文献情報
文献番号
199900714A
報告書区分
総括
研究課題名
抗狭心症薬の臨床評価法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
岸田 浩(日本医科大学第1内科)
研究分担者(所属機関)
- 村山正博(聖マリアンナ医科大学第2内科)
- 齋藤宗靖(自治医科大学附属大宮医療センター循環器科)
- 川久保清(東京大学大学院医学科研究科健康科学)
- 折笠秀樹(富山医科薬科大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
厚生省循環器病委託研究班(1985年、主任研究員:加藤和三)により「抗狭心症薬の臨床評価法に関するガイドライン」が出され、これまで多くの治験がこれに準拠して判定されてきた.しかし、ガイドラインが出されてから13年経過し、狭心症の診断法及び治療法は当時とはかなり様相を異にしてきたため、現行のガイドラインを改訂する必要性が生じてきた.当時の狭心症の治療目標は、狭心症状を改善させることであったが、近年の治療目標の中心は、症状の消失のみならずその原因である冠動脈狭窄病変の治療へと進歩し、その治療法として経皮的冠動脈形成術が定着した.このような狭心症に対する医療の現状を考慮すると、現行のガイドラインの患者選択基準である、狭心症発作回数4回以上/1週間を満たし、観察期間を2週間として実薬投与なしで症例をリクルートとすることは極めて困難となっている.また、より有効な治療法が確立された中で現行の基準を使用することは倫理的にも問題がある.このような背景から、本研究では狭心症の病態及び治療法に関する最近の知見を元にした抗狭心症薬の臨床評価法を検討しガイドラインを作成する.
研究方法
国内の抗狭心症薬治験データベースの分析結果、本邦の抗狭心症薬ガイドライン、FDA(米国)新ガイドライン(Guidelines for the Clinical Evaluation of Anti-anginal Drug)、CPMP(欧州)ガイドライン(Note for Guidance on the Clinical Investigation of Anti-anginal Medical Products in Stable Angina Pectoris)およびICHガイドラインを検討し、抗狭心症薬の臨床評価法に関するガイドラインを作成した.
結果と考察
我が国における抗狭心症薬の治験結果の分析により、臨床症状に客観性が乏しい一因は、労作兼安静狭心症患者における胸痛発作の信頼性が低く、本来の冠動脈疾患由来の患者との鑑別が困難である点と判断された.従って、労作兼安静狭心症を対象から除外し、安定労作狭心症を対象とすることにした.一方、不安定狭心症については、病態や発症機序が均一でなく、単一のガイドラインで評価はできないため、本ガイドラインでは取り扱わないこととした.なお、異型狭心症は、その発症機序が冠攣縮であり、病態の均一性から胸痛発作回数やホルター心電図から評価可能であり、わが国に多い疾患であることより安定労作狭心症とは別の臨床試験を行うこととした.
労作狭心症患者の選択には運動負荷試験による判定が有用であり、この方法により客観的な薬効判定も可能である.運動負荷試験法は、国外で狭心症の評価法としてガイドラインでもっとも重視されている方法であり、安定労作狭心症を対象とし、運動負荷試験法が症例選択基準と評価方法に使用されている.我が国の治験成績分析では、自覚症状改善度と運動負荷試験改善度の評価に差がないため、臨床症状を中心とした試験方法から、運動負荷試験を中心とした試験へ変更した.また、抗狭心症薬の種類と効果判定法について、運動負荷試験改善度と自覚症状改善度の関係をを分析すると、運動負荷試験改善度はβ-遮断薬で優位、硝酸薬は自覚症状改善度が優位であり、カルシウム拮抗薬はその中間であった.しかし、これらの対象は労作謙安静狭心症が含まれており、安定労作狭心症を対象とするならば、薬剤の種類とは無関係に運動負荷試験による科学的客観性をもった判定が可能である.
安定労作狭心症に対する抗狭心症薬の薬効評価
安定労作狭心症に対する抗狭心症薬の薬効評価には、以下の選択基準を満たす安定労作狭心症患者を対象として、運動負荷試験を用い運動耐容量(最大運動時間)改善効果、抗心筋虚血効果を検討し、これらを主要評価項目として薬効評価を行う.抗狭心症薬の効果を判定するための運動負荷方法には様々な方法があるが、最も一般的なトレッドミル法を用い施行し、そのプロトコールとしては標準Bruceプロトコールを用いる.
【対象患者選択基準】
(1)安定労作狭心症の診断基準に適合する.
(2)トレッドミル運動負荷試験(標準Bruceプロトコール)において、運動開始後3~7分で典型的な中等度の胸痛(中等度の胸痛:日常生活において患者が動作を止めようとする強さ)を示し、かつ心電図に有意なST下降を示す.有意なST下降がみられない場合、脚ブロックなどによりST偏位の評価が困難な例でも、運動開始後3~7分で典型的な中等度の胸痛のために運動を終了し、かつ以下の4項目中1項目以上を満たす場合は対象とし得る.
a.冠動脈造影による有意な器質的冠動脈病変の証明.
b.心筋梗塞の既往.
c.負荷心筋シンチグラムにて再分布を認める.
d.負荷心エコー図または負荷心プールシンチグラフィーにて局所的な壁運動異常が出現する.
