ダイオキシン類による健康影響の機構に関する研究

文献情報

文献番号
199900620A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシン類による健康影響の機構に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
小栗 一太(九州大学大学院薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 内海英雄(九州大学大学院薬学研究科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ダイオキシン類は、環境中に広く分布した生物蓄積性の環境汚染物質の一つであり、近年では、内分泌撹乱物質として、生体に与える影響が危惧されている。しかしながら、生殖毒性や腎毒性の生化学的メカニズムはよくわかっていないのが実情である。本研究では、ダイオキシン類のうち高レベルに環境を汚染しており、かつその影響がTEQでいうと、2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxinをも上回るとされ、PCB異性体中で最強毒性を示すコプラナーPCBである、3,3',4,4',5-pentachlorobiphenyl (PCB126)を用いた。平成10年度の研究からは、精子形成に重要な役割を果たしているLeydig細胞で、分子シャペロンHSP70およびHSP90の誘導、estrogen receptorの抑制が示唆された。これら分子シャペロンの誘導は、環境汚染レベルのPCB126でも起ることが明らかになっている。本年度も引き続き PCB126 の毒性発現機構の解明を目的とし、基底膜に局在する糖タンパク質である laminin に着目して検討を行った。
研究方法
マウス精巣に対する PCB126 の影響を検討する目的で、Sertoli 細胞 (TM4) および Leydig 細胞 (LC540)を用い、各々の細胞における laminin の発現量の評価を特異的抗体を用いた western blotting により行った。なお、western blotting における一次抗体としては laminin-1 (α1β1γ1) を認識するポリクローナル抗血清およびγ1鎖を認識するモノクロ-ナル抗体 (IgG1) を用いて、各々検討を行った。また、ラット精巣Leydig 細胞 (LC540) を用いて、PCB126 が laminin の発現量に及ぼす影響を検討した。 PCB126 の濃度は100 nM とし、Leydig 細胞 (LC540) に PCB126 を暴露させた。PCB126 処理前 24 hr は培地中のウシ胎児血清 (FBS) を、通常の 10% から 1% に下げて培養させた。PCB126 処理時間は 1、6、12 時間と変えて、ハーベストした。コントロールには、DMSO で同時間処理したものを用いた。ハーベスト後、PMSF 存在下でソニケーション し、western blotting のサンプルとした。
結果と考察
まず、培養細胞を用い、精巣由来の2種類の cell line (Sertoli cell, TM4 および Leydig cell, LC540) において、 PCB126 処理の影響を調べたが、laminin のタンパク質レベルには PCB126 処理では顕著な変化はなかった。次に、Wistar系ラットをPCB126 10 mg/kg (i. p.)で単回処理し、5日後に、精巣および腎臓を摘出して検討したが、精巣の laminin のタンパク質レベルは顕著な影響を受けなかった。このように、精巣のlamininへの影響は顕著でなかった。しかしながら、PCB126 処理ラット腎臓においては、分子量約 70 kDa 付近にモノクローナル抗 laminin γ1 鎖抗体と特異的に交叉する強いバンドが出現した。この約 70 kDa のバンドが、生理的機能を有するか否かは、現在までに明らかでないが、laminin γ1 鎖の MMPs による切断に由来するとしても、MMP-2 (gelatinase A) および MMP-3 (stromelysin-1) の 2 種の MMPs の寄与は少ないことが示唆された。
結論
ダイオキシン類による生殖毒性や腎毒性の生化学的メカニズムを明らかにするため、基底膜を構成する laminin に及ぼす影響について検討した。精巣由来の培養細胞では、顕著な影響は認められなかったが、ラット腎臓のlamininに影響があるものと考えられた。本年度の研究の成績は、ダイオキシン類の腎毒性発現機構を解明する上で一つの重要な手がかりを与えるものと考えられる。

公開日・更新日

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更新日
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