化学物質の活性酸素毒性の定量的評価手法に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900698A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質の活性酸素毒性の定量的評価手法に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
宮田 直樹(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 長野哲雄(東京大学大学院薬学系研究科)
  • 阿部芳廣(共立薬科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
化学物質が、どのような条件でどのような活性酸素種をどれだけ発生するかを、最新の分析手法を用いて定量的に評価する手法を確立し、毒性評価のための科学的指標を得ることを目的とする。活性酸素種の健康影響は、発ガン、老化、アレルギー、痴呆など多方面で問題となっている。また、近年新たな活性酸素種として、一酸化窒素、ナイトリックパーオキシドなど含窒素活性酸素種の生体作用も明らかになってきた。このような状況下、生活環境中に存在する化学物質の健康影響を活性酸素毒性の観点から解析する研究は、すでに多くなされている。しかし、従来の研究で欠落しているのは、活性酸素毒性の定量的評価であり、この原因の一つは、活性酸素発生量の正確な測定が困難であることに起因している。たとえば、最も活性の高い活性酸素種の一つであるヒドロキシルラジカルについて、化学物質からどれだけの量のヒドロキシルラジカルが発生するかについてデータが不十分であり、健康影響を正確に評価することが難しい。生活環境中に存在する化学物質について、活性酸素の生成を定量的に評価する手法を確立することは、化学物質の健康影響を科学的根拠に基づいて評価するために、厚生科学研究分野で現在最も必要とされている研究課題である。本研究を遂行することにより、生活環境中に存在する化学物質の健康影響を活性酸素毒性の観点から評価するための科学的指標が得られる。
研究方法
化学物質から発生する活性酸素種を定量的に評価する新手法を開発することを目的として、活性酸素種の新しい定量分析法の確立、化学物質から発生する活性酸素種の解析と定量、さらに、活性酸素毒性の定量的評価のための研究を行った。(1)活性酸素種ヒドロキシルラジカルの定量分析法として、従来のスピントラップ-EPR法の欠点を補う方法を開発することを目的として、ヒドロキシルラジカルを蛍光性誘導体に導いてHPLC法で検出する方法の検討を行った。(2)活性酸素種スーパーオキシドの定量分析法の確立を目的として、安定スピントラップ剤(5,5-ジメチル-1-ピロリン N-オキシド(DMPO)および 5-ジエトキシホスホリル-5-メチル-1-ピロリンN-オキシド(DEPMPO))を利用したEPR法の検討を行った。(3)一重項酸素の特異的定量分析法の開発として、一重項酸素を特異的に検出し、定量することを可能にする蛍光性プローブの設計を行った。(4)新しい定量分析法を利用した含窒素活性酸素種の定量として、一酸化窒素をバイオイメージングとして捉える生細胞蛍光プローブDAF-FM DAの開発を検討した。(5)化学物質から発生する活性酸素種の解析と定量として、活性酸素種を発生する化学物質としてC60フラーレンを選び研究を行った。
結果と考察
(1)活性酸素種ヒドロキシルラジカルの定量分析法:ヒドロキシルラジカルを安定な蛍光性誘導体に導くには、ヒドロキシルラジカルと直接反応して蛍光性誘導体に導く方法と、ヒドロキシルラジカルの反応性を利用してヒドロキシルラジカルを安定な二次ラジカルに変換し、このラジカルと反応することにより安定な蛍光性誘導体に導く方法が考えられる。蛍光性を有するスピントラップ剤(TMP Amineのフルオレスカミン誘導体, TMPAF)を利用し、ヒドロキシルラジカルとジメチルスルホキシドとの反応により生じるメチル二次ラジカルを捕捉する方法を追試したが、満足のいく結果は得られなかった。そこで、PBNによる直接トラップ法、および、水溶性蛍光物質(エスクリン)を利用する方法を検討した。PBNとの反応では、PBNの減少を認めたが、ベースラインが安定せず反応成績体の確認が困難であった。今後これを
