アミロイドーシスモデル動物における発症機序の解明に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900598A
報告書区分
総括
研究課題名
アミロイドーシスモデル動物における発症機序の解明に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
石原 得博(山口大学医学部病理学第一講座)
研究分担者(所属機関)
  • 東海林幹夫(群馬大学医学部神経内科学)
  • 前田秀一郎(山梨医科大学第一生化学)
  • 樋口京一(信州大学医学部加齢適応研究センター脈管病態分野)
  • 横田忠明(社会保険小倉記念病院病理科)
  • 高橋睦夫(山口大学附属病院病理部)
  • 瀬戸口美保子(山口大学附属病院病理部)
  • 星井嘉信(山口大学医学部病理学第一講座)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アミロイドーシスはその希少性と難治性ゆえに、動物実験モデルの必要性が高い。また、プリオン病にみられるような、外来性の異常蛋白(線維)の発症促進効果が注目される中で、老化促進マウスではAApoA・アミロイド線維の経口投与でアミロイドーシス発症が促進されることが樋口等により報告されている。本年度は老化促進マウスのみでなく、実験的にAAアミロイドーシスおよびAβアミロイドーシスモデル動物においてアミロイドの伝播の可能性について検討する。また、血清アミロイP成分(SAP)ノックアウトマウス及びFAPモデルマウスを用いて遺伝性アミロイドーシス発症機構の解析を行う。さらに、各種粗製アミロイド線維のamyloid enhancing factor(AEF)について検討する。
研究方法
マウス老化アミロイドーシスはapoA-II蛋白質がアミロイド線維(AApoAII)に重合して組織に沈着する。特に、C型apoA-II (Apoa2c: P5Q)を持つマウスでアミロイドーシスが重篤化するので、このマウスを用いて以下の実験を行いアミロイド線維構造伝播の機構解明と予防法の開発を目指す。ラベルしたアミロイド線維核を投与し線維核の体内への侵入経路や体内での代謝、沈着を解析する。糞中に存在するアミロイド線維によるアミロイドーシスの発症促進をin vivo, in vitro で解析する。ApoA-IIノックアウトマウスの導入や変異型apoA-IIトランスジェニックマウスの作成を行い。 老化アミロイドマウスの皮膚を他のマウスに移植し、その吸収について検討する。家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)では、マウス内在性のttr遺伝子にFAPの病因となる点変異のみを導入する標的遺伝子組換え法でttr遺伝子の一方のアレルにこの点変異をもつマウスから、ホモの変異マウスを作成する。既存のSAP欠損マウスと、これら種々の変異導入マウスを用いて、あるいはコジェニックマウスを作成し、経時的にアミロイドの沈着態度を検討し、神経障害を含めたFAPの発症機構を明らかにする。アルツハイマー病のトランスジェニツクマウスモデルとTTR欠損マウスやSAP欠損マウスとを用いて、TTRやSAPがA(アミロイドの沈着、ひいては脳高次機能の障害にどう関与するかを個体レベルで明らかにする。感染性の有無の証明のためトランスジェニツクマウスモデル(Tg)を使って次の研究を行う。Non TgとTgを同一ケ-ジで飼育、あるいはTgの血液と脳を健常マウスに接種して伝搬を検討する。脳アミロイドの感染源の可能性としての凝集したA(1-42の存在をTg、アルツハイマ-病患者の血液,尿,便において同定する。ALアミロイドーシスモデル作成のために、アミロイド原性のある形質細胞と株化されている骨髄腫細胞からハイブリドーマを作製する。作成した動物実験モデルにヒトアミロイドーシス剖検例から粗抽出したALあるいはAAアミロイド、マウスより作製したAEFを投与し、アミロイド沈着が促進されるかどうかを検討する。AAアミロイドーシスでは、ヒトおよびマウスアミロイドーシス粗抽出物を正常マウスに経口投与し、アミロイド発症の有無を検討する。AAアミロイド実験モデルマウスの発症実験において、高度アミロイドーシス発症マウスとの同一ケージ内飼育による発症促進効果を検討する。治療法の検討のために、マウスAAアミロイドの蛋白配列より数アミノ酸からなる(ブレーカーペプチドを合成し、AAアミロイド実
験モデルマウスに線維核と同時に投与し発症抑制効果を検討する。
結果と考察
