化学物質の光毒性に係る評価方法に関する研究

文献情報

文献番号
199900634A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質の光毒性に係る評価方法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
小野 宏(食品薬品安全センター 秦野研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 憲穂(食品薬品安全センター 秦野研究所)
  • 渋谷 徹(食品薬品安全センター 秦野研究所)
  • 大原 直樹(食品薬品安全センター 秦野研究所)
  • 原 巧(食品薬品安全センター 秦野研究所)
  • 長野 哲雄(東京大学大学院薬学研究科)
  • 林 真(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
化学物質の中には、紫外線照射によって活性化もしくは分解され、極めて強い毒性を示す物質があることがわかってきた。この原因として、遺伝的な傷害が大きな要因となっている可能性が示唆されており、光を触媒とする化学物質の作用によって発がんやアレルギー性疾患が増加する事と密接に関連してくる重要な事象である。しかしながら現在までのところ、培養細胞を用いる試験系で認められたこれらの現象の本格的な生物学的評価はなされていない。また、それぞれの化学物質がいかなる機構によって毒性を発現するのか明確にされていない部分が多い。これらの問題を明らかにするため本研究では、既知の光毒性物質を用いて、化学物質の構造とその活性相関を検討した上で、光毒性発現の様式とその条件について調べ、各種のin vitroの試験系を用いてそれぞれの化学物質の毒性作用を評価する。その上で、これらの化学物質を検出する実験系を確立する。メカニズムに関しては、活性酸素研究の専門家と協力して研究を進め、光増感現象による化学物質の毒性発現の実態と影響についての評価を行う。
研究方法
田中は、試験に用いる光源の種類とその光遺伝毒性発現に及ぼす影響を検討した。光源の種類が異なると、同一の被験物質でも光毒性・光遺伝毒性の発現が異なることが知られている。そこで、代表的なソーラーシミュレータであるメタルハライドランプとキセノンアークランプを用いて、モデル物質の光遺伝毒性発現を比較した。光遺伝毒性の評価には、チャイニーズハムスターCHL/IU細胞を用い、評価系には染色体異常試験およびin vitro小核試験を用いた。渋谷は、ラット背部皮膚を用い、表皮細胞の小核試験を光遺伝毒性試験に応用するための基礎的な実験を行った。また、遺伝的に多くの系統が確立しており、遺伝子改変動物も作出されているマウスでの小核試験系の確立を目指し、マウスの皮膚小核の背景データを得た。さらに、光Ames試験のための基礎的な実験を行った。代表的な8種類の検定菌を用いたが、それぞれの菌株により、突然変異誘発に関する特性が異なり、UVに対する感受性も異なるため、それぞれの菌株に適した照射線量を検討した。光照射による変異原性の発現または増強については、8-メトキシソラレン(8-MOP)、クロロプロマジンおよびメチレンブルーについて、それぞれの感受性についての比較検討を行った。大原は、モルモットにおける急性皮膚光刺激性試験によって、幾つかの被験物質について急性皮膚光刺激性を検討した。また、既知の光毒性物質をモデル化学物質とし、経皮吸収促進剤(SLS)を含めた媒体についての試験を実施した。一部の被験物質については、皮内投与も行った。原は、in vivoの変異原性試験の中では、検出感度が高く比較的簡便な系であるショウジョウバエ翅毛スポットテストを、光遺伝毒性試験として確立することを目的として、光遺伝毒性物質として知られる8-MOPを用いて実験方法の確立を試みた。3齢幼虫を培地から分離し、8-MOP懸濁液の入ったプラスチックシャーレに移して、光照射を行った。照射後、羽化した成虫の翅を顕微鏡で観察し、翅毛スポットの数と種類を記録した。長野は、新たに合成したDPAXを用いて、皮膚の主常在菌である Propioni bacterium acnes の代謝産物であるポルフィリン類が、光照射により一重項酸素を発生しうるか調べた。また、種々の表皮脂質の過酸化度を定量し、一重
項酸素の関与を検討した。また、コラーゲンの架橋形成に対する一重項酸素の関与を調べた。林は、p53遺伝子の変異のホットスポットであり、紫外線特異的変異でもあるコドン247-8部位のCCからTTの変異に特異的なプライマーをデザインし、変異配列が特異的に増幅されるPCRの条件検討を行った。条件検討の後、in vitroで紫外線(UVB)を照射した正常およびXP由来繊維芽細胞、UVB照射をしたボランティアなどから得られた皮膚のバイオプシーサンプルを用いて、p53変異の検出を試みた。次に、ヒトミトコンドリア遺伝子上の紫外線特異的なCC→TT変異に特異的なプライマーによるアレル特異的PCRの反応条件の検討を行った。これらの方法を用いて、培養ヒト皮膚細胞およびヒト皮膚組織を材料として解析を行った。
