臓器線維症(強皮症、腎硬化症、肺線維症、骨髄線維症等)における線維化抑制物質(デコリン)の誘発を活用した治療法開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900610A
報告書区分
総括
研究課題名
臓器線維症(強皮症、腎硬化症、肺線維症、骨髄線維症等)における線維化抑制物質(デコリン)の誘発を活用した治療法開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
西岡 清(東京医科歯科大学医学部皮膚科)
研究分担者(所属機関)
  • 新海 浤(千葉大学医学部皮膚科)
  • 斎藤 康(千葉大学医学部第二内科)
  • 金田安史(大阪大学医学部遺伝子治療学講座)
  • 上野 光(九州大学医学部循環器内科)
  • 海老名 雅仁(東北大学加齢医学研究所呼吸器腫瘍)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
29,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
臓器線維化によってひき起こされる全身性強皮症、腎硬化症、肺線維症、肝硬変、動脈硬化症などは、いずれも生命予後を大きく左右する難治性疾患であるが、それらに対する有効な治療法は確立されていない。これら臓器、器官の線維化にサイトカインの一つであるTransforming Growth Factor (TGF) -βが中心的役割を果たすことが明らかになってきている。そこで、遊離されたTGF-βを捕捉してその作用発現を抑制するデルマタン硫酸プロテオグリカンであるデコリンを臓器に発現させることによって臓器線維症の治療する方法を確立することを目的とした。本年度は2年間の研究期間の最終年度に当たることから、臓器線維症治療に対するデコリンの位置付けを行うことを目的とした。また、同時に、前年度に引き続いて臓器線維症病態における各種サイトカインの役割を検討し、新しい治療法の開発を目的とした。
研究方法
研究方法は各テーマにおいて異なることから研究結果の項に一括して報告する。
結果と考察
1 デコリン遺伝子-HVJリポソーム投与による腎硬化症の治療と腱再生へのデコリン-アンチセンス-リポソームによる治療
昨年度の活動において使用可能となっているHVJリポソームを用いてデコリン遺伝子の導入実験を行った。抗Thy-1抗体処理によって誘導した腎炎/腎硬化症モデルラットにデコリン遺伝子を組み込んだHVJリポソームを投与したところ、腎硬化症の改善・消退が観察された。デコリン遺伝子-HVJリポソームの筋肉内投与によって、腎臓内のCollagenI、Fibronectin、Teneisinの遺伝子発現が抑制され、腎硬化が抑制されることが示された。また、腱断裂後の腱再生において、デコリンの産生蓄積が十分な強度を持つ腱の再生を障害することから、腱再生でのデコリン蓄積を抑制するために、デコリンのアンチセンスoligonucleotideを組み込んだHVJリポソームを局所投与した。局所でのデコリン産生は抑制され、強度の高い腱再生が観察された。このアンチセンスoligonucleotideの導入には、他のリポソームを利用することもできるが、アンチセンスの破壊が起こりアンチセンス導入は十分に行われず、HVJリポソームによってはじめて可能であった。この研究成果は、HVJリポソームを用いることによって、デコリンの発現増強と抑制の操作を簡単に行うことができるようになったことを示すもので、種々の線維化調節のための治療法を確立したものとして価値ある成果と考えられる。
2 デコリン遺伝子-HVJリポソームによる強皮症硬化皮膚の治療
デコリン遺伝子を組み込んだHVJリポソームを強皮症のモデルマウスであるTight skin mouseの背部に皮下投与すると、局所皮膚にデコリンの発現が確認された。この発現されたデコリンによってTight skin mouseの皮膚硬化が改善すされるか否かは今後引き続き検討される課題となっている。一方、ブレオマイシンの反復投与によって誘導される皮膚硬化は、デコリン遺伝子組み込みHVJリポソームの投与によって、コラーゲン線維の増加は見られなかったが、局所皮膚の厚さが増強し、局所にデコリンの蓄積が見られ、見かけ上は硬化皮膚の改善は見られなかった。これは、硬化皮膚内にリポソームを注射したことによって局所にデコリンが蓄積し、線維化抑制をマスクしている可能性が考えられ、今後リポソームの投与方法を改善することによって、腎硬化症と同じように硬化の改善が期待される。ブレオマイシン皮膚硬化に対しては、Hepatocyte growth factor (HGF)の反復投与が硬化改善効果を示し、デコリンと同様、HGFが治療手段として用いることができる可能性が示された。今後、硬化皮膚に対する治療手段としてのHGF遺伝子導入HVJリポソームの利用も検討する必要があろう。
3 肺線維症に対するデコリンの治療法効果
ブレオマイシン肺線維症に対して、デコリン遺伝子組み込みアデノウイルスベクターを頸静脈から投与したが十分な肺線維症に対する治療効果を得ることはできなかった。しかし、経気道投与を行うことによって、肺線維症におけるハイドロオキシプロリン量の減少が観察され、病理学的にも肺線維症の改善がみとめられ、デコリンが肺線維症に対しても治療効果を示すことが明らかになった。
4 肝硬変治療への取り組み
肝硬変に対してTGFβの変異受容体を利用した治療を検討した。すでに線維化が形成された肝臓に変異型TGFβ受容体を導入することによって、肝臓のハイドロオキシプロリン量が低下し、病理所見においても肝臓の線維化が抑制された。さらに、変異型受容体の可溶性部分のみの遺伝子を筋肉内に投与し、遺伝子発現による可溶性受容体の過剰産生を行ったところ、これによっても肝臓の線維化が抑制 されることが明らかとなり、可溶性TGFβ受容体の直接投与によっても肝硬変の治療が可能であることが示され、他の臓器線維症に対しても応用可能な研究成果と考えられた。
5 動脈硬化症治療への取り組み
動脈硬化症では血管壁にExtracellular matrix (ECM) の蓄積と血管壁平滑筋に増生によるプラークが形成される。このプラークが破裂し、内容物が血管内に遊離すると栓塞をきたして生命予後を大きく左右する。正常の分化型中膜にはデルマトポンチン(DPN)が発現されており、オステオポンチン(OPN)の発現は見られない。ところが硬化部位ではOPNが増加し、DPNは減弱する。これは初老モデルとされるWerner症候群の皮膚においても認められ、OPNとDPNのバランスが重要な働きを示していることが伺われた。この観察結果から、DPNとOPNの発現を調節することによって動脈硬化症の治療法確立の可能性が示された。
結論
2年間の研究活動によって、臓器線維症の治療法手段としてのDecorin(DC)、 Hepatocyte growth factor (HGF)、変異型Transforming grouth factor (TGF)-β受容体、 Dermatopontin (DPN)が検討され、DCとHGFは腎硬化症、肺線維症、皮膚硬化症に対する治療手段としての位置付けが明らかになった。また、肝硬変における線維化の治療手段として変異型TGF-β受容体の位置付けができた。さらに、それらの遺伝子を生体内に導入する方法として、HVJリポソーム、アデノウイルスベクターなどが検討され、十分な成果を上げうる方法として確立された。これらの成果は、ヒト臓器線維症治療への基本的確証を提供するものであり、ヒト臓器線維症の治療手段となりうるものと考えられる。

公開日・更新日

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