1:老化マウスアミロイドーシスにおける解析。老齢R1.P1-Apoa2cマウス糞のアミロイド線維画分からapoA-II蛋白質を抽出し、この画分をマウス腹腔内に投与するとアミロイドが誘発された。このことは糞を介したアミロイド線維の伝播の可能性を示している。マウス老化アミロイドーシスのin vitroでの線維伸長反応がrifampicinやNDGA等の抗酸化剤で阻害された。現在 R1.P1-Apoa2cマウスにアミロイドーシスを誘発し、rifampicinやNDGAを慢性的に投与してその効果を検討中である。2:実験的AAアミロイドーシスにおける解析。マウスAAアミロイドーシスの肝臓から水抽出した粗製AAアミロイド線維を胃ゾンデでマウスに投与した。10回連日投与終了後3~5週間後にアミロイド惹起物質を注射後3日目に屠殺し、19匹中17匹にアミロイド沈着を認めた。粗製アミロイド線維の経口投与によりアミロイドーシス発症が促進する可能性が示唆された。3:アルツハイマー病における解析。脳アミロイド沈着と記憶・学習障害を認める変異 mouse (APPSw)を用いて易感染性評価システムの基礎的検討を行った。1)APPSwでは8ヶ月からAβが加速的に増加して、脳アミロイドが出現し、老人斑出現部位には神経細胞減少とリン酸化tauが出現した。行動異常は脳Aβアミロイドと相関しており、APPSwは脳アミロイド感染評価のモデルと考えられた。また、実際に脳アミロイド感染の可能性評価を次の実験で検討した。1)蛍光標識Aβによるin situ amyloidogenesisではAPPSw脳の老人斑の染色を試みた。2)125I ラベルAβ40/42を作製し、動脈注射によりblood brain barrierを通過して脳アミロイドに取り込まれるか、基礎的検討を行った。3)アルツハイマー脳からflow cytometryを用いて老人斑アミロイドコアを精製する方法を検討した。以上より、Aβアミロイドが実際にヒトの脳や硬膜、血液などから感染が成立する可能性を従来より非常に敏感な動物モデルを用いることによって検討できる。4:各種の粗製アミロイド線維のamyloid enhancing factor (AEF) の解析。AEFはアミロイド線維とは異なる物質と考えられているが、アミロイド線維自体にもAEF活性が存在することが報告されている。そこで種々の動物のアミロイド線維を抽出し、マウスに投与してそのAEF活性の有無を調べた。種属の異なる動物から抽出した線維にマウスの実験的AAアミロイドーシスを促進させる効果があった。この事は種属、種類が異なってもアミロイド線維にAEF活性があると思われた。AAアミロイドとは種類の異なるアミロイド線維が、何故AAアミロイドーシスを促進するのか今後、明らかにする必要がある。5:無血清アミロイドP成分(SAP)マウスではAAアミロイドーシスの発症が遅れるため、モデルマウスを用いて、血中のSAPレベルを下げることによりアミロイドーシスの発症を遅らせることが出来るか否かについて検討した。SAPおよびトランスサイレチン(TTR)の遺伝性アミロイドーシス発症に及ぼす効果の解析:無SAPマウスとFAPの疾患モデルマウスとを交配させ、SAPを完全に欠損し、FAPの病因となるヒトTTRMet30を合成するマウス株とSAPとヒトTTRMet30の双方を合成する従来の疾患モデルマウス株を得たが、9ヶ月齢では未だアミロイド沈着を認めなかった。6: FAPの新たなモデルマウス作製の試み。ヒトttrMet30遺伝子で惹起されるFAPは、30~40歳台で発症し、十数年後に死の転帰をとる。一方、ttrPro55遺伝子やttrLys54遺伝子は、20~30歳台で死亡する若年発症の激症型FAPを惹起する。これらの遺伝子のトランスジェニックマウス作製を試みる。
結論
アミロイドの伝播の可能性について、異種のアミロイド線維や種属の異なる動物から抽出したアミロイドに、マウスの実験的アミロイドーシスを促進させる効果がみとめられ、このことは、アミロイドーシスの発症の解明の手がかりを得ると共に、これらの動物が実験モデルとして有用であることが確認できた。TTRには、in vitroでAβアミロイドの沈着を抑制することが見いだされているので、これまでに得たTG mouseを用いて、APPswマウスを無SAP
マウスまたは無TTRマウス株と交配をさせて得られるTTR又はSAPを完全に欠損したAPPswマウスと対照野生型APPswマウスとを多数同定、飼育し、脳内 Aβアミロイド沈着の開始時期や程度を月齢を追って比較解析する計画である。また劇症型のFAP transgenic mouseを得ると、より短期間で種々の検討が行えるようになる。APPswがアルツハイマー病のモデルとして有用であると確認できたことは、in vivoで、Aβアミロイドが実際にヒトの脳や硬膜、血液などから感染が成立する可能性を従来より非常に敏感な動物モデルとして検討できる。これらの動物モデルは、その再現性と簡便さを実現することによって、現在多くの研究者が取り組んでいる、アミロイドの凝集阻害剤、あるいは沈着の抑制剤開発などのin vitroでの成果を、 in vivoで確認する道を広げ、臨床的に有効なアミロイドの治療薬、予防薬の開発に大きく貢献できると考えられる。

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