テトラクロロエチレンの排出に伴う大気中拡散濃度分布調査

文献情報

文献番号
199900664A
報告書区分
総括
研究課題名
テトラクロロエチレンの排出に伴う大気中拡散濃度分布調査
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
門脇 武博(全国クリーニング環境衛生同業組合連合会)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ドライクリーニングでは、洗浄溶剤としてテトラクロロエチレンが広く使用されている。このテトラクロロエチレンは、環境汚染のみならず健康への影響として発癌性が懸念されている。現在、わが国で使用されているドライクリーニング機(以下ドライ機)は処理の最終工程に脱臭の操作があり、ドラム内に外気を取り入れ、回収不能なテトラクロロエチレンを大気に排出する構造の開放型と、ドライ機に内蔵された装置によりドラム内のテトラクロロエチレンを回収した後、再びドラム内へ空気を循環させる密閉構造の密閉型の2種類がある。平成8年5月に改正された大気汚染防止法(平成9年4月施行)では、開放型ドライ機の場合、処理能力が30kg/回以上に対し、活性炭吸着処理装置の設置が義務づけられている。30kg未満の場合は努力義務となっている。また、活性炭排気吸着処理装置等の設置によりテトラクロロエチレンの排出抑制基準を500mg/m3以下(新設ドライ機は300mg/m3以下)にするよう規制が行われている。さらに、テトラクロロエチレンの大気中の環境基準が、年間平均0.2mg/m3以下と設定された。この研究においては、クリーニング所のドライ機から排出されたテトラクロロエチレンが、実際にどのように地域に拡散・分布するか、方向、距離、濃度について測定を行い、大気汚染防止法の環境基準がどれほど遵守できているかを把握した。特に、今年度は、昨年度の大気中濃度の測定が、クリーニング業の閑散期である2~3月であったのに対し、テトラクロロエチレンの使用量の多い、繁忙期の10月に調査を実施した。さらに、大気に排出されたテトラクロロエチレンが、地域住民に対してどのように影響しているかを知るため、室内中濃度並びに住民の曝露状況についての調査を行い、健康被害防止を目的として、クリーニング所におけるドライ機の使用方法、管理方法についてのガイドラインを作成した。
研究方法
テトラクロロエチレンを使用しているクリーニング所において、排気方式及び処理量の異なる3箇所のクリーニング所を調査の対象とし、排気口から排出される濃度、クリーニング所敷地内の濃度、クリーニング所を中心に周辺東西南北8方位につき、50m及び100m地点、高さ0.5~1.0mで、24時間大気を捕集し、各テトラクロロエチレンの濃度を調査した。室内中のテトラクロロエチレンは室内の1室の中央に高さ0.5m以上で、パッシブガスチューブを用いて24時間捕集した。住民の個人暴露は、室内濃度採取に協力した住民に対して、パッシブガスチューブを襟元に装着して24時間捕集した。なお、就寝時は当該ガスチューブを襟元ないしはハンガーにかけた衣類に取り付けた。試料の定量法等は、原則的に環境庁の「有害大気汚染物質測定法マニュアル」に従った。
結果と考察
Aクリ-ニング所は開放型ドライ機であり、排気口出口濃度は3,955mg/m3と高い濃度のテトラクロロエチレンが検出された。また、敷地内は、北側2.33mg/m3、東側1.76mg/m3、南側2.06mg/m3、西側1.76mg/m3のテトラクロロエチレンが検出された。排出口濃度は設定値を大幅に上回り、ドライ機の活性炭吸着装置の能力、使用方法、管理方法等に問題があるのではないかと推察される。Bクリ-ニング所は密閉型ドライ機であり、脱臭(排気)工程がないため、洗濯終了後衣料取出し時に取出し口で測定(作業環境測定のB測定に相当(管理濃度50ppm))した結果、489mg/m3(72.1ppm)のテトラクロロエチレンが検出された。また、敷地内は、北側1.72mg/m3、東側2.44mg/m3、南側1.44mg/m3、西側0.80mg/m3であった。Dクリ-ニング所(Cクリーニング所で排気口、敷地内の測定の協力が得られなかったので、類似の仕様のDクリーニング所の設備を測定)は
