動物性加工食品等の高度衛生管理に関する研究

文献情報

文献番号
199900642A
報告書区分
総括
研究課題名
動物性加工食品等の高度衛生管理に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
熊谷 進(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 小沼博隆(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 山崎省二(国立公衆衛生院)
  • 難波江(全国牛乳協会)
  • 大島泰克(東北大学)
  • 池 康嘉(群馬大学)
  • 萩原敏且(国立感染症研究所)
  • 島田俊雄(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
動物性食品等への微生物及びそれらが産生する毒素による汚染を要因とする食中毒等食事性疾病に関しては、腸管出血性大腸菌やサルモネラ・エンテリティディス等新たに問題となってきた疾病に対して、未然にそれらの発生を防止できる対応が現在求められており、さらに最近急増を見ている腸炎ビブリオによる食中毒についても予防方策構築が急がれている。こうした状況に対応し、本研究の目的は、現在特に対策が急がれている腸炎ビブリオ等の食品起因病原微生物について、その制御に必要な食品中病原微生物の増殖や死滅等の挙動、生息や汚染の実態、検査方法等を究明することにある。
研究方法
(1)Yersinia enterocoliticaの代表的な病原性血清型であるO:3、O:5,27、O:8およびO:9の4血清型菌をそれぞれ豚肉または無菌豚肉に接種し、真空包装または好気条件下で2℃および7℃に保存した時の菌の消長を調べた。無菌豚肉は、豚肉表面を焼いてから切除することによって調整した。菌接種後に豚肉をそのまま、または真空包装してから、2℃または7℃下で5週間保存し、その間の菌数の変化を、ホモゲナイズした豚肉をCIN培地およびVIE培地に塗沫して培養後に集落数を計数することによって調べた。(2)殻付き卵を4℃または30℃に保管し、保管中逐次割卵し、卵白を分離してpH、伝導率をそれぞれPHメーター、導電率計を用いて測定した。(3)腸炎ビブリオO3K6および他の血清型計4株を、食塩濃度が1、3または7%、およびpHを5.8、7.0または8.0に調整した緩衝ペプトン水に接種した後に、15、20または25℃下で72時間静置培養し、その間逐次試料を採取し、TCBS寒天培地に塗沫し集落数を計数することによって菌数(CFU)を求めた。(4)前年度収集した乳/乳製品に関する食品中の病原微生物の挙動およびその影響因子に関する既存の文献のうち、データベース作成に有用な文献を選択した。次年度はそれらの中から有用なデータを抜き出し整理する。(5)HACCPに基づく衛生管理における清浄度検査法の比較評価を行った。(6)二枚貝による食中毒原因物質アザスピロ酸およびシガトキシン類について、単離したアザスピロ酸とその関連代謝物およびシガテラ毒魚筋肉をそれぞれ液体クロマト/質量分析検出法による分析に供し、前処理方法も含めてこれら毒素の分析方法を開発した。食中毒の原因となったホシゴマシズについて構成成分である脂質の解析を行ない、中毒原因の推定を行った。(7)国内で入手した国産および外国産(10カ国)の鶏肉について、バンコマイシン加ブロスで増菌後、培養液をバンコマイシン加寒天培地に塗沫し、そこから菌を分離した。(8)BGM細胞で増殖させたQ熱病原体を添加したバイアル中の生乳を所定の温度のウォーターバスに浸漬し所定の時間加熱した後に、加熱処理した生乳をマウスに投与し、血清と脾臓についてギムザ染色、IF抗原試験、NestedPCR、血清抗体価を調べることによって生乳中の病原体の生死を判定した。(9)全国7海域で採取した海水と海泥について、PCR、免疫磁気ビーズ法、我妻培地を組み合わせた方法を用いて腸炎ビブリオ耐熱性溶血毒産生株の検出を試みることにより、我が国の海水と海泥における腸炎ビブリオ耐熱性溶血毒産生株生息の実態を調査した。
