建築物の多様化に対応した新たなる維持管理手法の構築に関する研究

文献情報

文献番号
199900663A
報告書区分
総括
研究課題名
建築物の多様化に対応した新たなる維持管理手法の構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
小川 博(財団法人ビル管理教育センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
建築物の多様化に伴う新たなる維持管理手法の確立
研究方法
建築物内の①管理体系、②給排水管理、③空気質管理、④清掃・廃棄物、⑤ねずみ・こん虫等の防除等における維持管理上の問題点を把握後、維持管理方法、設計施工対応等を具体的に検討し、更に建築物内の環境全般を取り巻く人的あるいは物的基準並びに維持管理評価基準を作成した。この検討結果をもとに、設置・更新に関わるライフサイクルアセスメントの構築等を検討し、将来的な環境及び管理のあり方を提言した。
結果と考察
現行法の特定用途で、かつ延べ床面積が3,000㎡以上である建築物(非特定用途面積の占める割合に関係なく)を第1種特定建築物と位置づけし、現行法の義務を課すこととし、用途が共同住宅、医療施設、社会福祉施設、寄宿舎、あるいは延べ床面積が1,000~3,000㎡未満の建築物は第2種特定建築物とし、原則は現行法に準ずることを提案する。この提案に併せ、建築物環境衛生管理技術者の配置は、原則は専任が望ましいが、諸般の事情より第2種特定建築物は、当面の間は、兼任を認めることとする。なお、第2種特定建築物に含まれる医療施設並びに社会福祉施設の管理手法は、身体的弱者の利用、特殊設備の設置、微生物・医療廃棄物対策等より高度な衛生的な知識や対応が要求される。このため、建築物環境衛生管理技術者の資質の向上策として、研修会への参加、再講習会の創設が必要となる。
更に、地位の向上策としては、利用者への維持管理者名等の情報公開の実施並びに建築物内環境を維持管理者自身が実施する総合評価手法を活用し、維持管理者の認識・意欲の向上を図る。この総合評価手法の活用は、用途拡大時の行政の各施設の維持管理レベル別の対応方法の確立にも繋がる。また、ASHRAE Guideline 等を参考にして、空気調和システムの適切な運転・管理工程に関するガイドラインを作成し、竣工時の機能の適正評価手法を確立することも必要である。登録事業の問題点とその対応としては、特定建築物の維持管理内容に現行の登録事業のみでは対応できない面もあるため、登録要件及び基準の見直し並びに新たな登録業種を規定する必要がある。なお、登録業者の資質の向上のため、教育システムの見直し、内部・外部精度管理システムの構築、各都道府県のデータを総合的に集約するネットワークシステムの構築が必要である。
給排水設備の管理の問題点と対策では関連設備全般に渡る問題点の抽出及び今後のあり方を提案したが、特に貯水槽清掃の実態調査結果から、塩素剤から塩素ガスが発生し作業環境が望ましくないこと、貯水槽の消毒は有効な接触時間の保持が困難なため、繰り返し噴霧する方が消毒効果が上がる可能性があることから、今後消毒方法を再検討する必要がある。なお、現在の防錆剤の使用基準を、使用の責任は製造業者、使用管理者にあることを明記した上で、定期的な水質検査結果書の提出を条件として、応急的使用表示から恒久的に使用できる表示に変更する時期にきているものと考える。更に、排水槽・排水配管の清掃は規定があるのみで、その実用性が担保されていないため、今後、点検・診断手法・清掃方法等により適切な対応を図る必要がある。そのためには、排水設備衛生管理業を新規登録事業として制定することを提案した。衛生器具の維持管理の実態調査結果から、建築用途により、各設備室の設置状況及び使用者の特性が異なり、それにより維持管理状況も異なっている点、各設備の問題点はかなり共通している点が見られた。また、今後、管理者、清掃従事者に対し、衛生設備器具に関する知識を習得させることが必要であると考える。
空気質管理の問題点と対策では、「中央管理方式」以外の管理方式も法の対象とすべきであると提案した。なお、空気質の管理の今後のあり方としては、 ①センサーの較正等、②最小外気導入量や換気量の基準設定、③室内空気環境測定項目、④測定実施回数、⑤測定対象の拡大を提案した。更に、VOC等の健康影響と対策については、ホルムアルデヒドは、ビルの新築及び改築時に建材等からの発生が懸念され、かつその有害性を鑑み基準設定について検討が必要である。なお、簡易測定法も整備されつつあり、基準設定あるいは運用は可能であると判断した。また、VOCはWHOの示す空気質に関するガイドライン等を参考に、我が国においても、大規模建築物及び居住環境を含めてVOCの基準設定が望まれる。その内容としては、個々のVOC(有害性を考慮し優先順位をつける)とTVOC(汚染の指標の観点)について、その双方からVOCの基準設定を推進すべきと考える。また、建築物内のVOC濃度は新築時や改築時及び夏季に高い傾向を示すので、新築時や改築時及び年1回夏季に精密分析により測定することが望ましい。その他、特定建築物の今後の維持管理のあり方として、省エネルギーを考慮した季節別温室度条件の設定及び変風量方式の取り入れ外気量の確保について提案を行った。更に、病院、社会福祉施設の室内管理基準項目についての用途別のガイドラインを検討・提案した。その他、空調ダクト汚染を防止するため、空調設備維持管理業務を新たに登録業種とすべきであると提案した。
ビル清掃については、清掃と掃除・汚物の用語の問題、日常清掃・定期清掃・清掃用具及び保管庫に関する管理基準、廃棄物処理施設の確保及び従事者休憩室の確保等について提案を行った。また、清掃管理のための評価制度の確立として、評価者、評価時期、判断基準、評価項目等の必要項目を列挙した。その他、ビル内廃棄物処理を適切・確実に実施するため、ビル内廃棄物処理業務を登録業種として新たに創設することを提案した。更に、共同住宅、寄宿舎等・病院等・社会福祉施設の清掃管理基準の基本的な考え方を列挙した。また、ビル内廃棄物実態調査結果より、①分別の徹底、②貯留時間の短縮、③最終集積所の防虫防鼠構造・洗滌設備の設置、⑤換気確保等が必要であると判明した。
建築物におけるねずみ・昆虫等の問題点と対策としては、ねずみ・昆虫等の管理上の特殊性(発生場所・地域格差・経年変化・対策の困難性)より、その防除の意義と役割を列挙した後、適用建築物の拡大に伴う問題点について長期居住型環境と非滞在型環境で影響などに差違がでることを示唆し、各居室部分毎の対策を提案した。特に、薬剤を使用しない代表的な調査・点検方法を列挙した。なお、今後重要視すべき技術上の問題として、モニタリング(生息調査)と効果判定(評価)の評価法を提示した。その他、防除体系の見直しとして「無駄な防除」、「過剰な薬剤使用」の定義付け、画一的な対策の見直し、アレルゲン対策の必要性を列挙した。
結論
建築物の規模・用途別に各環境項目の維持管理の運営状況及び問題点が異なるため、今後管理上問題のある施設を段階別に設定し、適正な維持管理方法の分類化を提示することが重要である。なお、新たな健康影響因子(VOC・レジオネラ属菌等)を把握し、基準設定あるいは維持管理対策を構築し、適切なあり方を提示することも重要である。

公開日・更新日

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