特定疾患に伴う肺高血圧症の発症機序の解明と内科的治療指針確立を目指す診療科横断的研究

文献情報

文献番号
199900612A
報告書区分
総括
研究課題名
特定疾患に伴う肺高血圧症の発症機序の解明と内科的治療指針確立を目指す診療科横断的研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
栗山 喬之(千葉大学肺癌研究施設第二臨床部門)
研究分担者(所属機関)
  • 西村正治(北海道大学医学部第一内科)
  • 白土邦男(東北大学医学部第一内科)
  • 佐地勉(東邦大学医学部第一小児科)
  • 鳥飼勝隆(藤田保健衛生大学感染症リウマチ内科)
  • 国枝武義(慶應義塾大学伊勢慶應病院内科)
  • 中西宣文(国立循環器病センター心臓内科)
  • 篠山重威(京都大学大学院医学研究科循環病態学)
  • 大江透(岡山大学医学部循環器内科)
  • 笠貫宏(東京女子医科大学附属日本心臓血圧研究所循環器内科学)
  • 田中良弘(自衛隊中央病院胸部外科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肺高血圧症の発症機序の解明としては、モノクロタリン肺高血圧(MCT-PH)ラットモデルを用い、肺高血圧進展における各種薬剤の抑制効果または増強効果を検討する。今年度は、抗マクロファージ遊走阻止因子(MIF)抗体並びにステロイド大量投与による抑制効果と、一酸化窒素(NO)並びに誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)の役割について明らかにする。また、臨床例においても慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)多数例をもとに遺伝学的素因の有無をはじめとして、本症の成立機序についての糸口の解明を目指す。次に、原発性肺高血圧症(PPH)において、血中Aderenomedulin(AM)値の臨床的意義を明らかにする。また、肺高血圧症を対象にNO吸入の肺循環動態へ及ぼす急性効果を検討する。PPH、膠原病に伴う肺高血圧症(CoPH)、CTEPHの3疾患に対して、有効性の高い治療法を選択し、重症度を加味した治療選択指針案の作成並びにその普及を目指す。CTEPHに関しては、肺血栓内膜摘除術の効果を生存曲線並びに健康関連QOL(HRQL)の観点から評価を加え、外科的治療の有用性並びに適応基準を明白にする。
研究方法
MCT-PHラットモデルを作成し、ウサギ抗ラットMIF抗体、ステロイド薬大量投与による右室肥大の抑制効果、並びに肺小動脈の中膜肥厚の程度に及ぼす影響について組織学的に検討した。さらに、NO donor、NOSの阻害薬を投与し、肺循環動態および肺血管リモデリングへの影響を観察した。臨床研究としては、小児PPH連続14例を対象にPGI2持続静注療法施行前後での静脈血中AM値を測定した。また、NO吸入の急性効果としては、前毛細血管性肺高血圧症10例を対象として、吸気時のみのパルス吸入並びに持続吸入の肺循環動態への影響を検討した。また、CTEPH連続69例を対象に臨床病態、深部静脈血栓症の有無に加え、HLA Class・の血清学的タイピングを行い、HLA B52の出現の有無を検討した。PPHに対する内科的治療として、BPSの長期内服治療を行った24例と通常療法のみの34例の2群を対象に、BPS投与後の肺循環動態の測定ならびにKaplan-Meier法による生存曲線の比較を行った。PGI2持続静注療法の効果に関しては、小児PPH18例および成人PPH、CoPHなどの血管原性肺高血圧症例20例を対象に、肺循環諸量、運動耐容能への効果を検討した。すでに在宅ポンプ療法を6ヶ月以上施行しているPPH14例を対象に、本療法に伴う副作用やトラブルの事例をアンケート調査するとともに、SF-36を用いたHRQLの評価を行った。CoPHに対する内科的治療としては、CoPH9例を対象にプレドニン投与量と肺高血圧軽減効果について検討した。CTEPH57例を対象に手術施行群34例、手術適応であったが手術を行わず内科的治療を選択した内科治療重症群13例、手術適応と判断されなかった内科治療軽症群10例の3群に分け、3群間でKaplan-Meier法による生存曲線並びにHRQLの比較を行い、手術の有用性並びに手術適応基準の妥当性の評価を行った。プロスペクティブな共同研究として、PPHの新規登録並びに治療選択指針案に準じた治療選択を行い、この指針案の妥当性を評価した。
