ダイオキシン類の汚染状況および子宮内膜症等健康に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900672A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシン類の汚染状況および子宮内膜症等健康に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
石川 睦男(旭川医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 玉舎輝彦(岐阜大学医学部)
  • 清水敬生(癌研究会付属病院)
  • 山下幸紀(国立札幌病院)
  • 千石一雄(旭川医科大学)
  • 山下 剛(旭川医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
環境化学物質による健康障害の不安が一般に高まっているなかで、最近多くの環境化学物質が内分泌撹乱化学物質として生殖障害をもたらすことが報告されてきている。特にダイオキシン類は母乳中への蓄積が注目され、女性生殖器の蓄積の検討が必要となってきている。さらに、日本を始めとする先進国に子宮内膜症の頻度が増加が報告され、子宮内膜症の発症の増加とダイオキシン汚染との関連性が注目を集めている。さらに、深刻なことはこの子宮内膜症その後の卵巣癌の中でも明細胞腺癌ならびに類内膜腺癌への続発変化が疑われていることである。そこで当研究班では、ダイオキシン類の女性生殖器への汚染状況の分析を行い、ダイオキシン類と子宮内膜症発生の因果関係ならびに卵巣癌への続発変化の関連につき解明することを研究目的とした。具体的にはダイオキシン類の女性生殖器への蓄積状況および生理作用を明確にし、また蓄積しているとするとダイオキシン類が子宮内膜症の発症進展と関連があるか否かを明らかにすることより、国民の混乱を防止する。また本研究で得られた成果は、ダイオキシン類などの環境化学物質の許容量の基準ならびに見直しにつき、厚生行政、環境行政に提案することが可能となるかが期待される
研究方法
本年度の研究は生体内のダイオキシン類がある一定濃度存在することが前提として行われた。
臨床的なアプローチでは子宮内膜症から卵巣癌(明細胞癌)への癌化のプロセスを明らかにするために各研究班の所属病院での過去10年間の卵巣癌、子宮体癌における子宮内膜症の合併率などをpilot studyとして集約した。アンケート方式で各設問に対しその有無について回答したあと回収集計した。
末梢血単核球を対象として検討した研究では、まず末梢血単核球を6例のボランティアから採取し、一定期間細胞培養を行ったあとmRNAを抽出しRT-PCR 法を用いてAhレセプターの発現の有無を確認した。次に培養した単核球を用いてダイオキシン(TCDD)、E2,を種々の濃度で投与しその前後で、単核球のサイトカインを測定した。ダイオキシン類が生体内に存在するとそれらは薬物代謝酵素によって分解解毒され体外に排出される。従ってダイオキシン類の生体に与える影響はこのような酵素群の酵素誘導活性により左右されると考えられる。今回我々は子宮内膜症患者群と正常コントロール群において、ダイオキシン類代謝酵素であるCytochrome P450 1A1をコードする遺伝子のSNP(single nucleotide polymorphism)およびGST M1遺伝子の有無と内膜症の発症に関して関連性があるかどうかを解析した。1A1のSNPにはコドン462のVal/Ile多型およびpolyAシグナルより約300bp下流に存在するMspI(M2)多型を分析した。GST M1はタンパク質をコードする部分を分析しそれが存在するか欠損するかを分析した。それぞれ目的の領域を含んだ数百bpの領域をPCR法で増幅したあと、1A1に関しては増幅産物はそれぞれ制限酵素NcoI, MspIによって切断され、その切断パターンによって遺伝子多型が同定された。GST M1 については増幅されるか否かで遺伝子の存在を同定した。
結果と考察
ダイオキシン類が子宮内膜症から卵巣癌(明細胞癌)への癌化のプロセスに関わっているかどうかの臨床的検討では、卵巣癌369症例中33例(8.9%)に子宮内膜症の合併が認められた。組織型別の検討では、明細胞腺癌と外性子宮内膜症の合併率は18.3%であった。他の組織型と比較し、明細胞腺癌と外性子宮内膜症に関連があることが示唆された。子宮体癌948症例中216例(22.8%)に子宮内膜症の合併を認めた。子宮内膜症の合併を認めた216例中160例(74.1%)が外性子宮内膜症を認めない子宮腺筋症との合併であった。子宮体癌と子宮腺筋症に関連があることが示唆された。ダイオキシン類の免疫系に関する検討では、単核球にはAhレセプターが発現していることが明らかとなった。ダイオキシンは単核球のサイトカイン産生に対しTNFおよびIL-6において10 pg/ml以上の濃度で抑制的に作用し、IL-1βに対しては1000 pg/ml以上の濃度を抑制に必要とした。以上の点から、ダイオキシン類は単核球に存在するAhレセプターを介して作用しうること、ある程度以上の濃度でサイトカイン産生に対し抑制的に働くことが明らかとなった。ダイオキシン類代謝酵素であるCYP1A1の遺伝子多型およびGSTM1遺伝子の有無と子宮内膜症の発症の関連ではコントロール79名と子宮内膜症患者94名においてCYP1A1遺伝子Val/Val型あるいはGSTM1欠損型の遺伝子型の存在が統計学的に内膜症発症の比率を低下させる傾向を認めた(OR:0.44 および  0.65)。これらの結果はin vivoでのダイオキシン類の抗エストロゲン作用を示唆する国外の成績を支持するin vitroのデータの一つと考えられた。
結論
今回の結果より、臨床的には内膜症と子宮内膜癌および卵巣明細胞癌の発症とが何らかの関連性を持っていることを示唆する結果となったことから、今後の研究により、子宮内膜症のこれらの癌に対する前癌病変としての意義について臨床検体を詳細に検討することにより明らかにされることが期待される。基礎的検討からは、ダイオキシン類が生体内で何らかの生理活性を持っていることが明らかとなり、免疫学的にはサイトカイン産生に対し抑制的に作用する可能性が示唆された。代謝酵素の遺伝子多型の結果からは代謝酵素の誘導性上昇が積極的に子宮内膜症に寄与しているという明らかな結果は得られず、むしろその発症を押さえている可能性が示唆された。いずれの結果も今後の研究を進める上でのpilot dataであり、ダイオキシン類の生体内でのどの様な具体的な作用が子宮内膜症の発症に重要であるかの研究を行う予定である。

公開日・更新日

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