ダイオキシン類の健康影響に関する総合的評価研究

文献情報

文献番号
199900667A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシン類の健康影響に関する総合的評価研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 隆一(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 黒川雄二(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 大野泰雄(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 江馬眞(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 広瀬明彦(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ダイオキシン類は、特定の使用目的をもって生産される化学物質ではなく、各種有機化学物質の生産工程や廃棄物の処理過程等で生成する非意図的な化学物質である。各種の化学製品への不純物としての混入、廃棄物の焼却炉からの排出等、多岐にわたる発生源が知られており、更に動物実験や人での疫学調査で非常に強い毒性を有することが明らかにされている等、その制御は世界的に大きな問題となっている。また、ダイオキシン類は、分解しにくく、野生生物や人体中の脂肪組織に蓄積することが知られており、暴露による健康への影響が懸念されている。国際的には、ダイオキシンの発がん性について、最も毒性が強い2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-パラ-ジオキシンに関して、平成9年2月に、国際がん研究機関(IARC)において、グループ1(人に発がん性あり)と判断され、平成9年には、WHO欧州事務局においてダイオキシン類の毒性評価に用いられる毒性等価係数(TEF)の見直し、平成10年には、WHO欧州事務局においてダイオキシンの耐容一日摂取量(TDI)が再評価された。 我が国においても、各省庁が連携してダイオキシン類に対する総合的な調査研究を実施するとともに、厚生省と環境庁が合同で、我が国のダイオキシンのTDIの見直しに関する検討を行ったところである。 しかしながら、本研究で実施するダイオキシン類似化合物や健康影響の評価手法に関する基礎的かつ網羅的な調査研究は、現在までに行われていない。ダイオキシン対策には、発生源対策、人体暴露調査、食品暴露調査、ダイオキシンの発生機構の解明等各種の取り組みがあるが、このうち本研究で実施する健康影響に対する総合的評価の結果は、総合的なダイオキシン対策を推進していく上で最も重要である。
研究方法
今年度は、ダイオキシン類の健康評価上、重要な位置を占める耐容一日摂取量(TDI)の算定根拠となりうる有害影響について、そのキーポイントなる実験の評価および体内負荷量の算出に関わる研究を行った。また、塩素化ダイオキシン類と同様な毒性を示すと考えながら、その健康影響上の評価が余り行われていない臭素化ダイオキシン類に関する毒性情報を収集し、各種毒性(体内動態及び代謝、一般毒性、発がん性、変異原性、免疫毒性、生殖発生毒性、生化学的影響および疫学情報)について分類・整理を行った。
結果と考察
ダイオキシン類の一般毒性、発がん性、免疫毒性及び生殖発生毒性:実験動物に対する2,3,7,8-TCDDの発がん性については、マウス・ラットを用いた長期試験で肝細胞がんの発生、甲状腺濾胞腺腫、口蓋・鼻甲介・舌および肺の扁平上皮がん、リンパ腫の誘発が認められている。肝毒性としては、肝細胞肥大や脂質代謝異常が適切な指標になる。免疫毒性としては、胸腺萎縮や細胞性および体液性免疫異常を引き起こし,ウイルス感染に対する宿主抵抗性や抗体産生能の抑制が認められる。また、母ラットへ投与すると、仔動物における遅延型過敏反応の抑制や抗体産生能の抑制がみられる。これらの影響は、体内負荷量86ng/kg以上で明瞭に発現すると考えられる。生殖発生毒性においては、TCDDの投与により高用量でラット、マウスで口蓋裂や水腎症が誘発される。母動物よりも胎児及び出生後の児動物への影響が強く、ラットでの繁殖性試験で、次世代以降に受胎率の低下が認められる。また、母ラットにTCDDを投与した場合の児動物における精子数の減少などが見られるが、わが国での追試では再現性は認められていない。妊娠ラットに投与した場合の児動物における雌性生殖器の形態
