生体試料中ダイオキシンの酵素イムノアッセイ法の開発研究

文献情報

文献番号
199900666A
報告書区分
総括
研究課題名
生体試料中ダイオキシンの酵素イムノアッセイ法の開発研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
松木 容彦((財)食品薬品安全センター・秦野研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 中澤裕之(星薬科大学)
  • 安生孝子((財)食品薬品安全センター・秦野研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
42,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ダイオキシンの測定については主に高分解能ガスクロマトグラフィー/マススペクトロメトリー(HRGC/MS)が用いられているが、HRGC/MSによる測定法では環境、食物、生体試料等いずれの試料種の測定においても多段階で繁雑なクリーンアップ操作が避けられず、測定に要する操作時間は著しく長く、かつ測定経費も高価なものとなっている。一方、ダイオキシンによるヒトでの汚染実態の解析や曝露推移状況の把握も行政上も急務とされ、安価でかつ迅速なダイオキシンのスクリーニングまたはモニタリング法の開発が強く望まれている。本研究ではダイオキシンのポリクローナルまたはモノクローナル抗体の作製を行い、これらを用いてヒトの生体試料(母乳、血液、脂肪、胎児等)中のダイオキシンの簡便でかつ高感度な酵素免疫測定法(ELISA)を確立し、ダイオキシンによる汚染状況のスクリーニング調査やヒトでの経日的あるいは経年的体内曝露推移のモニタリングに資することを目的としている。
研究方法
1.国外入手抗体を用いた母乳中ダイオキシンのELISA法の構築とGC/MSとの相関: GC/MSにより母乳100検体を分析し、得られたダイオキシン異性体の中で毒性等量(TEQ)と相関が高く、かつ検出量の多いダイオキシンを検索した。ダイオキシン同族体濃度はそれぞれ fat basisで換算し、TEQはWHO-TEF (1988) を用いて算出した。ついで既存の抗体(カリフォルニア大学デイビス校より入手)を用いてELISA手法、溶媒、界面活性剤などの組み合わせについて検討し、至適条件を得、ELISA法を確立した。一方、同一母乳試料を用いてELISA法による測定値の真度や精度についてGC/MSにより確認するために試料に加えるサロゲート種について検討を行い、また、従来のGC/MS測定に用いられている前処理法を改良して簡便な前処理操作を確立した。そこで、母乳を2分してそれぞれ確立したELISA法とGC/MS法によりダイオキシン類を測定し、両手法による測定結果(17検体)の比較とTEQ換算値の比較を行った。 2.新規抗体作製とELISA法の確立:1)ハプテン合成、BSAおよびHRP結合物の調製:①常法に従い、ダイオキシン骨格 C-1および C-2位に結合種と長さの異なる側鎖を導入し、十数種のハプテン抗原のエステル体を得た。② ①で得られたハプテン-エステル体の中から6種について脱エステル化後、N-ヒドロキシサクシニルイミド (NHS)との反応により対応するハプテンNHSエステル体を得た。NHS-エステル体とBSAとの反応により目的の各ハプテン-BSA結合物を得た。③同様にハプテン-NHSエステルとHRPとの反応により目的の各ハプテン-HRP標識体を得た。2)ポリクローナル抗体の調製とELISA法の確立:①6種のハプテン-BSA結合物を常法に従い雄性ウサギ(各ウサギに免疫、各3匹)背部皮内に3週間5回投与し、それぞれ各抗血清を得た。②投与期間中に得られた血清について抗体価を調べた。③ ②の結果から抗体価の良好な抗血清についてHRP-ハプテン標識体に対するTMDD阻害効果について調べ、最も良好な阻害効果反応性有する抗血清を選択した。さらにブロッキング液や反応液の条件も整えて最終的に至適ELISA条件を設定した。④ ③で設定したELISA法により 2,3,7,8-TCDDの標準曲線を得、この標準曲線により他のダイオキシン同族体16種についての交叉性を調べた。3)モノクローナル体の調製:ハプテン-BSA結合物4種をマウスに反復免疫投与し、各マウスから抗血清を得、抗ダイオキシン抗体価について調べた後、良好な値を示した抗血清についてTMDDによる阻害効果について調べた。抗体価と阻害効果の良好なマウス個体から脾細胞を得、これらとミエローマ細
