II, IV, アリストロキアラクタムをそれぞれ10μg/25mLに調製した。
カラム:LiChrospher 100 RP-18
(e) 5μm
移動相:0.1%TFA/CH3CN: MeOH
(350 : 650:1)
検出波長:310nm
流速 1ml/min.
3)ブシに関する研究
各製品の修治附子中のBM含量を最大と最小で比較したところ、塩酸抽出では0.025%~0.170%で約7倍の含量差、同様にBAでは0.006%~0.057%で約10倍、BHでは、0.014%~0.070%で5倍の差があった。一方、酢酸エチルエステル抽出ではBM含量は0.028%~0.164%で約6倍、BAでは0.008%~0.057%で7倍、BHでは、0.015%~0.064%で4倍の差があった。
モノエステルアルカロイド含有量をBM、BA、BHの和と考えると、A社炮附子、C社炮附子では0.05%程度、B社修治附子、D社加工附子では0.26%程度であり5倍の差があった。
また、残存ジエステルアルカロイド量をA、M、Hの和と考えるといづれも0.01%程度であり差は見られなかった。
このことから修治附子の種類によってモノエステルアルカロイドの含有量がかなり違うことが明らかとなった。また酢酸エチルエステル抽出でも塩酸抽出でもほぼ同様の結果が得られることが分かった。
《ブシ含有漢方製剤:Table 2》
いづれもこの方法では残存ジエステルアルカロイドは検出されなかった。しかしモノエステルアルカロイドの含有量に関しては修治附子と同様に製品によってかなりの差が認められた。
○八味地黄丸
モノエステルアルカロイド含有量をBM、BA、BHの和と考えると、A社0.001%、B社0.005%、C社0.002%、D社0.02%、E社0.003%、F社0.004%、G社0.01%、I社0.004%、J社0.005%程度であり、約20倍もの差が認められた。
○麻黄附子細辛湯
D社では約0.15%であったがB社では0.02%程度で7倍の差があった。
○桂枝加述附湯
D社では約0.07%、E社では約0.005%で14倍の差。
○牛車腎気丸
K社、L社ともに0.005%程度であった。
○真武湯
D社のものだけであるが約0.06%であった。
しかし各社製剤によって一日あたりの投与量が異なっており、また賦形剤などを加えている場合もあるので、代表的な八味地黄丸について1日量中のモノエステルアルカロイド量について検討した。その結果、A社が約0.06mgであるのに対してD社は約0.9mgと約15倍の差が認められた。
4)PPAR非依存の血清脂質低下作用を評価法に関する研究
フィブラート類は、肝特異的なホスファチジルコリン合成経路であるホスファチジルエタノールアミン(PE)のメチル化経路を阻害し、肝での血清脂質VLDL産生を低下させる。昨年度の研究で、このPPAR非依存の作用のみを選択的に検出するためにPEメチル化活性の異なる細胞モデルを確立した。すなわち、エタノールアミンを添加して培養しPEメチル化活性を維持した細胞モデル(+E+M)とエタノールアミンとメチオニンを欠く培地で培養し基質のPEとメチル供与体レベルの枯渇によってPEメチル化活性が低下した細胞モデル(-E-M)である。
この二つのモデル細胞を用いてeritadenineの培地へのTG分泌に対する影響を検討した。PEメチル化活性が維持された細胞モデル(+E+M)ではeritadenineは濃度に依存してTG分泌を低下させ、20 mMで84%の低下が観察されたのに対し、PEメチル化活性が低下した細胞モデル(-E-M)では最大で22%の低下にとどまった。このことから、eritadenineは肝細胞からのTG分泌を阻害すること、またその阻害作用は細胞のPEメチル化活性に強く依存することが明らかになった。
EritadenineはS-adenosyl
homocysteine (SAH) hydrolaseの強力な阻害剤であり、細胞内でのメチル供与体S-adenosylmethionine (SAM)/SAH比を低下させることが報告されている。この結果、細胞内のメチル化反応が阻害されると推定されている。ホスファチジルエタノールアミン(PE)のメチル化によるホスファチジルコリン(PC)合成への影響を調べたところ、3時間のあいだにPCに取り込まれる[3H]エタノールアミン由来の放射能は20 mMで90%低下した。このことから、eritadenineがPEのメチル化を強力に阻害することが確認された。従って、eritadenineはPEメチル化によるPC合成の阻害を介してVLDL分泌を低下させることが判明した。
