原因不明の血栓が病因となる難治性疾患の横断的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900607A
報告書区分
総括
研究課題名
原因不明の血栓が病因となる難治性疾患の横断的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
丸山 征郎(鹿児島大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 小池隆夫(北海道大学医学部)
  • 久保俊一(京都府立医科大学)
  • 小嶋哲人(名古屋大学医学部)
  • 北本康則(熊本大学医学部)
  • 池田栄二(慶応大学医学部)
  • 坂巻文雄(国立循環器病センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
33,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本プロジェクトの目的は、血栓が病因となって原疾患が難治化することの仕組みを明らかにして、その防御策を立案し、疾患の難治化を防ぐことである。疾患としては、モヤモヤ病、肺高血圧、腎炎、大腿骨頭壊死を選び、これらに対し、血栓が関与しているか否か、血栓が関与していたらそのメカニズムはどのようになっているのか、等について血管内皮細胞機能、血液凝固・線溶系、血液流動性、血管新生などの諸点から検討した。
研究方法
疾患として、モヤモヤ病、肺高血圧、腎炎、大腿骨頭壊死、膠原病(含む抗カルジトリピン抗体症候群)を選んだ。これは縦軸(臓器)である。これらについて内皮細胞機能、遺伝子発現、凝固・線溶系から検討した(横糸:横断的、すなわちシステム)。また臨床の現場では、膠原病が血栓によりしばしば難治化することから、膠原病のうち、血栓形成に大きな役割を果たすと見なされている抗カルジオリピン抗体の作用機序について解析した。
結果と考察
内皮細胞は抗血栓活性、そのほか免疫、循環んど生体制御に大きな役割を果たしている。その中でも特に血液の流れに対して抵抗の大きな部位;微小循環系ではトロンボモデュリン(TM)ープロテインCが大きな役割を果たす。一方内皮細胞は血液とのインターフェースに位置するため、白血球由来のラディカルや、IL-1, TNF-αなどのサイトカイン、酸化変性LDL,糖化タンパク(AGE) など生体内修飾物質、エンドトキシン(LPS)などでその機能は損なわれる。特に加齢マウスはLPSに対する感受性が高いことが判明した(小嶋ら)。体内のLPSともいうべき酸化変性LDLやAGEに対しても同様のことが言えるか否かが今後の興味ある問題である。今回はTMが抗酸化作用を有し、ラディカルなどの刺激に対して、細胞保護的に作用するというTMの新たな機能を見い出した。
モヤモヤ病では新生血管から出血することが判明している。そこで新生血管と内皮機能の関係が判明すれば、モヤモヤ病における血栓や出血の病態の一端が判明するものと考えられる。また体内、外物質のよる内皮機能の障害は、基礎疾患のある患者を向血栓性にする重要な全身性ファクターになるものと考えられる。今回メサンジウム増殖型腎炎に腎局所での凝固の活性化が示唆されたが、この場合にも腎局所での炎症性サイトカインが一定の役割を果たしている可能性が考えられる。また肺高血圧でも内皮細胞の障害と凝固系の活性化が示唆されたが、この場合、内皮細胞の障害の結果凝固系の活性化が起きている可能性があろう。今回ステロイド投与による実験的大腿骨頭壊死の動物モデルの作成に成功し、このモデルウサギでは大腿骨頭の微小循環系のジヌソイドの拡張とトロンボモデュリンの減少が証明された。今後このメカニズムの解明が重要であるが、大腿骨頭壊死の防止や治療に大きな進歩となるものと思われる。
結論
大腿骨頭壊死や慢性肺高血圧では内皮細胞機能障害が根底にあり、それにより微小循環領域で血栓が形成されて、局所での血栓が病態の発生に大きく関係しているものと想定された。モヤモヤ病では病巣でのVEGFとその受容体系の過剰発現があり、これが血管新生につながり、結果としてここで血栓ができる可能性が考えられた。血管内皮細胞の抗血栓活性AGE酸化変性LDLなど生体内修飾物質、IL-1,TNF-αなど、LPSでダウンレギュレーションされた。これは全体的に基礎疾患のある患者においては血栓の大きな原因の一つになるものと考えられる。

公開日・更新日

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