文献情報
文献番号
199900621A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシン類の汚染状況及び子宮内膜症等健康影響に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
堤 治(東京大学医学部)
研究分担者(所属機関)
- 武谷雄二(東京大学医学部)
- 遠山千春(国立環境研究所)
- 諸橋憲一郎(基礎生物学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
19,469,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
ダイオキシンは極めて有毒な環境汚染物質で、少量でも発癌性を有することなどが知られていた。ダイオキシン類には、大気中への排出による直接的曝露、食物連鎖による影響、母乳に含まれるダイオキシン類の新生児や小児への影響などへの不安が高い。最近ダイオキシン類には、内分泌撹乱物質として各種動物において生殖異常や発生異常を生ずることが報告され、サルを用いた実験で子宮内膜症の病因となりうることも示唆され、生殖機能への影響が注目されはじめた。またダイオキシン類は母乳中に多量に含有されることが明らかになり、小児期あるいは成人に達した時点での影響が危惧されている。しかしながらダイオキシン類の曝露量ならびに体内負荷量と子宮内膜症発症などを含めた生殖機能に及ぼす影響に関する研究はほとんどなされていないのが現状である。安全限界の設定は暫定的であり、ことに生殖機能への影響の有無、安全限界などは未知であるのが現状である。本研究でダイオキシン類の生殖機能への影響が明らかになれば、現行のダイオキシン類規制の見直し、改定にも重要な資料となることが期待される。仮にダイオキシン類濃度と判定指標が陰性となっても、生殖機能への影響に対する不安に答えることになり国民のニーズを満たすことができる。
研究方法
1)子宮内膜症患者手術時に皮下脂肪組織、子宮内膜症組織、子宮内膜組織、腹腔内貯留液、血液を採取する。これら組織および体液中のダイオキシン類濃度およびインターロイキン6などのサイトカイン濃度やNK細胞活性(免疫能評価)の測定もおこなう。対照は婦人科疾患で手術を受ける患者で、子宮内膜症を有しないことを確認したものとする。更に、症例の蓄積のみならず患者背景などを含めた疫学的検討も加え解析する。2)不妊症患者で精液検査を受ける男性および健常男子ボランティアより精液、血液および皮下脂肪組織を採取、ダイオキシン類濃度を測定し、精液所見(精子濃度、運動率、奇形率)と比較検討する。3)体外受精患者の採卵時に得られる卵胞液を、卵胞毎に種別保存し、ダイオキシン類濃度およびエストロゲン、プロゲステロン、各種サイトカイン濃度を測定する。卵成熟度、受精率、卵割率、妊娠率のパラメーターとの比較検討を行う。4)実験動物(マウス)の未成熟卵、成熟卵、受精卵、発育段階にある卵を採取し各種濃度のダイオキシン存在下で培養し、受精率、胚発育率、糖取り込み能の発達などを解析する。
結果と考察
1) 子宮内膜症患者と非子宮内膜症患者とでは、ダイオキシンの子宮内膜に対する作用が異なるとする可能性を検討するため、ダイオキシン受容体であるaryl hydrocarbon receptor (AhR)、その受容体の共役因子であるAhR nuclear translocator (Arnt)、ダイオキシンに反応する二つの遺伝子cytochrome P-450 1B1 (CYP1B1)とp62(dok)に関して、mRNAのヒト子宮内膜における発現を半定量的RT-PCR法を用いて調査した。結果としてそれらの遺伝子はすべて月経周期を通じて発現していた。子宮内膜症患者と非子宮内膜症患者との比較では、AhR、Arnt、CYP1B1、p62(dok)の発現に違いを認めなかったが、p62(dok)のみ重症例で高い傾向にあった。喫煙者と非喫煙者との比較ではAhRの発現が喫煙者において低値であった。AhR と Arnt、 Arnt と p62(dok) の発現の間には、直線的な正の相関が認められた。子宮内膜におけるAhR等のダイオキシン関連遺伝子の発現を確認し、TCDDが子宮内膜に影響を及ぼす可能性が示唆された。2)ヒト脂肪組織中のダイオキシン類の検出を試み、子宮内膜症の重症度の観点から検討した。当科で手術を受けた子宮内膜症患
