輸入食品媒介感染症に対する研究

文献情報

文献番号
199900713A
報告書区分
総括
研究課題名
輸入食品媒介感染症に対する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
小竹 久平(関西空港検疫所)
研究分担者(所属機関)
  • 小竹 久平(関西空港検疫所)
  • 岩崎恵美子(仙台検疫所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食品分野において我が国においては、1996年にO-157が食品由来感染症として猛威を奮ったことは記憶に新しい。新たなる食品を取り巻く感染症の猛威は、大規模な食品輸入を背景に、我が国における増大する輸入食品においても外来感染症の増加とその多様化が懸念され、また感染経路が未確定あるいは外にも存在可能なウイルス性出血熱等の感染症を媒介可能な、食品とともに輸入される衛生害虫に対する検疫体制にも抜本的な対応を含む問題を提起している。海外においても限られた地域の存在する新感染症予防法や検疫法に規定されているウイルス性出血熱等の媒介能を有する食品及び衛生害虫に関する調査研究として、生鮮魚介類、乳肉及び野菜・果実等の食品媒介感染症やこれらに伴う衛生害虫、そして海外におけるこれらの調査の現状について調査を行い、これらの調査研究に基づく食品検疫対応の検討を行い、実際の業務に反映させるための指針策定を行う。
研究方法
◎食品媒介感染症に関する報告1)食品に付着して輸入される病原ダニ類の予備的調査・1998年12月から2000年1月までの期間に国外から関西国際空に到着した貨物コンテナを対象に、原則として月2回コンテナ内の塵埃等を小型掃除機を用いて収集し、その塵埃を5mmと3mmの節にかけ、全て実体顕微鏡下で観察した。・関西国際空港の国際線貨物上屋内植物貨物置場内において、2000
年1月から同年3月まで原則として月2回(1月は1回)植物貨物周辺4カ所にダニ類を誘引し捕獲を目的とし、炭酸ガストラップを設置した。トラップからダニ類の採集はTullgren装置を用いた。・1999年4月から2000年2月までに海路あるいは空路で輸入された植物系食品のうち入手が可能なものについての検体を5mmと3mmの節にかけ、節上に残った検体を肉眼で検査後Tullgren装置を用い、節を通り抜けたものは実体顕微鏡を用いて検査した。2)輸入生鮮魚介類のコレラ汚染に関する研究・平成2年(1990年)から平成10年(1998年)までの検疫所業務年報に記載された日本における検疫所伝染病の病原体発見例から、輸入コレラ患者と感染経路不明コレラ患者との関係を明らかにし、感染経路不明コレラ患者の感染経路を推定した。・1994年1月から11月まで那覇空港検疫支所において実施した輸入生鮮魚介類コレラ菌検査のデータ及び1993年5月から1994年8月までの台湾で実施された輸入生鮮海産物コレラ菌検査の結果等の資料を基に、1994年7月と同年9月に発生したフィリピン産冷蔵魚からのコレラ菌検出事例について、フィリピンでの汚染原因を推察し、加えて沖縄県で1994年7月に連続して発生した感染経路不明コレラ患者に関する沖縄県環境保健部の資料や当時の新聞等、さらには当時フィリピンにおけるコレラ患者発生状況をWHOの資料を基に集計し、輸入生鮮魚介類が地域に与える影響等について考察した。・1994年4月から1996年12月まで神戸検疫所において実施した輸入生鮮魚介類コレラ菌検査の内、1992年を除くインド産冷凍エビのコレラ菌検査のデータを基に、1995年1月と同年10月にインド産冷凍エビからコレラ菌が検出された事例について、インドでの汚染原因を推察し、加えて1988年12月に実施したインドにおける生鮮魚介類コレラ菌検査の実状調査を踏まえて、インドにおけるエビ養殖の生産環境を明らかにした。