内分泌かく乱化学物質の胎児,幼児への影響等に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900687A
報告書区分
総括
研究課題名
内分泌かく乱化学物質の胎児,幼児への影響等に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
白井 智之(名古屋市立大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 前川昭彦((財)佐々木研究所)
  • 福島昭治(大阪市立大学医学部)
  • 池上幸江(大妻女子大学家政学部)
  • 堤雅弘(奈良県立医科大学附属がんセンター)
  • 鈴木勉(星薬科大学)
  • 舩江良彦(大阪市立大学医学部)
  • 伏木信次(京都府立医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
72,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、内分泌かく乱化学物質が野生ならびに海生動物などの生態に影響を与えていることが指摘されている。また、ヒトにおいても女性生殖器、男性生殖器、甲状腺、視床下部・下垂体等への影響が懸念されている。しかし、環境中の内分泌かく乱作用が指摘されている化学物質の胎児期、乳児期曝露により、出生児が成長したのちに、学習・精神障害、発がん、生殖機能の異常などが発現する可能性もある。本研究では内分泌かく乱作用が疑われているbisphenol A、genistein等の化学物質の生殖機能、学習・精神障害および発がん性などに及ぼす影響をin vivoの立場から解析することを目的としている。
研究方法
雌F344ラットに妊娠から離乳までbisphenol Aを0, 7.5, 120 mg/kg/dayの量で毎日強制経口投与した。児動物は離乳2日後、7日後および10週後に屠殺剖検し、生殖器系の重量、BrdU標識率、アポトーシス、発がん物質とDNA の付加体形成に対する影響も検討し、10週後屠殺時には精子検査も実施した(白井)。食品缶からbisphenol Aの最大溶出量の1日当たりの摂取量に相当する0.006mg/kgと、その1000倍量の6mg/kgを、妊娠および哺乳の全期間、Donryuラットに強制経口投与した。雌の仔の発育・分化を観察し、発癌剤投与後15ヶ月齢まで観察し、子宮癌を含む種々雌性生殖器病変の発生状況および内分泌環境の変化を検討した(前川)。F344雄ラットにDENをi.p.し、2週後よりstyreneの monomer, dimerおよびtrimerを0, 0.0006, 0.006, 0.6mg/kg/dayで強制経口投与し、3週後に肝部分切除を行い、8週後に肝のGST-P陽性細胞巣の定量解析を行った。精巣および精巣上体の精子数測定についても行った。また、妊娠ICRマウスに妊娠から離乳まで、bisphenol Aを0, 0.05, 50, 400 mg/kg/dayの用量で経口投与し、10週齢時に雄児マウスの精巣および精巣上体の精子数測定を行った(福島)。妊娠5日目のSDラットに大豆イソフラボン混合物か高純度のgenisteinを投与し、妊娠への影響と新生児の観察を行い、離乳後の仔どもは基礎飼料で飼育を継続し、成長後の生体影響を観察した(池上)。Wistar系雌ラットに1%のbisphenol Aを基礎飼料および大豆を除いた特殊飼料に混じ5週齢より投与し、妊娠、出産、授乳期間を通して投与した。授乳終了後、母ラットを剖検し、子宮における着床痕の観察を行なった。仔ラットは基礎飼料にて飼育し、性成熟の指標として、雌の膣開口時期、雄の包皮の状態を観察した(堤)。bisphenol A 混入飼料 (0.02, 0.5, 2 および8 mg/g) をddY 系雄性マウスに2日間、さらに雌性マウスの妊娠期および授乳期に曝露した。離乳後4週間以上普通飼料で飼育したマウスの一般行動観察、自発運動量、methamphetamine誘発自発運動促進作用と逆耐性形成、methamphetamine 誘発精神依存、疼痛閾値とmorphine誘発鎮痛効果、葛藤状況、学習・記憶、運動協調性およびdiazepam 誘発運動協調性障害、体温およびreserpine誘発体温低下作用について検討した(鈴木)。多電極型電気化学検出器を用いて脳のドパミン(DA)、ノルエピネフリン(NE)、セロトニン(5-HT)の定量を行った。またモノアミン関連タンパク質のmRNAの発現量を定量的RT-PCR法で定量した。チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、ドパミン受容体(DR)、モノアミンオキシダーゼ(MAO)を行った(舩江)。雌雄ddYマウスに交尾・妊娠前からbisphenol A (2μ/g, 0.5, 2, 8mg/g)を与えた。妊娠18日の時点で帝王切開により胎児を採取し、
出生後3週、4週の時点で脳を取り出し、各種抗体を用いた免疫組織化学染色を実施した。また胎児脳のアポトーシスも検討した(伏木)。
結果と考察