者12例を対象とし、インフォームドコンセント下に手術時に腹壁より1cm角以下の脂肪組織を採取し試料とした。その結果、全ての脂肪組織中よりダイオキシン類が検出され、同一患者の臍部と下腹部より採取された脂肪組織中のダイオキシン類濃度は同程度だった。脂肪組織中のダイオキシン類濃度は軽症子宮内膜症群では11.20±2.89 pgTEQ/gだった。一方、重症子宮内膜症群では19.88±6.18 pgTEQ/gで、重症例で有意に(p<0.05)高い値を示した。ダイオキシン類が子宮内膜症発症に関与するかは不明だが、重症例で汚染の程度が高い可能性があり、今後生活環境など背景の解析を含めた多数例の検討が必要であると考えられた。3)ヒト卵胞液中のダイオキシン濃度の測定を行い、子宮内膜症との関連について検討をおこなった。インフォームドコンセント下に不妊患者の体外受精の採卵時に採取した卵胞液を用い、子宮内膜症群5例、対照群(非子宮内膜症群)4例を対象とした。子宮内膜症群はいずれも腹腔鏡にて内膜症と診断された例、対照群は内膜症はないと診断された例を用いた。卵胞液中のダイオキシン類濃度は、子宮内膜症群:0.023±0.006 ogTEQ/g fat vs 対照群:0.019±0.005 pgTEQ/g fatと、有意差は認められなかったが、子宮内膜症群で高い傾向を示した。4) 当科での体外受精施行男性患者38名(乏精子症18名(精子濃度40×106/ml未満)、対照20名)を対象としてその血清を試料とした。年齢あるいは精子濃度にて乏精子症患者および対照を4群に分け、各々の群の血清を等量ずつ混合し、ダイオキシン類を高分解能GS-MSにより定量分析を行った。その結果、35歳以上の高年齢群では明らかな差異は認められなかったが、35歳未満の低年齢群では乏精子症群で対照よりダイオキシン類濃度が高い傾向を示した(0.087 pgTEQ/g vs 0.057 pgTEQ/g)。乏精子症にダイオキシン類が関連する可能性が示唆されたが、今後ライフスタイル等背景の解析を含めた多数例の検討が必要であると思われた。5) 子宮内膜症において腹腔内環境が変化することは多く報告されているが、子宮内膜症の有無による腹腔内貯留液 (PF)中のHGF濃度を測定した。子宮内膜症III/IV期の患者におけるHGF濃度は、0.906 ng/ml (0.561-1.185; median, interquartile range)で有意に子宮内膜症のない患者のHGF濃度(0.315 ng/ml, 0.251-0.472)より高く、子宮内膜症I/II期の患者ではその中間であった (0.417 ng/ml, 0.310-1.023)。HGFは正常子宮内膜で産生されることは知られているが、子宮内膜症組織においても産生されていることが推測され、腹腔内においてオートクライン/パラクライン的に子宮内膜症を制御している可能性が示唆された。子宮内膜症は子宮内膜様の組織が子宮外に存在する状態を言い、月経困難症や不妊症の原因として非常に問題となっている。子宮内膜症はこの20ないし30年の間に増加の一途をたどっているといわれ、平成9年度の厚生省研究班の調査報告では約12万人の女性が子宮内膜症の診療を受けていることが確認された。子宮内膜症とダイオキシンとの関連が特に注目を集めたのは、Rierらの報告による。これはサルを用いて4年間ダイオキシンを投与、その後10年間経過を観察したところ無投与群、連日5ppt投与群(126 pg/kg/day相当)、75ppt投与群(630 pg/kg/day相当)で子宮内膜症の発生率は用量反応的に増加した。また、マウス、ラットを用いた研究でもダイオキシンが実験的子宮内膜症の発育に関係するという成績もある。