内分泌かく乱化学物質の人の生殖機能等への影響に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900689A
報告書区分
総括
研究課題名
内分泌かく乱化学物質の人の生殖機能等への影響に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
津金 昌一郎(国立がんセンター研究所支所)
研究分担者(所属機関)
  • 兜真徳(国立環境研究所)
  • 山本正治(新潟大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日常の生活環境における内分泌かく乱化学物質(EDC)への暴露が、人の健康影響と関連するか否かを疫学的に検討することを目的とする。平成11年度は、疫学研究をデザインするための基礎的情報(暴露と健康影響指標)を得ると共に、EDCによる健康影響のひとつとであると疑われている子宮内膜症の発症へのEDC暴露のリスクを明かにするための症例対照研究を計画する。
研究方法
EDCの人の健康影響に関する疫学研究実施のための基礎的検討として、食品からの暴露、人への暴露とその要因(暴露源)、人の健康影響評価のためのバイオマーカーの開発、人の健康影響に関するエビデンスの検討を行った。国民栄養調査の「食品群別摂取量(地域ブロック別)の北陸」のデータに基づいて、1994年から1999年まで、毎年6月から7月に新潟市内の大型スーパーマーケットで食品を購入し、購入後直ちにマーケットバスケット方式の試料調整を行った。米、雑穀・芋、砂糖・菓子、油脂、豆・豆加工品、果実、有色野菜、野菜・海草、嗜好品、魚介、肉・卵、乳・乳製品、加工食品の13の食品群に分け、PCB, HCB, BHC(ヘキサクロロシクロヘキサン), DDT, DDE, アルドリン、エンドリン、ディルドリン、ヘプタクロール、ヘプタクロールエポキサイドの10物質を測定した。一般地域住民41名について、48時間蓄尿中のビスフェノールA(BPA)排泄量の測定を行った。また、職業的にビスフェノールAジグリシジルエーテル(BPADGE)に暴露されている男性42名と同工場内の暴露されていない年令、喫煙をマッチさせた男性50名についてスポット尿中のBPA濃度の測定を行った。いずれの場合も、測定はELISA によって行い、BPAの経口摂取源として疑われる缶飲料等の摂取をはじめとした生活習慣に関する質問票調査も同時に行った。コークス炉工場において比較的高濃度の多環芳香族炭化水素(PAH)に暴露されている男性171名と同工場で暴露されていない男性58名を対照に、末梢血白血球中のチトクロームP4501B1(CYP1B1)のmRNA発現量の測定を行い、mRNA発現量とPAHの内部暴露量との関係を調べた。mRNA発現量の測定はリアルタイRT-PCRで行った。内分泌かく乱作用が疑われているポリ塩化ビフェニル類(PCBs)と発がんに関する分析疫学研究について文献レビューを行い、これまでの研究結果を整理した。そして、EDCの健康影響を検証するための疫学研究として、子宮内膜症の症例対照研究実施のための準備を行った。不妊治療を目的として大学付属病院とその関連病院を受診した20~44歳の未経産婦で、腹腔鏡検査によって子宮内膜症StageII以上と診断された者を症例、StageI以下と診断された者か不妊の原因が男性側にあることが判明している者を対照として、血清中、尿中、脂肪組織中のEDCやホルモンの濃度、チトクロームP450系酵素mRNA発現量や関連する遺伝子多型を測定し、子宮内膜症発症とEDCとの関連について検討を行う。
結果と考察
日常の食品からはPCB, BHC, DDT, DDEなどが、主として魚介類群や肉類・卵類を暴露源として摂取されていたが、その他の測定した6物質EDC(HCB, アルドリン、エンドリン、ディルドリン、ヘプタクロール、ヘプタクロールエポキサイド)は、食品由来の暴露は無視できるものと推定された。食品由来としては、主にPCB(0.13μg/day)とDDE(0.30μg/day)(1999年試料)に注目して、今後の疫学研究を進めて行く必要があるとの基礎的知見が得られた。一般地域住民の48時間尿中のビスフェノールA(BPA)排泄量は、平均(標準偏差)83(54)μgであり、12~245mgの範囲に広く分布していた。分布が正規分布ではなく、かつ個人差がみられたことから生活環境に由来す
る暴露の存在が考えられた。ビスフェノールAジグリシジルエーテル(BPADGE)の職業曝露者と対照者間では尿中BPAの平均濃度はそれぞれ41,61ng/mgクレアチニンであり,両者に有意な差が認められなかった。BPADGEはエポキシ樹脂の硬化剤として使用され、BPAと同様にプラスチック容器などから微量ながら溶出することが確認されているため、コンタミネーションとしてBPAの混在も疑われたが、本研究の結果からは、BPADGEに由来するBPA曝露はほとんどないことが示されると共に、BPADGEが代謝される過程でBPAにならないことを人において確認した。末梢血白血球中CYP1B1のmRNA発現量は、タバコ煙中のダイオキシン類似化学物質などによって誘導され、曝露指標となる可能性が示唆され、EDCによる健康影響検出のためのバイオマーカーとしての意義を今後検討する。PCBとがんに関する文献レビューを行った結果、油症患者や職業性暴露に関する後ろ向きコホート研究から、皮膚癌と肝癌のリスクの上昇が示唆され、一般集団のコホート内症例対照研究から、乳癌リスクとの関連がないことと膵臓癌および非ホジキンリンパ腫のリスク上昇の可能性が示唆された。環境中の低レベルPCBに暴露している一般集団を対象とした研究は欧米からの報告が大半であり、わが国において、環境中に存在するPCB暴露とがんとの関連性を検討することが重要であると考えられた。そして、子宮内膜症とEDCとの関連を検証するための症例対照研究のプロトコールを作成し、倫理審査を受け、症例収集の準備を終了した。米国国立環境保健センターで実施されている研究と同一のプロトコールとし、血清中EDC類は同センターで測定を行うため、得られた結果については米国人との比較検討が可能であり、わが国のEDC暴露レベルとその健康影響についての位置づけを知ることができると考えられる。
結論
PCB, DDE, BPAなどの内分泌かく乱作用が疑われている化学物質が、食品や一般環境中に存在し、人が暴露していることが示された。従って、これらEDCが、子宮内膜症やある種のがんの発症に関連しているか否かを疫学的に検証する必要があるとの結論を得た。

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