トリガータイプの家庭用エアゾル製品に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900700A
報告書区分
総括
研究課題名
トリガータイプの家庭用エアゾル製品に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
鹿庭 正昭(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 山下 衛(筑波大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
呼吸困難、咳等を主体とする呼吸器系症状を呈する、防水スプレーによる中毒事故について、平成5、7、8及び9年度の厚生科学特別研究により、①一連の中毒症状は、撥水剤として配合された樹脂成分が肺胞部まで送り込まれた結果生じたものであること、②噴霧粒子径が小さく、粒子径10μm以下の粒子存在率が大きく、付着率が低いことが中毒症状の発現のための重要な因子となっていた、ことが確認された。
従来、家庭用エアゾル製品としては、加圧ガスを使用するスプレータイプの製品が主流として使用されてきた。しかし、1992年暮れ以降の防水スプレーによる中毒事故の予防対策として、また地球温暖化やオゾン層破壊の防止策の一つとして、有機揮発性化合物(VOC)である加圧ガス(噴射剤)を使用せず、ハンドポンプを用いるトリガータイプの家庭用エアゾル製品の使用が、次第に増加してきているといわれている。
ところが、トリガータイプの家庭用エアゾル製品中に、どのような化学物質が配合成分として使用されているか、ほとんど明らかにされていない。また、トリガータイプの家庭用エアゾル製品について、スプレー製品と同様に、中毒事故等の健康被害が発生する可能性があるのかについても検討されていない。
そこで、トリガータイプの家庭用エアゾル製品について、市販製品における配合成分の使用実態及び安全性評価の現状を明らかにするとともに、噴霧粒子径、粒子径10μm以下の粒子存在率の測定及び動物を用いたスプレー使用実験等により呼吸器障害性の評価を実施し、トリガータイプの家庭用エアゾル製品の安全性確保を図るための資料を得ることをめざした。
研究方法
①トリガータイプの家庭用エアゾル製品について、市販製品の表示内容の調査、メーカーへの問い合せ等による製品(配合成分)の安全性データシート(MSDS)等の安全性情報の調査を行った:②市販製品について、光学的測定法による噴霧粒子の粒子径測定を実施した:③防水スプレーの肺障害性評価のために確立したマウスを用いたスプレー使用実験を山下らの方法に準じて行った。
結果と考察
トリガータイプの家庭用エアゾル製品の製品(配合成分)情報として、動物を用いたスプレー使用実験(吸入毒性試験)に試験検体として使用したトリガータイプの市販製品10点について、製品ラベルに記載された成分表示等の内容を調査した。その結果、主要な配合成分は界面活性剤、溶剤、香料であった。界面活性剤では3点にポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルアミンオキシド、溶剤では1点にパラフィン系溶剤、その他では2点に次亜塩素酸ナトリウム、水酸化ナトリウムと記載されていただけであった。界面活性剤、溶剤、香料いずれも化学名が具体的に記載されている製品は少なく、製品の成分表示が消費者への製品(配合成分)情報として十分であるとはいえない実態が確認された。
一方、(財)日本中毒情報センター監修:「石けん,洗剤,洗浄剤,仕上げ剤等 誤飲・誤用の応急処置 1993年改訂版」(日本石鹸洗剤工業会刊行、1993年)を参照しながら、住宅・家具用、酸・アルカリ洗浄剤、糊剤・仕上げ剤としてトリガータイプの製品が市販されている家庭用洗剤・洗浄剤をリストアップし、成分についての記載内容を調査した。その結果、市販製品のラベルの表示内容と比較して、界面活性剤の化学名が具体的に記載された場合が多かった。その内容が製品ラベルの成分表示に生かされていない現実が確認できた。
さらに、国内主要メーカー7社への問い合せを実施し、リストアップしたトリガータイプの製品について、製品のパンフレット、製品及び配合成分に関する安全性データシート(MSDS)及び詳細な毒性データ等とともに、配合成分のサンプルの提供を依頼した。その結果、7社すべてからMSDS等の情報提供を受けたが、配合成分、特に界面活性剤のサンプル提供は、企業秘密を理由にメーカーから拒否されたため、配合成分の物理化学的性質等の検討は実施できなかった。MSDSの内容について、7社中2社しか、主要な配合成分である界面活性剤、溶剤、香料等について具体的に化学名を記載していなかった。有害性(毒性)情報についても、皮膚・粘膜への刺激性データは記載されていたが、皮膚感作性、吸入毒性、神経機能障害性についてほとんどデータは記載されていなかった。なお、MSDSに記載されていた界面活性剤について、MEDLINE、TOXLINE等のデータベース検索を行ったが、有用な毒性情報は得られなかった。以上のように、主要な配合成分である界面活性剤、溶剤、香料等についての有害性(毒性)情報は、ほとんど公開させておらず、製品(配合成分)の安全性が消費者には理解できる状況にはないことが確認できた。
動物を用いたスプレー使用実験(吸入毒性試験)に試験検体として使用したトリガータイプの市販製品を含めた15点について、光学的測定法により噴霧粒子径及び粒子径10μm以下の粒子存在率を測定した。防水スプレーによる呼吸器障害を伴う中毒事故の防止策として、噴霧粒子径を大きくして付着性を高めること、粒子径10μm以下の粒子存在率を低くして呼吸器系を通じた体内への取り込みを抑制することが挙げられている。測定結果では、噴霧粒子径は67.9~268μmで、15点中9点で100μmを超えていた。また、粒子径10μm以下の粒子存在率は、最高値が0.8%、9点がゼロであった。したがって、トリガータイプの家庭用エアゾル製品は、中毒事故の防止条件をほぼ満足しており、中毒事故発生の可能性は低いものと考えられた。
防水スプレーの肺障害性を評価するために確立された、「動物を用いたスプレー使用実験法(吸入毒性試験法)」を用いて、トリガータイプの家庭用エアゾル製品10点について、肺障害等の呼吸器障害を発生するかどうかについて、その発生頻度、症状の程度等を配合成分等と関連づけながら、製品の呼吸器障害性を相対評価した。
トリガータイプの家庭用エアゾル製品10点は、樹脂配合系(5点)、界面活性剤系(3点)、塩素系(2点)であった。トリガータイプのスプレーを吸入させたマウス肺の肉眼的観察、顕微鏡的検討(組織病変評価)の結果を数値化した。その結果、トリガータイプの家庭用エアゾル製品10点いずれも、吸入マウスへの肺障害性は低いことが確認できた。しかし、顕微鏡的検討(組織病変評価)において、樹脂配合系の3点に胞隔細胞浸潤、無気肺化の組織病変がマウス肺に有意に観察された点、界面活性剤系の2点、塩素系の2点では気管支粘膜変性が有意に観察された点は、今後さらに検討を要する。
結論
トリガータイプの家庭用エアゾル製品の表示、MSDS等を調査した結果から、特に製品(配合成分)による呼吸器障害性、皮膚感作性等について十分に評価されているかどうか公表されていない現状が明らかになった。また、トリガータイプの家庭用エアゾル製品において、弱いながら、肺あるいは気管支粘膜への障害性が確認された。したがって、メーカーにおいては、製品(配合成分)の安全性評価を進めるとともに、その成果を製品の表示、MSDS等を通じて消費者へ情報公開を十分に行い、事故等の健康被害被害の発生防止に一層配慮することが要望される。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-