ダイオキシン類の体内動態及び細胞障害性の解明に関する研究

文献情報

文献番号
199900670A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシン類の体内動態及び細胞障害性の解明に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
久保田 俊一郎(東京大学大学院)
研究分担者(所属機関)
  • 福里利夫(群馬大学)
  • 野水基義(北海道大学大学院)
  • 堀久枝(東京医科歯科大学)
  • 林孝志(千葉大学医学部付属病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ダイオキシン類の体内動態(吸収、代謝、排泄)の解析を主目的とする。ダイオキシンのヒトでの体内動態を類推するために、ヒトに最も近縁の動物であるサル(アカゲザル)を用いて、ダイオキシン類のうちで最も毒性の強い2,3,7,8-TCDDを皮下投与し、経時的に各臓器、体液中、尿中、糞便中の2,3,7,8-TCDDとその代謝産物を定量測定し、その代謝動態を解析し、さらに、妊娠アカゲザルおよび哺育中のアカゲザルに2,3,7,8-TCDDを皮下投与した時の母動物、胎児および出生児への組織移行性やその組織障害性を調べる。また、広島大学安田峯生教授との共同研究で、妊娠アカゲザルおよび哺育中のアカゲザルに2,3,7,8-TCDDを皮下投与した時の雌雄出生児(F1)の生後発育、生殖器の形態、精子形成および生殖能に及ぼす影響も調べる。平成11年度は、予備試験として、血中濃度の測定に必要な採血量および採決間隔を明らかにする目的で2,3,7,8-TCDD(0, 30, 300 ng/kg)を雌アカゲザル各1匹に単回皮下投与し、投与後5,21,49日後に2,3,7,8-TCDDを測定した。組織標本を作成した。平成11年11月より本試験を開始し、途中経過であるが、妊娠アカゲザルへの3H-2,3,7,8-TCDD 300 ng/kg投与群の投与7日後の母獣および胎児の各組織中の2,3,7,8-TCDDの濃度を測定した。
研究方法
1. ダイオキシン(2,3,7,8-TCDD)の調整および投与 2,3,7,8-TCDDは、Wellington Lab.において、トルエン/DMSO (1:2 v/v)を溶媒として、濃度を300ng/mlに調整されたものを用いた。投与量は、0、30 ng/ml (0.1 ml/kg), 300 ng/ml (1ml/kg)とし、背部皮下に投与した。対照群は、トルエン/DMSO (1:2 v/v) 1ml/kgを2,3,7,8-TCDD投与群と同様の方法で投与した。2. 試験動物  雌アカゲザルは、China National Scientific Instruments & Materials Import/Export Corporationから購入し、株式会社新日本科学で検疫、予備飼育を行った。一般状態の観察、摂餌量測定、体重測定、血液生化学検査を行い、異常のないサル(6-9才、4.7‐5.9kg)を用いた。3. 血漿中2,3,7,8-TCDD濃度測定 2,3,7,8-TCDDを投与後、5、21,及び49日に大腿静脈から約20ml/サル、ヘパリン採血した。血漿に分離後、島津テクノリサーチ分析部にてガスクロマトグラフィー質量分析法にて分析した。4. 病理組織学的解析 2,3,7,8-TCDD投与後49日にペントバルビタールナトリウムを静脈注射し、放血安楽死させ、器官および組織の肉眼的観察および病理組織学的解析のための標本を採取した。(倫理面への配慮)上記の組織標本採取にあたり、サルを麻酔下で、放血安楽死させた。
結果と考察