D.考察
動物実験による小柴胡湯起因間質性肺炎解明において、Tリンパ球は免疫応答の主役であり、特にヘルパーT(Th)細胞が重要である。遅延型過敏症反応に代表される「細胞性免疫」と、抗体産生に代表される「体液性免疫」とは、生体において相反する関係にあることが以前より指摘されてきているが、その後、サイトカイン産生から見た2種類のTh細胞サブセット(Th1/Th2)により説明されるようになってきた。
小柴胡湯は慢性肝炎による肝機能障害等に使われる医療用の漢方薬であるが、この処方患者での間質性肺炎の誘発が問題となり、昨年、肝硬変、肝癌患者における使用が禁止された。これらの患者においては、小柴胡湯が何らかの形で各種サイトカインの発現状況を変えて間質性肺炎に至らしめる可能性が指摘されているb)。
マウスに対するモノクロタリンの頻回投与により、ヒトの間質性肺炎、さらには肺線維症に類する病変を誘発することが知られているc)。また、モノクロタリンにより誘発される肺傷害に対して免疫反応の関与が示唆される。例えば1)モノクロタリン投与によるラット肺でのMCP-1活性の上昇(ラットでは_管内皮傷害が主である)、2)Th1 dominant であるC57BL/6マウスはモノクロタリン誘発肺傷害に対して比較的耐性であることd)、3)今回の検索により、マウスにおいても_管を標的とした変化が得られたこと(新知見)、等が示される。
このような状況を鑑みて、これから行わなければならない研究として、まず、モノクロタリン誘発肺傷害がTh1ないしTh2のどちらのサブセットが主役をなして生じるのかを明らかにしなければならない。その後に、小柴胡湯投与によりどのようなケモカインが病変の増悪に関与するのかを明らかにするべきである。そのためにはまず、Th1 dominant strainのC57BL/6とTh2 dominant なBALB/cマウスを用いた比較実験が必要であろう。今回、病理組織学的検索により得られた小柴胡湯の肺傷害に対する増強効果は、比較的軽度であったので、より長期間の小柴胡湯曝露を行ったときでの肺傷害修飾作用を検討する必要があると考えられる。当然、そのような状況でのinterferon-αと小柴胡湯との相乗作用を検索し直す必要があると考える。
来年度は、ICRマウスを用いた実験3において、好中球、マクロファージ等の炎症のエフェクター細胞の出現数を免疫組織化学的に比較し、炎症の数値化した指標となりうるかどうかについて検討を行う。また、モノクロタリン誘発肺傷害に対する免疫反応の関与についても肺における各種ケモカインのmRNAレベルの検討を進め、Th1, Th2のどちらが優位に働いているのかを明らかにし、それに対する小柴胡湯の修飾作用について検索を行う。
肝機能障害治療患者に対して、配合生薬の加減を行った結果、本症例の肝機能障害の改善作用には黄今は関与していないものと考えられた。今後、間質性肺炎との関連性について検討を進める予定である。
マウス胸腺および脾臓細胞のアポトーシスに及ぼすグリチルレチン酸投与の影響を検討したところ、マウスに投与すると、胸腺重量が減少し、胸腺細胞がアポトーシスを起こして死滅することが判明した。死滅する細胞種はダブルポジテイブ細胞であった。胸腺細胞に対するグリチルレチン酸の薬理作用は内因性コルチゾール代謝の阻害作用を介して進行した。この作用は胸腺細胞に留まらず脾臓細胞にまで及んでいた。即ち、グリチルレチン酸は未成熟T細胞だけでなく、胸腺で発達し末梢循環に放出されたT細胞をもアポトーシスに誘導することが明らかになった。
間質性腎障害のメカニズムの解明と起因物質の構造活性との関連を解明するために行ったAristolochic acidsからAristolactamへの変換反応はすでに報告(Monatsheft f殲 Chemie, 1956, 249-268)されているが、詳しい反応条件、NMRによる構造の確認は記載されていない。今回は上記とは別の、簡便で、効率的な方法で合成を行った。また、製剤中の定量法についても検討した。