なお、対象群の選択に際しては、運動耐容量(最大運動時間)改善効果の他に、治験薬の抗心筋虚血効果を評価するため、運動負荷試験の指標(同一運動時間のST下降度、1mmST下降到達時間など)の評価が出来るよう考慮する.
(3)運動負荷試験における中等度胸痛の発現時間に再現性がある.試験薬剤の使用開始前の観察期に2回トレッドミル運動負荷試験を行い、中等度胸痛発現時間の差が±15%以内であることが望ましい.
試験方法としては、クロスオーバー法は日本の状況では困難が多いため、無作為化二重盲検法による用量の決定ならびに対照薬との比較試験を行う.なお、治験薬の有効性、安全性を示し、さらに試験方法の妥当性を検討するため、第II相後期試験(用量反応試験)または第III相試験(検証的試験)のいずれかにおいてプラセボを対照とした無作為化二重盲検比較試験を行う.薬効評価に際しては、従来の改善度判定やパラメーターのスコアー化による比較ではなく、運動耐容量(最大運動時間)、同一運動時間のST下降度、1mmST下降到達時間など数値による比較を用いる.安全性の評価のため、有害事象発現や身体所見、臨床検査所見を検討する.
異型狭心症を対象とする試験
異型狭心症にも有効と考えられる薬剤は、異型狭心症を対象として、安定労作狭心症とは別の臨床試験を行う.対象患者選択基準は
(1)異型狭心症の診断基準に適合する.
(2) a および b の基準を満たすものを対象とする.
a. 狭心症発作時にST上昇が確認された症例.あるいは冠攣縮誘発試験にて胸痛とともに一過性ST上昇を伴う冠攣縮が証明された症例.
b. 1日1回以上の発作が1週間以内に3日確認できた症例.薬効評価には自覚症状による自然発作回数、ホルター心電図による一過性ST上昇の回数を用いる.試験方法としては標準薬を対照として無作為化二重盲検法を用いた用量漸増デザイン、または固定用量並行群間比較デザインによる比較試験を行う.安全性の評価のため、有害事象発現や身体所見、臨床検査所見を検討する.
長期試験
長期投与試験では、治験薬の長期投与の安全性、有効性の確認が重要で、発作回数、経過中の心血管系イベントの有無、安全性などを観察項目とする.
労作狭心症患者の選択には運動負荷試験による判定が有用であり、この方法により客観的な薬効判定も可能である.運動負荷試験法は、国外で狭心症の評価法としてガイドラインでもっとも重視されている方法であり、安定労作狭心症を対象とし、運動負荷試験法が症例選択基準と評価方法に使用されている.我が国の治験成績分析では、自覚症状改善度と運動負荷試験改善度の評価に差がないため、臨床症状を中心とした試験方法から、運動負荷試験を中心とした試験へ変更した.また、抗狭心症薬の種類と効果判定法について、運動負荷試験改善度と自覚症状改善度の関係をを分析すると、運動負荷試験改善度はβ-遮断薬で優位、硝酸薬は自覚症状改善度が優位であり、カルシウム拮抗薬はその中間であった.しかし、これらの対象は労作謙安静狭心症が含まれており、安定労作狭心症を対象とするならば、薬剤の種類とは無関係に運動負荷試験による科学的客観性をもった判定が可能である.
安定労作狭心症に対する抗狭心症薬の薬効評価
安定労作狭心症に対する抗狭心症薬の薬効評価には、以下の選択基準を満たす安定労作狭心症患者を対象として、運動負荷試験を用い運動耐容量(最大運動時間)改善効果、抗心筋虚血効果を検討し、これらを主要評価項目として薬効評価を行う.抗狭心症薬の効果を判定するための運動負荷方法には様々な方法があるが、最も一般的なトレッドミル法を用い施行し、そのプロトコールとしては標準Bruceプロトコールを用いる.
【対象患者選択基準】
(1)安定労作狭心症の診断基準に適合する.
(2)トレッドミル運動負荷試験(標準Bruceプロトコール)において、運動開始後3~7分で典型的な中等度の胸痛(中等度の胸痛:日常生活において患者が動作を止めようとする強さ)を示し、かつ心電図に有意なST下降を示す.有意なST下降がみられない場合、脚ブロックなどによりST偏位の評価が困難な例でも、運動開始後3~7分で典型的な中等度の胸痛のために運動を終了し、かつ以下の4項目中1項目以上を満たす場合は対象とし得る.
a.冠動脈造影による有意な器質的冠動脈病変の証明.
b.心筋梗塞の既往.
c.負荷心筋シンチグラムにて再分布を認める.
d.負荷心エコー図または負荷心プールシンチグラフィーにて局所的な壁運動異常が出現する.
