熱媒体の人体影響とその治療法に関する研究

文献情報

文献番号
199900652A
報告書区分
総括
研究課題名
熱媒体の人体影響とその治療法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
小栗 一太(九州大学大学院薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 赤峰昭文(九州大学歯学部)
  • 飯田隆雄(福岡県保健環境研究所)
  • 石橋達朗(九州大学大学院医学系研究科)
  • 沖田 実(長崎大学医療技術短期大学部)
  • 片山一朗(長崎大学医学部)
  • 菊池昌弘(福岡大学医学部)
  • 古賀哲也(九州大学大学院医学系研究科)
  • 古賀信幸(中村学園大学食物栄養学科)
  • 篠原志郎(福岡県保健環境研究所)
  • 清水和宏(長崎大学医学部)
  • 塚崎直子(長崎大学医学部)
  • 辻 博(九州大学大学院医学系研究科)
  • 徳永章二(九州大学大学院医学系研究科)
  • 中西洋一(九州大学大学院医学系研究科)
  • 中山樹一郎(福岡大学医学部)
  • 長山淳哉(九州大学医療技術短期大学部)
  • 橋口 勇(九州大学歯学部)
  • 古江増隆(九州大学大学院医学系研究科)
  • 増田義人(第一薬科大学)
  • 山田 猛(九州大学医学部附属病院)
  • 吉村健清(産業医科大学産業生態科学研究所)
  • 渡辺雅久(長崎大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
-円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
油症事件発生後、既に三十年が経過した。一部の患者には未だに病的障害が観察されるが、多くの患者については症状は健常人のように軽くなっている。現在は症状の悪化が観察されても、それが PCB 摂取と関連するのか、あるいは単なる老年期障害であるのかが識別困難な場合が多い。このように、油症患者の病的状態については、少なくとも事件発生当時に認められた皮膚症状のような悲惨な急性症状は大きな問題ではなくなってきている。しかし、本研究でのこれまでの成果により、ガン罹患の亢進や免疫機能低下の可能性など、新たな問題が浮上してきている。本研究では、未だに未解明部分の多い PCB 類の毒性発現機構を解明すると共に、患者の慢性的病態の把握を行い、これに立脚した患者の健康管理増進を目指して検討を継続した。
研究方法
検診を実施し、油症患者の皮膚、眼、内科的および歯症状について詳細な観察を行い、従来の症状との比較を行うと共にデータを統計学的に解析した。また、原死因を明かにするために、油症患者コホートの307名の死亡者の個人情報と厚生省死亡テープ(19年間の日本全死亡1500万件)と生年月日、死亡年月日、性、死亡時住所の4項目の完全一致を条件として照合を行った。排泄促進法に関する知見を得るため、経皮的な PCB 除去の一法として皮脂取りシートを用いた皮脂採取法を検討した。また、生体成分であるプロトポルフィリンとヘミンについて、油症原因ライスオイル投与ラットを用いて、PCDF の吸収抑制と再吸収抑制に対する効果について検討した。油症患者体内の PCB 類の動向の把握に関しては、1997年度の油症検診受診者 84 名について血液中 PCDDs,PCDFsおよび coplanar PCBs (PCB 類)20 種類を測定した。更に、油症発症機構の解明を目指して、動物を用いた生化学的検討を実施した。
結果と考察
油症患者検診より、患者の一部には皮膚や歯周の症状を中心に病的障害が残存することが確認された。これらの症状や血中コレステロール等の上昇が体内 PCB 濃度とある程度の相関を示すことから、患者において発現する障害の少なくとも一部は体内に残留する PCB 類の影響によるものと考えられる。また、helper / inducer T 細胞の増加を認め、これは免疫グロブリン上昇や自己抗体出現と合し、患者における慢性的な免疫機能障害の可能性が示唆された。皮膚および歯周部位等の障害は今後も観察を継続する必要があるが、今後はガンや免疫機能障害などの慢性的症状の発生状況にも十分に注目する必要があると考えられる。これとの関連で、死亡患者の追跡とその死因調査は極めて重要であり、可及的速やかに原因油摂取との関連性を追及する予定である。
患者に対する抜本的治療法が存在しない以上、原因物質の排泄促進は根本的な対処の方策である。今年度は、皮脂中排泄を利用する方法およびヘム関連物質の効果について検討した。前者については、除去できる原因物質量が少なくまだ検討の余地があると考えられた。しかし、プロトポルフィリンについては動物実験で排泄促進剤としての有用性が確認された。