修治附子の種類によるモノエステルアルカロイド量の差について、使っているブシが異なるので正確な比較はできないが、あえてその修治による違いにより考察した。大晃生薬炮附子および小太郎炮附子は、従来の方法、つまりかん水に浸漬後、蒸して乾燥させたいわゆる「炮附子」であり、ツムラ修治附子および三和加工附子は化学的な処理により減毒されたいわゆる「加工ブシ」である。この2種類の炮附子を比較すると、「炮附子」のモノエステルアルカロイド量が約0.05%であるのに対して、「加工ブシ」では約0.26%と約5倍の違いが見られた。トリカブトの種類、産地、採取時期の違い以外にこの修治によってもモノエステルアルカロイド量は大きく左右されると考えられる。
また、今回検討した4社の修治附子が配合されている八味地黄丸について、修治附子から定量されたアコニチン系アルカロイドが製剤からどの程度の割合検出されるかを検討した。製品Aは、古来の製法に従って調製するいわゆる八味地黄丸で混合生薬1日量6000mgに130mgの炮附子末を含む。抽出効率は塩酸抽出96%、酢酸エチル抽出81%であった。製品Bは、混合生薬 22g(修治ブシ末0.5g)の乾燥エキス4.0gを含む顆粒剤7.5gを1日量としている。抽出効率は塩酸抽出157%、酢酸エチル抽出115%と塩酸抽出において高めの値を示した。製品Cは、混合生薬11g(炮附子0.5g)の水製エキス2.6gを1日量4.5gに調整して錠剤化している。抽出効率は塩酸抽出181%、酢酸エチル抽出141%とやや高い値を示した。製品Dは、附子を除いた混合生薬7.65gから抽出されたエキス1.5gに加工ブシ末1.5gを加え、全量4.5gに調整したものを1日量として錠剤化している。抽出効率は塩酸抽出26%、酢酸エチル抽出20%とかなり低い値を示した。製品B及びCのように、一般に抽出エキスを用いて製造される八味地黄丸製剤は抽出した後、残渣などを取り除いているため本来の丸剤より抽出効率が上昇すると考えられる。製品Dは、抽出効率が他社に比べて極端に低い値を示している結果から、この製剤が記載通りに調整されてないか、あるいは加工ブシ末単独で処方されるものと漢方薬に配合される加工ブシ末とは異なるものが使用されている可能性が考えられる。また製品CおよびDはブシの配合割合を変えて調整しており、製品Dにいたっては加工ブシ末以外の生薬の抽出エキスに加工ブシ末をそのまま配合している。この製造方法を八味地黄丸に属する漢方薬として認めるかについてまず検討を要する。
Eritadenineはアデノシンアナログであり、S-adenosylhomocysteine (SAH) hydrolaseの強力な阻害剤である。その結果として細胞のメチル化反応一般が阻害されることが予想される。Eritadenineを投与したラット肝ミクロゾームではPC/PE比が劇的に低下しており、PEメチル化阻害の結果と推定されてきた。しかしながら、このPEメチル化阻害作用とVLDL分泌の関係は全く省みられず、eritadenineは分泌されたリポタンパクの肝での再取り込みを促進して血清脂質低下作用を示すとする説が受け入れられてきた。これは、PC/PE比の低下によって膜の流動性が変化し、膜酵素であるD6不飽和化酵素活性が低下してリノール酸の低下とアラキドン酸の増加がもたらされる。血漿リポタンパクの脂肪酸組成が同様の変化を受ける結果、肝臓へのリポタンパクの取り込みが促進されるという、実に長大な作用機構である。これに対し、本研究では、eritadenineは肝細胞からのVLDL分泌を直接阻害することを示し、同時にこの作用はPEメチル化経路によるPC合成の阻害を介することを証明した。本研究によって、天然物由来の血清脂質低下物質eritadenineの作用メカニズムが明らかになったと同時に、昨年度の本研究で確立した細胞モデルが薬物のPPAR非依存の血清脂質低下作用を評価する上で有用であることを確認することができた。
結論
