簡易ダイオキシン検出システムに関する研究

文献情報

文献番号
199900626A
報告書区分
総括
研究課題名
簡易ダイオキシン検出システムに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
和田 恵一郎(新日鐵化学株式会社 総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 原田和明(新日鐵化学株式会社 電子材料開発センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在ダイオキシンの定量分析法は基本的には完成されている。しかし、前処理が煩雑な上、分析装置も高価なため、日数及び費用の面で問題があり、目的に応じた迅速かつ簡便、低コストの測定方法が求められている。
環境中のダイオキシンは過去の農薬不純物及び燃焼、各種生産プロセス由来のものなど多岐に亘るが、本研究では、対象をゴミ焼却に由来するダイオキシン類とし、それを簡便に計測する手法の開発を目的とする。
簡易測定が可能になると、焼却関連施設に関するダイオキシン対策研究の飛躍的向上に貢献することができると思われる。また、焼却場からの日常的なダイオキシン発生状況監視システム等としても利用できる。
研究方法
焼却炉煙道ガスを当面の測定対象としてダイオキシン類の簡易測定方法の開発を行なっている。本研究ではダイオキシン類とともに発生するクロロフェノール類を代替指標として着目した。ある種の有機金属錯体はクロロフェノール類と特異的な発光挙動を示す。その現象を利用して、蛍光分析による間接的なダイオキシン検出システムの実現可能性を検証した。各種金属錯体を合成し、適応性を検証した。実際の煙道ガスにおけるダイオキシン類とクロロフェノール類の相関を求め、併せて、実ガスでの測定を行なった。さらに、その過程で得た知見を利用した新たな検出システムについても予備的に検証を試みた。
クロロフェノールを代替指標とする簡易測定は次のことが必要である。
1) クロロフェノール類とダイオキシン類濃度の相関が高い。
2) クロロフェノール類と発光強度の相関が高い。
3) 実サンプル中にダイオキシン類の定量を阻害する因子が含まれない。
また、上記の条件が適用できる範囲、及び、その他実用上の課題を明確にしなければならない。そのため、予算の許す範囲内で、できるだけ多くのゴミ焼却炉の分析を実施するとともに、前年度の研究過程で見出された金属錯体溶液自体における蛍光強度の経時的低下現象改善のため、種々の有機金属錯体を合成し、ALQ3に代わる化合物の探索を行なった。
結果と考察
(1) 都市ゴミ焼却炉の煙道ガスでは10-50ng-TEQ/Nm3の範囲で、クロロフェノール類とダイオキシン類の相関が高いことがわかった。
新ガイドラインの規制値内となる低濃度領域でのダイオキシン類測定に対して代替指標となりうるかどうかさらに調査が必要である。
(2) 金属錯体の保存安定性は、配位子を変えることで改善が見られた。
クロロフェノール混在下で発光強度が増加する金属錯体はわずかしか見出せなかった。実用化にはさらに保存安定性の向上が求められる。
(3) 煙道ガス抽出液は検出限界以下だった。濃縮すると抽出液が着色してくることがわかった。
実測定ではこの着色が蛍光発光自体を阻害する可能性が高い。除去対策が必要である。
(4)着色成分の吸光度とダイオキシン濃度の間にはよい相関が得られた。
着色成分はタールと推定される。ベールの法則から、タールとダイオキシンの間によい相関があると思われる。(5-10ng-TEQ/Nm3の範囲で確認)
(5)煙道ガスを透過したろ紙の着色度(色差)もダイオキシン濃度とよい相関があった。
溶媒を用いない方法として、溶液の吸光度の代わりに煙道ガスを透過したろ紙の着色度(色差)を評価した。(1-5ng-TEQ/Nm3の範囲で確認)
金属錯体とクロロフェノールの混在下での発光挙動メカニズムはまだはっきりわかっていないため、溶剤溶解性の高い金属錯体を分子設計して合成した。中心金属の影響を見るために配位子ごとにアルミとマグネシウム錯体の合成を試みた。しかし、ALQ3及び塩素化ALQ3以外ではアルミ錯体は合成できなかった。立体障害のためと思われる。そのため、中心金属の影響を見ることができたのは、配位子が8-オキシキノリンと5-クロロ-8-オキシキノリンの場合だけである。その場合はアルミ錯体だけで蛍光増加現象が確認された。
ALQ3及び塩素化ALQ3を用いると溶媒が現行ではクロロホルムあるいは四塩化炭素に限定されるのに対して、焼却炉の煙道ガス抽出液には塩素系溶剤は不適であることから、溶剤置換が必要である。また、検出限界から考えて、抽出液の濃縮あるいは、さらに低濃度の検出が可能な金属錯体の分子設計が必要である。
焼却炉の煙道ガス中におけるクロロフェノール類とダイオキシン類濃度との相関は今回の測定範囲では高いと思われるが、いずれも安定燃焼時にサンプリングしたもので、立ち上がりのタイミングでの挙動は確認していない。今回の測定の中で、煙道ガス中にはナフタレン、アントラセンなどの縮合多環芳香族なども多く含まれていることがわかった。検出したのは4環までの化合物であり、それらの単独での吸収波長及び発光波長はALQ3などの金属錯体とは100nmほどの違いがあり、互いに誤差の原因になるものではない。ただし、複合効果ないし、今回確認できていない縮合多環芳香族の塩素化物がどのように影響するかは分かっていない。濃縮した場合に抽出液に着色が見られたのは、これら縮合多環芳香族群の影響ではないかと推定される。
着色成分の吸光度測定や色彩色差測定はダイオキシンが約10ng-TEQ/Nm3以下の低濃度でも高い相関が示唆され、しかも金属錯体を用いた蛍光分析よりも、装置も安価で廃液処理も簡単になるため、簡易測定の別法として実用化の可能性が見出された。
結論
ダイオキシン類を簡便に測定する方法として、金属錯体を用いて、クロロフェノール類を代替指標とする蛍光分析の実用可能性を検証した。平成11年度は次のことがわかった。
1)都市ゴミ焼却炉煙道ガスにおけるクロロフェノール類とダイオキシン類との間には同一炉で比較すると良好な相関関係があることがわかった。(ただし、10ng-TEQ/Nm3以上の範囲で)
2)溶液中でクロロフェノール類と混合すると発光強度が増加するのは、今回合成した金属錯体の中ではALQ3、及び塩素化ALQ3だけであった。
3)塩素化ALQ3はALQ3に比べ溶解性向上、溶液中での保存安定性などの改善効果が認められた。
4)検出限界が10-6mol/L程度なので、実際の煙道ガス抽出液は濃縮しなければならない。
5)濃縮した煙道ガス抽出液は着色成分を含み、消光作用により蛍光が検出できなかった。
以上の実験結果から、着色成分を代替指標とする簡易測定法を試みた。
1)【別法①】濃縮した煙道ガス抽出液の吸光度とダイオキシン濃度との間には良好な相関が認められた。(都市ゴミ焼却炉、5~10ng-TEQ/Nm3の範囲で)
2)【別法②】煙道ガスを透過させたろ紙の着色度(色差)とダイオキシン濃度との間には良好な相関が認められた。(産廃焼却炉、1~5ng-TEQ/Nm3の範囲で)
これらの結果を利用して、さらに多くの知見を集め、簡易測定をシステム化する。

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