結果と考察
(1)使用した病原性Y. enterocoliticaであるO:3、O:5,27、O:8およびO:9のいずれの血清型菌も、真空包装あるいは好気保存した豚肉において、豚肉が可食性を有する限りは、2℃および7℃のいずれの条件下でも、増殖せず死減することもなく長期間に
わたり生残することが明らかになった。この成果は豚肉の流通/保管における衛生管理の基礎データとして活用できる新しい知見である。(2)卵白pHについては、殻付き卵の4℃保管下では不変であったが、30℃保管下では早期に上昇することが認められたことから、保管履歴の指標として使用できるか否かを検討する必要がある。伝導率には一定の変化は認められなかった。これらの成果は、今後の鶏卵保管条件の研究に活かす。(3)モデル実験によって腸炎ビブリオの増殖速度を測定した結果、O3K6が他の血清型に比較し、pH、温度、食塩濃度によっては若干早い傾向が認められたが、増殖態度について全体的にはそれら菌株間に大きな差がないことが明らかとなった。この結果は、増殖制御の対策としては、従来の型に有効な対策が現在流行しているO3K6にも有効であろうことを示している。(4)食品中の病原微生物の挙動およびその影響因子に関する既存の知見を、乳/乳製品に関し収集整理し、原著論文388編を得た。次年度は、これら論文から有用なデータを抜き出し整理する。(5)清浄度検査法の比較評価を、測定試料として食肉製品、魚介類を対象として行った結果、PPDK法が最も感度が高いことが判った。今年度の成果を踏まえ今後は、清浄度検査法として比較的優れていることが判明した方法を用いて動物性食品の衛生管理の研究を行う。(6)シガトキシン類について、液体クロマト/質量分析検出法の適用を検討する等、魚介毒の分析方法の開発を行った。これら分析方法は、食品衛生検査指針等を介して食品汚染実態調査に活用されることが期待される。(7)国内外の鶏肉中のバンコマイシン耐性菌の存在実態を調査した結果、一部外国産鶏肉から耐性菌が分離されたが、その他国外および国内産肉からは分離されなかった。国外からの鶏肉中にバンコマイシン耐性菌が認められたことは、輸入鶏肉に対する対策が必要であることを示している。(8)Q熱病原体の加熱致死実験を行った結果、65℃30分加熱によって病原体が検出できなくなること、63℃30分加熱によって一部生残することが認められた。この成績は、バイアル中で行った実験によるものであり、今後さらに実際の加熱条件を考慮した検討が必要である。(9)海水と海泥における腸炎ビブリオ耐熱性溶血毒産生株(O3K6)汚染実態を調査し一部海域から同株が分離された。パルスフィールド電気泳動による遺伝子型は最近の流行株と一致することが認められた。これらの成績から、既に我が国の海域が流行株で汚染されていることを示しており、それを踏まえた対策が必要である。
結論
動物性食品等への微生物及びそれらが産生する毒素による汚染を要因とする食中毒等食事性疾病の発生を未然に防止できる対応を可能とする以下の知見を得た。Yersinia enterocoliticaの代表的な病原性血清型であるO:3、O:5,27、O:8およびO:9の真空包装あるいは好気条件下で保存した豚肉中での菌の消長を明らかにした。卵中のサルモネラ増殖に関わる因子としてpH、導電率について、卵保存中における変化を明らかにした。流行株O3K6を含む腸炎ビブリオの増殖態度を、pH、温度、食塩濃度との関連において明らかにした。食品中の病原微生物の挙動およびその影響因子に関する既存の知見を、乳/乳製品に関し収集整理した。清浄度検査法の比較評価を行った結果、PPDK法が最も感度が高いことが判った。シガトキシン類について、液体クロマト/質量分析検出法の適用を検討する等、魚介毒の分析方法の開発を行った。国内外の鶏肉中のバンコマイシン耐性菌の存在実態を調べ、一部外国産鶏肉から耐性菌が分離された。Q熱病原体の耐熱性について、65℃30分加熱によって死滅すること、63℃30分加熱によって一部生残することが認められた。

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