病院付設焼却炉の機能評価と運転管理技術の高度化に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900706A
報告書区分
総括
研究課題名
病院付設焼却炉の機能評価と運転管理技術の高度化に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
池口 孝(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 勝(国立公衆衛生院)
  • 辻 吉隆(国立医療・病院管理研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
病院における医療廃棄物の処理、特に院内焼却処理の実態を調査すると共に、小型焼却炉におけるダイオキシン類及び多環芳香族炭化水素類等の微量化学物質の排出実態及び排出特性を明らかにし、病院付設焼却炉等小型焼却炉の適正な運転・管理技術を提案することを目的とする。
研究方法
(1)全国の病院での医療廃棄物処理の実態等を把握するために、アンケート調査を2回行った。第1回目は、医療廃棄物の処理方法、院内焼却施設数及び将来計画に関して我が国の病院の全体像を明らかにするために行ったもので、ベッド数20床以上の病院9,339件を調査対象とした。第2回目は、第1回目の調査結果に基づき、焼却炉を稼働している病院及び第1回目の調査で回答率の低かったベッド数1,000床以上の病院(但し、国立病院は除外)、合計593病院を対象に、院内焼却炉の技術的仕様や運転管理状況等の実態を把握するために行った調査である。(2)医療廃棄物の処理、特に焼却処理について、法制度や技術的側面等を中心に欧米諸国との比較・検討を行うために、ドイツ、デンマーク、フランス、英国の状況についての資料収集と現地調査を行った。(3)病院付設焼却炉4カ所、自治体焼却炉2カ所で、排出物質(排ガス、飛灰、焼却灰、洗煙排水)について、特に、ダイオキシン類、多環芳香族炭化水素類や重金属類等の微量汚染物質に着目した測定を行い、小型焼却炉の燃焼生成物の排出特性を検討した。
結果と考察
(1)多くの病院では廃棄物の処理を外部に依存しているが、有効回答2,933件中638件の病院では、何らかの廃棄物を院内処理している。特に、感染性廃棄物、注射針・アンプル類の外部処理率が高い。院内処理を行っている病院638件中、焼却処理を採用している病院が殆どで、焼却炉数は566基である。院内焼却される廃棄物としては、伝票・書類、一般可燃物が多い。これらの焼却炉の約90%は処理能力が200kg/h以下で、処理能力50kg/h以上の焼却炉が54%を占めている。焼却炉の形式は床燃焼方式(固定床、回転炉床、ロータリーキルン)と火格子燃焼方式が殆どである。約半数の施設で二次燃焼室及び助燃装置が設置されている。43%の焼却炉には集塵装置が設置されており、その約80%はサイクロンである。塩化水素、硫黄酸化物、窒素酸化物除去設備を設置しているのは10%程度であり、ダイオキシン対策は、高温燃焼(800~1,000℃)や、「速やかな立ち上げ」や「立ち下げ時の燃しきり」等の燃焼制御で対応している例が多い。排ガスの定期モニタリング(SOx、NOx、HCl、ばいじん)を行っている施設は20%程度である。燃焼管理のための温度計測は全体の約半数の施設で行っており、その約80%は自動制御方式であり、炉の設備として当初から組み込まれていたものである。ばいじんや焼却灰の処理・処分は約半数の施設では外部委託であるが、自治体処理や院内処理も10~20%あった。焼却炉の運転マニュアルを整備している施設が41%、外部委託を含め、炉の専任運転員がいる施設が48%、これまで、炉の清掃、点検を行ったことのない施設が、それぞれ26%、35%と、焼却炉あるいは焼却処理に対する病院の管理・意識レベルは必ずしも高くはない。今回の調査結果が、全病院(9,339病院)にまで適用できると仮定すると、今後とも約1,000の病院で焼却炉が使われるものと推測される。(2)ダイオキシン規制が厳しくなってから、EUにおいては、医療廃棄物、特に感染性廃棄物については、院外での集中処理の方向を指向する国が多い。外部集中処理としては、感染性廃棄物あるいは有害廃棄物専焼炉で焼却する場合と都市ごみ焼却炉で混焼する場合の二つが一般的である。デンマ
