内分泌かく乱物質等、生活環境中の化学物質による健康リスクの評価における不確実性の解析に関する研究

文献情報

文献番号
199900631A
報告書区分
総括
研究課題名
内分泌かく乱物質等、生活環境中の化学物質による健康リスクの評価における不確実性の解析に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
関澤 純(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 三森 国敏(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 西川 秋佳(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 江馬 眞(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 吉田 喜久雄(三菱化学安全科学研究所)
  • 今井 清(食品薬品安全センター秦野研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
(1) 健康リスク評価における不確実性には、(A) 未知の要因が介在するために不確かさを生ずる真の不確実性とも呼ばれる部分と、(B) 人(動物)および環境要因が一様でなく分布を持っているために生じる不確実性とがある。内分泌撹乱化学物質のリスクを評価する上で、もっともクリティカルな要因のひとつと考えられた曝露時期の問題を解明するために、内分泌撹乱を疑われている物質について胎児期あるいは胚(母体の妊娠期間中)の曝露による影響の知見がどのようであるかを解析する。(2) 関心を呼び膨大な知見があるダイオキシンについて、人および動物における生殖・発達影響リスクの定量的な不確実性分析を行う。(3) 一般の日本人にとり外界から摂取するエストロゲン活性を持つ物質のうち、活性と摂取量から考え、もっとも影響の可能性の高い大豆中のエストロゲン物質について、若い女性の間で摂取レベルと生理など健康への影響を解明する。(4) 健康リスク評価における不確実性係数の適用のあり方を見直す国際的な動きについて、最新の欧米でのワークショップのレポートを基に検討する。
研究方法
(1) 胎児期曝露情報の解析は、Internet Grateful Med (NLM) のToxline を使用し、1985年ー1999年の文献を環境庁が内分泌撹乱の可能性を持つ化学物質としてリストした化合物に植物エストロゲン物質を追加し、CAS登録番号と4つのキーワード(fetus, embryo, fetal exposure, reproduction)を組み合わせて検索した。(2) ダイオキシンの生殖・発達影響についての不確実性分析は、事故により高濃度曝露された集団で見られた出生児の性比の偏りに関し、そのような事象が起りうる確率と両親の血中ダイオキシン濃度との関係について米国環境保護庁(EPA)が開発したBenchmark Dose 推計ソフト(BMDS)を用い統計的な解析を行った。 わが国で耐容一日摂取量を評価する際に用いられたラット雌で見られたVaginal threadの出現の確率についても、同様な解析を行った。ポリ塩化ジベンゾ-p-ダイオキシン(PCDD)と、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)あわせて4種類の同族体の新生児における体内半減期を、胎児期の負荷量、出生後の体重、脂肪含量などの既報値を参考にして推定した。個人差によるバラツキの不確実性についても検討した。(3) 大豆エストロゲン摂取の女性の健康への影響は、都内女子大学の学生365名を対象に1999年11月に日常生活、大豆製品の摂取量に力点をおいた食生活、健康状態の関連について、アンケート調査を行った。回収率68.2%(実数249名)を得、生理の異常などの症状と、大豆製品の摂取量のほかに、食事の規則性、喫煙、睡眠時間などとの関係について解析した。(4) 1999年4月に欧州連合が、また5月に米国環境保護庁・カナダ厚生省が共催した健康リスク評価における不確実性係数の適用手法の検討に関するワークショップのレポートを入手し、検討を加えた。またIPCS(国際化学物質安全性計画)と協力して、健康リスク評価における不確実性解析の事例研究を行った。
結果と考察
(1) 胎児期曝露情報の解析30種類の物質についての検索結果を基に、物質特定、試験と影響の特定、文献特定のための項目を持つデータベースを作成した。今後物質数とデータ数を充実させるとともに、不確実性分析に関わる項目を追加してデータベースを完成させる。(2) ダイオキシンの生殖・発達影響の不確実性分析は、人のレベルでダイオキシン曝露により生じ