しかし、ダイオキシンとAh受容体を介して作用するとされているコプランナーPCBを同系のサルに投与したArnoldらは無処置群より投与群で子宮内膜症の発生率が低い傾向にあり、投与量と内膜症の進行度との関連も見られなかったと報告した。現在、子宮内膜症の発症は卵管を月経血が逆流して腹腔内に拡がった異所性の子宮内膜が起源であるとする移植説が有力である。今回我々はダイオキシンの子宮内膜症発症との関連を解明するため、子宮内膜症患者と非子宮内膜症患者とではダイオキシンの子宮内膜に対する作用が異なり、腹腔内に移植された子宮内膜の増殖能が異なるとする可能性を考えた。そこ
で、ダイオキシン受容体であるaryl hydrocarbon receptor (AhR)、その受容体の共役因子であるAhR nuclear translocator (Arnt)、ダイオキシン に反応する二つの遺伝子cytochrome P-450 1B1 (CYP1B1) とp62(dok)に関して mRNA のヒト子宮内膜における発現を調査した。子宮内膜症患者と非子宮内膜症患者との比較では AhR, Arnt, CYP1B1, p62(dok) の発現に違いを認めなかったが、p62(dok)のみ重症例で高い傾向にあった。子宮内膜症は疫学的に喫煙者に少ないとされるが、喫煙者と非喫煙者との比較ではダイオキシン受容体であるAhRの発現は喫煙者において低値であった。AhRの発現量によりダイオキシンに対する反応性が異なるとすれば、今回の知見は疫学的な知見を裏付けるものと考えられる。子宮内膜におけるAhR等のダイオキシン関連遺伝子の発現を確認し、TCDDが子宮内膜に影響を及ぼす可能性が示唆された。子宮内膜症の患者の血液中のダイオキシン濃度を測定したところ、健常者より患者で高いとする報告もある。しかしヒト血中有機塩素量は子宮内膜症と関係ないという否定的データもある。今回の我々の少数例の検討では、子宮内膜症患者の脂肪組織中ダイオキシン類濃度は対照患者と比べて有意差を示唆する所見が得られた。卵胞液中のダイオキシン類濃度は、子宮内膜症群で高い傾向を示した。また、子宮内膜症患者の腹腔内貯留液中のhaptocyte growth factor (HGF)濃度を測定したところ、子宮内膜症III/IV期の患者におけるHGF濃度は有意に子宮内膜症のない患者より高く、子宮内膜症I/II期の患者ではその中間であった。今後更に症例数を増やし、各種サイトカインの動態とともに、子宮内膜症発症およびその重症度とダイオキシン類濃度との相関について、出産経験の有無や居住地域などを考慮した厳密なcontrolled studyを計画することが急務であると考える。母体投与されたダイオキシンは胎盤および母乳を介して胎仔、新生仔期に作用しその後の性機能にも現れる。精巣機能に関してはMablyらが妊娠15日のラットにダイオキシンを投与し、用量反応的に精子数が減少することを報告した。異常が現れた最小投与量は64 ng/kgであった。Grayらはさらに50 ng/kgでも精子の異常を認めた。これらは、毒性量の1000分の1レベルで生殖異常が惹起されるということと同時に、昨今の人類の精子減少傾向にダイオキシン曝露が関係している可能性を示唆する。今回、男性不妊症患者の血清ダイオキシン類濃度を測定し、35歳以上の高年齢群では明らかな差異は認められなかったが、35歳未満の低年齢群では乏精子症群で対照よりダイオキシン類濃度が高い傾向を示し、乏精子症、特に若年者のそれにダイオキシン類が関連する可能性が示唆された。今後ライフスタイル等背景の解析を含めた多数例の検討が必要であり、更にそのメカニズムについて検討を重ねることが不可欠と思われる。
