特定保健用食品素材の安全性確保に関する研究

文献情報

文献番号
199900641A
報告書区分
総括
研究課題名
特定保健用食品素材の安全性確保に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
中村 治雄(三越厚生事業団)
研究分担者(所属機関)
  • 池田義雄(東京慈恵会医科大学健康医学科)
  • 猿田享男(慶應義塾大学医学部内科)
  • 奥 恒行(長崎県立シーボルト大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
14,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
コレステロール値、血圧、血糖などの軽度増加例が全般に増加しつつある現状であり、特に血清コレステロール濃度は、ここ10年に10~15mg/dl程度上昇しており、年に約1mg/dlの増加が確認されている。これらの点を考えると、食事、運動などの一般的生活習慣の注意が、その対策として重要である。
現在、特定保健用食品として汎用されている素材として、それぞれ境界域コレステロール値に対して大豆蛋白が、血圧の軽度上昇に対してはアミールS、杜仲葉エキスなどが、血糖の上昇および便通異常に対して難消化性デキストリンがある。
これらの食品素材は、その性質上長期にわたって摂取される可能性をもっており、その意味では有効性の他に、安全性も確認され、必要があれば対策もとられなければならない。
今回、大豆蛋白、アミールS、杜仲葉エキス、難消化性デキストリンについて、それぞれ同意を得られたヒト症例について、安全性を中心に検討すること,また糖アルコールの最大無作用量を知ることを目的とした。
研究方法
大豆蛋白:血清コレステロール値が170~230 mg/dl の正常または境界領域の男性(25 ~40才)医師14例に大豆蛋白(予め実験に適切であると検討してきた20g/日)を3週間摂取し、非摂取3週間とビタミンE併用摂取3週間を置く交叉試験を実施した。この間1週毎に早朝空腹時に採血し、総コレステロール、LDL-コレステロール、トリグリセライド、HDL-コレステロール、ビタミンE、Fe、テストステロン、エストロゲン、フィブリノーゲン、PAI-Iを測定すると共に自覚症状をチェックした。(中村)
アミールS、杜仲葉エキスなど:21-68才の軽症本態性高血圧例18例にアミールS(150ml)を3ヶ月、44-81才の同様な高血圧5例に杜仲葉エキスを3ヶ月、ペプチドスープを18例に飲用させ、肝機能、電解質、脂質、クレアチニンを測定した。また、平均血清クレアチニン3.6mg/dlの患者5例に対しても杜仲葉エキスを飲用させた。(猿田)
難消化性デキストリン:OLETF ラットの大血管病変に対する長期投与の影響をみるべく、同ラット48匹を4群に別け、難消化性デキストリン、セルロース、グアガム、対照群を設定し8%濃度で平均15ヶ月摂取させ、死亡率、体重増加率、冠動脈硬化病変などの所見を調査した。また、平均年令56才のインスリン注射の2型糖尿病30例に、各食事と共に1日3回「健人茶論」340mlを摂取させ、血糖値、自覚症状を評価した。(池田)
難消化性アルコール(ラクチトール):最大無作用量と影響因子を観察すべく19~25才の健常女子33名にラクトチール12g、20g、30g、40g、ラクトチール入りシュガーレスチョコレート7、9、11、13、15枚を順次少量から摂取し、便性状、腹部症状、その他自覚症状を観察した。(奥)
なお、これらの対象全例に実験計画、副作用などを説明し、同意を得ている。
結果と考察
結果=大豆蛋白:血清脂質は摂取後3週間が最も明らかで、その後前値に戻る傾向を示し、この点はすでに報告した結果を再現している。
総コレステロールは8.2%、LDL-コレステロール8.7%、トリグリセライド12.9%、の減少を認め、HDLコレステロールも軽度ながら減少した。この際、特に臨床検査値に明らかな異常は認められなかった。しかし、テストステロン2%、ビタミンE7.2%の減少を認めた。エストロゲンは12.5%上昇し、Fe、PAI-Iには変化は認められなかった。また、ビタミンE400mg/日併用ではテストステロン、ビタミンEの減少、エストロゲンの上昇は是正された。
