医療廃棄物の減量及びリサイクルに係る環境負荷に関する研究

文献情報

文献番号
199900709A
報告書区分
総括
研究課題名
医療廃棄物の減量及びリサイクルに係る環境負荷に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
辻 吉隆(国立医療・病院管理研究所施設計画研究部地域医療施設計画研究室長)
研究分担者(所属機関)
  • 小林信一(国立小児病院感染リュウマチ科医員)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
3,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、廃棄物処理法の改正等に伴い、多くの医療施設では施設内での小型焼却炉による処理を取りやめて外部委託処理に切り替え、環境負荷の低減に努力してきているところである。しかし、委託処理業者側においても、医療廃棄物の中間処理方法としては小型焼却炉による焼却処理によるところが多く、医療施設内での焼却処理を単に後送りにしているに過ぎない面がある。また、医療機関から排出される廃棄物には感染性と非感染性の廃棄物があるが、特に感染性廃棄物には血液のついた紙・布類の一般廃棄物だけでなく、ゴム手袋や注射器、透析用のチューブ等のプラスチック類が多く含まれている。感染性廃棄物は、そのものが持つ感染性の影響と同時に焼却処理時に排出されるダイオキシン類や環境ホルモン、排熱、二酸化炭素等が環境に与える影響が大きい。そこで、新たに環境負荷の少ない医療廃棄物の処理システムの開発および、医療現場から排出される廃棄物自体の「減量化」や「リサイクル」のシステムの確立が求められている。また同時に「減量化」の反面引き起こされる感染リスクや、「リサイクル」システムを導入する際にリサイクル自体が抱える環境負荷の問題を総合的に検討・評価する必要がある。このことから当研究においては、医療現場においての医療廃棄物の「減量化」や「リサイクル」を推進する上での問題点やリスク等について環境負荷の面から検討・評価をおこなうことを目的とする。
研究方法
研究方法は学識経験者、病院関係者、処理設備開発者等からなる研究会を設け、アンケート調査、実施調査などから現状の正確な把握を基礎に検討を重ねた。
結果と考察
病院から排出される廃棄物の処理において環境に与える負荷の側面から検討し、環境負荷低減項目の抽出を行った。デスポ類の減量化について、薬事工業生産動態統計年報により、デスポ類の生産量からダイオキシン類の発生源となるPVCの含有量の検討を行った。これによると、感染性廃棄物として排出されるデスポ製品の消費量は増加の一途をたどっており、同時に焼却処理されるPVCの量も増えていることが分かった。中でも輸液用器具やチューブ類はこの10年で国内消費向け生産量が2倍近く伸びていることが分かった。医療の近代化や高度化によりディスポ類の消費量は増加の一途であるが、感染防止管理の基準の徹底をはかることにより、ある程度の減量は期待できるであろう。また、全国の病院 9,339病院に対して医療廃棄物の処理状況についてアンケートを行った。その結果 2,911病院より回答があった。その内、焼却炉を用いて院内処理をしている施設が 390病院(13.4%)があることが分かった。またこの内、感染性廃棄物を焼却炉を用いて処理しているのは 108施設(3.7%)に過ぎない。なお、これらの施設においても、近い将来焼却炉の使用を中止したいとする回答が多かった。焼却炉に代わる処理としてのシステムの利用状況は以下のとおりである。①感染性廃棄物を焼却以外の方法で院内処理している病院はわずか21病院しかなかった。内容としてはオートクレーブ(15施設)、乾熱滅菌破砕機(4施設)、炭化処理装置(2施設)などの装置による処理方式である。オートクレーブによる処理はそのほとんどが検査科等で排出される感染性廃棄物の一部を処理することが主で、病棟等から排出される感染性廃棄物を処理している施設はわずか3施設に過ぎない。②厨芥類は、例えば500床の病院の場合であれば、1日当り約450kg/日あり、排出量は処理可能廃棄物の総量の約1/3をも占めている。厨芥類のコンポスト化は医療廃棄物の総排出量を抑える上で大きな効
果が期待できる。しかし、アンケート結果によると、厨芥類の院内処理を行っている施設はわずか52病院(1.8%)にすぎない(その内、コンポスト処理をしている病院は38病院。)。厨芥類を自己処理している施設はまだまだ少ないのが現状である。③また、紙おむつに関しては回答病院の約95%以上が紙おむつを使用していることが分かった。紙おむつの使用についても、布おむつ等への切り替えをすることによりダイオキシン類の発生を少なくし、環境負荷を低減することができると考えられる。
結論
近年、廃棄物処理法の改正等に伴い、焼却炉による院内処理を行う病院の数が減少している。この動向を期に、各医療施設にあっては、医療廃棄物の減量化を検討すると共に、焼却処理に代わる医療廃棄物の処理システムとして、環境負荷の少ない廃棄物処理システムの導入の検討が緊急課題となっている。①感染性廃棄物については、適切な感染防止管理基準をもとに感染性廃棄物の分別を行うことにより、減量化が期待できる。また、処理システムについては炭化装置や乾熱滅菌破砕装置の普及が期待される。病院だけの領域に限って検討をしている限り、その量や処理施設配置の点から限界があるが、炭化処理装置等が病院以外の施設でも広く普及を始めていることに着目し、炭化処理された廃棄物の量と流通経路の確保をすることにより、サーマルリサイクルの道をひらくことができる可能性が出てきている。②感染性のリネン類や器材の消毒について、熱水処理による処理システムが環境負荷の面から期待されてきている。リネン類については、熱水による洗濯処理(80?10分)の消毒効果が認められてきており、この機能をもつ洗濯機や熱水に耐えるリネン類の普及が望まれる。医療機材類の消毒においても、熱水による消毒装置であるウォッシャーデスインフェクターやフラッシュディスインフェクター等の開発と高度化により、その消毒効果の有効性が認められるようになってきており、環境負荷の少ない処理装置として注目をされてきている。③紙おむつと布おむつの環境負荷の比較については、生産から最終処理に至る多くのパラメーター上の検討を必要とする。④厨芥類の処理方法としては、大別して自治体焼却処理方式、分解消滅方式、液化処理方式、コンポスト方式の4つの方法が考えられる。現状ではほとんどの施設において、自治体や外部委託による焼却処理が行われているが、ダイオキシン類削減上の課題や処理及び体積場所の環境確保等の問題を抱えている。分解消滅方式は、処理機器に厨芥を投入し、微生物による働きにより、厨芥類を水と炭酸ガスに完全に分解する装置であるが、臭いや取り扱いの上で課題が残されている。また、液化処理方式は、専用の浄化槽において微生物の働きにより厨芥類を液化・浄化し、下水道に放流する方式であるが、平成10年に建設省と東京都により認可され、普及の見通しがついた。ディスポーザーの利用が可能となるため、生ごみの搬出や堆積が不要となり、厨房内やごみ集積場の清潔環境を保つことができる。コンポスト方式は、これまでにも多くのコンポスト方式の処理機器が作られてきているが、その多くは廃棄処理を目的に作られており、肥料の品質が一定しないので本格的な農業への利用に問題が残されていた。近年本来の肥料作りを目的としたコンポスト機器が開発されてきており、肥料の流通への目処が立つようになってきている。このように医療廃棄物の処理に際しては、近年の技術や理論の動向を踏まえ、環境に配慮した減量化やリサイクルの方法を選定していかなくてはならない。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)