生薬である小柴胡湯の間質性肺炎誘発ないし修飾作用を検討する目的で、Th1 dominant strainのC57BL/6マウスに対して、8週間に及ぶ高用量の小柴胡湯投与実験と、モノクロタリン誘発肺傷害(間質性肺炎モデル)に対する、小柴胡湯ないし小柴胡湯+ interferon-αの投与の影響を検索した結果、いずれにおいても肺傷害を誘発することができなかった。一方、 Th1, Th2どちらも反応することが知られているICRマウスを用いてのモノクロタリン誘発肺傷害に対する小柴胡湯の修飾作用を病理組織学的に検討した結果、ヒトの臨床使用量に相当する濃度の小柴胡湯の11週間投与例において、軽度ながら明らかな病変の増強作用が認められた。Interferon-αの併用は、病変部位に一致して強いリンパ球浸潤を認めたものの、肺傷害の増強を示さなかった。
以上の結果より、小柴胡湯は弱いながらも明らかな肺傷害増強作用を示したが、より確証を得るためには免疫学的検索も含めたより系統的な研究が望まれる。昨年度の報告で間質性肺炎と肝機能障害を来たした症例を報告したが、両者同時に来すことが多く、その病因には共通のものがあると考えられる
Aristolochic acids I, IIを出発原料とし2ステップでAristolactam, Cepharanone-Aをそれぞれ合成し純度を確認した。今後、これを用いて、毒性実験等を行う予定である。
修治ブシ中のモノエステルアルカロイド量は、修治ブシの種類によって大きく異なり、その安全性、薬効に修治の方法や産地による相違があることが予想された。またこれら修治ブシを用いた漢方製剤中のモノエステルアルカロイド量についても同様に大きく異なり、また八味地黄丸にかんしてはブシの配合割合を含むその製造法の違いによるところも大きい。
そこで、修治ブシおよびブシ含有漢方製剤にはジエステルアルカロイドの残存量の定量、及び特にモノエステルアルカロイドを基準にした品質の評価の必要性が示唆された。
このような修治附子の種類によるモノエステルアルカロイド量の差について、その修治による違いにより検討したところ、化学的な処理により減毒されたいわゆる「加工ブシ」は従来の方法で修治されたいわゆる「炮附子」に比べ、そのモノエステルアルカロイド量が著しく大きく、その加工法について基準の必要性が示唆された。
昨年度確立した細胞モデルを用い、シイタケLentinus edodes の血清脂質低下活性物質eritadenineが肝細胞でのPEメチル化によるPC合成を阻害しVLDL産生を抑制する作用メカニズムを明らかにした。
以上の結果より、小柴胡湯は弱いながらも明らかな肺傷害増強作用を示したが、より確証を得るためには免疫学的検索も含めたより系統的な研究が望まれる。昨年度の報告で間質性肺炎と肝機能障害を来たした症例を報告したが、両者同時に来すことが多く、その病因には共通のものがあると考えられる
Aristolochic acids I, IIを出発原料とし2ステップでAristolactam, Cepharanone-Aをそれぞれ合成し純度を確認した。今後、これを用いて、毒性実験等を行う予定である。
修治ブシ中のモノエステルアルカロイド量は、修治ブシの種類によって大きく異なり、その安全性、薬効に修治の方法や産地による相違があることが予想された。またこれら修治ブシを用いた漢方製剤中のモノエステルアルカロイド量についても同様に大きく異なり、また八味地黄丸にかんしてはブシの配合割合を含むその製造法の違いによるところも大きい。
そこで、修治ブシおよびブシ含有漢方製剤にはジエステルアルカロイドの残存量の定量、及び特にモノエステルアルカロイドを基準にした品質の評価の必要性が示唆された。
このような修治附子の種類によるモノエステルアルカロイド量の差について、その修治による違いにより検討したところ、化学的な処理により減毒されたいわゆる「加工ブシ」は従来の方法で修治されたいわゆる「炮附子」に比べ、そのモノエステルアルカロイド量が著しく大きく、その加工法について基準の必要性が示唆された。
昨年度確立した細胞モデルを用い、シイタケLentinus edodes の血清脂質低下活性物質eritadenineが肝細胞でのPEメチル化によるPC合成を阻害しVLDL産生を抑制する作用メカニズムを明らかにした。
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