タバコ煙及び加熱食品中のダイオキシン類の定量及びその評価

文献情報

文献番号
199900669A
報告書区分
総括
研究課題名
タバコ煙及び加熱食品中のダイオキシン類の定量及びその評価
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
若林 敬二(国立がんセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 川森俊人(国立がんセンター研究所)
  • 多田敦子(国立がんセンター研究所)
  • 後藤純雄(国立公衆衛生院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
乳がん、精巣がん等の発生に環境中の内分泌撹乱物質が関与していることが示唆されている。更に、内分泌撹乱作用を示すダイオキシン等の化合物は生物濃縮が起こりやすく、大きな社会問題になっている。ダイオキシン類は食物、大気、水及び土壌中より検出されており、そのヒト曝露量は大都市地域で 0.52-3.53 pgTEQ/kg/day と報告されている。ダイオキシン類の大きな発生原因の一つとして、ゴミの焼却炉における加熱反応が関与していることが指摘されている。
一方、我々のより身近な生活環境で、加熱反応が係っているものとしては、喫煙や加熱調理食品が挙げられる。タバコの煙は喫煙者に直接摂取される主流煙と空気中に拡散する副流煙があり、両者の煙ともニトロソアミン類、多環性芳香族炭化水素化合物等の発がん物質が含まれている。又、焼肉、焼魚等に代表される加熱調理食品にもヘテロサイクリックアミン等の発がん物質が存在していることが報告されている。しかしながら、タバコの煙及び加熱食品中のダイオキシン類の広範な分析研究は未だ行われておらず、正確な定量値の報告はほとんどない。
本研究においては、日常生活に密着したタバコの煙中のダイオキシン類の定量を行い、生活環境中に存在しているダイオキシン類の由来を正確に把握し、それらのヒト健康に及ぼす影響を評価することを目的とする。また環境中にはダイオキシンやPCB類と同様な毒性を有する未知化合物が多く存在しているものと推定される。そこで、内分泌撹乱作用を示す新規物質の同定についても本研究で行う。以上の研究をとうして得られる成果は、公衆衛生学的見地より重要な基礎的研究資料となるばかりでなく、ダイオキシン類等の内分泌撹乱物質のヒト曝露量のバックグラウンドを知る上で貴重なデータになるものと思われる。
研究方法
研究は以下の4つに分けて行った。すなわち、1)タバコ煙中のダイオキシン類定量のための前処理法の開発、2)タバコ煙中のダイオキシン類の定量、3)環境中の新たな内分泌撹乱作用物質の検索、4)内分泌撹乱作用物質のin vivo毒性評価系の検討である。具体的には、1)については、種々の回収方法、特にタバコ煙成分のフィルター捕集に際しての、フィルターの種類、捕集速度、その後のカラム分離における分析妨害成分の除去、ならびにコンタミネーションに対する防御策など、広い観点から前処理法の検討を行った。2)については種々の銘柄のタバコの煙及びタバコの葉の中に存在するダイオキシン類含量を分析し、タバコの葉の燃焼に由来するダイオキシン化合物の種類及び生成量を測定する。更に、タバコの煙からのダイオキシン類のヒト曝露量を測定し、それらのヒト健康に及ぼす影響を評価する。3)については報告例の少ない河川水に注目し、新たな内分泌撹乱作用物質の検索を行った。4)では、内分泌撹乱作用物質の評価を行うことを目的として、現在、内分泌撹乱作用のin vivo試験として広く用いられている卵巣摘出ラットの子宮重量変化を指標とした検出方法を用いその有効性を検討した。更に加熱食品中に含まれる発がん性ヘテロサイクリックアミンの子宮重量変化に及ぼす影響について検討した。
結果と考察
上記研究方法により以下の成果を得た。
1)タバコ煙中のダイオキシン類の捕集、精製
タバコ煙の捕集・精製に関し以下の方法により効率よく捕集・精製、その後のGC/SIMS分析を行えることが明らかとなった。
すなわち定量型自動喫煙装置を用い、国際標準喫煙モードに基づき燃焼させたタバコの主流煙及び副流煙は、石英繊維フィルター及びポリウレタンフォーム(PUF)を用いて回収した。フィルターまたはPUFをメタノール及びトルエンで超音波抽出し、内部標準物質を加えた後、1M 塩酸、次いで1M 水酸化ナトリウム溶液を加えて液-液分配を行った。得られたトルエン溶液を順次、シリカゲルカラム、硫酸酸性エクストレルートカラム、シリカゲルカラム、塩基性アルミナカラムを用いて精製し、最終的に塩化メチレン-ヘキサン溶離液で溶出しサンプルをGC/SIMSで分析した。