3)輸入生鮮魚介類由来腸炎ビブリオの毒素遺伝子保有状況について平成11年1月から12月の間にコレラが流行する地域を国内にもつ国から関西国際空港に輸入された魚介類のコレラ菌検査の過程でTCBS寒天平板に発育した腸炎ビブリオ様集落について1検体当たり5様を目標に釣菌し、TSI、LIM培地に接種するとともにオキシダーゼ試験を行い、定法により腸炎ビブリオと一致するものをPCRにより、腸炎ビブリオ特異的toxR遺伝子検出を行った。同遺伝子陽性の株については更にPCRによりtdh遺伝子及びtrh遺伝子の検出を行った。◎諸外国における食品媒介感染症に対する調査研究米国で1996年より始まったFoodNetで得られている食品媒介感染症の実情の把握及びFoodNetシステムの調査を行った。米国では1998年にFoodNetが行った食品媒介感染症の動向調査では、キャンピロバクター、クリプトスポリジウム、サルモネラによる感染者は減少しているが、ビブリオ病原生大腸菌O-157感染者が増加していることがわかっており、これに基づく原因食品の調査等食品監視体制への積極的関与を行っている。
結果と考察
◎食品媒介感染症に関する調査研究クリミヤ・コンゴ出血熱等を媒介するダニ類が、輸入食品を介して我が国に持ち込まれる可能性や、現状の把握を目的として航空機コンテナ、国際線貨物上屋内植物貨物置場、植物系輸入食品について病原ダニ類の調査を行った。その結果、今回の調査ではいずれからも病原ダニは発見されなかったが、航空機コンテナ及び植物系輸入食品からはササラダニ類が発見された。このことは病原ダニが輸入食品に付着して国内に持ち込まれる可能性があることを示唆している。しかし、今回の調査は調査期間の問題、調査コンテナ数等から予備調査にとどっまているため今後更に本格的調査が必要である。我が国の感染経路不明コレラ患者と輸入生鮮魚介類との関係及び生鮮魚介類がコレラ汚染を引き起こす背景を明らかにするため、過去(平成2年~平成10年)の感染経路不明コレラ患者及び輸入コレラ患者の発生状況を調査し、感染経路不明コレラ患者の感染経路を推定したところ一部を除き、輸入生鮮魚介類によることが推定された。又1994年のフィリピン産輸入冷蔵魚及び1995年のインド産輸
入冷凍エビからコレラ菌検出例を基に感染経路不明コレラ患者とコレラ汚染輸入魚介類との関係を調査し、その関連性が推定された。コレラ流行地域の特にデルタ地帯で生産された生鮮魚介類の検体採取率を5割以上に引き上げたり、コレラ菌が検出された場合は当分の間検体採取率を10割に引き上げるなどの措置が望まれる。平成11年1月から12月の間にコレラ流行地域から関西空港に輸入された魚介類のコレラ菌検査の過程で分離された腸炎ビブリオから、PCR法により7検体から腸炎ビブリオの毒素遺伝子(trh及びtdh)を検出した。今後より効率的に検出するために培養液からPCRにより検出する方法を検討する必要がある。◎諸外国における食品媒介感染症に対する調査研究米国のFoodNetを使った食品媒介感染症の動向調査を行い、米国の実態を知りFoodNetによるこれらの動向調査のシステムについて検討を加えた。その結果米国においては、CDCが行っている感染症動向調査と提携しつつ独自の調査システムを作り、それによりFDA、USDAと連携を取りつつ病原体の制御プログラムやHACCPのルールに影響するシステムを構築し、食品媒介感染症の発生防止、拡大防止を目指していることがわかった。我が国において食品媒介感染症の動向調査と感染症対策と、そして食品安全監視体制の一元化による健康危機管理システムが必要と思われる。
結論
今日の食品に付着して輸入される病原ダニの調査、輸入生鮮魚介類のコレラ汚染の研究、輸入魚介類由来の腸炎ビブリオの毒素遺伝子の保有状況についての研究、さらに諸外国における食品媒介感染症に対する調査研究で、今後の輸入食品媒介感染症対策に有用な知見を得た。

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