Co-PCBを中心としたヒトのダイオキシン類暴露実態に関する研究(総括報告書)

文献情報

文献番号
199900675A
報告書区分
総括
研究課題名
Co-PCBを中心としたヒトのダイオキシン類暴露実態に関する研究(総括報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
古野 純典(九州大学大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 増田義人(第一薬科大学)
  • 辻博(九州大学大学院医学研究院)
  • 原口浩一(第一薬科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ダイオキシン類は、有機塩素化合物の生産過程や廃棄物の処理過程等で発生すると考えられている化学物質である。多岐にわたる発生源が報告されており、動物実験等で強い毒性を有することが明らかになっていることより、その汚染は世界的に大きな問題となっている。しかし、わが国ではダイオキシン類による人体への暴露量測定が十分にはなされていない。そのため、ダイオキシン類による健康影響も十分に推し量れない状態となっている。本研究においては、ダイオキシン類の調査計画策定の基礎データとなるわが国におけるダイオキシン類による暴露量のバックグランド値についてコプラナーPCBを中心に調査することを目的に、ダイオキシン類による人体暴露を血液をもちいて測定し、その影響を明らかにすることである。注釈:コプラナーPCB(Co-PCB)はダイオキシンではないが、他のPCBより毒性が強いのでダイオキシン類に含めるよう提案されている。
研究方法
福岡市東区の一地域の20~59歳住民を調査対象とした。10歳階級別の調査人数を男女それぞれ15~20名として、合計150名を調査目標とした。住民基本台帳にもとづき、福岡市東区の任意に選んだ6地区の20~59歳(1999年8月20日現在)の住民7883名(男性4143名、女性3740名)から男女それぞれ140名、合計280名を無作為に選び、郵送法により調査への協力を求めた。1回目の協力依頼に回答がなかった118名(42%)には2回目の協力依頼状を郵送した。2回目の非回答者は81名であった。50歳代女性の協力状況が悪かったので、50歳代女性の非回答者16名については3回目の依頼状を郵送した。最終的には152名(男性75名、女性77名)から協力が得られ、全体の協力率は58%であった。対象地区外へ転出した者20名は協力率を計算する際の分母から除いている。50歳代女性の協力率は最低の36%であったが、ほかの性別年齢階級では50~70%の協力率であった。面接調査と採血は1999年10~11月の期間に13の医院・病院で実施した。献血非適格者の基準に準じて、採血の適否を判定した。協力者にはあらかじめ電話での問診を看護婦がおこない、採血日当日に血圧測定、体温測定および医師の診察により採血の適否を判断した。調査内容、測定検査の内容、結果の通知などについて十分な説明を調査担当看護婦がおこない、書面での同意を得た。食物摂取状況などの生活習慣についての面接調査および身体計測の後に採血をおこなった。ヘパリン処理真空ガラス採血管(10ml)9本と血清用真空採血管(10ml)1本の合計100 ml の静脈血を採血した。ヘパリン処理血液7本分はエルゴ研究所が用意した特殊ガラス容器に移し、九州大学にてマイナス40度で凍結保存した。残り2本は採血日に第一薬科大学へ搬送し、凍結保存した。血清は採血後数時間のうちに分離し、マイナス80度で凍結保存した。体格良好、穿刺容易な20~39歳の男性10名からは、ダイオキシン類測定の再現性を検討するために、同意を得て、さらに70 mlの採血をおこなった。152検体、再現性検討用5検体および対照用蒸留水3検体を2000年1月初旬にドイツ・エルゴ研究所に空輸し、ダイオキシン(PCDDs)7種類、ジベンゾフラン(PCDFs)10種類、非オルソPCB 4種類およびモノオルソPCB 8種類を測定した。再現性検討用5検体のダイオキシン類測定は福岡県環境保健研究所でおこなった。甲状腺機能検査としてサイロキシン、遊離サイロキシン、トリヨードサイロニン、遊離トリヨードサイロニン、サイロキシン結合グロブリン、甲状腺刺激ホルモン、サイロイドテストおよびマイクロゾームテストの測定をおこなった。男性ホルモンであるテストステロン、
遊離テストステロン、卵胞刺激ホルモン(FSH)および黄体化ホルモン(LH)の測定もおこなった。
結果と考察
甲状腺ホルモンおよび男性ホルモンの測定は終了しているが、ドイツ・エルゴ研究所におけるダイオキシン類の測定およびPCBの測定に関しては、厳密な精度管理のもとで測定結果の最終的なチェック作業をおこなっている。数ヶ月のうちには最終的な結果を公表できる予定である。ダイオキシン類の血中濃度はきわめて微量であり、その測定には厳密な精度管理が必要である。ドイツ・エルゴ研究所は、各国政府機関の委託を受けてダイオキシン類の測定をおこなっている国際的にも評価の高い分析研究機関である。測定は遅れがちであるが、測定結果は信頼できるものである。国内外の研究者により血液を用いた人体のダイオキシン類の暴露量に関する調査研究が行われているが、統一した方法による一般住民を対象にした大規模な調査はほとんど実施されていない。また、WHO専門家会合において、ダイオキシン類にコプラナーPCBを含める旨の提案がなされているが、現在までのダイオキシン類の暴露に関する調査研究において、コプラナーPCBをダイオキシン類として調査した研究はきわめて少ない。1996年6月の厚生科学研究 「ダイオキシンのリスクアセスメントに関する研究」 において耐容一日摂取量の提案がおこなわれているが、ダイオキシン類暴露の影響が人体に対してどの程度起こり得ているのかを評価することが重要である。人体試料を用いたダイオキシン暴露に関する調査研究では、多田らの母乳、渡邊らの血液に関する研究があるが、血液についてはデータも少なく、わが国の平均的なダイオキシン暴露状況を把握するに至っていない。ダイオキシン類の最終的な測定結果が得られ次第、1) 性別・年齢階級別のダイオキシン類血中濃度の分布、2) ダイオキシン類暴露量の評価におけるコプラナーPCBの重要性、3) 血中ダイオキシン類濃度と甲状腺機能および男性ホルモン値との関連性、および4) 一般住民の血中ダイオキシン類濃度を規定する生活環境要因について有用な情報を提供できるものと考えている。
結論
特殊暴露のない地域住民を対象としてコプラナーPCBを含むダイオキシン類の血中濃度を測定し、わが国におけるダイオキシン類のバックグラウンド値を検討することを第一の目的として研究を実施した。さらに、ダイオキシン類の健康影響を検討する目的で、甲状腺機能関連の各種ホルモン値ならびに男性ホルモン値の測定を行った。20~59歳の調査対象者の約60%にあたる152名から血液の提供が得られた。ダイオキシン類の測定結果が得られ次第、詳細な報告をする予定である。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)