ークやフランスでは感染性廃棄物と都市ごみの混焼のための技術的な指針が整備されてる。設備の整った都市ごみ焼却施設では、感染性廃棄物の取り扱いに留意しさえすれば、技術的には問題なく感染性廃棄物が処理できるものと考えられ、我が国においても、このようなシステムの導入が検討されても良いと思われる。一方、院内焼却もフランスや英国等に事例があるように皆無ではない。この場合、排ガス等に対して厳しい規制が課せられる他、院内での感染性廃棄物の適正な管理が要求される。また、滅菌処理すれば感染性廃棄物は一般の廃棄物と同等に扱うことができるとする国も多いことから、焼却炉以外の処理装置を院内に設置し、感染性廃棄物を一次処理する動きも見られる。(3)一般に、小型焼却炉では、ごみの投入時に一酸化炭素がピーク状の濃度上昇を示す。一酸化炭素のピークが多数記録された一括投入方式の病院焼却炉では、排ガス中の総ダイオキシン濃度は9.8ng-TEQ/Nm3と低くかった。また、ピーク値が低いものの、一酸化炭素が100~200ppmの間を小刻みに変動していた病院焼却炉(火格子方式、二次燃焼室有り)の総ダイオキシン濃度が100ng-TEQ/Nm3で、今回測定中の最大値を示した。一方、一酸化炭素の平均値が最大となった焼却炉(火格子方式都市ごみ焼却炉)の総ダイオキシン濃度は3.2ng-TEQ/Nm3と、今回の測定中最低値であった。多環芳香族炭化水素類は、病院付設焼却炉よりも都市ごみ焼却炉での検出率が高かった。ナフタレン、ベンゾ(a)ピレン、ジベンゾフルオラテン、ベンゾアントラセン、ピレンは准連続式都市ごみ焼却炉での測定例に比較しても平均的に高濃度であった。高温二次燃焼を行っている病院焼却炉及び一括投入方式の病院焼却炉では多環芳香族炭化水素類は低濃度であった。既設炉に適用されるダイオキシン類の排出基準値80ng-TEQ/Nm3を越えた焼却炉が1カ所あったが、この施設での塩化水素濃度は他と比較しても必ずしも高くはなかった。今回の測定ではダイオキシン類と塩化水素との相関はほとんどなく、クロロベンゼン、クロロフェノールとの相関は高かった(相関係数は前者で0.67、後者で0.82)。アルデヒド類は全連続式都市ごみ焼却炉での検出例よりも高濃度で、小型焼却炉の特徴である。フッ化水素、臭化水素も一部の焼却炉で検出されたが、そのレベルはフッ化水素では全連続式都市ごみ焼却炉での検出例と同レベル、臭化水素はそれらよりも高いレベルであった。亜酸化窒素は全ての焼却炉で検出されたが、濃度は一般に低かった。全ての焼却炉排ガス中に検出された金属類は、カドミウム、亜鉛、銅で、アンチモン、バリウムは5カ所、すずは4カ所、マンガン、ひ素、総水銀は3カ所で検出された。これらの金属類の濃度は全連続式あるいは准連続式都市ごみ焼却炉での測定例に比較すると一般に低くかったが、アンチモンだけは同レベルで、病院焼却炉でよりも都市ごみ焼却炉での方が高濃度であった。飛灰中のダイオキシン類は、病院焼却炉のサイクロン灰では全連続式及び准連続式都市ごみ焼却炉の場合(バグ灰)よりも高濃度で、都市ごみ焼却炉のサイクロン灰では低濃度であった。焼却灰中のダイオキシン類濃度は飛灰中の値の10分の1から100分の1で、飛灰の場合と同様、都市ごみ焼却炉焼却灰よりも病院焼却炉焼却灰で高濃度を示した。洗煙排水の原液中のダイオキシン類濃度は、ろ液中よりもはるかに高濃度で、ろ液中にも数pg/Lから数10pg/Lのダイオキシン類を含んでいた。
結論
医療廃棄物の外部委託処理が進む中で、院内焼却処理は、件数としては全病院の1割程度と少ないものの、今後とも続けられるものと推測された。一般に、病院付設の焼却炉は施設規模が小さく、従来より公害対策や焼却炉の管理は必ずしも十分には行われてこなかったが、ダイオキシン規制を契機に、その管理や環境対策の改善・高度化が望まれている。本研究では、病院付設の焼却炉以外の小型焼却炉も視野に入れ、小型焼却炉の運転管理の高度化をめざし、特に燃焼生成物(排ガス、焼却灰、飛灰、洗煙排水)中に含まれる微量汚染物質の挙動調査を行った。これらの化学物質の中には燃焼
反応によって生成・合成されるものもあるが、廃棄物由来のものも少なくない。また、燃焼反応由来のものであるならば、その濃度や、ガス-焼却灰-飛灰間の分配率等も焼却炉の燃焼特性に大きく依存することになり、大型焼却炉の場合と異なる特性を示すことになる。小型焼却炉の運転・管理の高度化技術を提案するためには、ダイオキシン類等の微量汚染物質の排出挙動をより詳細に検討する必要があり、次年度では病院焼却炉で廃棄物の種類や燃焼温度をコントロールすることによって、汚染物質の排出挙動を検討する計画である。また、今後の我が国における医療廃棄物処理のあり方を提案するためには、海外の動向も勘案する必要がある。次年度には米国での医療系廃棄物の処理、特に焼却処理についての実態調査を行う予定である。

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