浄化槽等の汚泥の減量・減容及び再生技術に関する研究

文献情報

文献番号
199900661A
報告書区分
総括
研究課題名
浄化槽等の汚泥の減量・減容及び再生技術に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
大森 英昭(財団法人 日本環境整備教育センター)
研究分担者(所属機関)
  • 井上義夫(東京工業大学)
  • 小川人士(玉川大学)
  • 丹治保典(東京工業大学)
  • 中井 裕(東北大学)
  • 中嶋睦安(日本大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
合併処理浄化槽の普及促進を図るにあたって、汚泥の減量化、再生利用等の対策を検討し、早急に実用化の目途を立てる必要性などに迫られている。また、昨今話題となった大腸菌O-157、クリプトスポリジウム等による感染を考慮し、衛生学的な面においても安全性を確保する必要があり、汚泥処理過程における衛生学的安全性の確保は必須の条件となっている。本研究では、汚水処理過程において発生する汚泥の減量化、再生利用等を推進するため、以下に示す具体的な方法について検討を行った。
研究方法
本研究は6つの内容に大別され、以下にそれぞれの研究方法を示す。
(1)浄化槽汚泥の減量化及び収集運搬の効率化に関する研究
浄化槽汚泥の減量化に対し、移動式脱水車及び業務用大型ごみ処理機(以下「炭化装置」)を用いることの可能性及びその運転条件、及び炭化汚泥の性状について検討した。
(2)汚泥処理過程及び再生物の衛生的安全性の評価に関する研究
ウイルスと汚泥の結合機序解明の一端として、感染ウイルス粒子の電荷(等電点)を測定し、さらに、実際の浄化槽への流入ウイルス量を推定するため、ポリオウイルスの糞便への排泄量を測定した。
(3)コンポスト化過程における微生物叢及び分解菌の性状解析に関する研究
コンポスト中での特定の微生物の消長を追跡することを目的に接種菌に対する溶菌性ファージの消長を観察し、コンポスト化過程における悪臭物質分解微生物の検索を行った。
(4)汚泥と化学肥料による栽培比較及び栽培に用いるための形態に関する研究
汚泥の有効利用と農業の合理化、環境保全の面から成型鉢を農業生産に利用した。汚泥と牛糞堆肥の成型鉢を白菜、ブロッコリー、加工用トマトに利用した。
(5)汚泥からプラスチックを生産する等の再生技術の開発
浄化槽汚泥等を有用物質に変換、再生利用するための基礎的研究として、微生物プロセスによる浄化槽汚泥からの生分解性プラスチックの直接生産と、浄化槽汚泥の炭化処理による新たな多孔質有機炭素材料の創製を検討した。
(6)浄化槽汚泥ファージに関する研究
浄化槽汚泥に存在する10種の菌種に感染するファージをプラークアッセイ法により検出した。また、大腸菌O157:H37を例に汚泥からファージをスクリーニングし、大腸菌とファージの相互作用を解析した。
結果と考察
記研究課題については、それぞれ以下のとおりである。
(1)汚泥投入量及び燃焼時間を変化させ、炭化を行った結果、外観の黒さに応じて強熱減量は低く、溶出TOCは低下した。また、BOD、COD、T-N及び色度も同様な傾向を示したことから、溶出TOCは炭化の進行の指標として有効であると考えられた。脱水汚泥投入量の限界値は、燃焼時間10時間で325㎏、9時間で250㎏、8時間で200㎏であった。溶出TOCを10㎎/L未満とするには、炭化室温度350℃程度、投入量当たりの燃焼時間2分/㎏以上が必要であった。炭化汚泥を固体高分解能13C-NMRにより解析した結果、炭化により飽和炭素、炭水化物系炭素が減少し、酸素原子に結合した炭素、不飽和結合炭素、芳香族性炭素が増加した。