結果と考察
MCT-PHモデルを用いた実験により、MIFの肺高血圧症への関与を証明し得た。また、ステロイドの大
量投与はMCT-PHモデルの肺高血圧抑制効果が示唆された。抗MIF抗体を用いた治療は、血管平滑筋増殖による血管壁の肥厚を直接制御する新たな治療法としても期待できるものと考えられた。また、MCT-PHモデルにみられる肺血管リモデリングの研究では、遊走した単核球が産生する誘導型一酸化窒素合成酵素(INOS)によりNO radicalが過剰産生され、neointima形成に関与している可能性が示唆された。
臨床研究としては、血中AMがエンドセリンとともにPPHの肺血管病変の経時的評価を行う上で有用な指標となりうることが示唆された。NO吸入の急性効果の検討では、持続吸入並びに吸気時のみのパルス吸入ともに、有害作用無く選択的に肺血管抵抗を低下させることが可能であった。本療法は、導入が比較的容易であり、PGI2持続静注療法のような煩雑さがない利点も有していることから、今後、在宅での臨床応用を視野に入れた多施設共同での臨床治験が必要と思われた。本邦におけるCTEPHは女性にその発症頻度が高く、高安病との疾患関連性が示唆されるHLA B52陽性率も女性例で高率であったことから、深部静脈血栓症からの反復による欧米型の発症機序に加え、何らかの遺伝学的素因に規定された発症機序の存在が示唆された。各種肺高血圧症に対する内科的治療指針確立を目指した取り組みとしては、CTEPHを重症度により大きく2つに分け、軽症例には内科的治療を優先し、中等症以上の症例では肺血栓内膜摘除術の適応を考慮するものとした。手術施行症例の生命予後およびHRQLは、手術適応であるのに手術を施行しなかった内科治療重症例に比し有意に良好であり、外科的治療の有用性が再確認された。しかしながら、血栓付着が末梢優位の症例や重症な肺高血圧を有する症例に対しては、肺移植やPGI2持続静注療法の適応なども考慮され、今後の大きな検討課題と思われた。CoPHの治療指針としては、一部の症例で免疫療法やプレドニン内服治療が有効であった。PPHに対する内科的治療としては、経口可能なBPSの長期内服により、肺循環動態の改善に加え生命予後の改善効果もみられ、有用な治療法である可能性が示唆された。また、PGI2持続静注療法に関しては、重症のPPH小児例においても一部の不応例を除き、長期効果は良好であった。またPPH成人例に対しても、肺循環動態および運動耐容能の改善が認められ、今後PPHに対してPGI2持続静注療法が中心的な治療法となる可能性が示唆された。しかしながら、BPSによる内服治療とPGI2持続静注療法の適応基準は明白とはいえず、両者の治療法をどう使い分けるかが今後の大きな課題と思われた。在宅ポンプ療法施行症例を対象とした臨床調査成績により、適切な教育・指導を行えば在宅での治療も安全に実施可能であることが示された。PPHに対する内科的治療指針確立を目指した研究としては、初年度に内科的治療選択指針案の作成をすでに行っているが、今年後は、本研究班参加施設によるPPH新規症例の登録並びにこの治療選択指針案に沿ったプロスペクティブな研究を開始した。これまで全例で50例の症例登録が得られ、このうち31例の新規症例では、NYHA・度以下の症例を中心に8例が経口PGI2療法を、NYHA・度以上の症例を中心に22例でPGI2持続静注療法が選択され、今後有用性の評価を行い、治療選択指針の確立を目指す。
結論
MCT-PHラットの肺高血圧発症に、MIFや単核球が産生するiNOSの関与が示唆された。PPHに対してBPSの内服とPGI2持続静注療法を柱とした内科的治療選択指針案を作成し、新規症例の登録と合わせプロスペクティブな多施設共同研究を開始した。CTEPHに対しては、肺血栓内膜摘除術の適応基準を中心に、重症度基準に基づいた治療選択指針を作成した。

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