内分泌かく乱物質等の生活環境中の化学物質による健康影響―日本人正常男性の生殖機能に関する総合的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900629A
報告書区分
総括
研究課題名
内分泌かく乱物質等の生活環境中の化学物質による健康影響―日本人正常男性の生殖機能に関する総合的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
岩本 晃明(聖マリアンナ医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 奥山明彦(大阪大学医学部教授)
  • 小松潔(総合病院原三信会病院泌尿器科診療部長)
  • 塚本泰司(札幌医科大学教授)
  • 並木幹夫(金沢大学医学部教授)
  • 石島純夫(東京工業大学生命理工学部助手)
  • 伊津野孝(東邦大学医学部助教授)
  • 兼子智(東京歯科大学市川総合病院講師)
  • 末岡浩(慶應義塾大学医学部助教授)
  • 小林真一(聖マリアンナ医科大学教授)
  • 中堀豊(徳島大学医学部教授)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
52,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は妊孕能を有する男性ならびに非選択的若年男性を対象とした生殖機能調査に基づき、健康な日本人男性の生殖機能について詳細に解析するとともに、内分泌かく乱物質との関連において日本人男性の生殖機能の健康状態を明らかにするための標準的な調査法、検査法ならびに解析方法を確立することを目的とする。
研究方法
①聖マリアンナ医科大学を拠点に川崎・横浜地区で実施した妊孕能を有する男性(妊婦のパートナー)の生殖機能調査の参加者359例の全データ(男性の精液所見、理学所見、血液中の各種内分泌ホルモン値、および男性と妊婦双方への質問票)を解析した。②男性生殖機能の地域差を検討する目的で妊婦のパートナーの調査を全国規模で実施するため、大阪大学医学部、原三信病院(福岡)、金沢大学医学部、札幌医科大学の各泌尿器科を拠点として、先行の川崎・横浜地区での方法に準じて調査態勢の整備を行った。③新たな疫学調査として聖マリアンナ医科大学泌尿器科を拠点として、川崎地区の大学生を対象とした非選択的若年男性の生殖機能調査を実施した。方法は妊婦のパートナーの調査に準じた。④疫学調査に適した再現性のある精度の高い精液検査方法の開発としては、従来法を再検討し方法の標準化を試みるとともに、画像解析装置による測定のための精子濃度標準品、精子運動標準画像、ならびに精子形態観察のための新たな形態標準品の設定を行った。⑤簡便でかつ精度の高い精子形態の解析法として、高解像度デジタルカメラと微分干渉顕微鏡を用いて生きたままの精子像をコンピュータに取り込み、画像解析ソフトで解析する方法を検討した。さらに、高速度カメラによる精子運動性の詳細な解析を試みた。⑥慶応義塾大学病院における非配偶者間人工受精ドナー精液所見から、1970年から1999年までのデータについて解析した。⑦ビスフェノールA母体経由曝露によるラット周産期の血清テストステロン濃度、ステロイド代謝酵素、ゴナドトロピン受容体等への影響について検討した。ラットにビスフェノールA0.2,2.20および200?g/ml を妊娠日(妊娠第1日)から出産日(妊娠第23日)まで母体に飲水投与し,妊娠第22日胎仔の血液と出産約2時間後の仔の血液と精巣を採取した。またビスフェノールAを投与した母マウスから生まれた雄マウスの精子について、精子濃度、運動率を検査するとともに、体外受精および顕微受精における受精率を検討した。⑧日本人男性をY染色体上ハプロタイプで4種類のタイプに分類し、それぞれのタイプと精子数に違いがあるか否かを解析した。
結果と考察
①川崎・横浜地区での妊婦のパートナーを対象とした男性生殖機能調査の全データ359例を解析し、調査に参加した妊孕能を有する男性における身体所見、各精液パラメータ(精液量、精子濃度、総精子数、精子運動率等)、血清中の各種内分泌ホルモン値が示された。また、精液所見とホルモン値の間、あるいははホルモン値間での相関を見たところ、インヒビンBと精子濃度の間に正の相関が、インヒビンBとFSHの間に負の相関が認められ、インヒビンBが精子形成能のバイオマーカーとして役立つ可能性が示唆された。また、生活習慣と生殖機能との関連として、喫煙本数と飲酒量との相関関係を解析した