者12例を対象とし、インフォームドコンセント下に手術時に腹壁より1cm角以下の脂肪組織を採取し試料とした。その結果、全ての脂肪組織中よりダイオキシン類が検出され、同一患者の臍部と下腹部より採取された脂肪組織中のダイオキシン類濃度は同程度だった。脂肪組織中のダイオキシン類濃度は軽症子宮内膜症群では11.20±2.89 pgTEQ/gだった。一方、重症子宮内膜症群では19.88±6.18 pgTEQ/gで、重症例で有意に(p<0.05)高い値を示した。ダイオキシン類が子宮内膜症発症に関与するかは不明だが、重症例で汚染の程度が高い可能性があり、今後生活環境など背景の解析を含めた多数例の検討が必要であると考えられた。3)ヒト卵胞液中のダイオキシン濃度の測定を行い、子宮内膜症との関連について検討をおこなった。インフォームドコンセント下に不妊患者の体外受精の採卵時に採取した卵胞液を用い、子宮内膜症群5例、対照群(非子宮内膜症群)4例を対象とした。子宮内膜症群はいずれも腹腔鏡にて内膜症と診断された例、対照群は内膜症はないと診断された例を用いた。卵胞液中のダイオキシン類濃度は、子宮内膜症群:0.023±0.006 ogTEQ/g fat vs 対照群:0.019±0.005 pgTEQ/g fatと、有意差は認められなかったが、子宮内膜症群で高い傾向を示した。4) 当科での体外受精施行男性患者38名(乏精子症18名(精子濃度40×106/ml未満)、対照20名)を対象としてその血清を試料とした。年齢あるいは精子濃度にて乏精子症患者および対照を4群に分け、各々の群の血清を等量ずつ混合し、ダイオキシン類を高分解能GS-MSにより定量分析を行った。その結果、35歳以上の高年齢群では明らかな差異は認められなかったが、35歳未満の低年齢群では乏精子症群で対照よりダイオキシン類濃度が高い傾向を示した(0.087 pgTEQ/g vs 0.057 pgTEQ/g)。乏精子症にダイオキシン類が関連する可能性が示唆されたが、今後ライフスタイル等背景の解析を含めた多数例の検討が必要であると思われた。5) 子宮内膜症において腹腔内環境が変化することは多く報告されているが、子宮内膜症の有無による腹腔内貯留液 (PF)中のHGF濃度を測定した。子宮内膜症III/IV期の患者におけるHGF濃度は、0.906 ng/ml (0.561-1.185; median, interquartile range)で有意に子宮内膜症のない患者のHGF濃度(0.315 ng/ml, 0.251-0.472)より高く、子宮内膜症I/II期の患者ではその中間であった (0.417 ng/ml, 0.310-1.023)。HGFは正常子宮内膜で産生されることは知られているが、子宮内膜症組織においても産生されていることが推測され、腹腔内においてオートクライン/パラクライン的に子宮内膜症を制御している可能性が示唆された。子宮内膜症は子宮内膜様の組織が子宮外に存在する状態を言い、月経困難症や不妊症の原因として非常に問題となっている。子宮内膜症はこの20ないし30年の間に増加の一途をたどっているといわれ、平成9年度の厚生省研究班の調査報告では約12万人の女性が子宮内膜症の診療を受けていることが確認された。子宮内膜症とダイオキシンとの関連が特に注目を集めたのは、Rierらの報告による。これはサルを用いて4年間ダイオキシンを投与、その後10年間経過を観察したところ無投与群、連日5ppt投与群(126 pg/kg/day相当)、75ppt投与群(630 pg/kg/day相当)で子宮内膜症の発生率は用量反応的に増加した。また、マウス、ラットを用いた研究でもダイオキシンが実験的子宮内膜症の発育に関係するという成績もある。しかし、ダイオキシンとAh受容体を介して作用するとされているコプランナーPCBを同系のサルに投与したArnoldらは無処置群より投与群で子宮内膜症の発生率が低い傾向にあり、投与量と内膜症の進行度との関連も見られなかったと報告した。現在、子宮内膜症の発症は卵管を月経血が逆流して腹腔内に拡がった異所性の子宮内膜が起源であるとする移植説が有力である。今回我々はダイオキシンの子宮内膜症発症との関連を解明するため、子宮内膜症患者と非子宮内膜症患者とではダイオキシンの子宮内膜に対する作用が異なり、腹腔内に移植された子宮内膜の増殖能が異なるとする可能性を考えた。そこ
