ダイオキシンの健康影響と規制手法に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900671A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシンの健康影響と規制手法に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
中西 準子(横浜国立大学)
研究分担者(所属機関)
  • 中井里史(横浜国立大学)
  • 西垣隆一郎(東邦大学)
  • 林邦彦(群馬大学)
  • 松尾昌季((株)住友化学中央研究所&大阪大学)
  • 吉田喜久雄(横浜国立大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ダイオキシンは、ほとんどすべての食品に含まれていることからわかるように、どこにでも存在しうる汚染物質であることから、いつ爆発するか分からぬようなあやうい問題になっている。ダイオキシンのリスクの大きさをできるだけ正確に評価し、それに基づいて規制などの措置をとることが重要となってくる。しかしダイオキシンの毒性研究は多いが、社会的にどうすればいいかという研究は少ない。ダイオキシンは、現在のバックグラウンドレベルでの曝露でもリスクがあるとされているので、リスク評価を行うためには通常の化合物以上に正確な、人体内動態についての情報が必要となる。特に、ダイオキシン類は同族体の数が多く、それらの動態が大きく異なることから、同族体を区別して、動態解析をすることが必要となる。本研究は、このような観点からダイオキシンの人体内動態を同族体別に明らかにし、得られた結果等をリスク評価までつなげて健康影響をできるだけ正確に評価することで、ダイオキシン規制をより合理的なものにすることを目的とする。
研究方法
以下の(1)~(3)の3班に分かれて研究を行った。また(1)のPBPKグループについてはさらに3つのサブグループに分かれて研究を行った。(1)PBPK(生理学的薬物動態)モデル:①PCDDs、PCDFsの17の同族体に関するPBPKモデルの構築:ヒトの体内での2,3,7,8TCDDに関する既存のPBPKモデルを参考にして、17同族体についてのPBPKモデルを構築する。さらに、構築したモデル(定常状態モデル)を用いて、食品経由で摂取したPCDDsとPCDFsの2,3,7,8位に塩素置換した17同族体の体内動態(組織・器官中濃度と各組織・器官への分布比)を推定する。②母体から胎児へ、母乳から乳児への移行:主たるキーワードを用いて母子間ダイオキシン移行と蓄積に関する関連文献を収集し検討するとともに、PBPKモデルを用いて母子間ダイオキシン移行動態の解析等を行い、モデルの妥当性を評価する。③TCDDのPBPKモデルに関する最新の知見等:TCDDのPBPKモデルに関連した公表文献を収集し、WHOにおける体内負荷量の算出法とPBPKモデル、PBPKモデルの概要、TCDDに関するPBPKモデルの最近の動向といった観点から検討を加える。さらに、TCDDのPBPKモデルにおける権威者であるAndersen博士よりプログラムを譲り受け、これに基づきプログラムの基礎検討(導入と技法)を行う。(2)疫学調査:農薬散布や魚食によるダイオキシン摂取への影響を調べる。また胎児への影響をも検討するため、母乳中ダイオキシン濃度測定をも行う。前者は、同一地域に居住する農業従事者、漁業従事者およびコントロールの計約30人から採血を行い、後者に関しては別地域により、乳児を持つ母親の母乳を採取する。母乳採取に関しては、併せて血液採取も行い、母乳と血液中濃度との関係も調べられるよう配慮する。濃度分析に関しては、Co-PCBを含む99異性体の分析を行う。さらに、職種や生活習慣を調査票により調べ、曝露源に関する検討を行う。③リスク評価と規制手法の検討:TEFのみならず生物学的利用能を考慮するために、PCDDs、PCDFsの17異性体に関する体内半減期に関するデータを文献から入手し、ダイオキシン類の腸管からの吸収率データ(乳児の母乳経由のデータを大人の食品からの吸収データとしてしよう)との積をもとめ、2,3,7,8-TCDDの値との比(YNF: Yoshida-Nakanishi Factor)を得る。さらにわが国の食物データと母乳データを用いて、同族体比率の実測値とYNFを利用して求めた予測値との比較を行うことで、YNFを考慮すべきかどうか検証する。
結果と考察
①ヒト
についてのPBPKモデルを構築し、17同族体についてそれぞれパラメータの設定を行った。今後改善の余地はあるが、ここで求められたモデルから算出した同族体の半減期は、他の文献値とほぼ一致していた。ダイオキシンの毒性発現で重要視される胎児に関しても、母体の一臓器と考えてPBPKモデルの構築の可能性を検討した。ラット、マウス、ヒトで、胎児と乳児のダイオキシン蓄積を、かなりの精度で予測可能と判断された。ヒトのPBPKモデルを、リスク評価との関連で、より改良できないかという目的で、広範な文献調査を行った。その結果、肝臓の局所に注目したモデルの構築が可能で、これを毒性発現メカニズムと連動させることによって、リスク評価とつなげることが可能であることが判明した。ただし、これらはサブグループごとに研究を行ったため、パラメータなどはまだ統一されていないとともに、不足分の実測データを補う何らかの措置が必要となってこよう。②血液中ダイオキシン濃度分析に関しては未だ分析中であり、結果は得られていない。なお対象地域の緒事情により、採血調査は当初の計画をやや変更して進めた。③規制手法に関しては、リスク評価を行う際は、同族体による生物学的利用能の違いを考慮した係数(YNF)を考慮すべきことを検証した。
結論
ダイオキシンの人体内動態PBPKモデルの構築と、その規制手法への応用について一定の成果と今後の方向性を見つけることができた。次年度以降は、疫学調査の結果も踏まえ、検証データの充実を図りながら、次への進展を考える必要がある。

公開日・更新日

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