が、精子濃度とそれらとの間に明らかな関係は認められなかった。②大阪、福岡、金沢、札幌の4地域で妊婦のパートナーを対象とした男性生殖機能調査を実施するにあたり、協力病院の確保、調査に必要な人員・設備・検査技術等の整備を進め、態勢の整った地域より、調査本部(聖マリアンナ医科大学泌尿器科)の検査技術精度管理の下に順次調査を開始した。③平成11年度中に川崎地区の大学生(18-24歳)227名が非選択的(妊孕能が確認されていない)若年男性の生殖機能調査に参加した。この段階での身体所見と精液所見を示した。④一般精液所見(精子濃度、運動率、速度、奇形率等)測定における精度向上と標準化のために、精子濃度、運動率、運動速度標準品の策定および標準品を用いた検量線の作成、測定用チャンバーの設定を行った。また機能良好精子を、前進運動能、成熟性、先体反応誘起能を有し、染色体構造異常を認めないものと定義し、射精精液から条件に該当する精子を精製することにより、これを精子形態標準品とする定量的形態計測法の確立を図った。⑤精子形態の解析法として、高解像度のデジタルカメラを用いて、微分干渉顕微鏡による生きたままの精子の像を拡大し、コンピュータに取り込み、画像解析ソフトで解析した。精子とその鞭毛運動の解析のためには高速度カメラを用いて、通常のビデオカメラを用いた場合の運動特性と比較した。活発なヒト精子は長軸の回りを回転しながら前進する傾向があり、通常のビデオカメラでは、鞭毛運動による頭の横振れの正確な記載は不可能で、毎秒200コマを撮影できる高速度カメラでも十分ではなかった。精子の頭のみを追尾するこれまでの精子運動自動解析装置の欠点と改良点が明らかになった。⑥慶応義塾大学病院における非配偶者間人工受精ドナー精液所見から、精子濃度は1970~1989年群でも,1990~1998年群に於いても共に総検体データについての検討で現在までに調査した範囲では減少傾向を示した。精子運動率については1970~1989年群で軽度の減少傾向を示したが,1990年以降では減少傾向を示さなかった。また,平成5~9年に行った非配偶者間人工授精患者1645名へのアンケート調査を行い妊娠・出産についての検討を行った。⑦出産約2時間後のラット仔の血清テストステロン濃度はビスフェノールA200?g/ml投与においてコントロールに比べ約30%有意に低値を示し,高用量のビスフェノールAは脳の性分化や生殖器系の発達・分化に重要な周産期の内分泌環境を撹乱する可能性が示された。RT-PCR法により調べた出産約2時間後の仔の精巣におけるステロイド代謝酵素,LH受容体およびFSH受容体のmRNAの発現はいずれの濃度のビスフェノールA投与もコントロールと差はなかった。マウスの体外受精および顕微受精における受精率については、投与群とコントロールとの間に有意差は認められなかった。⑧妊孕能を有する(妊婦のパートナー)男性の4種類のY染色体ハプロタイプと精子数の関係を調べた結果、タイプにより精子濃度の分布が異なっており、我々の分類でタイプⅡにあたる男性では平均精子数が少なかった。次いで無精子症患者のタイプ分けを行った結果、無精子症の患者ではコントロール集団に比べてタイプⅡの人が多かった。
結論
妊婦のパートナーを対象とした正常男性生殖機能に関する、川﨑・横浜地区での調査359例の精液所見、理学所見、血液中の各種内分泌ホルモン値、および質問票の回答をデータベース化し、それらの解析結果を示した。また、全国4地域(大阪、福岡、金沢、札幌)における妊婦のパートナーの調査が開始した。さらに新たな疫学調査として川崎地区において妊孕能の確認されていない男性集団(非選択的若年男性集団)として大学生を対象とした男性生殖機能調査が始まり、経過報告として227例の精液所見の結果を示した。その他、疫学調査に適した方法論の確立ならびに男性生殖機能の新たな評価法の開発および基礎的検討の一環として、精液検査の標準化、コンピュータ画像解析による精子形態および運動性の解析、非配偶者間人工授精ドナー(AID)の精液所見の解析、実験動物へのビスフェノールA投与による精巣内ホルモ
ン環境、精子形成能、受精能に関する研究、およびY染色体多型による男性の分類と精子濃度との関連に関する検討がなされた。

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