で、ダイオキシン受容体であるaryl hydrocarbon receptor (AhR)、その受容体の共役因子であるAhR nuclear translocator (Arnt)、ダイオキシン に反応する二つの遺伝子cytochrome P-450 1B1 (CYP1B1) とp62(dok)に関して mRNA のヒト子宮内膜における発現を調査した。子宮内膜症患者と非子宮内膜症患者との比較では AhR, Arnt, CYP1B1, p62(dok) の発現に違いを認めなかったが、p62(dok)のみ重症例で高い傾向にあった。子宮内膜症は疫学的に喫煙者に少ないとされるが、喫煙者と非喫煙者との比較ではダイオキシン受容体であるAhRの発現は喫煙者において低値であった。AhRの発現量によりダイオキシンに対する反応性が異なるとすれば、今回の知見は疫学的な知見を裏付けるものと考えられる。子宮内膜におけるAhR等のダイオキシン関連遺伝子の発現を確認し、TCDDが子宮内膜に影響を及ぼす可能性が示唆された。子宮内膜症の患者の血液中のダイオキシン濃度を測定したところ、健常者より患者で高いとする報告もある。しかしヒト血中有機塩素量は子宮内膜症と関係ないという否定的データもある。今回の我々の少数例の検討では、子宮内膜症患者の脂肪組織中ダイオキシン類濃度は対照患者と比べて有意差を示唆する所見が得られた。卵胞液中のダイオキシン類濃度は、子宮内膜症群で高い傾向を示した。また、子宮内膜症患者の腹腔内貯留液中のhaptocyte growth factor (HGF)濃度を測定したところ、子宮内膜症III/IV期の患者におけるHGF濃度は有意に子宮内膜症のない患者より高く、子宮内膜症I/II期の患者ではその中間であった。今後更に症例数を増やし、各種サイトカインの動態とともに、子宮内膜症発症およびその重症度とダイオキシン類濃度との相関について、出産経験の有無や居住地域などを考慮した厳密なcontrolled studyを計画することが急務であると考える。母体投与されたダイオキシンは胎盤および母乳を介して胎仔、新生仔期に作用しその後の性機能にも現れる。精巣機能に関してはMablyらが妊娠15日のラットにダイオキシンを投与し、用量反応的に精子数が減少することを報告した。異常が現れた最小投与量は64 ng/kgであった。Grayらはさらに50 ng/kgでも精子の異常を認めた。これらは、毒性量の1000分の1レベルで生殖異常が惹起されるということと同時に、昨今の人類の精子減少傾向にダイオキシン曝露が関係している可能性を示唆する。今回、男性不妊症患者の血清ダイオキシン類濃度を測定し、35歳以上の高年齢群では明らかな差異は認められなかったが、35歳未満の低年齢群では乏精子症群で対照よりダイオキシン類濃度が高い傾向を示し、乏精子症、特に若年者のそれにダイオキシン類が関連する可能性が示唆された。今後ライフスタイル等背景の解析を含めた多数例の検討が必要であり、更にそのメカニズムについて検討を重ねることが不可欠と思われる。
結論
子宮内膜症患者の子宮内膜におけるダイオキシン関連遺伝子の発現を調べたところ、ダイオキシン受容体AhRおよびその共益因子であるArnt、ダイオキシン応答遺伝子であるCYP1B1およびp62(dok)全てで発現が確認された。対照群と比べて発現量の有意な差異は認められなかったが、ダイオキシン応答遺伝子p62k(dok)の発現量が重症例で有意に高かった。また、疫学的に子宮内膜症になりにくいとされる喫煙者では、非喫煙者に比べてダイオキシン受容体AhRの発現量が低かった。子宮内膜におけるAhR等のダイオキシン関連遺伝子の発現を確認し、ダイオキシンが子宮内膜に影響を及ぼす可能性が示唆された。ヒト脂肪組織、ヒト卵胞液においてダイオキシン類を検出し、子宮内膜症患者ではその濃度が高い傾向が認められた。また、若年の乏精子症例では血清中ダイオキシン類濃度が対照と比べて高い傾向が認められた。今後更に症例を増やし、ライフスタイル、職業、居住地など背景を含めた検討が急務であると考えられた。
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