重症急性膵炎の救命率を改善するための研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900603A
報告書区分
総括
研究課題名
重症急性膵炎の救命率を改善するための研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
小川 道雄(熊本大学医学部第二外科)
研究分担者(所属機関)
  • 跡見 裕(杏林大学医学部第一外科)
  • 大槻 眞(産業医科大学医学部第三内科)
  • 加嶋 敬(京都府立医科大学医学部第三内科)
  • 島崎修次(杏林大学医学部救急医学)
  • 杉山 貢(横浜市立大学医学部救命救急センター)
  • 中野 哲(大垣市民病院)
  • 早川哲夫(名古屋大学医学部第二内科)
  • 平澤博之(千葉大学医学部救急医学)
  • 松野正紀(東北大学医学部第一外科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
重症急性膵炎は良性疾患でありながら、治療成績は不良で、関連班会議である難治性膵疾患調査研究班が平成9年度に実施した全国調査では、致死率が27%にも達している。重症急性膵炎の実態を疫学的に調査し成因や病態を解明するとともに、最も適切な診断法、治療法を確立し、重症急性膵炎患者の救命率を改善することを目的とした。四つの共同研究を行ったが、それぞれの目的は以下のとおりである。①急性膵炎の重症化の予知に関する研究: 重症化の予知に有用な因子を明らかにし、急性膵炎の発症早期に重症化する可能性の高い症例を把握できるようにする。②急性膵炎の早期重症化例に対する対策に関する研究: 早期重症化例には、循環不全、呼吸不全、腎不全、DIC、など高度の炎症反応の結果、遠隔臓器の障害を生じる例が多い、などの特徴がある。後期重症化例との病態の違いを明らかにし、早期重症化例に対する治療指針を作成することを目標とする。③急性膵炎の後期重症化例に対する対策に関する研究: 後期重症化例には、感染がひきがねとなって悪化する例が多い、などの特徴がある。早期重症化例との病態の違いを明らかにし、後期重症化例に対する治療指針を作成することを目標とする。④胆石性急性膵炎に対する内視鏡的乳頭処置の適応、及び重症化対策に関する研究: 内視鏡的乳頭処置後に生ずる急性膵炎は、医療行為に伴うものであること、致死率が高いこと、などの問題点が存在する。内視鏡的乳頭処置後に生じる急性膵炎の現状を把握し、また、胆石性急性膵炎に対する内視鏡的乳頭処置の適応を検討する。
研究方法
研究班の構成施設、及びその主な関連施設の合計117施設を対象として、平成7年1月から平成10年12月までに発症した急性膵炎(軽症、中等症膵炎を含む)のアンケート調査を行った。詳細な情報を得るため、上記四つの共同研究プロジェクトに共通の調査票を作成した。特に、発症時の状況、急性膵炎と診断した時の状況、重症化した際の状況、さらにその後の経過を詳細に調査し、目標とする重症化の予知に有用な因子や、早期重症化例と後期重症化例の病態の違い、を明らかにできるように工夫した。
結果と考察
①急性膵炎の重症化の予知に関する研究: 重症化予知の指標を、症例調査からの予知因子の抽出、重症度スコアの簡便化と治療指針への応用、及び新しい血中マーカーによる重症化予知、の三方向より検討した。その結果、1)最重症度スコア(CT gradeⅤ、LDH≧900 IU/l、BUN≧25 mg/dl、の三因子のうちの陽性項目数)、重症度スコア、APACHEⅡスコア、は予後、合併症、ICU在室期間などを反映しており、特殊治療や集中管理を施行する上での指標になりうること、2)発症48時間以内の尿中・血中Trypsinogen Activation Peptide (TAP)値は重症度を反映するので、尿中・血中TAP測定の迅速化が初期治療の指標として有望であること、3)入院時血中soluble TNF-receptor値、及びIL-18値は重症度を反映し、MOFの予知指標となりうること、が明らかとなった。
②急性膵炎の早期重症化例に対する対策に関する研究: 重症化の日に先行してなんらかの特殊治療が実施された症例では、その後重症化しても全例治癒したことから、早期加療の有効性が示された。また、感染症の併存は早期重症化例の死亡率を著しく悪化させており、感染対策の重要性が示された。
③急性膵炎の後期重症化例に対する対策に関する研究: 調査結果をもとに、1)後期重症化症例の概要、2)死亡症例の解析、3)重症化症例の画像(CT)の推移、4)重症化症例の検査成績の推移、5)早期治療が後期重症化に及ぼす影響、6)特殊治療が後期の重症化の有無に及ぼす影響、7)後期重症化症例の外科的治療、8)感染の合併と後期重症化、9)後期重症化への対策(治療指針の作成)、などの観点からの解析を開始した。④胆石性急性膵炎に対する内視鏡的乳頭処置の適応、及び重症化対策に関する研究: 胆石性急性膵炎の病態と治療成績を検討し、内視鏡的乳頭処置の有用性について評価すること、及びERCP後膵炎の発生頻度と病態を検討すること、を目的として解析を開始した。
結論
本年度は、主に調査票の記入、集計が行われた。解析作業が始まったばかりの段階ではあるが、尿中・血中TAP、血中soluble TNF-receptor値が重症化の予知に有用であること、早期加療が有効であること、感染対策が重要であること、などが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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