プラスチック類の熱分解、燃焼反応による有害化学物質生成の抑制に関す研究

文献情報

文献番号
199900681A
報告書区分
総括
研究課題名
プラスチック類の熱分解、燃焼反応による有害化学物質生成の抑制に関す研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
久松 由東(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 稲津晃司(東京工業大学)
  • 山田正人(国立公衆衛生院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
5,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ポリ塩化ビニル等の焼却処理家庭におけるダイオキシン類の生成が社会的に問題となり、その対策が急がれている。プラスチック類の熱分解、燃焼反応では有機塩素系化合物など有害化学物質が多種生成する。どのような物質が生成するかは素材であるポリマーの構造が主要因であるが、さらに共存するガス状物質や金属化合物等の影響による二次生成反応も検討する必要がある。本研究ではポリ塩化ビニル、ポリエチレンやポリウレタン等の使用量の多い数種のポリマーの熱分解、燃焼反応による有機塩素系化合物や変異原性試験に基づいた変異原物質の生成など有害化学物質の生成反応を、塩化水素等のガス状物質や酸化銅等の金属化合物の共存下で行い、生成機構を解明する。これらの成果を基に、金属化合物の触媒作用や添加物等との二次生成反応を利用した誘導体化反応による有害化学物質の抑制法について研究する。
研究方法
ポリ塩化ビニル、ポリエチレンやポリウレタン等数種のポリマーの熱分解、燃焼反応を全自動開閉環状炉を用いて行った。熱分解、燃焼反応生成物の捕集にはU字管を2本用い、一方にはガス状物質の捕集材としてTENAX-TAを充填し、もう一方には揮発性有機化合物の凝縮物(タール状物質)の捕集材として石英繊維ウールを詰めて捕集した。反応は窒素及び空気中で行い、流速は約200ml/minに調整した。反応生成物はアセトンに超音波抽出し、濃縮、乾固した。抽出物中に金属化合物が共存するため、再度、n―ヘキサン/NaOH溶液で液―液分配を行い、n―ヘキサン相に抽出した。抽出した反応生成物の変異原性試験はSalmonella typhimurium TA98,TA100菌株を用い、Amesらの方法を一部改良したプレインキュベーション法により行った。反応生成物の分析は主にガスクロマトグラフ/質量分析計(GC/MS)を用い、ベンゾ(a)ピレンなど多環芳香族炭化水素の分析には高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、各化合物に特定の励起波長と蛍光波長を設定して行った。
結果と考察
ポリ塩化ビニルを加熱すると、200℃付近で脱塩化水素反応が起こり、250℃以上に加熱すると熱分解反応によって生成したタール状物質の変異原比活性は高くなり、300℃から400℃付近で最も高くなる。変異原比活性値は窒素及び空気気中共にTA100菌株、S9mix添加の系で最も高い。用いた他の菌株に対する変異原比渇セと比べると大きな値を示し、塩化対置換型の間接変異原物質が多く生成している事が認められた。また、600℃以上の高温域においても反応生成物の変異原比活性は低くない。ポリ塩化ビニルの400℃における熱分解、燃焼反応性生物(タール状物質)を分取型HPLCを用いて1~2分間隔に分離、分取し、各フラクションのTA100菌株(+S9mix)に対する変異原比活性を調べると、保持時間が短く、分子量が小さく、極性の低い物質が溶出するフラクションが高いことが認められた。この保持時間には多環芳香族炭化水素が分析される。しかし、TA100菌株(+S9mix)に対する変異原性はベンゾ(a)ピレンを除くと低いが、多環芳香族炭化水素類は有機物質の熱分解や燃焼反応により容易に生成することから、ナフタレン、フェナントレン、ピレン、ベンゾ(a)ピレンなど9種について分析した結果、フェナントレンの生成量が最も多く、400℃の加熱温度で約135nmol/mg.tar生成し、9種の生成量はフェナントレン>>>クリセン、ナフタレン>アントラセン、ピレン、フルオランテン>>ベンゾ(a)ピレン>ベンゾ(e)ピレン、ベンゾ(f)フルオランテンの順であった。2,3環系は250℃の加熱温度で容易に生成し、4環系以上では次第生成量が増加し、350~400℃付近で生成量が最も多くなる。ポリ塩化ビニルの