胞と融合させ、HAT選択培養により得られた融合細胞の培養上清をELISAによりスクリーニングして、抗ダイオキシン抗体の分泌の有無を確認した。
結果と考察
研究結果ならびに考察=1.国外入手抗体を用いた母乳中ダイオキシンのELISA法の構築とGC/MSとの相関:GC/MS測定により得た各ダイオキシン同族体毎にTEQとの相関性を求めた結果、毒性等価係数 (TEF) が高くかつ存在量比も大きい1,2,3,NULL,7,8-PeCDDと 2,3,4,7,8-PeCDFがTEQに対して高い相関(r=0.962、r=0.941)があることがわかり、これらの結果からこの両化合物がELISAの測定対象として最適であることが確認された。用いた国外の抗体は2,3,7,8-TCDDと 1,2,3,7,8-PeCDFに対しほぼ等価で反応するポリクローナルであり、検量線から1.5 pg/well~135 pg/wellの両化合物の測定が可能となった。つぎに、簡易化改良したGC/MSにより、同一試料母乳中のダイオキシンを測定し、本ELISA法と比較したところ、GC/MSから得られた 2,3,7,8-TCDDと 1,2,3,7,8-PeCDDの合計値は、ELISA法の測定値とほぼ一致する結果が得られ、さらに、TEQとELISA法の測定値との関係には良好な相関関係が認められた。
2.新規抗体の作製おELISA法の確立:1)ハプテン抗原、ハプテン-タンパク結合物および標識体の合成:ELISA構築に当りダイオキシンの対称構造を考慮して C-1および C-2位にスペーサー導入を図り、十数種合成した。これらの中から炭素鎖が2~4の6種(C-1結合3種、C-2結合3種)を用いて常法に従い活性エステル法によりそれぞれBSA結合物と、HRP標識体を作製した。2)ポリクローナル抗体の調製とELISA法の確立:得られた各ハプテン-BSA 6種をウサギに免疫して得られた血清(no.1~no.18)の中から抗体価が高く、TMDDによる阻害効果も良好な抗血清(no.5:C-1ハプテン-BSAで免疫)とHRP標識体(Ⅱ-6-HRP、C-2位にHRP導入)を選択した。最終的にサイトヘテロロガスなELISA法を確立した。検量線の範囲は1~625 pg/wellで良好な精度および真度を与えた。さらに、抗血清 no.5はTEFの大きい2,3,7,8-TCDD、1,2,3,7,8-PeCDDおよ2,3,4,7,8-PeCDFと比較的高い交叉性が、また、1,2,3,4,7,8-HxCDDともいくぶん交叉性がみられ、新規抗体を用いた本ELISA法の母乳実試料の測定への適用性は十分可能性が高く、TEQとの高い相関性が得られると期待される。3)モノクローナル抗体の調製:比較的良好な抗ダイオキシンポリクローナル抗血清が得られたハプテン-BSA 4種を用いてマウスに免疫し、得られた各抗血清について各HRP標識体との反応性、ダイオキシンとの競合的な結合阻害効果を調べ、その中でも良好な結果を与えるマウス2匹を選択し、細胞融合実験を行い、有意な抗体産生を示したハイブリドーマについて現在、スケールアップ操作を行っている。
結論
今回、GC/MSとの組み合わせ検討により、国外入手の抗体を用いたELISA法により、実際に母乳中のTEFの大きいダイオキシン2種の測定が可能であることが示され、高い正確さでヒトでのTEQ換算曝露レベルの評価が可能となった。一方、国外抗体と同等もしくはさらに優れた国産のダイオキシン抗体の作製にも成功し、ELISA測定法が確立できた。今後、クリーンアップ操作の検討を加え、早急に実生体試料の測定に応用したい。また、生体試料中のダイオキシンのスクリーニングやモニタリングに使用できる汎用性のあるELISA法を確立するため、一定の品質の抗体を供給できるモノクローナル抗体の作製を成功させ、ELISA法の確立を図るとともにイムノアフィニティー抽出法やクリーンアップへの応用についても検討を始める。さらに、ELISA法の超高感度化を図り、測定試料を可能な限り少なくするため、ELISA法と生物発光検出系を組み合わせた測定法の開発や非競合法のイディオメトリックイムノアッセイ系の開発を行うことを予定している。

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