内分泌かく乱化学物質の水道水中の挙動と対策等に関する研究

文献情報

文献番号
199900697A
報告書区分
総括
研究課題名
内分泌かく乱化学物質の水道水中の挙動と対策等に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
国包 章一(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 相澤貴子(国立公衆衛生院)
  • 安藤正典(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 伊藤禎彦(京都大学)
  • 大原憲司((財)水道技術研究センター)
  • 亀井 翼(北海道大学)
  • 髙木博夫(国立環境研究所)
  • 西村哲治(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 米沢龍夫((社)日本水道協会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
内分泌かく乱作用の疑いのある化学物質の中で、水道原水や水道水中に比較的高い頻度で検出されるものとしては、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-ブチル、ビスフェノールA及びノニルフェノールの4物質と農薬類がある。本研究では、これらの化学物質を対象に、以下のようなことを目的として実施するものである。1)これらの物質の浄水処理過程における挙動を明らかにするとともに、その除去及び制御技術につき検討する。2)これらの物質の水道管等水道用資機材からの溶出特性を明らかにするとともに、その防止対策につき検討する。3)水道原水や水道水の内分泌かく乱作用の評価手法を確立するとともに、その適用可能性を明らかにする。
研究方法
浄水処理過程における挙動及び除去対策に関して、1)東京都水道局玉川浄水場及び大阪市水道局柴島浄水場の実験プラントを用いて浄水処理実験を行い、それぞれについて各処理工程ごとの試料水を採取して、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-ブチル、ノニルフェノール及びビスフェノールAの濃度を測定した。2)内分泌かく乱作用の疑いのある農薬を対象に、日本国内におけるその使用実態を文献調査した。水道用資機材からの溶出特性及び溶出防止対策に関して、1)国内の水道で広く使用されている7種類の配水管を調査対象として選び、各配水管からのフタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-ブチル、ノニルフェノール及びビスフェノールA溶出量の経時変化を調べるための実験に着手した。この実験では、東京都水道局玉川浄水場の構内にこれらの配水管を直列に接続した実験設備を設け、残留塩素を含む水道水を常時連続的に通水し、一定期間ごとに配水管を取り外して各配水管につき溶出試験を行った。2)わが国における水道用塗料に関する規格の変遷と現状、各塗料の組成、構成モノマーの毒性等につき文献調査した。また、水道水等の内分泌かく乱作用の評価に関して、1)ビフェニル類を対象として酵母Two-Hybrid System法によりエストロゲン様活性につき検討した。2)水道の浄水処理過程におけるエストロゲン様活性の変化につき、蛍光偏光度法を用いて検討した。3)酵母Two-Hybrid System法による水道水等のエストロゲン様活性の評価に関して基礎的検討を行うとともに、浄水処理過程におけるエストロゲン様活性の変化についても検討した。4)遺伝子導入ヒト乳がん由来細胞を用いたMVLNアッセイ法により、琵琶湖水等のエストロゲン様活性につき検討するとともに、浄水処理過程におけるエストロゲン様活性の変化についても検討した。5)ビスフェノールAを対象として、その塩素処理による化学構造及びエストロゲン様活性等の変化につき検討した。
結果と考察
浄水処理過程における挙動及び除去対策に関して、1)東京都水道局玉川浄水場の実験プラントを用いて、平成11年11月及び12年1月の2回にわたって浄水処理実験を行い、それぞれについて原水、凝集沈澱処理、砂ろ過水、浄水等、各処理工程ごとの試料水を採取して、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-ブチル、ノニルフェノール及びビスフェノールAの濃度を測定した。この実験では、原水をそのまま浄水処理した場合のほか、原水にこれらの4物質をそれぞれ1μg/lずつ添加した場合及び5μg/lずつ添加した場合についても検討した。その結果、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル及びノニルフェノールは砂ろ過で、フタル酸ジ-n-ブチルは砂ろ過、オゾ
