ダイオキシン微生物処理技術の研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900625A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシン微生物処理技術の研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
古市 徹(北海道大学大学院工学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 保科定頼(東京慈恵会医科大学臨床検査医学教室)
  • 惣田昱夫(神奈川県環境科学センター環境工学部)
  • 小口深志(前田建設工業(株)技術研究所)
  • 郷田浩志(東和科学(株)技術研究所)
  • 寺尾 康((株)クボタ 環境研究部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の最終目標は、主に焼却施設で発生したダイオキシン類で汚染した土壌、地下水、そして不適正埋立処分場の浸出水を無害化処理するために、実用的な微生物処理技術を開発することである。今年度は、以下のことを目的として研究を行った。(1)土壌中のダイオキシン類微生物処理の前処理として、土壌からのダイオキシン類抽出技術と、高塩素置換ダイオキシン類の紫外線(UV)酸化処理技術の検討、(2)微生物によるダイオキシン分解メカニズム解明のため、新規に単離された菌体とこれまで確認された菌体によるダイオキシン類分解試験と酵素・遺伝子解析、(3)処理プロセスの実用化のための、K汚泥(実働の最終処分場浸出水処理施設から採取)を用いた実験室スケールでのバイオリアクター実験とダイオキシン類分解特性を明確化、及び分解を促進するための操作条件の検討。
研究方法
(1)の前処理方法の検討では、能勢の汚染土壌(8,000~10,000 pgTEQ/g)3.6gと各溶媒(エタノール、メタノール、アセトン、トリトンX100溶液)36mLを容量50mLのテフロンチューブに入れ、回転振とう器で振とうする(27.5rpm/min)。振とう後、固液分離し固相、液相それぞれのダイオキシン類濃度の測定を行う。振とう時間、温度、溶媒比による抽出率の変化を確認した。UV酸化処理技術の検討においては、高圧紫外線ランプ(10.25mV/cm2、主要波長365nm)搭載の約2Lの反応容器内に、最終処分場浸出水処理施設の硝化処理後の処理水にダイオキシン類を任意濃度になるように添加し、一定時間UV照射する。(2)の酵素・遺伝子解析では、好熱菌に対しては、16SリボソームRNA塩基配列の決定、相同性検索、及びプラスミドDNAの精製、クローニング、塩基配列の決定を行うことにより、ダイオキシン類分解に可能性のある遺伝子配列の検討を行った。また、新規株の分解特性の把握として、バッチによる無塩素置換ジベンゾ-p-ダイオキシン及び1塩素置換ダイオキシンの分解実験、そして焼却灰浸出水中ダイオキシン類分解実験も試みた。さらに、K汚泥から単離した菌に対しても、バッチ実験により高塩素置換のダイオキシン類を対象に分解実験を行った。(3)のリアクター実験では、ダイオキシン類分解の詳細を明らかにするためK汚泥(脱窒汚泥)が入った実働体積500mL容量のカラム形リアクター(5本)を用い、脱窒条件にし、初期ダイオキシン類濃度に変化を与えて(高塩素置換ダイオキシン類対象、初期濃度:0~190ng/500mL)、ダイオキシン処理能力の検討を行い、さらにダイオキシン類を逐次添加する連続実験を行った。
結果と考察
(1)の抽出実験より、室温におけるエタノール、メタノール、アセトンの抽出率は同程度で、トリトンX100の抽出率は低くかった。このうち毒性、コスト等を考慮し、エタノールが抽出溶媒として適当であると判断した。さらに抽出条件の検討を行い、溶媒比80%、1分間70℃で撹拌することにより95%のダイオキシン類が土壌より抽出されることを確かめた。
UV酸化処理実験では、高塩素置換のダイオキシン類の脱塩素反応を確認し、約90分で分解が平衡に達することが分かった。次に90分の照射時間で、ダイオキシン類初期濃度を200~1000ng/Lに変化を与えたところ、平均して80~90%の分解率が得られたが、初期濃度400ng/L以上ではダイオキシン類の未分解物が無視できないことが分かった。そこで、この未分解物に対して微生物分解を試みたところ、未分解物の80%のダイオキシン類を分解することを確かめた。