解決しさらに検出感度を向上する必要がある。エスクリンを用いた実験は、まだ反応条件の検討段階であるが、ヒドロキシルラジカルと速やかに反応し、かなり選択性よく反応成績体を与えることを見出した。今後これを単離し、標準試料としてヒドロキシルラジカルを定量する方法を検討 する予定。(2)活性酸素種スーパーオキシドの定量分析法の確立:光照射下C60フラーレンから生成するスーパーオキシドを、スピントラップ-EPR法により検出した。まず最初は、スピントラップ剤としてDMPO を用いた。電子供与性の還元剤としては生体内還元剤の一つである NADH を用い、照射光としては 300 W の可視光ランプを用いた。その結果、DMPO とスーパーオキシドのアダクト (DMPO-OOH) および DMPO とヒドロキシルラジカルのアダクト (DMPO-OH) のピークが見られた。この結果より、還元剤存在下 C60 / PVP 水溶液に可視光を照射すると、還元型の活性酸素種であるスーパーオキシドとヒドロキシルラジカルの両方が生成することが明らかになった。更に、スーパーオキシドのみを選択的に検出するため、DMSO を添加した系で同様の測定を行った。その結果、DMSO 添加により消去されたヒドロキシルラジカル のかわりに DMPO-CH3 のピークが検出されるとともに、DMPO とスーパーオキシドのアダクト (DMPO-OOH) のピークが検出された。一方、最近開発されたスピントラップ剤であるDEPMPOを用いた時には、生成するスーパーオキシドとのアダクトの寿命が比較的長いため、光照射時間依存的に DEPMPO-OOH のピークのみが出現し、スーパーオキシドの生成を確認することができた。以上の結果は、EPR法によるスーパーオキシドの生成確認ならびに定量にはDEPMPOをスピントラップ剤として用いることが簡便であることを示す。(3)一重項酸素の特異的定量分析法の開発:一重項酸素を特異的に検出し、定量することを可能にする蛍光性プローブの設計を行っている。今後、その合成を行い有用性を検討する予定。(4)新しい定量分析法を利用した含窒素活性酸素種の定量:一酸化窒素をバイオイメージングとして捉える生細胞蛍光プローブDAF-FM DAの開発に成功した。これは一酸化窒素の特異な反応性に着目し、独自にプローブを分子設計しこれを合成し、種々検討した結果,創製されたものである。このプローブを用いて、内皮細胞あるいは脳虚血モデルから産生される一酸化窒素を画像として捉えることに成功し、本法が、生体内で生成する一酸化窒素の解析に有用であることを明らかにした。(5)化学物質から発生する活性酸素種の解析と定量:活性酸素種を発生する化学物質としてC60フラーレンを選び研究を行った。電子欠損型光増感剤であるC60は、生理的条件下光照射により、従来考えられていた一重項酸素ではなく、スーパーオキシドおよびヒドロキシルラジカルを発生することがスピントラップ-EPR法により明らかになった。C60 による毒性発現にはこのような活性酸素種が関与していると考えられる。
結論
ヒドロキシルラジカルの定量分析法の開発では、スピントラップ-EPR法に替わりうる方法として、ヒドロキシルラジカルを蛍光性誘導体に導いてHPLC法で検出する方法を検討し、水溶性蛍光物質(エスクリン)を利用する方法が有用であることを示した。安定スピントラップ剤を利用したスーパーオキシドの定量では、DEPMPOをスピントラップ剤として用いることにより、スーパーオキシドをEPR法により感度よく安定に検出できることを明らかにした。一重項酸素の特異的定量分析法の開発では、一重項酸素を特異的に検出し、定量することを可能にする蛍光性プローブの設計を行った。今後は、その合成を行い有用性を検討する。新しい定量分析法を利用した含窒素活性酸素種の定量では、一酸化窒素をバイオイメージングとして捉える生細胞蛍光プローブDAF-FM DAの開発に成功した。さらに、このプローブを用いて、内皮細胞あるいは脳虚血モデルから産生される一酸化窒素を画像として捉えることに成功し、本法が生体内で生成する一酸化窒素の解析に有用であることを明らかにした。化学物質から発生する活性酸素種の解析と定
量では、活性酸素種を発生する化学物質としてC60フラーレンを選び研究を行った。スピントラップ-EPR法により、電子欠損型光増感剤であるC60は、生理的条件下光照射により、スーパーオキシドおよびヒドロキシルラジカルを発生することを明らかにした。本プロジェクトでは、生活環境中に存在する化学物質の健康影響を活性酸素毒性の観点から評価するための新しい方法論の開発を目指して研究を展開している。研究初年度には、科学的指標を得るための新しい手法の開発ならびに、化学物質からの発生する活性酸素種の解析を行い、期待通りの成果を得たと考える。来年度も、引き続き定量的解析を目的とした方法論の確立を主眼として研究を展開したい。本研究の成果は、将来的に広範に応用することが可能であり、定量的な毒性評価に基づいた健康影響評価は、国民の健康維持に貢献すると期待できる。

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