アミールS摂取3ヶ月後収縮期血圧 8mmHg、拡張期血圧4mmHgの減少を認め、心拍数、肝機能、電解質、クレアチニン、脂質には変化が認められなかった。
杜仲葉3ヶ月摂取で収縮期血圧7mmHg、拡張期血圧4mmHgの降圧をみとめている。心機能、肝機能、電解質、クレアチニン、脂質には有意の変化は認められていない。
ペプチドスープ摂取で収縮期血圧6mmHg、拡張期血圧3mmHgの低下がみられた。18例中2例に咳嗽が出現し、摂取中止により咳嗽は消失している。ペプチドスープのもつアンジオテンシン変換酵素阻害によるものと考えられる。
腎機能低下例での杜仲葉エキス飲用の変化はクレアチニンで3.6mg/dlから3.1mg/dl、BUNは25.0mg/dlから21.6mg/dlへ、悪化所見は認められず、K値も変化はなかった。
難消化性デキストリン:OLETFラット(2型糖尿病モデル)に難消化性デキストリン(8%)を15ヶ月摂取させグアガム、セルロース同量投与群と非投与の対照群も設定し比較した。対照群に比しデキストリンなどの投与群では耐糖能障害は軽減されていた。冠動脈硬化病変はいずれの群も認められなかった。
インスリン治療中の2型糖尿病においては、食前血糖値は変化はなかったが、食後血糖値は改善された。インスリン使用量は減量できなかった。なお、約半数に軟便傾向を認めている。
難消化性糖アルコールでは、体重1kg当りのラクチト-ル摂取量と下痢発生との関係から最大無作用量は0.37g/kgであった。シュガーレスチョコレートでは同様に1.05g/kgが求められた。繰り返し摂取することによる馴化も認められ、一括摂取で下痢をみても分割摂取で下痢の避けられることを確認した。
考察=前回報告したごとく大豆蛋白摂取による効果は、食後高脂血症の是正で、レムナントコレステロールの減少により明らかとなった。また、今回再確認されたが、トリグリセライドの減少と共に、LDL粒子の取り込み増加からみられるLDL-コレステロールの減少がある。
安全性の評価として、ビタミンEの低下傾向、エストロゲンの増加傾向、テストステロン減少傾向を認めており、今後の追跡が必要であると共に、ビタミンE、Feの補充の必要性なども配慮し、ビタミンE併用摂取も行った。その結果、ビタミンEの減少は抑制されると共に、エストロゲンの増加、テストステロンの減少も改善され、ビタミンE摂取による副腎性腺細胞の受容体機能に影響を与えた可能性がある。
アミールS、杜仲葉エキス、ペプチドスープにおいて、特に電解質、クレアチニン値を変化させることなく、軽度に降圧を認めている。しかし、2例において本食品素材のもつアンジオテンシン変換酵素阻害活性作用によると思われる咳嗽の出現をみている。今後症例をさらに増して、頻度、程度を確認する必要がある。更に、腎機能悪化例において使用してもクレアチニンの増加を認めていない。
難消化性デキストリンにより、動物実験でもインスリン注射糖尿病例でも改善が糖代謝に認められたが、低血糖発生について、量との関係で検討されなければならない。
難消化性糖アルコールにより発生する下痢には、個人差があり、ある値の最大無作用量を確認できるが、馴化、分割投与などで解決できそうである。
結論
現在特定保健用食品として認可されている食品素材として、コレステロール値低下に対する大豆蛋白、血圧低下に対するラクトトリペプチド、便秘、高血糖に対する難消化性デキストリンの効果は確認されたが、一部の症例で安全性に軽度の危惧がもたれたが、改善策も検討された。
大豆蛋白摂取によるビタミンE、テストステロンの減少、エストロゲンの増加は、ビタミンE摂取併用で是正された。またペプチドスープなどによる咳嗽は中止するか、他に切り変えるかが望まれる。インスリン注射糖尿病においても難消化性デキストリンの有用性は確認されたが、低血糖への注意が大切であり、ラクチト-ルなどの摂取の下痢は分割投与により避けられることが解った。

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