(2)の酵素・遺伝子解析に関しては、好熱菌の16SリボソームRNA塩基配列と相同性検索の結果を用いて、菌株名を系統的に統一した。このうち、ダイオキシン類を分解したのは、SH2BJ4HB1040、SH2BJ2HB1002、SH2BJ3HB1030であった。さらにプラスミドDNAの精製、クローニング、塩基配列の決定を試み、ダイオキシン類分解が確認されたSH2BJ2HB1002(3万8千塩基)、SH2BJ3HB1030(3万5千塩基)のプラスミドは、制限酵素EcoRI、HindⅢで切断しそのバンドパターンをみると、両者が異なることが分かった。またSH2AJ1HA1001のプラスミドpSA101のDNAをpUC19ベクターに組み込み、ライブラリーを作成し、各クローンのDNA塩基配列を決定したところ、本プラスミドは好熱菌B. stearothermophilusの耐熱性プラスミドpTB19と80%の相同性を示した。またB. stearothermophilusに存在する1,4-alpha-glucan- branching enzymeをコードする遺伝子DNA(細胞壁を合成する酵素遺伝子)と100%相同性が見られた。つまり、プラスミド上に生理機能を担う重要な遺伝子が存在すること、またダイオキシン類を分解するSphingomonas属の遺伝子検索の結果から呼吸に関する酵素群がダイオキシン類分解に関与しているとの報告から、好熱菌のプラスミド上にダイオキシン分解に寄与する遺伝子配列がコードされている可能性が示唆された。また好熱菌による無塩素置換のジベンゾ-p-ダイオキシンの分解代謝物の同定を試みたところ、これまでに数例分解代謝物として報告のあるカテコールのピークが認められなかったことから、これまでの報告とは異なる経路でダイオキシン類を分解する可能性が示唆された。
次に、自然環境中より単離した新規株を用いたバッチ実験により無塩素置換ジベンゾ-p-ダイオキシンを48時間で85%、1塩基ダイオキシンを6日で70%分解することが確認された、さらにこの新規株により焼却灰浸出水中のダイオキシン類も含む他の化合物のピークの減少が確認された。
K汚泥から単離した微生物Acremonium sp.により、これまで微生物分解が困難であった高塩素置換ダイオキシン類(100ng/mL)を4日間で約80%分解することを確かめた。このことは、UV酸化等の前処理工程無しに処理プロセスが構築できる可能性を示唆している。また、我々の単離したAcremonium sp.は、液中から単離された微生物であるため、今後の液相分解を中心としたプロセス化に大きく貢献できると考えられる。従来より、2週間程度で高塩素置換ダイオキシン類を70~80%分解する白色腐朽菌が知られており、焼却飛灰との混合状態でダイオキシン類を分解したとの報告もある。このように白色腐朽菌は有望な菌ではあるが、木材腐朽菌なので我々の想定している液相中での応用には弱いと判断している。
(3)のK汚泥を用いたカラム形リアクター実験では、1ヶ月の培養で、初期濃度190ng/500mLの高塩素置換ダイオキシン類を100%近く分解することが分かった。また初期濃度600ng/500mLに設定し分解速度について検討したところ、1週間でほぼ100%のダイオキシン類が分解され、浸出水中のダイオキシン類の処理に十分な効果を示した。さらに、連続処理の可能性を検討するため1週間に一度500ng/500mLの高塩素置換ダイオキシン類を添加する実験を行った結果、ほぼ全量のダイオキシン類の分解が可能であり、分解能力が低下することなくほぼ1ヶ月間運転を継続することができた。
結論
①本研究で用いた汚染土壌からの抽出実験では、エタノールが適当であり、溶媒比80%、温度70℃、1分間の抽出操作で4価以上のダイオキシン類を95%抽出することができた。
②紫外線(UV)酸化処理技術の検討では、本研究で用いた高圧紫外線ランプにより、高塩素置換ダイオキシン類の脱塩素化が確認され、さらにUV処理後の残存ダイオキシン類の微生物分解も確認することができた。
これらの結果より、高濃度に汚染された土壌から迅速にダイオキシン類を抽出し、さらにUV分解による低塩素化処理を経て、微生物分解で完全無害化を行うといった処理プロセスの可能性を示すことができた。
③ダイオキシン類を分解する好熱菌の遺伝子解析を行うことにより、プラスミド上にダイオキシン類分解に関連のある遺伝子配列がコードされている可能性が示唆された。
④好熱菌による無塩素置換ジベンゾ-p-ダイオキシンの分解実験を行ったところ、従来とは異なる分解経路の存在が示唆された。これらの結果より、微生物によるダイオキシン類の分解メカニズムの解明(分解経路、分解酵素等)につながる重要な知見を得ることができた。
⑤自然環境中から単離された新規株を用いたバッチ実験を行い、浸出水中のダイオキシン類が分解されることを確認した。
⑥K汚泥から単離した微生物Acremonium sp.により、これまで微生物分解が困難であった高塩素置換ダイオキシン類を4日間で約80%分解することを確かめた。従来微生物分解が困難であった高塩素置換ダイオキシン類を分解する菌を水中に生息する微生物群から単離できたことで、低塩素化等の前処理工程無しでダイオキシン類処理プロセスを構築できる可能性を示すことができた。
⑦K汚泥を用いたカラム形リアクター実験により、水中のダイオキシン連続処理の検討上必要な分解能力、分解速度等の基本条件を明らかにし、連続分解処理を行えることを示した。

公開日・更新日

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