ン処理及び生物活性炭処理で、ビスフェノールAは砂ろ過及びオゾン処理で、それぞれよく除去されることが示された。また、大阪市水道局柴島浄水場における同様の実験では、原水ではなく凝集沈澱処理水に4物質を添加した。その結果、フタル酸ジ-2-エチルヘキシルは砂ろ過及び生物活性炭処理で、フタル酸ジ-n-ブチルは生物活性炭処理で、ノニルフェノール及びビスフェノールAはオゾン処理で、それぞれよく除去されることが示された。以上のような除去特性の違いは、主として両者の処理システムの相違によるものと考えられた。2)日本国内で使用されている農薬のうち、内分泌かく乱化学作用の疑いのある農薬は22種であり、その内訳は殺虫剤が6種、殺菌剤が16種であった。これらの農薬の過去8年間における出荷量データを整理した。また、水道用資機材からの溶出特性及び溶出防止対策に関して、1)東京都水道局玉川浄水場に設置した2系統の配水管連続通水実験設備を用いて、配水管7種からのフタル酸類等4物質の溶出量の経時変化を調べた。この結果、溶出が認められた管は、フタル酸ジ-2-エチルヘキシルについては当初に3種、1ヶ月後に2種、フタル酸ジ-n-ブチルについては当初に2種、1ヶ月後に0種、ノニルフェノールについては当初に3種、1ヶ月後に1種、ビスフェノールAについては当初に4種、1ヶ月後に1種で、いずれについても実験開始当初と1ヶ月後とを比べるとその数が減っていた。2)水道用塗料に関連する規格の変遷と現状につきレビューするとともに、最も代表的な水道用塗料であるエポキシ樹脂塗料数種を取り上げて、各々の組成と構成モノマー、及び、構成モノマーの毒性につき明らかにした。水道水等の内分泌かく乱作用の評価に関して、1)ビフェニル類6種を対象として酵母Two-Hybrid System法によりエストロゲン様活性を調べたところ、p-ヒドロキシビフェニル及び4,4'-ジヒドロキシビフェニルにつき有意な活性が認められた。さらに、S9を添加して代謝活性化した場合における活性の変化につき検討したところ、ビフェニル及びm-ヒドロキシビフェニルで明らかに活性が認められるようになったほか、p-ヒドロキシビフェニル及び4,4'-ジヒドロキシビフェニルでは活性の増強が確認された。2)東京都水道局玉川浄水場実験プラントでの浄水処理過程におけるエストロゲン様活性の変化につき、蛍光偏光度法により評価した結果、オゾン処理及び生物活性炭処理による活性の減少が顕著に認められた。3)水道水等の酵母Two-Hybrid System法によるエストロゲン様活性の評価においては、試料水中の成分の析出等による影響に注意する必要があること、水道原水中に多く含まれるフミン質は塩素処理をするしないにかかわらず活性が認められないことなどを明らかにした。また、東京都水道局玉川浄水場実験プラントでの浄水処理過程におけるエストロゲン様活性の変化につき、酵母Two-Hybrid System法により検討した結果、砂ろ過による活性の低下が認められた。4)琵琶湖水やその凝集沈澱処理水及び活性炭処理水と、これらを塩素処理した試料水につき、MVLNアッセイ法によるエストロゲン様活性を比較した結果、いずれも塩素処理した場合により高い活性が認められた。また、東京都水道局玉川浄水場実験プラントでの浄水処理過程におけるエストロゲン様活性の変化につき、MVLNアッセイ法により検討した結果、凝集沈澱処理及びオゾン処理による活性の低下が認められたほか、一部の場合では砂ろ過による活性の低下が認められた。5)ビスフェノールAの塩素処理生成物をLC/MS法により測定した結果、数種類の塩素付加物などの存在が確認された。また、これとは別に分子軌道法を用いて、ビスフェノールAと塩素との反応経路につき推定した。さらに、ビスフェノールAの蛍光偏光度法によるエストロゲン様活性は、その塩素処理によって増加することを明らかにした。
結論
内分泌かく乱作用の疑いのある化学物質のうちフタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-ブチル、ビスフェノールA及びノニルフェノールの4物質と農薬類を主に取り上げ、その水道水中における挙動と対策等に関する3ヶ年計画の
研究に着手した。浄水処理実験プラントを用いた標準物質添加実験等により、フタル酸類等の4物質が浄水処理によってよく除去されることを確認した。凝集沈澱、砂ろ過、オゾン処理、活性炭処理等の個々の単位処理プロセスによるフタル酸類等の除去特性については、今後さらに詳しく検討する必要があると考えられる。また、日本国内で使用されている農薬につき文献調査し、このうち内分泌かく乱化学作用の疑いのある農薬は22種であることを明らかにした。今後、これらの物質のエストロゲン様作用につきさらに詳しく検討する必要がある。水道用配水管7種からのフタル酸類等4物質の溶出量につき調査し、フタル酸ジ-2-エチルヘキシルの溶出量は通水開始1ヶ月後にむしろ増加するが、これ以外の3物質の溶出量は減少することを明らかにした。今後、溶出量の経時変化につき継続して調査することにしている。また、水道用エポキシ樹脂塗料の組成やその構成モノマーの毒性等につき文献調査した。このほか、水道水等の内分泌かく乱作用の評価手法を確立するため、蛍光偏光度法、 酵母Two-Hybrid System法及びMVLNアッセイ法につき基礎的検討を行うとともに、これらの試験法を用いて浄水処理過程におけるエストロゲン様活性の変化等につき検討した。これらの試験法の適用可能性に関してはまだ十分な成果が得られておらず、今後さらに検討を続ける必要があると考えられる。また、ビスフェノールAを塩素処理することによって、蛍光偏光度法によるエストロゲン様活性が増加することを明らかにするとともに、その塩素処理生成物につきGC/MS法及び分子軌道法を用いて検討した。塩素処理による反応経路の解明等が今後の検討課題である。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-