文献情報
文献番号
199900590A
報告書区分
総括
研究課題名
希少性疾患における遺伝子発現変異の包括的解析のための遺伝子発現データベースの構築に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
油谷 浩幸(東京大学先端科学技術研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 児玉龍彦(東京大学先端科学技術研究センター)
- 椙村春彦(浜松医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
36,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究班の柱とする研究目的は、「遺伝子発現プロファイルの臓器別データベースを整備することにより、原因不明の疾患において罹患している臓器においてその遺伝子発現を解析し、発現変動を生じている遺伝子群を包括的に捉え、治療法開発のための最適の標的となる代謝経路を見いだすこと」にある。網羅的遺伝子発現プロファイル解析法については、GeneChip (Affymetrix)による解析法あるいはStanford大学のBrown等により開発されたマイクロアレイ法が近年実用化されつつあり、臨床検体の解析にも利用されてきている。平成11年度は3年計画の初年度として遺伝子発現プロファイル解析法に関する基礎的検討と発現プロファイルのデータベース構築に着手した。さらに、分担研究者においては、糖原病患者肝における遺伝子発現プロファイル解析(椙村)、動脈硬化症進展に重要と考えられる泡沫細胞化病変における遺伝子発現の変化(児玉)に関する研究にも着手した。
研究方法
(1)GeneChipによる網羅的遺伝子発現プロファイル解析法に関する基礎的検討 1)RNAの標識法に関する検討として同一のヒト肝から得られたPoly(A)+RNAおよび全RNAから作成したビオチン標識cRNAを用いて、Test1アレイに対してハイブリダイゼーションを行った。測定法の概略は下記の通りである。ISOGEN(ニッポンジーン)によってtotal RNAを回収,さらにOligo(dT)ビーズ法を用いてmRNAを調製した.1μgのmRNAから合成した二本鎖cDNAを鋳型としてin vitro 転写反応を行い,ビオチン標識UTPおよびCTPで標識された約100μgのcRNAを調製、断片化した。GeneChipに添加し,16時間ハイブリダイゼーション後,フィコエリスリン標識ストレプトアビジンを用いて結合したRNAを染色し,共焦点レーザースキャナーを用いて、チップ上のプローブに結合した蛍光強度を算出した.2)オリゴヌクレオチドアレイ法(GeneChip)の定量性については、SAGE(Serial Analysis of Gene Expression)法との比較により検討した。SAGE法はcDNA由来の10塩基のタグの出現頻度を数えることにより、遺伝子の発現レベルを定量的に解析することができる。東京大学医学部衛生学教室との共同研究により、同一検体を用いてのSAGE法による解析データとの比較を行うことにより、両者の間でのデータの互換性を検討した。単球細胞はヒト末梢血からCD14陽性細胞として回収し、マクロファージはGM-CSF(キリン)刺激下で培養7日目を用いた。GeneChip解析にはそれぞれ1μgのmRNAを用いて、ヒトFLアレイにより発現プロファイルを解析した。SAGE解析には制限酵素NlaIIIを用いてそれぞれから6万弱のタグを解読した。GeneChip法の発現強度とSAGE法の出現頻度について、それぞれの検体における発現強度(absolute解析)及び検体間の発現変化率(comparative解析)についての比較を行った。(2)遺伝子発現プロファイルデータベースの構築 遺伝子発現の組織特異性については、GeneChipデータとともにSAGEデータを統合することにより、遺伝子毎に種々の細胞や臓器での発現レベルが一覧できるようなデータベースを構築を試みた。データベース化に際して発現プロファイルデータの標準化について検討を行った。(3)発現プロファイル解析 1)末梢白血球は健常者ボランティアより同意の下に採取された。胃組織および肝組織は患者の同意の下に手術時に腫瘍と共に切除された非癌部組織の一部として採取された。胎児脳及び副腎mRNAはClontech社(米国)より、HUVEC細胞はクラボウより購入した。その他に解析に用いた細胞株は、結膜上皮細胞株CCL(東京歯科大
学)、白血病細胞株HL-60(ファイザー研究所)、THP-1(東大先端研・分子生物)、上皮細胞株HaCaT(癌研究所)、肝癌細胞株HepG2(国立健康栄養研究所)である。それぞれよりmRNAを調製し、GeneChip FLアレイを用いて発現プロファイリングを行った。2)発現プロファイル解析による病態解析 動脈硬化症進展に重要と考えられる泡沫細胞化に関して、本年度は末梢血単球からマクロファージへの分化における遺伝子発現プロファイル解析を行った。糖原病I型(von Gierke病)は、原因遺伝子Glucose-6-Phosphataseの同定が最近されたものの、依然として治療困難な疾患で、保因者が200人にひとり存在するという常染色体劣性遺伝病である。本疾患は、肝腫瘍を発生することでしられ、糖原病患者に合併した肝細胞癌について非癌部あるいは非罹患者の正常肝組織との発現プロファイル解析を行い、肝発がんの機構解明を試みた。従来のDifferential display 法による解析も並行して行い、比較を行った。