研究と考察=妊娠および授乳期間中の母獣動物の体重に著変はなく、児動物の離乳後の体重にも有意な変化はみられなかった。母獣動物の妊娠期間、出産児数および死産児数は群間に有意な差は認められなかった。精巣の精子数が120 mg/kg投与群で有意に低値を示したが、精子形態異常の発現および精子運動率には差は認められなかった。DMABおよびPhIP-DNA付加体形成については免疫染色上明らかな差はなかった。従って、雄性副生殖器に形態学的変化は認めなかったものの、離乳10週後の精子検査において精子数の有意な減少があった(白井)。母動物に投与に関連した臨床症状、体重変化および病理学的異常は認められず、繁殖成績および妊娠期間も対照群と同様であった。仔の外生殖器の発育、膣開口時期および成熟までの成長曲線に異常は認められず、体重変化および性周期に異常はず、母動物に何ら影響を及ぼさないと考えられた。仔の外生殖器に発育・分化の異常は認められず、その成長、性周期にも異常は認められず、仔動物も投与による影響は認められていない(前川)。肝のGST-P陽性細胞巣の個数および面積はstyrene monomer投与において対照群との間に差はなかった。monomer, styrene dimerおよびtrimerは精巣および精巣上体の精子数に差を認めなかった。bisphenol A投与群において母獣の体重、分娩児数に対照群との間に差を認めなかった。離乳後の児動物の体重は400 mg/kg群で低値を示した(福島)。妊娠期に大豆isoflavone混合物を投与したラットでは、妊娠数には差がなかったが、isoflavone投与群では母親の甲状腺ホルモンの低下、胎児数が低下する傾向がみられた。純粋なgenisteinを妊娠期から授乳期にかけて投与すると、仔どもの成長と相対的な骨形成の抑制がみられた。雌雄の生殖器重量への影響は観察されなかった(池上)。bisphenol A投与群の体重増加の抑制がみられ、出生数はbisphenol A特殊飼料群で有意に少なかった。仔ラットの体重は雌雄ともbisphenol A特殊飼料投与群が最も体重が重かった。膣開口時期は、特殊飼料投与群で早い傾向がみられ、包皮の開裂時期は、特殊飼料投与群で早い傾向があった(堤)。bisphenol A 処置マウスは用量依存的に異常行動を示し、比較的高用量では新規環境における自発運動量、methamphetamine誘発自発運動促進作用と逆耐性形成も有意に増強した。methamphetamine の精神依存はbisphenol Aの用量に依存した。また、疼痛閾値は用量依存的に低下し、morphine 誘発鎮痛効果も有意な減弱を示した。一方、bisphenol A処置マウスは抗葛藤作用を示した。bisphenol A処置マウスはreserpine 誘発体温低下作用に対する拮抗作用を示した(鈴木)。脳内のアミンの定量でDAは、雌のbisphenol A投与群で投与量に応じて有意に減少していた。NEは、投与群で有意に減少していたが、投与群間では差はなかった。5-HTは、bisphenol A投与群で有意に減少していたが、bisphenol A投与群間では差はなかった。THおよびD4Rは、投与群全て有意に増加したが、bisphenol A投与群間にその差は見られなかった。(舩江)。ドーパミンやGABAの関連酵素であるチロシン水酸化酵素(TH)やグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)、アセチルコリン合成に関わるコリンアセチル転移酵素(ChAT)、セロトニンは免疫組織化学的に、TH陽性神経細胞数ならびに神経突起の減少、大脳皮質におけるGAD陽性神経細胞数の増加、calbindin陽性神経細胞数の減少がみられた。また胎児期のGAP43の分布に投与群と対照群との間で差が観察された(伏木)。
結論
bisphenol Aを妊娠中および授乳期に投与したが、生まれた児の前立腺に著変はなく、影響はないと結論づけられた(白井)。低用量のbisphenol Aによる仔の雌性生殖器系に対する影響は観察されず、仔についてもその影響は認められていない(前川)。styrene monomerの高用量投与は肝発がんを抑制することが強く示唆されたのに反し、その低用量投与は肝発がん性に何ら影響を及ぼさないと結論された。また、これらは精
子形成能に影響しないことが示された(福島)。genisteinは妊娠期の母親では胎児数の低下傾向、血中甲状腺ホルモンの低下、新生児と離乳後の成長・骨形成への影響が観察された(池上)。1% bisphenol投与群では母ラットの体重増加の抑制がみられたが、仔ラットの成長や性成熟に対する明らかな影響はなかった(堤)。bisphenol Aを妊娠期・授乳期に投与されたマウスは一般行動の異常、新規環境への適応性の低下、methamphetamine誘発自発運動促進作用と逆耐性形成の増強、methamphetamine誘発精神依存の増強、morphine誘発鎮痛効果の減弱などを明らかにし、中枢神経系の不可逆的な変化が示唆された(鈴木)。bisphenol Aの胎児期・幼児期曝露によるドパミン量の減少は、胎児期・幼児期の脳内におけるDA神経系傷害によるものであり、不可逆的変異が示唆された(舩江)。bisphenol Aの胎生期曝露は神経突起伸展に対して抑制的に作用することが示唆され、その影響は成熟脳においてはドーパミン系やGABA系の神経細胞数の増減やシナプス形成に反映することが示唆された(伏木)。

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