特定疾患対策のための免疫学的手法の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900587A
報告書区分
総括
研究課題名
特定疾患対策のための免疫学的手法の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
山本 一彦(東京大学大学院医学系研究科内科学専攻)
研究分担者(所属機関)
  • 東みゆき(国立小児医療研究センター免疫研究室)
  • 住田孝之(筑波大学臨床医学系内科)
  • 斉藤隆(千葉大学大学院医学研究科遺伝子制御学)
  • 佐伯行彦(大阪大学大学院医学系研究科分子病態内科学)
  • 西村泰治(熊本大学大学院医学研究科免疫識別学)
  • 中尾真二(金沢大学医学部内科学第三講座)
  • 上阪等(東京医科歯科大学医学部第一内科)
  • 高昌星(信州大学医学部第三内科)
  • 山村隆(国立精神・神経センター神経研究所免疫研究部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
32,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班の柱とするテーマは、「免疫疾患の病因となる特異抗原を検索する新たな技術、さらにその特異抗原に対する免疫応答を検出、解析し、制御する基盤技術を開発、推進する。」である。本研究班は、特定疾患に関する免疫研究班として、平成8年度に指定班員5名、公募班員5名、研究協力者3名、班長を加え14名でスタートした。さらに9年度から、班員の研究費の一部を厚生科学研究「免疫・アレルギー等研究事業」から得ることになり、また一部班員が科学技術庁の大型研究のため班を離れたため、若干班の構成を変更した。上述のテーマから、主として研究の対象とする分子群は、抗原提示細胞上の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子、それに結合する抗原ペプチド、それらを認識するT細胞レセプター(TCR)、さらにこれらの細胞間抗原認識に重要な役割をはたす細胞表面機能分子などである。本班は方法論が主眼なので、対象疾患は限定していない。
研究方法
研究方法・研究結果=西村班員はT細胞に抗原提示する分子の研究をすすめ、クラスII分子の抗原提示に重要なインバリアント鎖に注目し、この中でクラスII分子の抗原ペプチド結合溝にアフィニティのあるCLIP領域の遺伝子を、実際に提示したい抗原ペプチド遺伝子に変換させることで提示機能を増強させるベクターを開発した。このベクターを用いることで、目的とする抗原ペプチドを高い効率でクラスII分子と結合させ、T細胞を刺激しうることが分かり、今年度はこれにランダム化したヌクレオチドのライブラリーを組み込みCOS細胞に遺伝子導入し、実際のT細胞を抗原刺激することが可能であることを示した。T細胞の標的抗原同定の為の新しいシステムとなりつつある。
斉藤班員は、抗原とTCRの片方の鎖が分かっているときに、もう一つの鎖を同定する方法を開発した。すなわち、遺伝子導入に耐えるT細胞株にCD3分子を強発現させた上で、TCRのα鎖をまず発現させ、これにTCRのβ鎖のライブラリーを遺伝子導入し、さらにこの様にして再構築されたT細胞だけに入った刺激をNFAT-GFPにより同定するシステムである。本年度はこれらのシステムが実際に動きうることを示す基礎実験の結果を報告した。
山本は、TCRに関するRT-PCRとSSCP法を用いたT細胞クロノタイプ解析法を用いることで、種々の免疫疾患における抗原特異的T細胞の動態と病変間のクローンの比較が極めて容易であることを示した。これは我が国独自の方法であり、今後多くの疾患研究に応用可能と考える。ところで、自己免疫疾患ではepitope spreadingの概念が確立しつつあり、この考えに従えば、病気の始まりは限られたT細胞クローンが限られた自己抗原エピトープを認識しているが、時間の経過とともに数限りないエピトープを認識する数限りないT細胞クローンが活性化され病態が形成されることになる。そうであれば、これらのT細胞を標的にした治療法は現実的でない。これを検証するために自然発症自己免疫疾患モデルマウスの臓器病変における抗原特異的T細胞クローンの動態を調べた。前年度に引き続き本年度はTaxトランスジェニックマウスについて詳細な分析を加えた。結果は、前年度のSKGマウスやlprマウスと同様に、病期の進行とともに、病変集積T細胞クローンは、その数の減少と異なる病変でのクローンの同一性の増加が観察され、epitope spreadingではなく、clonal なrestrictionの現象があることが判明した。臓器病変形成におけるこれらの限られたT細胞の重要性が示された。
上阪班員はCDRスペクトラタイプ法を用いて、自己免疫疾患患者の末梢血にCD8陽性のT細胞クローンが増加していることを示し、その病因との関係を検討した。佐伯班員は慢性関節リウマチにおける病態形成性T細胞の解析を行った。SCIDマウスへの細胞移入実験から、病態形成性T細胞が存在すると考えられる患者を同定し、その病変滑膜組織に集積したT細胞のTCR配列に患者間で共通なものがあることを見い出した。さらにこの配列を持つT細胞クローンを樹立し、これをSCIDに移入することで病態形成性T細胞であることなど、昨年までの解析を続けておこないその結果を報告した。中尾班員は、昨年まで再生不良性貧血患者の抗原特異的T細胞の解析を行ってきたが、本年度はその特異抗原を明らかにする目的で患者血清を用いたSEREX法をおこない、αグロビンがその抗原の候補であることを見いだした。
住田班員は、第4のリンパ球としてその免疫抑制 作用が注目されているNKT細胞について、自己免疫疾患患者における意義付けをフローサイトメトリーで検討した。NKT細胞は慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患患者では、健常人に比べて減少していること、これを増加させるための人工的リガンドであるα-GalCerに対して、反応群と無反応群があることを報告した。山村班員は、同じくNKT細胞に注目し、α-GalCerを用いてMOG誘導性の実験的脳脊髄炎が制御可能であることを、抗原提示細胞にパルスする方法で示した。
東班員は、抗原特異的T細胞の反応に際しての共刺激分子の役割を、CD28との比較で行い、CD28とは共通あるいは異なる役割でCD4、CD8それぞれのT細胞において共刺激シグナルを伝えていることを見いだした。高班員はTNFファミリーに属するOX40とそのリガンドに注目し、PLP誘導脳脊髄炎モデルを抗OX40リガンド抗体が抑制 することを報告した。
結果と考察
結論
考察・結論=本免疫班の研究は、基盤技術の確立を主としており、3年間の成果だけで十分満足できるものは多くはないが、病態を形成するT細胞の解析技術、その特異抗原の決定法、NKT細胞に関する解析などは、欧米のそれと異なる我が国独自の方法を確立しつつあると考える。また共刺激分子と疾患との関連の解析でもユニークな成果を出すことができたと考える。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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