母乳中のダイオキシン類に関する研究

文献情報

文献番号
199900622A
報告書区分
総括
研究課題名
母乳中のダイオキシン類に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
多田 裕(東邦大学)
研究分担者(所属機関)
  • 中村好一(自治医科大学)
  • 松浦信夫(北里大学)
  • 近藤直実(岐阜大学)
  • 森田昌俊(国立環境研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
90,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国における母乳中のダイオキシン類の濃度およびダイオキシン類濃度と生活環境因子との関連を明らかにするとともに、母乳中のダイオキシン類が乳児におよぼす健康影響の評価を行うことを目的として研究を実施した。
研究方法
各地域の母乳中のダイオキシン類濃度を調査するため、19府県21地域の初産婦の生後30日の母乳中のPCDDs、PCDFs、Co-PCB濃度の測定結果を解析した。また、岩手県、千葉県、新潟県、石川県、大阪府、島根県の6府県を対象に、初産婦の出産後30日の母乳の提供を受け、定点的に経年的なダイオキシン類濃度の測定を行い、その変動を見た。
また、初産時に母乳中のダイオキシン類濃度を測定した母親のうち、第2子を出生した7例の第2子出産後の母乳の提供を受けダイオキシン類を測定した。
乳児への影響については、母乳中のダイオキシン類の測定を行った症例が1歳になった時点で、発育発達を測定すると共に、採血して甲状腺機能、免疫機能、アレルギ-反応などについて検査し、マススクリ-ニング検査時のTSH値に関しても、母乳中のダイオキシン類濃度との相関を検討した。
結果と考察
(1)全国19府県21地域の合計415名人の初産婦の産後30日目の母乳中のダイオキシン類(PCDDs+PCDFs+Co-PCB12種)濃度の平均値は22.2 pgTEQ/gFatであった。地域によりダイオキシン類濃度の平均値は最低13.4 pgTEQ/gFatから最高29.5 pgTEQ/gFatまでの差があった。(2)同一地域で経年的に母乳中のダイオキシン類濃度を測定した結果では、年毎に平均濃度は低下していた。(3)第2子出産後の母乳中のダイオキシン類濃度については、母乳の提供を受け前回の母乳中の濃度との比較を行った6名の検査結果の集計で、PCDDs+PCDFs+Co-PCD3種の濃度は最低5.9 pgTEQ/gFat、最高16 pgTEQ/gFat 、平均11.0 pgTEQ/gFatで第1子に比較して低値であった。
(4)1歳時の健康影響調査:①身体発育、精神発達には母乳中のダイオキシン類濃度との相関は認められなかった。②母乳で哺育された1歳時の免疫機能、アレルギ-および甲状腺機能の検査値は何れも正常範囲内であった。③CD3、CD4、CD16、血清免疫グロブリン等の免疫機能、アレルギ-および甲状腺機能とダイオキシン類の推計摂取量との間には有意な相関は認められなかった。④CD8およびCD19については、ダイオキシン類の推計摂取量との間にCD8では正の、CD19では負の弱い相関が認められたが、何れも正常範囲内の動きであり、母乳中のダイオキシン類による免疫グロブリン等の1歳時の感染防御力への影響は認められなかった。⑤出生直後のマススクリ-ニング検査時のTSH値と母乳中のダイオキシン類濃度との間に相関は認められなかった。
以上の結果を考察すると、昨年度までの本研究班の研究結果から、母乳中のダイオキシン類濃度の変化が明らかになり、乳児が摂取するおよそのダイオキシン類の総量を推定することが可能になった。こうして推定したダイオキシン類の摂取量と、1歳時の乳児の発育発達や免疫機能、甲状腺機能などとの相関を見たが、今回の検討結果では測定値は全て正常範囲内であり、ダイオキシン類が乳児に影響を及ぼしていることを伺わせる所見はなかった。
また、各地の母乳中のダイオキシン類濃度を測定した結果では、地域によりかなりの差が認められることが明らかになった。母乳中の濃度に影響する因子を解明することに依り、人体のダイオキシン汚染の原因が明らかになると共に、今後他の研究班の研究結果とも総合的に判断することにより、母乳中のダイオキシン類の濃度測定で、わが国のダイオキシン対策の効果の指標としての重要な情報を得ることが出来る可能性が示唆された。
本年度までに本研究班で経年的に測定した同一地域の母乳中のダイオキシン類濃度は、大阪府での1973年以来の低下傾向のみでなく、この2~3年の間でも各地とも低下している傾向が伺われている。また、第1子と第2子の授乳時の母乳中のダイオキシン類濃度の比較を行ったが、今後このような測定症例が増えれば、出産の間の母体へのダイオキシン類蓄積量の推定が可能になり、日常のバックグランド程度の曝露による人体へのダイオキシン類蓄積量の推定も可能になると期待された。
母乳からの乳児は耐容1日摂取量の20倍以上ものダイオキシン類を摂取することになるため、母乳哺育の安全性に付き懸念が持たれているが、今回の研究では現在の母乳中の濃度程度のダイオキシン類では明らかな影響は認められず、母乳哺育の利点を考慮すると母乳哺育を推奨すべきであるとの従来の見解を支持する所見であった。しかし、各地域の母乳中の濃度差がかなり大きいので、母乳哺育の安全性に関しては、さらに症例を増やして慎重に検討を行うことが必要である。
今回の検討では、ダイオキシン類の乳児への負荷量は、母乳中の濃度とその生後の変化、さらに月齢別の哺乳量の変化から推定した。しかし、正確な体内負荷量を知るためには母乳からのダイオキシン類の吸収と排泄を知ることが重要であり、今後の研究が必要であると考えられた。
結論
各地域で採取した母乳中のダイオキシン類濃度の平均値は22.2 pgTEQ/gFatであったが、府県により13.4 pgTEQ/gFatから29.5 pgTEQ/gFatまでかなりの差異があることが明らかになった。しかし、同一地域での測定結果では、漸減傾向が認められた。
母乳中のダイオキシン類は、今回の検討では新生児および1歳時の乳児の発育発達や甲状腺機能に影響を与えていなかった。また免疫機能やアレルギ-の発症に関しても明らかな影響は及ぼしていないと考えられた。

公開日・更新日

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