特定疾患に関する評価研究班

文献情報

文献番号
199900596A
報告書区分
総括
研究課題名
特定疾患に関する評価研究班
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
坂根 剛(聖マリアンナ医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 高野謙二(自治医科大学)
  • 長谷川敏彦(国立医療・病院管理研究所)
  • 藤本眞一(県立広島女子大学)
  • 三木知博(東亜大学)
  • 清野裕(京都大学)
  • 関野宏明(聖マリアンナ医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
35,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班の目的の一つは特定疾患に関する研究に対して、科学的、医療福祉的、医療経済的および医療政策的側面の各側面を包含する適切な評価法を確立することにある。さらに、新しい研究の流れである再生医学、遺伝子治療の基礎的検討を行い、これらの分野に踏み込む特定疾患研究班に対して、科学的評価と倫理的評価の基礎的資料を提供する礎を築くことを目指す。
研究方法
1.科学的評価:1)当研究班の主任研究者、分担研究者による他研究班班会議の視察と研究成果の模擬評価、当研究班班会議に出席した他研究班の主任研究者による当研究班研究成果の模擬評価、主任研究者・評価小委員の現行の評価システムに関する意見の聴取、評価小委員の班会議出席状況調査などにより現行評価法の問題点を解析した。2)神崎仁教授(慶應大学医学部)の提唱により、評価小委員の負担軽減と公平な審査を可能にするための3班合同審査会を試験的に開催した。3)書面審査の便宜をはかるため、「特定疾患対策研究事業に対する評価票」に対応する「評価票に関する資料(案)」を作成し、合同審査会で試用した。2.政策的評価:厚生省の研究事業という観点から、「平成 9年 度特定疾患調査研究事業抄録集」の研究内容を研究分野としては「治療」、研究題材としては「患者」にそれぞれ最高点を与えた評価システムを用いて解析した。3.医療福祉的評価:1)筋萎縮性側索硬化症(ALS) 患者を対象とし、難病研究の認知度など33項目におよぶアンケート調査を行った。2)特定疾患臨床調査個人票の電子媒体化、情報利用にあたって、特定疾患懇談会、疫学研究班、法学者、医療情報専門家、難病患者団体により構成される「臨床調査個人票の電子媒体化、情報利用に関する小委員会」を設け、患者のプライバシーを守るための倫理ガイドラインを検討した。4.経済的評価:1) 特定疾患に係わる医療経済損失の評価素案の作成した。2) 特定疾患対策研究事業の成果に対する経済的評価を投入される資源(研究費、人材、時間)と産出の拡がりから解析した。5. 特定疾患における再生医学、遺伝子治療の科学的および倫理的評価の指標確立:再生医療、遺伝子治療の分野に踏み込む特定疾患対策研究班に生命科学の急速な進歩に対応した科学的評価と倫理的評価の基礎資料を提示するため、1) 種々の特定疾患の病態に関わるTh1/Th2バランスの偏倚を是正する遺伝子治療、2) 神経幹細胞移植治療を見据えた脳損傷モデルの創傷治癒機転の解析、3) 膵ラ氏島細胞再生による糖尿病治療の基礎的検討を行った。
結果と考察
結果および考案=1.科学的評価:現在の中間・事後評価における問題点は、① 評価小委員としてすべての班会議への出席は負担が大きいこと(平成11年度の評価小委員の班会議への出席率は70.5%)、② 現行の書面審査の評価票の項目が不備であること、また班会議での発表、抄録集が評価票の項目に対応しておらず、評価が適切に出来ないことの2点に集約された。その対策として試行した合同審査会および「特定疾患対策研究事業に対する評価票に関する資料(案)」はいずれも好評で、今後さらに推進する予定である。現行の特定疾患対策研究事業に対する評価票は臨床調査研究部門、横断的基礎研究部門、重点研究部門のいずれもがほとんど同じ評価項目で構成され、各研究班の役割、個々の特定疾患における研究目標、到達度の相違が考慮されていないことから、現在、研究部門や対象疾患に応じた評価票を鋭意作成中である。また、評価小委員、各班主任研究者の負担軽減の一環として、評価小委員の旅費・謝金に関する事務手
続きの簡素化した。2. 政策的評価:「治療」、「患者」に重点を置く単純な政策的評価案は、実状とかなりの食い違いがあり、今後かなりの工夫の必要である。3. 医療福祉的評価:ALS患者へのアンケート調査の結果、特定疾患対策研究事業の認知度は61%であったが、その実態は十分に知られていないことが再確認された。患者への病気の情報提供と精神的支援を含めた臨床ガイドラインの提示なども特定疾患対策研究事業として取り組む課題であろう。「臨床調査個人票の電子媒体化、情報利用に関する小委員会」にて臨床調査個人票の利用する上での倫理ガイドラインを策定した。また、この臨床調査個人票の有効利用ためには、特定疾患認定時の診断精度の向上が必要であると指摘された。4. 経済的評価:特定疾患の医療経済的評価の必要性は大蔵省からも指摘されているにも拘わらず、ほとんどの臨床調査研究班は無関心である。当研究班は特定疾患の医療に係わる直接費用(医療費・医療関連費)、間接費用(労働損失など)を考慮した「特定疾患に係わる医療経済損失の評価素案」を作成し、平成12年度には疫学班、対象疾患の評価班、臨床調査研究班との共同研究体制を具体化して、数疾患について予備調査を行い、さらに平成13年度以降、重点研究グループで5~6 疾患/年を目標に調査研究を進め、7 年後には現在の44の特定疾患すべてをカバーする研究計画を提案した。特定疾患対策研究の成果の経済的評価では、研究目標(経済的に産出)に発注側の厚生省と受注側の研究者の間に多少なりともズレのあることが評価を複雑にしていると考えられた。5. 特定疾患における再生医学、遺伝子治療の科学的および倫理的評価の指標確立:1)Th1型、Th2型疾患におけるtxk遺伝子、txk変異遺伝子導入治療の妥当性を提言した。2)脳損傷モデルの創傷治癒機転を病理学的側面と生理機能の側面から解析した。3)インスリン顆粒分泌機構に関与するalpha SNAPの遺伝子導入療法が糖尿病に対し有効であることを示した。一方、他研究班の主任研究者による模擬評価では、大旨高い評価を得られたが、当研究班でこの分野の研究を担当することに対しては当研究班の研究目的が十分な理解されていなかったような印象をもった。
結論
1.評価小委員の負担を軽減し、効率的かつ公平な評価を目的とした合同審査会の開催、書面審査の便宜をはかるための「特定疾患対策研究事業に対する評価票に関する資料(案)」の運用の基礎を確立した。2.評価小委員の謝金・旅費の事務手続きを簡素化した。3.特定疾患臨床調査個人票の電子媒体化、情報利用にあたって、「臨床調査個人票の電子媒体化、情報利用に関する小委員会」において倫理ガイドラインを策定した。4.「特定疾患に係わる医療経済損失の評価素案」を作成し、平成12年度には疫学班、対象疾患の評価班、臨床調査研究班との共同研究により数疾患について予備調査を行い、平成13年度以降、重点研究グループとして調査研究を進める計画を提案した。5. 生命科学の急速な進歩に迅速に対応するため、その科学的評価と倫理的評価の指標の確立をめざし、再生医学、遺伝子治療の基礎検討を継続する。

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