特定疾患患者の生活の質(Quality of Life,QOL)の向上に関する研究

文献情報

文献番号
199900593A
報告書区分
総括
研究課題名
特定疾患患者の生活の質(Quality of Life,QOL)の向上に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
福原 信義(国立療養所犀潟病院)
研究分担者(所属機関)
  • 川村佐和子(東京都立保健科学大学)
  • 福永秀敏(国立療養所南九州病院)
  • 水島洋(国立がんセンター研究所がん情報研究部)
  • 堀川楊(朋友会堀川内科・神経内科医院)
  • 小森哲夫(東京都立神経病院)
  • 今井尚志(国立療養所千葉東病院)
  • 久野貞子(国立療養所宇多野病院)
  • 難波玲子(国立療養所南岡山病院)
  • 熊本俊秀(大分医科大学医学部)
  • 牛込三和子(東京都神経科学総合研究所)
  • 後藤清恵(厚生連長岡中央病院)
  • 伊藤道哉(東北大学大学院医学系研究科)
  • 清水哲郎(東北大学文学部)
  • 中島孝(国立療養所犀潟病院)
  • 熊澤良彦((株)島津製作所医用技術部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
29,551,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、神経筋難病のような重篤な身体障害を持ち、根治療法のない疾患群の患者において患者・家族のQOLを改善する具体的な方策について研究することである。個々のケア技術・緩和医療技術の向上のみならず、医療工学や情報機器の統合利用がQOL向上のために必要であるが、それとともに診断・予後に関する患者・家族への情報提供や告知が不可欠である。また、脊髄小脳変性症やハンチントン病では遺伝子検査が臨床診断に不可欠となっているが、診断・告知後のカウンセリングなどのサポート体制もあまりない。インフォームドコンセント、遺伝子診断のガイドラインの作成と心理カウンセリングについての技術普及に関する研究は患者のQOL向上にとって喫緊の課題であり、その成果が非常に期待される。地域の難病ケアの実務者に対してはケアの基礎となる心理援助介入モデルを作ることにより担当者による差、地域差、病院差を少なくすることが出来る。よって、本研究班の目的は以下の4点にまとめられる。1) 難病の緩和ケアに関する研究:難病患者のQOL向上のためのインフォームドコンセントのあり方と遺伝子診断とその前後における心理カウンセリング、ケアサポート体制のあり方についての研究。2) 神経難病のケアにおける情報システムの応用に関する研究:在宅医療をスムーズに行うための専門医療施設と一般医療施設との間の連携におけるコンピューターシステムの開発及び患者、家族およびパラメヂカルに対する情報の提供手段としてのインターネットなどの利用についての研究。3) 難病に関する保健・医療・看護技術の研究、開発:難病患者・家族に対するQOL改善のためのケア技術、ケア体制についての研究を行うとともに、人工呼吸器装着訪問看護ガイドラインを作成すること。4) 神経難病における心理カウンセリング、セルフグループの育成に関する研究。
研究方法
以下の4グループに分け、互いに関連性を持たせるとともに、実務的なワークショップを通して研究成果を上げる。第1班:難病の緩和ケアに関する研究:特に、神経難病患者のQOL向上のためのインフォームドコンセントのあり方と、難病患者のQOL向上のための遺伝子診断とその前後における心理カウンセリングのあり方に関して研究する。第2班:難病のケアにおけるコンピューターシステムの応用に関する研究:特にALSなど四肢麻痺患者用コンピューターの視線入力装置を開発試作し、その臨床的評価に基づきソフトの改良を行う。第3班:難病に関する保健・医療・看護技術の研究、開発:特に、人工呼吸器を装着しているALS患者に対する訪問看護ガイドラインを作成する。第4班:難病における心理カウンセリング、セルフグループの育成に関する研究:神経難病患者対する心理的支援マニュアルを作製する。
結果と考察
研究成果と考察=第1班:難病の緩和ケアに関する研究(1) 神経難病患者のQOL向上のためのインフォームドコンセントのあり方について:ALS患者のケアを専門としている神経内科専門医、看護婦、保健婦、倫理・哲学者によりワークショップを開き、現状での問題点を抽出した。ALS患者・家族の聞き取り調査