1997年度の油症検診受診者 84 名について血液中 PCDDs,PCDFsおよび coplanar PCBs (PCB 類)20 種類を測定した結果、平均濃度は150 pg TEQ/g lipid であった(健常人7名の血液中 PCB 類濃度の平均値は 22 pg TEQ/g lipid)。1995 年より3年間連続して受診した患者の血中濃度の比較から、個々の患者の濃度は、概ね減少または横這い傾向にあり、増加したものは少ないことが明かとなった。また、4名の油症患者の出産に際し、母体血、臍帯血、胎盤、臍帯及び母乳中の油症関連物質の測定を行った。2例の患者の母体血および母乳中の油症関連物質の濃度レベルは、健常人のそれと同程度であったが、他の2例はPCBs、PCQs 及び PCDFsが健常人より明らかに高い濃度レベルで検出された。また、一例のみであるが、油症患者の臍帯血、胎盤、臍帯から油症原因油の摂取に起因すると考えられるPCDFsを主とするダイオキシン類が検出された。高分離能ガスクロマトグラフ/質量分析装置により、PCB の異性体/同族体 209 種の分離について検討した結果、原因ライスオイル中に約 130 種の PCBの存在が確認された。この方法により、油症患者の母乳と血液に残留する PCB を分析した結果、一般人血中より4倍以上の高値を示す PCB は 18 種類観察された。また、母乳中の PCDF と PCDD 類の分析も併せて実施し、TEQ 換算で評価した結果、油症患者母乳では PCB 関連物質の 80 % 以上は PCDF 類によって占められることが確認された。
PCB 並びに関連物質の毒性は、その機構がよく理解されておらず、このことが治療法を含む対処方法の確立の大きな障害となっている。この問題解決のため検討を継続し、SeBP と酸化的ストレスとの関連性、CAIII 抑制のメカニズムおよび PCB/PCDF 水酸化体の遺伝毒性並びに女性ホルモン様作用などを明かにした。これらの知見が毒性発現とどのように関連するのかは今後の課題であるが、未解明問題の解決に向けた新事実として注目される。ガンとの関係では、1-NP 誘発発ガンにおける PCB のプロモーター作用が証明され、これは環境汚染と油症との関連を注目すべきことを示唆しているのかもしれない。また、患者 CK 上昇の原因究明やミエリンタンパク発現機構に関して一定の成果が得られ、筋組織や神経組織に対する PCB の影響を評価するための基礎研究が前進した。
結論
油症患者検診を通して患者の病的障害の把握に努めると共に、原因油摂取によって惹起される症状の抽出に関する検討を継続した。その結果、患者の一部には皮膚や歯周の症状を中心に病的障害が残存することが確認された。また、患者における慢性的な免疫機能障害の可能性が追認された。従って、今後はガンや免疫機能障害などの慢性的症状の発生状況にも十分に注目する必要があると考えられた。原因物質排泄促進に関する研究の結果、皮脂採取による方法は除去できる原因物質量が少なくまだ検討の余地があると考えられた。しかし、プロトポルフィリンについては動物実験で排泄促進剤としての有用性が確認された。1997年度の油症検診受診者について血液中 PCDDs、PCDFsおよび coplanar PCBs (PCB 類)20 種類を測定した結果、平均濃度は150 pg TEQ/g lipid であった(健常人7名の血液中 PCB 類濃度の平均値は 22 pg TEQ/g lipid)。また、4名の油症患者の出産に際し、母体血、臍帯血、胎盤、臍帯および母乳中の油症関連物質の測定を行った。2例の患者の母体血及び母乳中の油症関連物質の濃度レベルは、健常人のそれと同程度であったが、他の2例はPCBs、PCQs 及び PCDFsが健常人より明らかに高い濃度レベルで検出された。また、一例のみであるが、油症患者の臍帯血、胎盤、臍帯から油症原因油の摂取に起因すると考えられるPCDFsを主とするダイオキシン類が検出された。高分離能ガスクロマトグラフ/質量分析装置により、PCB の異性体/同族体 209 種の分離について検討した結果、原因ライスオイル中に約 130 種の PCB の存在が確認された。この方法により、油症患者の母乳と血液に残留する PCB を分析した結果、一般人血中より4倍以上の高値を示す PCB は 18 種類観察された。また、母乳中の PCDF と PCDD 類の分析も併せて実施し、TEQ 換算で評価した結果、油症患者母乳では PCB 関連物質の 80% 以上は PCDF 類によって占められることが確認された。毒性発現機構に関する検討からは、SeBP と酸化的ストレスとの関連性、CAIII 抑制のメカニズムおよびPCB/PCDF 水酸化体の遺伝毒性並びに女性ホルモン様作用などが明かにされた。これらの知見が毒性発現とどのように関連するのかはまだ不明であるが、未解明問題の解決に向けた契機になる可能性が期待された。ガンとの関係では、1-NP 誘発発ガンにおける PCB のプロモーター作用が証明され、環境汚染と油症との関連で注目された。また、患者 CK 上昇の原因究明やミエリンタンパク発現機構に関して一定の成果が得られ、筋組織や神経組織に対する PCB の影響を評価するための基礎研究が前進した。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-