食品中残留農薬検査の超迅速化に関する調査研究

文献情報

文献番号
199900649A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中残留農薬検査の超迅速化に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
佐々木 久美子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 外海泰秀(国立医薬品食品衛生研究所・大阪支所)
  • 永山敏廣(東京都立衛生研究所)
  • 中澤裕之(星薬科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
13,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
農作物中の残留農薬基準は、現在、199農薬に設定されている。これらに対する告示試験法は100試験法にのぼり、多数の農薬について基準値への適合性を検査するには多大な労力と時間を要する。そこで、広範囲の農薬を迅速且つ精度よく検査できる、告示法とは別の迅速試験法の開発が必要である。
本研究では、超臨界流体抽出を使用した簡便で選択性の高い試験溶液調製法、GC/MS(SIM)、HPLC及びLC/MSによる精度の高い一斉分析法、LC/MSによる定性及び定量法の確立及び高価な分析機器を使用せずに、迅速、簡便に残留農薬を測定する方法として期待される免疫化学測定法について研究する。
これらの研究成果の活用によって、残留農薬検査に要する時間の短縮と省力化が可能となり、検査件数の増加、出荷前検査の実施等の残留農薬に関する監視体制の充実が図られ、食の安全性確保のより一層の向上が期待できる。また、超臨界流体抽出あるいは免疫化学測定法を採用することにより、分析に使用する有機溶媒量を減らすことができ、労働衛生上及び環境保全上の利点もある。
研究方法
1)「超臨界流体抽出(SFE)による一斉分析法」では、128農薬を対象にSFEの茶試料への適用を検討した。試料に農薬を添加して、最適なSFE条件を求め、茶試料に対するSFE法を開発した。更に、溶媒抽出による茶試料の一斉分析法を開発した。SFE法の実用性を検証するために、農薬残留試料を用いて溶媒抽出法との比較試験を行った。
2)「超臨界流体抽出、HPLCによる一斉分析法 」では基準値告示27農薬を対象にSFEで抽出し、カートリッジカラムで抽出物をクリーンアップした後、HPLCで定性・定量する簡便で迅速な一斉分析法について検討した。SFEで農薬の回収率が低いと言われている野菜・果実を対象に、吸水剤を加えて添加回収実験を行った。
3)「LC/MSによる残留農薬試験法」では、LC/MSによる残留農薬の確認方法及び定性・定量法の確立を目指し、キャピラリーカラムによるLC/MSを用いたN-メチルカルバメート系農薬の一斉分析を検討した。
4)「農薬イムノアッセイと機器分析の比較評価」では、①イナベンフィドの免疫化学的測定法(ELISA)の開発を行った。玄米に由来した夾雑成分の影響を受けないELISAを用いた玄米中イナベンフィド分析法を構築し、HPLC及びGC-ECDによる分析値との相関性試験を行った。②昨年度に基礎的な測定系を組み立てたピリミカーブのELISAについて、農産物での添加回収試験及び機器分析法との比較試験を実施した。③市販のクロルピリホス及びアルジカルブELISAキットの定量性、実試料への適用性及び交差反応性を検討した。
結果と考察
1)茶試料をセライトと混合してSFEを行った後、クリーンアップなしでGC/MSで測定する簡便で迅速な分析法を確立した。溶媒抽出液は多量のクロロフィルを含むため多くのクリーンアップ操作が必要であったが、SFEでは農薬とクロロフィルを分離して抽出することができ、クリーンアップも不要であった。試験溶液の調製時間は溶媒抽出法より大幅に短縮され、且つ操作も簡略化された。また、添加回収実験では両者はほぼ同じ回収率であったが、低回収率となる農薬はSFEの方が少なかった。実際の農薬残留茶葉試料を用いた比較試験を行った結果、SFEは大部分の農薬については溶媒抽出法とほぼ同じ測定値を与え実用性が示された。次年度は果実・野菜試料に応用範囲を広げる。
2)「SFE抽出、HPLCによる一斉分析法」では、一部の農薬を除いてほぼ良好な回収率を得たが、作物によっては変動の大きいものもみられた。本法を27農薬に適用したところ、概ね良好な結果が得られ、本法の妥当性を確認できた。しかし、UV測定では一部の農薬については試料由来の妨害ピークと重なり、確認困難な場合があった。また、保持時間の重なりから、多数農薬の同時測定は困難であった。次年度は測定にLC/MSを導入し、定性及び確認の精度向上と試験溶液調製の省力化を目指す。
3) 昨年度は、農作物抽出液中の残留農薬をLC/MSで確認できることを明らかにした。 今年度は、キャピラリーカラムを装着したLC/MSを用いて農薬の一斉分析法を検討し、高感度化と分離条件の最適化を試みた。アルジカルブ、オキサミル及びカルバリルなどのN-メチルカルバメート系農薬がLC/MSにより高感度に一斉分析できる可能性が示唆された。
4)「農薬イムノアッセイと機器分析の比較評価」では、①イナベンフィドのELISAによる分析結果とHPLC及びGC-ECDによる分析結果には、非常に高い相関関係が認められ、本法が日常分析法として高い有用性を有することが示唆された。②ピリミカーブのELISAについて、農産物での添加回収試験及び機器分析法との比較試験を実施した結果、野菜・果実への添加回収試験では良好な回収率が得られ、GC-NPDとの比較試験では両方法に非常に高い相関関係が認められた。これにより、本法が食品中のピリミカーブ残留分析法として高い有用性を有することが示された。③市販のクロルピリホスキットは検出感度が高く、保存性及び再現性も良かったが、交差反応する農薬があり、精度のうえでやや問題があった。アルジカルブキットは検出感度が高く、交差反応性を示す農薬が少ないことから、十分実用に供されることが示唆された。
結論
農作物中残留農薬分析の迅速化を図る目的で4課題について研究し、以下の結果を得た。これらの成果を基礎に、実試料への適用をさらに検証することにより、残留農薬分析の迅速化、省力化に寄与することが期待できる。
1)茶葉中の残留農薬をSFEで抽出しGC/MS(SIM)で測定する、迅速な一斉分析法を確立した。SFEは溶媒抽出と異なり、クリーンアップを必要としない抽出液を得ることが出来ることを確認した。
2)野菜、果実中の残留農薬をSFEで抽出しHPLCで測定する、迅速な一斉分析法を確立した。
3)キャピラリーカラムによるLC/MSでカーバメート系農薬の一斉分析が可能であることが分かった。
4)玄米に添加したイナベンフィド及び野菜・果実に添加したピリミカーブのELISA分析結果と機器分析結果には、それぞれ高い相関関係が認められた。また、市販のクロルピリホス及びアルジカルブキットは検出感度が高く、実用に供されることが示唆された。

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