(2)巨大分子であるウイルスに対し、セファデックスを担体とする泳動法を開発した。その結果、ポリオウイルスの等電点はpH4.2~pH4.4を示し、緩衝液(PBS(-)、pH7.2)中では陰性荷電であると考えられた。しかし、先に検討したウイルスの汚泥吸着モデルでは、陽性荷電であったことから、ウイルス粒子が単体で汚泥に結合するのではなく、ウイルスと汚泥を結ぶ何らかの因子が介在している可能性が示唆された。ポリオウイルス弱毒株を経口投与された乳児(生後6ヶ月)の投与14日後における糞便中には、5×109PCR unit/day以上排泄された。また、弱毒株から強毒株への変異、弱毒株投与児から父親への感染例からも注目すべきウイルスであり、有効な指標ウイルスであると考えられた。
(3)下水道汚泥コンポストから分離した細菌であるMH2をコンポストに接種したところ、MH2溶菌性ファージの増殖が観察され、MH2のコンポスト内での増殖が強く示唆された。コンポストより分離した通性嫌気性グラム陰性桿菌は、好気、嫌気いずれの条件においてもインドール及びスカトールを分解し、コンポスト化過程における通性嫌気性菌の重要性が明らかとなった。
(4)汚泥と牛糞堆肥の成型鉢を白菜、ブロッコリー、加工用トマトに利用した結果、セル苗やポリ鉢よりも安定した生産物が得られた。また、ブロッコリーでは根こぶ病の発生により収穫量が上がらない畑において2L,3L規格の製品が得られた。このことは、根圏域に肥料成分を施肥する成型ポットは、土壌病害の抑制あるいは病害の軽減効果があると推察された。今後は肥料供給量の調節、成型鉢の強度、形状等を工夫し、現状の農業形態に合わせた適用範囲の拡大をはかることが重要である。具体的には、自動定植機用のトレーの形状に合わせた鉢の形状、根張りを良くするためのスリットの付加、果樹や茶園用の形状の開発である。
(5)浄化槽汚泥そのままではA.latusの培養の培地として適切ではないことを確認した。これに対し、超音波処理により浄化槽汚泥の水溶性有機物の量を飛躍的に向上することができ、結果としてPHA産生量を高めることができた。産生PHAをNMRにより分析した結果、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸)とポリ(3-ヒドロキシ酪酸-co-3-ヒドロキシ吉草酸)共重合体であることがわかった。
(6)Escherichia coliとPseudomonasに感染するファージは調査期間を通し存在したが、それ以外の細菌に感染するファージは検出されなかった。汚泥より検出された大腸菌O157:H37特異的ファージと大腸菌の2成分系ではファージの添加により大腸菌が溶菌し、ファージによる病原菌の制御ができることが示された。しかし、ファージ非感受性大腸菌が高濃度で共存するとファージが宿主に感染する過程が阻害された。グラム陽性細菌であるバチルスに感染するファージを汚泥からスクリーニングし、ファージが持つ宿主溶菌酵素の遺伝子2種をクローニングすることができた。溶菌酵素の一つであるエンドライシンは単独でEscherichia coli, Pseudomonas, Micrococcus, Bacillusに対する殺菌作用を示した。
結論
本研究では浄化槽汚泥の種々の利用方法、効率化、安全対策に対して以下の有用な知見が得られた。浄化槽汚泥の減容化において汚泥濃縮車、汚泥脱水車の活用が有効であり、それと炭化装置を組み合わせることで減量化することができた。一方、プラスチックを生産する場合には、固形物の可溶化により生産量を高めることができた。また、コンポスト化過程では、好気、嫌気のいずれの条件においても臭気物質を分解する通性嫌気性菌が重要であった。浄化槽汚泥を農業利用する場合、汚泥と牛糞堆肥の成型鉢による根圏域施肥によって、土壌病害の抑制、軽減効果と肥料成分の浸透による地下水汚染防止に有効と考えられた。さらに、衛生学的な観点からは、ウィルスの挙動からみた安全対策への示唆と対策および病原菌に対しては大腸菌を溶菌させるファージの添加による病原菌の抑制方法等が明らかとなった。

公開日・更新日

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