廃棄物の減量化およびリサイクル推進手法としてのEPR(拡大生産者責任)政策の費用効果分析および国際貿易への影響(総括研究報告書概要版)

文献情報

文献番号
199900658A
報告書区分
総括
研究課題名
廃棄物の減量化およびリサイクル推進手法としてのEPR(拡大生産者責任)政策の費用効果分析および国際貿易への影響(総括研究報告書概要版)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
山口 光恒(慶應義塾大学経済学部教授)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究の目的は、廃棄物問題に関して最近俄に脚光をあびつつあるEPR(拡大生産者責任)政策が、果たして従来の廃棄物政策と比べて費用効果的に優れたものであるかどうか、また、仮にそうであっても自由貿易との関係でWTO(世界貿易機関)との整合性に問題がないかどうかを、明らかにすることである。初年度はOECDで進行中の論議に焦点を当てて研究し、わが国が主張すべき点につき整理した。2年目はEPRとWTO条項との整合性を、家電リサイクル法に焦点を当てて研究することで、EPR政策実施に際しての貿易面からの限界を探ることを目的とした。この関連で、省エネ法改正に伴うトップランナー方式の導入など各種温暖化政策とWTOとの整合性についても検討した。
研究方法
環境保護と自由貿易を巡る論点はいくつかあるが、このうちWTOとの関係では、a)他国の環境政策を理由とした政府による直接の貿易措置(輸入禁止・制限)、b)環境保護目的の課税・規制と内国民待遇、c)たとえ内国民待遇が満たされても環境規制が事実上の貿易障害となるケースの三種類に分類できる。a)はガット20条問題、b)はガット3条問題、c)はTBT協定(貿易に対する技術的障害に関する協定)問題である。ガット20条問題については「マグロ事件」を、ガット3条については自動車燃費に関する高燃費車税およびCAFE規制(自動車メーカーに平均燃費の上限を課す規制)を、TBT協定についてはEUの廃電気・電子機器指令案と日本の自動車燃費に関するトップランナー方式をそれぞれケーススタディとして取り上げ、その検討を通じてわが国の家電リサイクル法(およびトップランナー方式)がWTO条項との関連で、外国からの批判に耐えられるかどうかを探るという方法を採った。ケーススタディのうち特に紙数を割いて詳細に検討したのはEUの指令案である。その理由は、この案に対しては、米国と共にわが国の政府・業界がEUに再考を申し入れ、結果として指令案の内容を動かしてきたこと、それに、この指令案とわが国のEPR政策導入事例である家電リサイクル法を比較検討することで、家電リサイクル法のどの点に問題が存在するかが明らかになるからである。尚、本研究は人や動物に対する実験は一切行わず、また、人権問題とも無関係のため、倫理面の問題は特にはない。
結果と考察
ガット20条との関係で問題になるとすれば、自国でEPR政策を実施しているのに、貿易相手国がその政策を採用していないとの理由で、相手国からの輸入を禁止すると言ったケースである。さすがに今のところ国際的にこのような例はないが、話をEPR政策から環境政策一般に広げると、過去アメリカには何件か実例があり(例、マグロ事件)、今後EPR政策について、この種ケースがあり得ないとは言えない。要注意である。
次にガット3条(内国民待遇)の問題である。3条のうち2項は税・課徴金、4項は法令・要件に関する規定である。ここで暫く「環境」を離れて過去のケースを見ると、3条2項に関してのガットパネルの判断は揺れている。即ち、日本の酒税法による税率格差問題(1987)では二段階アプローチ、高燃費車税(1994)では目的効果アプローチ、再び日本の酒税法(1996)では二段階アプローチという具合に、判断に際して適用される考え方が二転三転している。ここで二段階アプローチとは、まず比較する国産品と外国産品が「同種の産品」かどうかを検証し、もし然りであれば、国産品に比べて輸入品に高い税率が課されているかを判定するという二段階方式で、いわば3条の文言通りの解釈であるのに対して、目的効果アプローチは、正当な国内政策(例えば環境保護)に基づく措置であれば、3条2項違反とはならないとの考え方である。即ち、国内産品保護の目的を持たなければ、ガット違反ではないと判定される。環境規制強化が世界的規模で進むなかで、目的効果アプローチの採用は、自由貿易に対して環境保護を上位においた考え方といえよう。これに対して法令・要件を巡るCAFE規制のケースは一貫して二段階アプローチがとられている。
このような状況の中で、環境税・規制とガット3条の関係にはやや不透明さが残る。TBT協定についての争いは、環境規制が事実上の貿易障害になるケースで、前述のEUの廃電気・電子機器指令案につき日・米ともにTBT協定上の問題点を指摘している。TBT協定の下では環境保護のために国際基準より厳しい規制が可能であるが、それが不必要な貿易障害となってはならないとされている。そして、その判断に際しては、規制を実施しない場合のリスク(環境への負荷)を考慮した上でも規制を行う必要があるかどうか、が問われる。EUの指令についてはこうした観点から検討の必要がある。
上記で検討したガットおよびTBT協定に照らして、わが国の家電リサイクル法は海外からの批判に耐えうるであろうか。政府は海外の環境政策を理由に輸入禁止・制限をしていないので、ガット20条に関しては問題がない。次に3条の内国民待遇はどうか。この点も指定法人を設立することでかなりカバー可能である。問題は輸入品につき扱い慣れていないという理由で再商品化コストが高くなることはあるが、この点は国内の中小事業者と同じ立場で、輸入品だからということではない。また、買い換えの際に小売店は新たに販売した会社の製品でなくても引き取りの義務がある。このように考えると二段階アプローチ、目的効果アプローチのどちらから見ても、問題はないと思われる。次にTBT協定上、不必要な貿易障害となるか否か。ここでの判断基準は規制を実施しない場合のリスクと貿易への支障の比較考量である。家電リサイクル法施行以前はほとんどが埋め立て処理されていたのに対して、規制実施により5-6割が再資源化されるという環境上の効果がある。また、現時点では対象品目も4品目と少ない点などを勘案すると、問題になる余地は少ない。また、これ以外に同じ環境効果を有し、且つ貿易への影響が少ない手段は思いつかない(EUおよび米国からTBT協定による協議の申し入れを受けている自動車のトップランナー規制についても、同じ観点から検討した結果、問題はないと思料される)。
結論
以上からわが国の家電リサイクル法がガット/TBT協定違反とされる可能性は極めて低い。しかし輸入品の再商品化費用が極端に高くなるような場合、或いはメーカーによる無料テークバック・リサイクルなどEPRの考え方が自動車等より高価な商品に拡大してくると、かなりの程度貿易障害として働く可能性が残されている。こうした点については個別の商品毎に判断するしかないであろう。

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