なお、対象群の選択に際しては、運動耐容量(最大運動時間)改善効果の他に、治験薬の抗心筋虚血効果を評価するため、運動負荷試験の指標(同一運動時間のST下降度、1mmST下降到達時間など)の評価が出来るよう考慮する.
(3)運動負荷試験における中等度胸痛の発現時間に再現性がある.試験薬剤の使用開始前の観察期に2回トレッドミル運動負荷試験を行い、中等度胸痛発現時間の差が±15%以内であることが望ましい.
試験方法としては、クロスオーバー法は日本の状況では困難が多いため、無作為化二重盲検法による用量の決定ならびに対照薬との比較試験を行う.なお、治験薬の有効性、安全性を示し、さらに試験方法の妥当性を検討するため、第II相後期試験(用量反応試験)または第III相試験(検証的試験)のいずれかにおいてプラセボを対照とした無作為化二重盲検比較試験を行う.薬効評価に際しては、従来の改善度判定やパラメーターのスコアー化による比較ではなく、運動耐容量(最大運動時間)、同一運動時間のST下降度、1mmST下降到達時間など数値による比較を用いる.安全性の評価のため、有害事象発現や身体所見、臨床検査所見を検討する.
異型狭心症を対象とする試験
異型狭心症にも有効と考えられる薬剤は、異型狭心症を対象として、安定労作狭心症とは別の臨床試験を行う.対象患者選択基準は
(1)異型狭心症の診断基準に適合する.
(2) a および b の基準を満たすものを対象とする.
a. 狭心症発作時にST上昇が確認された症例.あるいは冠攣縮誘発試験にて胸痛とともに一過性ST上昇を伴う冠攣縮が証明された症例.
b. 1日1回以上の発作が1週間以内に3日確認できた症例.薬効評価には自覚症状による自然発作回数、ホルター心電図による一過性ST上昇の回数を用いる.試験方法としては標準薬を対照として無作為化二重盲検法を用いた用量漸増デザイン、または固定用量並行群間比較デザインによる比較試験を行う.安全性の評価のため、有害事象発現や身体所見、臨床検査所見を検討する.
長期試験
長期投与試験では、治験薬の長期投与の安全性、有効性の確認が重要で、発作回数、経過中の心血管系イベントの有無、安全性などを観察項目とする.
結論
1)安定労作狭心症を対象とすることにし、不安定狭心症については、単一のガイドラインで評価はできないため、本ガイドラインでは取り扱わないこととした.
2)異型狭心症は、発症機序が冠攣縮であり、病態の均一性から胸痛発作回数やホルター心電図から評価可能であり、我が国に多い疾患であることより安定労作狭心症とは別の臨床試験を行う.
3)安定労作狭心症に対する抗狭心症薬の薬効評価には、運動負荷試験を用い運動耐容量(最大運動時間)改善効果、抗心筋虚血効果を検討し、これらを主要評価項目として薬効評価を行う.抗狭心症薬の効果を判定するための運動負荷方法にはトレッドミル法を用い施行し、そのプロトコールとしては標準Bruceプロトコールを用いる.
4)異型狭心症にも有効と考えられる薬剤は、異型狭心症を対象として、安定労作狭心症とは別の臨床試験を行う.薬効評価には自覚症状による自然発作回数、ホルター心電図による一過性ST上昇の回数を用いる.
5)現行のガイドラインの改訂により抗狭心症薬の臨床評価法の倫理性、科学性、信頼性はさらに向上し、医薬品の安全性、国民の保健医療の向上に寄与するものと考えられる.
2)異型狭心症は、発症機序が冠攣縮であり、病態の均一性から胸痛発作回数やホルター心電図から評価可能であり、我が国に多い疾患であることより安定労作狭心症とは別の臨床試験を行う.
3)安定労作狭心症に対する抗狭心症薬の薬効評価には、運動負荷試験を用い運動耐容量(最大運動時間)改善効果、抗心筋虚血効果を検討し、これらを主要評価項目として薬効評価を行う.抗狭心症薬の効果を判定するための運動負荷方法にはトレッドミル法を用い施行し、そのプロトコールとしては標準Bruceプロトコールを用いる.
4)異型狭心症にも有効と考えられる薬剤は、異型狭心症を対象として、安定労作狭心症とは別の臨床試験を行う.薬効評価には自覚症状による自然発作回数、ホルター心電図による一過性ST上昇の回数を用いる.
5)現行のガイドラインの改訂により抗狭心症薬の臨床評価法の倫理性、科学性、信頼性はさらに向上し、医薬品の安全性、国民の保健医療の向上に寄与するものと考えられる.
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