異常が、172 ng/kgの体内負荷量から認められている。アカゲザルを用いた実験では、母動物にTCDDを4年間投与後、10年後に子宮内膜症を誘発し、また、交配前から離乳期まで母動物に投与した場合の児動物には、学習能力の低下が観察されているが、本実験には科学的に見て不確定要素があり、絶対的数値として採用することは困難である。これより低い体内負荷量低用量で薬物代謝酵素誘導やTリンパ球の分化への影響が認めらているが、adverse effectsを引き起こすとは考えにくい。体内負荷量の算出は低用量で毒性の現れた事例について、当該動物におけるTCDDの吸収率、および半減期を基に毒性発現用量を投与した時の最高推定体内負荷量を計算した。また、その値に対応するヒトにおける一日摂取量計算結果も計算した。
ダイオキシン類の作用機序及びTEF:ダイオキシン類の毒性は、細胞内にあるアリール炭化水素受容体(Ahレセプター)という蛋白を介して発現すると考えられてきた。近年Ahレセプターを欠くマウスを用いた実験により、主な毒性である肝臓や胸腺への毒性や発生毒性がAhレセプター依存性であることが証明されている。ダイオキシンとAhレセプターの親和性には動物種、系統により違いがあり、ヒトのレセプターはマウスの感受性の低い系統のものに類似している。TCDDによる発がん性は直接遺伝子を傷をつけることによるのではなく、発がんを促進するプロモーション作用によるとされている。この作用や、内分泌かく乱作用もAhレセプターが仲介していると考えられている。また、暴露評価にあたっては、ダイオキシン類(PCDDとPCDF)およびコプラナーPCB(co-PCB)の毒性発現はAhレセプターを介する共通の作用機構を想定し、それぞれの同族体の毒性強度を毒性の最も強い2,3,7,8-TCDDを1としたときの毒性等価係数 (TEF)として表す。通常、これらの物質は混合して環境中に存在するので、その毒性の強さは各物質のTEFに存在量を乗じたものを総和した毒性等量(TEQ)として表すことができる。TEFは、各種の実験から長期毒性、短期毒性、in vivoおよびin vitroの生化学反応の順でそれらの結果を採用・比較し、設定されたものである。現在までに数多くの追加研究が行われ、概ねそれぞれの同族体のTEFは適正であることが支持されており、現時点では1997年にWHOで再評価された最新のTEFをもとに、TEQを算出してダイオキシン類の暴露評価に用いることが妥当であると考えられる。
臭素化ダイオキシン:体内動態については、多くの研究が2,3,7,8-TeBDD(TBDD)について言及している。PCDD/PCDFの場合と同様に、ヒトについて計算された半減期は、ラットの半減期より長く、TBDDについては3~11年であり、2,3,7,8-TeBDF(TBDF)については1~2年と推算されている。ポリ臭素化ジベンゾ-p-ダイオキシン(PBDD)の単回投与投与ラットでは、用量依存的な細胞質の空胞化、希薄化や細胞肥大といった肝毒性と、組織球によるリンパ球の貪食作用を特徴とする胸腺萎縮が認められた。TCDDと比べ、TBDDの亜慢性投与による毒性のスペクトルは似ているが、活性はTCDDより弱い様である。変異原性試験及び,発がん性を含む動物を用いた長期毒性試験は行われていない。TBDD及びTBDFは、免疫毒性や生殖発生毒性においてもTCDDやTCDFに類似した免疫毒性を示す。毒性学的関連情報の多くは、TBDDとTCDDの2,3,7,8-置換ジベンゾ‐p‐ダイオキシンの同族体を扱っており、両方の同族体に対して同じTEF値を用いてもかまわないことを示していると考えられる。
結論
ダイオキシン類の耐容1日摂取量(TDI)を算定するにあたり、その体内負荷量が最も低いところで発現すると思われる毒性学的影響に関する文献情報について評価を行った。その結果、WHOでの再評価でも取り上げられたように母動物に投与した場合の児動物において免疫学的異常や生殖器への影響が、体内負荷量が約80ng/kg付近から発現していること考えられた。これより低い体内負荷量低用量で薬物代謝酵素誘導やTリンパ球の分化への影響が認めらているが、adverse effectsを引き起こすとは考えにくい。
臭素化ダイオキシン類に関する毒性情報を体内動態及び代謝、一般毒性、発がん性、免疫毒性、生殖発生毒性、生化学的影響および疫学情報に分類し、各種文献情報から最新の毒性学的知見を収集・整理した。体内動態については、多くの研究が2,3,7,8-TeBDD(TBDD)について言及している。TCDDと比べ、TBDDの亜慢性投与による毒性のスペクトルは似ているが、活性はTCDDより弱い様である。変異原性試験及び,発がん性を含む動物を用いた長期毒性試験は行われていない。TBDD及びTBDFは、免疫毒性や生殖発生毒性においてもTCDDやTCDFに類似した免疫毒性を示す。毒性学的関連情報の多くは、TBDDとTCDDの2,3,7,8-置換ジベンゾ‐p‐ダイオキシンの同族体を扱っており、両方の同族体に対して同様のTEF値を用いてもかまわないことを示していると考えられる。

公開日・更新日

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