2)タバコ煙中のダイオキシン類の定量
国際喫煙モードに基づいてタバコを燃焼させ、そのすべての主流煙および副流煙からPCDD類ならびにPCDF類が検出された。我々の用いた捕集方法において、タバコ煙中のダイオキシン類は、フィルター及びPUFでほぼ完全に捕集されていると考えられた。主流煙中のダイオキシン類濃度が高い銘柄については、副流煙中の濃度も高い傾向がみられた。また、PCDDはフィルターで、PCDFはPUFでトラップされている傾向がみられた。主流煙および副流煙中のダイオキシン類の濃度は、タバコ1本当たり8.5~25 pgおよび9.5~35pgであった。それらの毒性等価換算濃度は、1998年WHO/ICPSの毒性等価係数 (TEF)を用いて2,3,7,8-TCDDの毒性に換算した結果、主流煙はタバコ1本当り0.0005~0.6pg-TEQ、副流煙は0~0.36 pg-TEQであった。3種類の国産タバコについて、その葉からもダイオキシン類がタバコ1本当たり60~65 pgの濃度で検出された。タバコの主流煙及び副流煙中のダイオキシン類の種類および濃度と、タバコの葉のそれらを比較することにより、タバコの煙中のダイオキシン類はタバコの葉に由来するものと、タバコの葉の燃焼によって生じたものとがあることが考えられた。
3)環境中の新規内分泌撹乱作用物質の検索
河川水の変異原活性の強いことが指摘されている和歌川に注目し、この河川水中の変異原物質の単離を行った。その結果、新規変異原物質として4-amino-3,3'-dichloro-5,4'-dinitrobiphenylを同定した。この化合物の変異原性はS. typhimurium TA98に対して、1 _g当りS9 mixの非存在下で202,000であり、MeIQx (145,000 rev./_g)とほぼ同様の比活性を示すことがわかった。また、同化合物はアリルハイドロカーボンレセプター(AhR)を発現させた酵母を用いた系においてAhRと結合し、その活性は_-naphthoflavoneとほぼ同等であることがわかった。また、この化合物は、和歌川の河川水中に21 ppbの濃度で存在することが明らかになった。
4)内分泌撹乱作用物質のin vivo毒性評価系の検討
卵巣摘出したラットの子宮重量変化を指標とした試験系を用いて、17_-estradiol および加熱食品中の発がん物質として知られている3種類のヘテロサイクリックアミン、IQ、PhIP、Glu-P-2の活性を調べた。17_-Estradiol投与により、子宮重量、子宮内膜及び上皮細胞の高さが増加した。又、細胞増殖率も増加した。このことより、本試験は in vivoエストロゲン様作用物質の検出系として有用であることが示唆された。一方、今回検討した3種類のヘテロサイクリックアミン、IQ、PhIP、Glu-P-2は、この実験系において、明らかなエストロゲン様作用を示さなかった。今後、この実験系を用いて様々な環境中のエストロゲン様作用物質の検索を行なっていく予定である。
結論
1)国際モードに従い定量型自動喫煙装置でタバコを燃焼させ、種々の捕集方法を用いて、タバコ中のダイオキシン類定量法を検討した。その結果、石英フィルターとウレタンフィルターの二重トラップを用いることによりPCDD類、PCDF類を効率よく回収できることが分かった。
2)タバコの主流煙、副流煙中のダイオキシン類の含量はタバコ1本あたり、18~60pg であった。一日に体重50 kgの人が一箱喫煙した場合の主流煙中のダイオキシン類の毒性等価換算濃度は0.0002~0.24 pgTEQ/kg/dayであり、大都市地域の大気中からのそれらとほぼ同程度であった。
3)タバコの主流煙、副流煙及びタバコの葉中に含まれているダイオキシン類を定量した結果より、タバコ煙中のダイオキシン類はタバコの葉に由来するものと、タバコの葉の燃焼によって生じたものとがあることがわかった。
4)和歌川河川水中よりコプラナーPCB誘導体 4-amino-3,3'-dichrolo-5,4'-dinitrobiohenylを同定した。この化合物は変異原性を示すとともにAhRに_-naphthofravone と同程度の強さで結合する事がわかった。
5)卵巣摘出ラットを用いた実験系はin vivoエストロゲン作用物質の検出系として有用であることが示唆された。一方、乳がん誘発物質であるPhIP及びIQは本実験系においてはエストロゲン作用を示さなかった。PhIP及びIQによる乳がんの発生にはエストロゲン作用以外の機構が関与していることが推定された。

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