学)、白血病細胞株HL-60(ファイザー研究所)、THP-1(東大先端研・分子生物)、上皮細胞株HaCaT(癌研究所)、肝癌細胞株HepG2(国立健康栄養研究所)である。それぞれよりmRNAを調製し、GeneChip FLアレイを用いて発現プロファイリングを行った。2)発現プロファイル解析による病態解析 動脈硬化症進展に重要と考えられる泡沫細胞化に関して、本年度は末梢血単球からマクロファージへの分化における遺伝子発現プロファイル解析を行った。糖原病I型(von Gierke病)は、原因遺伝子Glucose-6-Phosphataseの同定が最近されたものの、依然として治療困難な疾患で、保因者が200人にひとり存在するという常染色体劣性遺伝病である。本疾患は、肝腫瘍を発生することでしられ、糖原病患者に合併した肝細胞癌について非癌部あるいは非罹患者の正常肝組織との発現プロファイル解析を行い、肝発がんの機構解明を試みた。従来のDifferential display 法による解析も並行して行い、比較を行った。
結果と考察
(1)本年度において、網羅的遺伝子発現プロファイル解析法について、特にGeneChip法に関する基礎的検討を行い、定量性に関して信頼性の高い解析法であることが示された。すなわち、GeneChip法の発現強度とSAGE法の出現頻度との比較を行ったところ、大変よい相関が得られた。個々の遺伝子からの蛍光強度とSAGE法による発現頻度との相関係数はr=~0.7とかなりよい相関が認められた(absolute解析)。さらに、単球からマクロファージへの分化において発現が誘導される遺伝子群について比較したところ、発現増加率上位20遺伝子中、14遺伝子が共通に認められ、GeneChip法で得られる発現強度データの定量性を示すものと考えられた。またPoly(A)+RNAおよび全RNAから作成したいずれのcRNAを用いてもよい再現性を示した。但し、臨床検体の解析のためにはより些少な組織あるいは細胞からの解析法の新規開発も必要と考えられた。(2)4万個の遺伝子に関する発現情報が収集され、新規のデータベースの構築は必須であった。GeneChip解析においては、対照検体なしに発現レベルをモニタリングできるので、組織間の発現量を比較しやすいと考えられた。さらに、遺伝子発現の組織特異性については、GeneChipデータとともにSAGEデータを統合することにより、遺伝子毎に種々の細胞や臓器での発現レベルが一覧できるように、Unigeneアドレスを用いて統合データベースの構築を進めた。データの標準化については、類似の発現プロファイルを示す検体間での比較には、チップ全体からのシグナルの総和を一定化することにより標準化した。一方、プロファイルが大きく異なる組織間の比較には、ハウスキーピング遺伝子あるいは実験者がコントロールとして用いている遺伝子など、試料間で一定の発現をしていると考えられるプローブで標準化を行う必要も考慮されたが、実際上発現量が一定であるような遺伝子セットの設定は困難であった。(3)発現プロファイル解析 1)発現プロファイルデータベースとして上述の14の組織あるいは細胞における発現プロファイルデータの収集を終了した。特定の細胞種に特異的に発現しているような遺伝子の同定を急いでいる。本年度は最大35Kチップまでが使用可能であったが、60Kアレイが利用可能となり、次年度においては60Kを対象として難治性疾患の発症に関与するような遺伝子の同定につながることが期待された。2)動脈硬化症の進展に重要と考えられる泡沫細胞化に関して、マクロファージ化に伴いアポEやアポCIなど脂質代謝に関連する遺伝子群に興味深い遺伝子発現変動が観察されており、次年度以降の研究の発展が期待された。3)糖原病I型についての発現プロファイル情報を収集した。従来のDifferential display 法による解析より網羅的な解析結果が得られ、GeneChip法の高効率性、信頼性が実証された。一般の肝組織および肝細胞癌における発現プロファイルを合わせたクラスタ解析では、網羅的な遺伝子発現プロファイルによる疾患の分子診断への応用の可能性が示された。糖原病については非癌部組織と高分化型肝細胞癌との類似性が示唆され、発現変化を来している遺伝子群について
詳細な検討を行うとともに、複数の症例を検討することも必要である。
詳細な検討を行うとともに、複数の症例を検討することも必要である。
結論
本年度において、網羅的遺伝子発現プロファイル解析法について、特にGeneChip法に関する基礎的検討を行い、定量性に関して信頼性の高い解析法であることが示された。但し、臨床検体の解析のためにはより些少な組織あるいは細胞からの解析法の新規開発も必要と考えられた。4万個の遺伝子に関する発現情報が収集され、新規のデータベースの構築は必須であった。動脈硬化症の進展に重要と考えられる泡沫細胞化に関しては、単球のマクロファージ化に伴い興味深い遺伝子発現変動が観察されており、次年度以降の研究の発展が期待された。糖原病I型についての発現プロファイル情報を収集した。従来のDifferential display 法による解析とも同様な解析結果が得られ、GeneChip法の高効率性、信頼性が実証された。
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