特発性拡張型心筋症の重症例に対するバチスタ手術の有効性評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900604A
報告書区分
総括
研究課題名
特発性拡張型心筋症の重症例に対するバチスタ手術の有効性評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
米田 正始(京都大学大学院医学研究科器官外科学)
研究分担者(所属機関)
  • 西村和修(京都大学大学院医学研究科器官外科学)
  • 仁科 健(京都大学大学院医学研究科器官外科学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的はバチスタ手術 (左室縮小形成術)の縮小の程度や部位および対象・適応を明らかにし、より優れた術後心機能をもたらす術式を開発改良することで特発性拡張型心筋症(DCM)患者の生命予後とQOLの改善をもたらす事にある。勿論家族の受益や社会の受益にも好ましい影響を及ぼしうるものである。本研究によって最も心機能の改善する手術を患者に提供できる。また同手術に適した患者と不適な患者をより確実に選別できる根拠を提供する。
特発性拡張型心筋症は自然予後が極めて悪く、効果的治療法である心移植を部分的に肩代わりする治療法として期待を集めるバチスタ手術は現在までに安定した成績を挙げていない。この原因として1.術前どのような心機能上の特性を持つ患者が同手術によって利益を受けるかという適応の問題や 2.どの部位の心筋をどの程度切除すれば最も優れた術後心機能をもたらすかという術式の問題の両者について科学的データがない事が挙げられる。これらをメカニズムと共に明らかにすることが、同手術を真に患者のための治療法とならしめるために是非とも必要である。またこうした実験研究を行なうために必要な動物モデル、すなわち手術に耐えるようなDCMモデルの開発を当施設において昨年度より行ってきたが一応の完成をみた。本年度は手術後の中長期成績を検討し前向き試験を行うことによってバチスタ術の功罪を明らかにできると考えている。さらに今年度の研究は来年度行う大型動物実験の基礎データーをなすものであり、本研究が手術法や左室機能評価などにおいて臨床に近い性質を持ち、しかも臨床例より遥かに高精度の生理学的・分子生物学的データが得られるため本研究は方法論では実験研究ではあっても臨床に直結した、臨床研究を上回る価値があるものと考える。
研究方法
前年度の結果を受けて、今年度は9週齢から高塩食投与開始し27週齢で評価モデル完成しているものを前向き無作為抽出にて左室縮小形成術を施行した群(11匹)と左開胸のみ施行した群(15匹)の2群に分類した。手術は挿管下全身麻酔下に行い、左室縫縮はフェルト付き5-0ポリプロピレン糸で2回に分けて行った。これによって術直後及び術中死亡が軽減し術後の評価がより正確にできるようになったと考えられる。手術施行後1週、2週、4週にエコー(hured pakkard社製 SONOS1000及び5500)評価を行い4週目に右内頸動脈から左心室内に圧測定用カテーテルを挿入し右内頸静脈から下大静脈にオクルージョンカテーテルを挿入し圧容量関係を測定するとともにdp/dtより拡張能を計測した。その後カテーテル検査の影響がとれるのを待って(3日間)標本採取した。
結果と考察
1.左室短径収縮率:左室縮小形成術を施行した群では術直後30.6±6.54%が4週間目には29.7±7.1%とほぼ保たれていたのに対して左開胸のみ施行した群では目にはを施行した群では術直後28.9±4.5%が4週間目には19.0±3.9%と著しく低下した。両群には有為な差が見られた。2. 左室拡張末期径:平成10年度に報告した様に左室縮小形成術前後で8.6mmから7.0mmに改善した。しかし1週目には8.3mm、4週目には8.4mmと再拡大し左開胸のみ施行した群とほぼおなじ拡大を示した。3. 長期死亡率:死亡率は左室縮小形成術を施行した群では54.5%、左開胸のみ施行した群では46.7%と両者で有為さを認めなかった。現在、心不全状態で上昇する因子としてBNPを中心とした測定と壁ストレスを細胞活性物質を免疫染色する事により、評価し細胞内のストレスの局在についても検討中である。また、現在心不全の指標としてBNP、cathecolamineなどの各種分子生物学的データも解析検討中である。これによって心不全の改善を数値化して評価できると考えている。おり、解析終了次第臨床に即した左室縮小手術の検討を開始する予定である。
結論
1.ダールラットを用いたうっ血型心筋症(DCM)の外科治療モデルを用いて左室縮小形成術(バチスタ手術)を行い、左室の縮小と収縮機能の改善を認めた。2.手術後2週間目、4週間目を検討し中長期予後を検討したところ心機能は保たれるが生存率は改善しなかった。また心臓の再拡大を認めた。
これによりバチスタ手術において生命予後は改善しないがQOLは改善することが示された。今後さらに例数を増やすことで術前の左室状態や手術における縮小程度が術後心機能におよぼす影響やさらに8週目など遠隔期の成績が分子生物学的変化・効果とともに明らかになると考えられる。

公開日・更新日

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