2,3,7,8-TCDDの血中濃度の測定に必要な採血量および採血間隔を明らかにする目的で2,3,7,8-TCDD(0, 30, 300 ng/kg)を雌アカゲザルに単回皮下投与し、投与後5,21,49日に2,3,7,8-TCDDを測定した。その結果、0, 30, 300 ng/kgを投与したサルの2,3,7,8-TCDDの濃度は、それぞれ、5日後 (N.D.,0.92, 9.2 pg/g wet), 21日後 (N.D., 0.82, 20 pg/g)、49日後 (N.D., 0.52, 11 pg/g)であった。脂肪重量あたりに換算した場合は、それぞれ、5日後 (N.D.,320, 2600 pg/g fat), 21日後 (N.D., 610, 7400 pg/g)、49日後 (N.D., 170, 9000 pg/g)であった。剖検では、2,3,7,8-TCDD投与群で、投与部位皮下の出血および心外膜下の点状出血が見られた。また、2,3,7,8-TCDD 30ng/kg投与群で、左肺の赤色点、左肺と胸壁の癒着および肛門周囲直腸粘膜の暗赤色化が、300 ng/kg投与群では、肝臓辺縁部での小葉像明瞭化が見られた。対照群でも、投与部位の皮膚にか皮形成及び軽度の皮下出血が見られた。病理標本
での光学顕微鏡的解析でも、内分泌、消化器系、生殖系の臓器に異常所見が見られたが、これらの異常所見は、血中濃度の測定に必要な採血量および採血間隔を明らかにする目的の予備試験で各群1匹で行ったため、個体差を反映している可能性もあり慎重に評価する必要がある。平成11年11月より本試験を開始した。その途中経過の結果は、下記のとおりである。3H-2,3,7,8-TCDD 300 ng/kg投与群の投与7日後の組織中の2,3,7,8-TCDDの濃度は、2頭の平均値で以下の通りであった。母獣では、血中 5.71 pg eq /ml, 血漿 3.40 pg eq /ml, 肝臓 121.10 pg eq /g, 乳腺 50.97 pg eq /g, 脂肪組織 165.05 pg eq /g, 胎盤 199.02 pg eq /g, 臍帯 5.03 pg eq /g, 臍帯血漿1.64 pg eq /g, 胎児では、血中 5.46 pg eq /ml, 血漿 1.84 pg eq /ml, 肝臓 351.41 pg eq /g, 、脂肪組織 146.54 pg eq /g, 卵巣 60.64 pg eq /gであった。考察;2,3,7,8-TCDD血中濃度の測定に必要な採血量および採血間隔を明らかにする目的で行なった実験結果から、全血約20ml(血漿にして約10ml)で可能であり、投与後49日までは血漿中の2,3,7,8-TCDDの濃度の推移に大きな変動はないと判断した。血漿中の2,3,7,8-TCDD濃度を湿重量あたりあるいは脂肪重量あたりで表示する場合、実験結果からは、脂肪重量あたりで表示すると、ばらつきが大きい傾向があり、湿重量あたりで表示するほうが測定値のばらつきが小さいと考えられた。
結論
2,3,7,8-TCDD血中濃度の測定に必要な採血量および採血間隔を明らかにする目的で行なった実験結果から、全血約20ml(血漿にして約10ml)で可能であることが明らかとなった。また、2,3,7,8-TCDD投与後49日までは血漿中の2,3,7,8-TCDDの濃度の推移に大きな変動はないと考えられた。剖検では2,3,7,8-TCDD投与群で、投与部位皮下の出血および心外膜下の点状出血が見られた。2,3,7,8-TCDD 30ng/kg投与群で、左肺の赤色点、左肺と胸壁の癒着および肛門周囲直腸粘膜の暗赤色化が見られた。また、2,3,7,8-TCDD 300 ng/kg投与群では、肝臓辺縁部での小葉像明瞭化が見られた。対照群でも、投与部位の皮膚にか皮形成及び軽度の皮下出血が見られた。病理組織標本での光学顕微鏡的解析でも、内分泌、消化器系、生殖系の臓器に異常所見が見られた。しかしながら、採血量および採血間隔を明らかにする目的で行なった予備実験のため、1群1頭であり、個体差を反映している可能性がある。この点を明らかにするためには頭数を増やして実験を行い、再現性を確認し評価する必要がある。

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