熱重量分析(TGA)曲線から、220℃付近から熱分解反応が始まり、330℃付近で急激な重量変化が起こっている。この温度付近では脱塩化水素反応と主鎖の分解からなる低分子量の揮発性有機化合物やポリエン等の生成が考えられる。次いで、450~470℃付近で重量変化が起こり、800℃で完全に分解する。
1) 種々の金属化合物の共存下におけるポリ塩化ビニルの熱分解、燃焼反応性生物の変異原性
焼却過程ではプラスチック類が種々の金属化合物と混在し、焼却されることから、ポリ塩化ビニルと金属化合物の共存下における熱分解、燃焼反応性生物の変異原性と生成物に対する共存金属化合物の影響及び金属化合物の触媒作用について検討した。用いた金属化合物はCuO,Cu,CuCl,FeO,Fe2O3, Fe3O4である。これらの金属化合物をポリ塩化ビニルと1:1(v/v)に混合し、空気気中、加熱温度400℃で熱分解、燃焼反応を行い、反応生成物のタール状物質について変異原性試験を行った。
FeO,Fe2O3, Fe3O4の酸化鉄、すなわちFe(Ⅱ)O,Fe(Ⅲ)2O3, FeO,Fe3O4 (Fe(Ⅱ)OFe(Ⅲ)2O3)の金属酸化物を共存させると反応性生物の変異原比活性はポリ塩化ビニルのみの変異原性活性に比べいずれの菌株に対しても、また代謝活性化の有無に関わらず低くなる。前記したように、加熱温度400℃において、TA100菌株(+S9mix)に対してはポリ塩化ビニルのみの変異原比活性は非常に高い。この系に酸化鉄を共存させると1/4 ~ 1/10倍に反応性生物の変異原性が著しく低くなる。他の系、TA98菌株(-S9mix)に対しても同様に低くなり、酸化鉄が変異原物質の生成に対し触媒的に抑制作用を示すものと思われる。また硫化鉄を添加しても同様に著しい抑制作用を示した。
一方、酸化銅、CuO、が共存すると、非共存下、変異原比活性が高かったTA100 (+S9mix)菌株に対して約1/3倍に低くなるが、TA100(-S9mix)及びTA98(-S9mix)菌株に対して著しく高くなる。TA100菌株に対してはS9mix添加より無添加の下で約40倍も高くなり、TA98菌株に対してはS9mix無添加の下で約28倍高くなる。また塩化銅、CuCl、や銅、Cu、が共存しても同様な影響が認められた。すなわち銅化合物が共存するとポリ塩化ビニルの熱分解、燃焼反応によって直接変異原物質の生成し、変異原比活性の強さから多種または強変異原物質が生成するものと思われる。反応生成物の変異原比活性は加熱温度が低いほど大きい事が分かった。しかし、硫化銅、CuS、が共存すると反応生成物の変異原比活性は抑制され、添加量がポリ塩化ビニルの2倍以上の量になるとほとんど抑制された。
2) 熱分解、燃焼反応生成物の分離、分析
前記したようにポリ塩化ビニルの熱分解、燃焼反応により多環芳香族炭化水素類は生成する。そこで、Fe3O4やCuOを等量共存させると多環芳香族炭化水素類の生成量は減少する。CuOを共存させるとベンゾ(a)ピレンは極く微量生成するに過ぎない。さらにGC/MSによる分離、分析からポリエン類や一、二、三環系芳香族炭化水素のメチル化物、塩素化物、酸化物など多種類生成することが認められ、各種金属化合物共存下における生成について検討している。
3) ポリエチレンの熱分解、燃焼反応生成物の変異原性
ポリエチレンの反応性生物の変異原比活性は低い(55~85revertants/mg tar)。CuOやCuCl2が等量共存するとTA100、TA98菌株共にS9mix添加の有無に関わらず変異原比活性は高くなる(1,000~3,000revertants/mg tar)。またFeO,Fe2O3,やFe3O4が共存しても変異原比活性は同様に高くなり(500~1,00revertants/mg tar)。前記したポリ塩化ビニルの結果と異なる。
結論

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研究報告書(紙媒体)

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