開放型ドライ機であり、排気口出口濃度は994mg/m3と高い濃度のテトラクロロエチレンが検出された。また、敷地内は北側0.19mg/m3、東側1.78mg/m3、南側1.40mg/m3、西側0.08mg/m3のテトラクロロエチレンが検出された。大気中へのテトラクロロエチレンの拡散濃度分布はAクリーニング所を中心とした50m地点の平均は0.0235mg/m3±0.0183。100m地点の平均0.0091mg/m3±0.0078。測定点全体の平均は0.0175mg/m3±15.77であった。Bクリーニング所を中心とした50m地点の平均は0.0015mg/m3±0.0007。100m地点の平均は0.0013mg/m3±0.0006。測定点全体の平均は0.0014mg/m3±0.0006であった。Bクリーニング所は、密閉型であり、大気中の濃度は相対的に低濃度であった。Cクリーニング所を中心とした50m地点の平均は0.0067mg/m3±0.0093。100m地点の平均は0.002mg/m3±0.002。測定点全体の平均は0.0044mg/m3±0.0070であった。室内中のテトラクロロエチレン濃度分布は、Aクリーニング所を中心に、50m地点の平均は0.0115mg/m3±0.0084。100m地点の平均は0.0069mg/m3±0.0063。測定点全体の平均は0.0088mg/m3±0.0073であった。Bクリーニング所を中心に、50m地点の平均は0.0012mg/m3±0.0004。100m地点の平均は0.0010mg/m3±0.0002。測定点全体の平均は0.0012mg/m3±0.0004であった。Cクリーニング所を中心に、50m地点の平均は0.0035mg/m3±0.0036。100m地点の平均は0.0014mg/m3±0.0012。測定点全体の平均は0.0026mg/m3±0.0029であった。地域住民のテトラクロロエチレンの個人曝露濃度は、Aクリーニング所を中心に、50m地点の平均は0.0092mg/m3±0.0045。100m地点の平均は0.0077mg/m3±0.0071。測定点全体の平均は0.0082mg/m3±0.0060であった。Bクリーニング所を中心に、50m地点の平均は0.0015mg/m3±0.0003。100m地点の平均0.0012mg/m3±0.0010。測定点全体の平均は0.0013mg/m3±0.0007であった。Cクリーニング所を中心に、50m地点の平均は0.0013mg/m3±0.0017。100m地点の平均は0.0017mg/m3±0.015。測定点全体の平均は0.0015mg/m3±0.0015であった。
結論
1)クリーニング所A、B、Cの大気中拡散濃度、室内中濃度、個人暴露を総合して、各々の相関関係を求めると、大気中濃度/室内濃度でR=0.939、室内濃度/個人暴露でR=0.955、大気中濃度/個人暴露でR=0.925と高い相関関係が得られた。2)ドライ機排気口から排出されるテトラクロロエチレン濃度は、994~3,955mg/m3と高く、排出抑制基準の500mg/m3を超えていた。3)各クリーニング所の敷地内の最高テトラクロロエチレン濃度は 1.78~2.44mg/m3であった。4)各クリーニング所周辺に拡散した大気中テトラクロロエチレン濃度は、密閉型ドライ機使用地域に比べて開放型ドライ機使用地域で高いことが認められた。5)各クリーニング所を中心としたテトラクロロエチレンの拡散は、風向、風速の影響を強く受け、風下の濃度が高いことが認められた。6)各クリーニング所周辺地域の室内中テトラクロロエチレン濃度は、ドライ機から排出される当該濃度の影響並びに風向の影響を受けていることが認められた。7)各クリーニング所周辺の地域住民のテトラクロロエチレンの個人曝露濃度は、開放型ドライ機使用地域の方が密閉型ドライ機使用地域より高い濃度であった。以上のことより、クリーニング所周辺に拡散した大気中テトラクロロエチレン濃度は環境基準以下であったが、大気中濃度が室内濃度、個人暴露に影響することがわかった。排気口でのテトラクロロエチレン濃度が、排出抑制基準を超えているクリーニング所があり、作業者内の環境面はもとより労働衛生面にも問題があることがわかった。これらのことから、排出抑制基準の遵守には、ドライ機および活性炭吸着処理装置等の管理及び使用法の徹底が必要であり、その標準作業マニュアルを作成し、業者に管理および使用法の徹底を図る必要があるものと考えられる。今回排出口基準を上回ったAクリーニング所においては、今回の測定値の意味するところが十分に理解され、活性炭の交換が速やかに実施された。

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