から、現状ではALSの告知が患者個々の特性に柔軟に対応していないこと、医師の告知や呼吸不全についてのインフォームドコンセントがその後の療養の質に大きく影響していることが明らかになった。ALSについては国立療養所神経内科協議会でのアンケートを基に終末期医療に関する診療ガイドライン案を提案した。(2) 難病患者のQOL向上のための遺伝子診断とその前後における心理カウンセリングのあり方に関して:ハンチントン病の遺伝子診断ガイドラインなど、国外のガイドラインを参考として日本の神経難病の遺伝子診断ガイドラインを提案し、国立療養所の神経内科専門医のアンケート調査で検証することにした。(3) 難病の緩和ケア技術について:第3班、第4班と協力して、神経難病患者・家族に対するQOL改善のためのケア技術、ケア体制についての研究を行うとともに、在宅人工呼吸器装着患者訪問看護ガイドラインを作成し、全国の関係機関に配布した。平成10年度の「特定疾患に関するQOL研究」班で配布した「地域ケア・ガイドライン」と相俟って、在宅ALS患者に対する援助技術が全国で一定の水準となることが期待される。第2班:難病のケアにおけるコンピューターシステムの応用に関する研究 (1) 在宅医療をスムーズに行うための病院診療所連携におけるコンピューターシステムの開発、運用上の問題点とその改善方法について検討した。(2) 患者、家族およびパラメヂカルに対する情報の提供手段としてのインターネットなどの利用についての研究:インターネット利用者が希望する神経難病に関する情報について調査し、その情報の提供に関しての方策について研究した。ALSなど四肢麻痺患者用コンピューターの視線入力装置を開発試作し、それを患者自身に実際に使用してもらう臨床的評価を行い、それに基づきソフトの改良を行った。ほぼ全員でで定型句会話、ワープロ機能が利用可能であり、ワープロからテレビへの切り替えも可能で、事前に利用経験がある方はインターネット機能も操作できた。阻害因子としては強迫笑いや電動エアマットであったが、眼鏡使用は阻害要因にはならなかった。残存するコミュニケーション能力が高いほど、ワープロやパソコンの使用経験があるほど容易であった。今回試作の実用モデルではHMD( head mount display)技術を利用しているが、圧迫感が無く、患者の表情や眼の動きをみることができ、コンセプトモデルで指摘された問題点を克服することができた。今後、装置のより軽量化、完全な装着型モデルの作製が課題である。
第3班:難病に関する保健・医療・看護技術の研究、開発。神経難病一般についての保健・医療・看護技術の開発を行うと共に第1班と協力して、難病患者・家族に対するQOL改善のためのケア技術、効果的なケア体制についての研究を行うとともに、在宅人工呼吸器装着訪問看護マニュアルを作成した。また、ALSでの非侵襲的陽圧呼吸(NiPPV)の経験例の集積により、その適応とそれによる看護支援の方法を研究する。また、ALSでの呼吸理学療法を含む積極的な呼吸管理が患者のQOLの向上に有効なことを症例の集積でもって実証するとともに、呼吸理学療法の教育ビデオを作製した。今後、このビデオを利用してさらに多数例のデータを集積したい。第4班:難病における心理カウンセリング、セルフグループの育成に関する研究:神経難病の緩和ケアの技術研究の一環としてカウンセリングのあり方、技術普及に関する研究を行った。質問紙による患者・家族のニーズ調査とその分析では、地域の支援施設(保健所、訪問看護ステーション、など)では心理的支援の具体的方法を強く必要としていることが判った。実際に、パーキンソン病と脊髄小脳変性症の実際のサポートグループの機能と発達的推移の分析結果からは、わかりやすく有効な心理的支援マニュアルを作製する必要性が強く示唆された。平成12年度の課題としてマニュアル作製に取りかかる予定である。
結論
人工呼吸器装着患者の訪問看護ガイドラインを作成・配布した。神経難病におけるインフォームドコンセント、DNA診断のガイドラインについては現状での問題点を抽出し、次年度におけるガイドライン作成の基礎的データを集めた。四肢麻痺患者用コンピューターの視線入力装置を開発試作し、臨床的評価を行った。神経難病の緩和ケアの技術研究の一環としてカウンセリングのあり方、技術普及に関する基礎的なデータを集め、次年度におけるガイドライン作成のための足がかりを得た。

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