たことがほぼ確実である明瞭な影響で、曝露レベルも知られている事象として、曝露両親から生まれた子の性比をとりあげた。イタリアのセベソで1976年におきたダイオキシンの大量放出事故後約8年間に生まれた17人の子供のうち、両親の血清脂肪中TCDD濃度が100 ppt以上の場合12人がすべて女児であった。このデータにlog logistic modelを適用しこのような事象の10%発現確率のベンチマークドーズを推計すると約60 pptとなった。女児ばかりが観察された母親グループのうち血漿中の濃度が最低の濃度(126 ppt)の母親から生まれた子供が偶然により女児でった可能性が無視できないので、この子が男であったと仮定すると10%発現確率のベンチマークドーズは121 pptとなった。これらの値は最近のドイツ、米国、日本の成人の平均的な血清中ダイオキシン類濃度(TEQ:毒性等量)が20から40 pptであることと比べると、やや高いものであった。他方、妊娠8日目のラットにTCDDを単回投与した時に観察されたVaginal thread (わが国のダイオキシン耐容摂取量は、この現象をひとつのクリティカルな事象と考えて、4 pg/kg bw/日と決められた)について同様に10%発現確率のベンチマークドーズを推計すると、309 pptという値が得られた。人の新生児体内半減期を推定した結果、個体差を考慮した結果、2,3,7,8-PCDD, 1,2,3,7,8-PCDD, 1,2,3,7,8,9-PCDD, 2,3,4,7,8-PCDFのについて、それぞれ0.28-1.6, 0.25-0.89, 0.37-4.9, 0.28-4.6 年(95%信頼限界値の上限と下限で示す)と、推定された。(3) 大豆エストロゲン摂取の女性の健康への影響に関する調査大豆摂取が少ない人ほど、不正出血や経血量異常が多い傾向が見られた。大豆多食者と少食者の間で、貧血の有無に差が見られたが大豆製品摂取量と貧血の有無の間では明瞭な並行関係は見られなかった。貧血の有無に関しては、喫煙や睡眠時間が大きく影響していた。(4) 健康リスク評価における不確実性要因を解析し、よりデータを重視した精密なものにしようとする気運があり、欧米では研究が重ねられてきた。この研究成果を踏まえて1999年に入り、欧州連合、米国・カナダでリスク評価への具体的な適用を目指したワークショップがあいついで開かれた。研究班ではこのレポートの部分和訳を行うとともに内容を検討した。
結論
(1) これまで国際的にも、内分泌撹乱影響の検出系の検討が進められてきているが、もっとも肝心なことのひとつである胎児期曝露による次世代への影響への考察と、これまでの研究の蓄積が少ない。したがってまず胎児期曝露による影響として、これまで懸念されてきた化合物について、何が知られているかを明確にし、逆に何がこれから知られなければならないかを示そうと考えた。次年度は今年度の検索結果を基に、胎児期曝露の文献のうちリスク評価にクリティカルと考えられる文献を解析し、結果を整理しデータベースを完成させるとともに、これを用いて不確実性の解析を行う。(2) ダイオキシンによるリスクについては、いくつかの新しい手法をとりいれた耐容摂取量の評価がなされたが、その後さまざまな重要な新しい知見が輩出しており、またダイオキシン類としてPCBなどが一括して扱われたが、毒性影響のあり方や影響等量の評価にも問題が多くあり、検討が必要となっている。特に人における影響のあり方と、曝露の分布、影響の感受性の種差・個体差を考慮した不確実性解析をさらに進める。(3) 日本人に食生活を通してもっとも影響を与えている可能性がある大豆中のエストロゲン物質については、昨年にひきつづき若い女性に加えて更年期前後の女性を対象としたアンケート調査を行うとともに、東京農業大学の渡邊昌教授、跡見学園女子大学石渡尚子講師と協力して、更年期前後の女性に大豆エストロゲンの本体であるイソフラボンを一定期間服用した際の生理的な変化について調査する。(4) IPCS(国際化学物質安全性計画)に協力して5月にはベルリンで健康リスク評価における不確実性係数の適用の改善について、国際ワークショップを開催する。ここでは種差、個体差の要因として、キネティクスとダイナミクスのそれぞれに
ついて、事例を用いて、どのようなデータが必要とされ、またどのような解析が適切かつ有用であるかについて検討する。本ワークショップの成果と昨年の欧米でのワークショップの成果を紹介し、また独自に適用した成果を紹介するための国内のワークショップ開催を予定している。

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