特発性間質性肺炎の細胞分子病態に基づく疾病の病態に応じた治療法の開発研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900602A
報告書区分
総括
研究課題名
特発性間質性肺炎の細胞分子病態に基づく疾病の病態に応じた治療法の開発研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
工藤 翔二(日本医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 貫和敏博(東北大学)
  • 杉山幸比古(自治医科大学)
  • 吉澤靖之(東京医科歯科大学)
  • 福田 悠(日本医科大学)
  • 林 清二(大阪大学)
  • 菅 守隆(熊本大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、難治性かつ予後不良な疾患である特発性間質性肺炎(IIP)の、細胞分子病態に基づく疾病の病態に応じた新たな治療法の開発・確立を目的として、重点的に実験的研究と臨床的研究の両者を行い、その結果を総合するものである。厚生省特定疾患調査研究重点研究事業として前年度に得られた研究成果を基に、以下の課題を設定し、最終年度につなげることを目標とした。病因・病態をさぐる実験的・基礎的研究として、①実験的肺線維症を用いIL-10やdecorin遺伝子導入による線維化抑制効果の検討を行う。②高濃度酸素投与によるびまん性肺胞傷害(DAD)モデルを作製し、MMPの役割について解析する。③肺の発生におけるMMPの発現・関与について検討し、肺胞上皮の再生のメカニズムをさぐる。臨床的研究においては、IIPに対する④コルヒチンの治療効果、⑤NAC吸入療法の治療効果、⑥サイクロスポリンAの治療効果について検討を進める。
研究方法
実験的研究課題に関しては細胞分子生物学的方法によって、また臨床研究課題に関しては臨床疫学的方法によって遂行した。
結果と考察
研究課題ごとに、具体的に以下の結果を得た。
①新しい遺伝子導入法として、筋肉内遺伝子注入電気穿孔法を用い、human(h)IL-10遺伝子をマウスに導入したところ、HVJ-liposome腹腔内投与と比較して50pg/ml前後の高濃度を維持しできた。human decorin遺伝子を導入し、肺線維症モデルマウスにおいて抗線維化効果を検討し、ブレオマイシン導入誘発肺線維症がdecorin遺伝子導入によって軽減傾向を示した。
②ブタに高濃度酸素を曝露(24-120時間)することにより、治療実験モデルとなりうるDAD/AIPモデルを作製した。さらにこのモデルにおいてMMPの活性測定と組織中の局在を検討し、MMP-9が肺傷害の重症度およびBAL中の好中球数と強く相関しており、DADにおいては好中球から産生されるMMP-9が病変形成に重要であることが示唆された。
③ウサギ胎生期肺の発生過程において、肺胞形成期ではMMP-2とその活性化に関与するMT1-MMPが肺胞上皮細胞に陽性であり、その活性も著明に亢進していた。活性化MMP-2が基底膜の菲薄化、肺胞の形成に関与することが示され、肺胞上皮細胞の再生に有利に作用するものと考えられる。
④in vitroで抗線維化作用を有するコルヒチン(1.0mg/day経口)を間質性肺炎慢性型の治療に用い、効果を検討した。8例をエントリーした。8例中1例に軽度の肝機能障害が見られ、投与を中止した。1例が急性増悪を起こし、ほか6例全てのKL-6値は改善し、肺胞・間質レベルでの傷害が軽減している可能性が示唆された。副作用の少ない治療法として長期間投与が可能であり、今後の治療効果が期待された。
⑤間質性肺炎増悪症例に対するNAC吸入療法の有用性を臨床的に検討した。間質性肺炎増悪9症例を対象とし、NACを吸入させた。結果、IIP1例を含む9例中3例(33.3%)において自覚症状、血液ガス、画像、炎症パラメーター等が改善し、今後間質性肺炎症例に対し試みる価値のある治療法と考えられた。
⑥IIPや一部の膠原病肺では、ステロイド剤を中心とした従来の治療効果は不十分である。そこでCYAを投与した症例のうち、急性悪化例 (18例)、慢性進行型活動性例 (26例)についてretrospectiveに検討した。難治性の膠原病急速進行性間質性肺炎例の一部で、CYA投与により救命できた。このうち生存群は、死亡群に比べPaO2/FiO2が高値を示し、CYA併用の有用性が示された。IIPおよび膠原病肺の慢性進行型活動性例においても、CYA単独治療で有効例を認め、有望な治療と思われた。さらに、IIP急性増悪の治療にステロイドとCYA併用をprospectiveに検討した結果、CYA併用群で良好な反応を得、ステロイド減量に伴う再増悪は認めず、非併用群に比較してCYA併用群で有意に長期の生存が得られた。
結論
IIPの治療法の開発という観点から、病因・病態をさぐり将来の治療に結びつける基礎的研究、および現時点でも臨床応用の可能性のある薬剤の効果の客観的評価を行う臨床的研究の両者を通じ、全般に進展が望めた。いまだ画期的な治療法に到達するのはきわめて困難な状況であるが、病因・病態が少しずつ明らかになるにつれ、これまで行き詰まっていたIIPの治療に新しい可能性が見えつつある。この成果を次年度につなげるとともに、今後再生医学を含めた手法を駆使して予後の改善策を模索したい。

公開日・更新日

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