結果と考察
結論
小野は、光毒性試験と光遺伝毒性試験の現状と標準化に関する国際的な動きに関して調査研究を行った。これまで、光毒性検査法についての有用性確認試験が重ねられ、有用性の検討が行われている状況であった。そのため相当の時日の経過があったが、2000年2 月にいたり、in vitro 光毒性試験法のガイドラインの提案が OECD になされた状況となっている。現在では、提案に対するコメントが各国に求められており、我が国でも専門家による討議が行われている段階である。
田中は、光毒性、光遺伝毒性試験の試験条件として重要な光源の種類について比較検討し、光源の種類が異なると、光照射による光遺伝毒性発現に差があることを示した。このことから、光源の種類ごとに、適切な光照射条件を設定する必要があることが示された。また、実際にモデル物質を用いた光遺伝毒性試験を実施し、光源の種類によって、試験の結果に大きな差が出ることを明らかにした。そのため、試験結果の妥当性の確認や試験結果の比較のためには、再現性の高い陽性対照物質を実験系に加え、生物学的反応性を明らかにする必要があると考えられた。渋谷は、in vivo光遺伝毒性試験の確立を目的とし、げっ歯類皮膚細胞を用いたin vivo小核試験の系を確立した。また、in vitro変異原性試験として広く用いられているエームス試験を用いて、光遺伝毒性物質を検出する系の検討を行った。エームス試験については、簡便で高感度なin vitro変異原性試験系であることから、光遺伝毒性試験への応用が待たれていたが、多くの試験菌株が紫外線感受性のため、照射条件の設定が難しかったことや、適切な陽性対照物質が見出されていなかったことなどから限定された使用に留まっていた。今回、主要菌株の照射条件と陽性対照物質の設定が終了したことから、実際のスクリーニング試験への応用が期待される。大原は、モルモットを用いた光刺激性試験の試験方法の検討を行った。皮膚塗布によるin vivo毒性試験の場合、被験物質の皮膚吸収性が試験条件によって異なる場合があり、結果のばらつきの原因となることが知られており、適切な方法で塗布を行うことが重要である。被験物質を溶解または懸濁する媒体の種類は、経皮吸収性に影響を及ぼす主要な原因である。そこで、モルモットを用いた光刺激性試験で複数の媒体を比較し、塗布の媒体としては、エタノール、DMSO、蒸留水の順で優れていることが明らかになったが、化学物質によっては、その限りでないことが示された。また、経皮吸収促進剤であるSLS併用によって、光刺激性の増強が認められた。皮内投与については、化学物質によっては非照射でも刺激性が増強し、不適切な場合があることが示された。原は、ショウジョウバエ翅毛スポットテストを、光遺伝毒性試験として確立することを目的とし、モデル物質を用いた試験により、効率よく光遺伝毒性を検出できることを明らかにした。ショウジョウバエ翅毛スポットテストは、in vivoの変異原性試験の中では検出感度が高く、比較的簡便な系であるため、in vivoのスクリーニング試験として期待される。また、ショウジョウバエは、高等動物では最も遺伝的性状が解明されており、特定変異原に対する高感受性株も多数作製されているため、翅毛スポットテスト等の変異原性試験と組み合わせて、光遺伝毒性物質の変異のメカニズムの解明にも役立つものと考えられる。長野は、これまで独自に確立した高感度一重項酸素検出系を用い、ヒト皮膚常在菌に由来する光増感剤が、光照射による一重項酸素生成しうること、その作用が非常に強力であることを示した。また、皮膚に存在する光増感剤が光照射によって、過酸化脂質の生成重要な役割を果たしていることを示した。また、一重項酸素のコラーゲンに対する作用が、他の活性酸素種とは異なり架橋作用であることを示した。これらの作用は、皮膚の障害、老化に密接に関連したものであり、これまでの紫外線による皮膚障害の概念に、新たな局面を開くものであると考えられる。林は、分子生物学的手法を用いて、p53遺伝子およびミトコンドリアDNAの紫外線特異的なDNA傷害を検出する系の開発を行い、特にミトコンドリアDNA傷害が紫外線暴露によるDNA傷害の検出系として有効であることを明らかにした。実際のバイオプシーサンプルにおいて、紫外線暴露部位での変異が多かったことから、紫外線への暴露量を反映する指標としてリスク評価に役立つものと期待される。

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